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19.最初のモンスター、討伐イベント

 ――森を駆ける。


 現実世界では不可能なくらいの速度で、俺たちは一心不乱に森の中を駆け抜けていた。

 現実の俺であれば、仮にこの速度で走ることが出来てもすぐに息切れして足を止めてしまうだろう。

 だが、この異世界での体は休憩すら必要としない。

 立ち止まるのは、分かれ道で奏也が方位磁石を確かめる時と、


「敵だ! 前方、グリーンウルフ2!」


 俺がモンスターを発見した時だけ。


「分かりました。…月掛!」

「はいっ、奏也様!」


 声と共に、グリーンウルフ目がけて弓が引き絞られる。

 俺はそれを横目で確認しながら、グリーンウルフに気付かれないギリギリの距離まで近付いて、


「行きますっ!」


 そんな月掛の声が耳に届くと同時に、『魔力機動』で前へ飛び出していく。


 ――ヒュン!


 そして、俺の耳元をかすめて追い抜いていった矢が先頭のウルフに刺さり、たまらず苦悶の声を漏らした所を、


「キャゥン!!」


 更に追い打ち。

 ウルフの上げるいじめられた犬みたいな鳴き声に気が咎めるが、こればっかりは仕方ない。

 無防備な頭を斬りつけて、まず手負いの一匹を仕留める。


 先頭の一匹が粒子に変わる頃には二匹目がこちらに向かってきているが、一対一なら問題ない。


「よっ、と!」


 飛び掛かってきた所を『魔力機動』で平行移動、後頭部に一撃、のコンボで仕留める。

 新たに手に入れたショートソードとボーナスで上げた強化のおかげで、援護なしでも一撃で倒すことが出来た。

 実は木の棒時代はグリーンウルフだと当たり所によっては一撃で死なないこともあったのだが、村で剣を買ってからはそんなことも起こらなくなった。


「……ふう」


 俺が剣を腰に戻しながら息をつくと、


「お疲れ様です」


 と奏也が声を掛けてくれて、


「ふん!」


 と月掛が鼻を鳴らした。



 今回のイベントに参加をしたのはこの3人。

 メンバー構成は、旅人に弓使いに吟遊詩人という異色のトリオだ。

 バランスも何もない適当な編成なのだが、トラベラーである俺が前衛を務め、弓使いの月掛が遠距離攻撃、吟遊詩人の奏也が回復と補助で……なんて説明してみるとまるでまともなパーティみたいで怖い。


 素早くウルフのドロップを回収、すぐにまた走り出しながら、俺はもう一度、俺たちが受けたイベントを確認した。




――ナイトメアイベント『ヘルサラマンダーを倒せ』――


【イベント達成条件】

ユニークモンスター『ヘルサラマンダー』を倒し、そのドロップアイテムである『火蜥蜴の徽章』をハリル村の『トマス』に渡す


【イベント達成ボーナス】

12000ウィル

『炎のシミター』×1



【イベント失敗条件】

1.『火蜥蜴の徽章』の破壊

2.『トマス』の死亡


【イベント失敗ペナルティ】

なし


【受諾可能グレード】

1~




 これが、俺たちの受けた最初のイベントの内容だ。

 依頼はパーティで受けることが出来、その場合、報酬のウィルは山分けでなく、全員に丸々同じだけ入るらしい。

 つまり俺たちは俺と奏也と月掛でパーティを組んで受けたので、全員に12000ウィルずつ、合計36000ものウィルが手に入ることになる。

 破格の報酬だが、その分のリスクも想像出来るイベントだ。


 正直に言えば、ナキが参加を断った以上、奏也がこのイベントを受けるとは思わなかった。

 これは中止かなと思ったのだが、奏也の判断は逆だった。


「見ていると、彼女は他人に対して無関心なようですが、あなたには甘い所があります。

 あなたが死地に赴くというのなら、多少の無理をしてでもついていくか、あるいはあなたの参加自体をやめさせようとするでしょう。

 その彼女が同行せず、あなたがイベントにチャレンジするのも止めなかったということは、つまりこのイベント、危険性はそう高くないと彼女が判断したということです」


 それを聞いて、こいつどんだけポジティブシンキングなんだ、と俺は呆れたが、ナキに同行を断られたことで、俺も引っ込みがつかなくなっていた。

 こうなったらばっちりとモンスターを倒してナキの鼻を明かしたい、という気持ちが、俺の中でメラメラと燃えていた。


 奏也が言うには、情報収集の結果、『ヘルサラマンダー』は大樹から歩いて二時間程度の場所にいる可能性が高いらしい。

 村を出た時点で残り時間は2時間と少し。

 戦闘や捜索の時間を考えると、やはり時間が少し厳しい。

 そこで、自分たちの限界を確かめる意味も込めて、全員で駆け足での行軍となったのだった。


「次の分かれ道、右です」

「分かった!」

「りょうかいです、奏也様!」


 方位磁石を持っている奏也が東に近い方向を調べ、それに従って道を選ぶ。

 かなりアバウトな道の選択だが、これでも問題ないらしい。


 また、これだけの速度で走っているのに、敵と遭遇することすら稀だった。

 森の中の風景はどこも似たり寄ったりで、正直ナキと二人で歩いてきた道と同じように見えるが、エンカウント率にはかなりの差があるらしい。

 しかし、時間がない時にこれは嬉しい。

 この調子なら、一時間もかからずに目的地まで着けるかもしれない。


「普賢君! そろそろ目的地が近いかもしれません。

 モンスターと遭遇したら、その様子を詳しく観察するようにしてください」


 走りながら、奏也がそんなことを頼んでくる。


「モンスターの様子を? どうしてだ?」


 俺も走りながら叫び返す。


「イベントモンスターのような強力なモンスターがいると、それ以外の雑魚モンスターは逃げ出すそうです。

 なので、特定の方向からモンスターが逃げてきたり、特定の方向を見て怯える仕種を見せれば……」

「そっちに『ヘルサラマンダー』がいるってことか、了解!」


 それなら話は早い、と思ったが、奏也の言葉はそれで終わりではなかった。


「それに『ヘルサラマンダー』は、レベル9のモンスター『ヘルリザード』を何匹も連れて、ここら一帯を支配しているそうです。

 一匹でも『ヘルリザード』がやられれば、ボスである『ヘルサラマンダー』が寄ってくるそうですから、すぐに見つけられますよ」


 なんて新情報を、あっさりと告白してくる。


「聞いてないぞ、そんなこと!

 倒すのは『ヘルサラマンダー』だけじゃなかったのか?!」


 俺がたまらず叫ぶが、


「だって、事前に言っていたら、来てくれなかったかもしれないじゃないですか」


 そう言って、黒い笑いを浮かべる奏也。

 なんて奴だ。


「大丈夫。僕だって死にたくはないですし、勝てそうになかったら逃げましょう。

 まだBPは残っているんですよね?

 いざとなればそれを全部俊敏に振れば、最悪あなただけなら簡単に逃げられるはずです」

「お前なぁ!」


 ここまで来た以上、こいつら二人を置いて、自分一人で逃げるなんて出来そうにない。

 そして恐らく、こいつはそんな俺の性格すらも織り込んで、こんなことを言っているのだ。

 俺がもう一度、何か文句を言ってやろうとした時だった。


「ッ!? ちょっと、待って下さい!

 あそこ、何か、様子がおかしい」


 珍しく奏也が切羽詰まった声を出して、俺を制止した。

 そして俺も、前方、奏也が見つけた物と同じ物を見て、硬直した。


 ――青々とした木が立ち並ぶ中、俺たちが進もうとする先の木々だけが、一面に枯れていた。




「もしかすると、これもイベントの一部かもしれません。

 ……慎重に、進みましょう」


 奏也が心なしか声を潜め、そう提案してくる。

 俺も月掛も、これには一も二もなくうなずいた。


 周りを見回す。

 意識的に『魔力感知』も発動させて魔物の気配を探ってみるが、近くに敵がいる様子はない。

 油断出来る状況ではないが、少しだけ緊張を緩める。


「あ、あれ…!」


 すると今度は、月掛が声を上げた。

 その指差した先には……。


「なんだ、あれ?」


 ――いくつもの小さなクレーターが出来た地面があった。


 こんな物は見たことがない。

 何か強い力が加えられて地面がえぐられたのだろうが、どれだけの力が加えられたらこんな風に地面に穴が開くんだ?

 まるで、人間離れした力を持った乱暴な子供が、癇癪を起こして何度も何度も地面を叩いたような……。


「こんなの、ふつうじゃない……」


 つんとした生意気な顔にはっきりと怯えの色を乗せて、月掛がそうつぶやいた。


「月掛……?」


 俺に見られていたことに気付くとハッとして強気な表情を繕ったが、湧き上がる不安は隠せていない。

 さりげない風を装って、俺たちの方に近付いてきた。


「……行きましょう」


 奏也もそのクレーターを気味悪げに見ていたが、退く気はないようだ。

 俺たちを促して、先頭に立って枯れた森へと足を進めていく。


「……ぅ」


 それを見て、月掛が躊躇う素振りを見せた。

 奏也の指示には従いたいが、恐怖に固まった足がついていけないのだろう。

 俺はその小さい肩を、ポンと叩いた。


「なっ、なっ、にゃぁ!」


 すると、叩いたこっちがびっくりするくらい飛び上がって、口をぱくぱくさせた。


「大丈夫だ。奏也だって、引き時は心得てるさ」


 何か言われる前に、そう言ってやると、


「あ、あったりまえでしょ!

 あたしだって、奏也様を信じてるわよ!」


 とこっちに小声で怒鳴って、ぱたぱたと奏也の方に駆けて行った。

 やれやれ、とは思うが、月掛が元気になったのならそれが一番だ。


「ほらー! あんたもいつまでもびびってないで、早くこっちに来なさいよ!」


 という声に背中を押され、俺は奏也たちの後を追った。



「生命力が奪われている、という感じですね」


 見渡す限りの枯れた森を歩きながら、先頭を行く奏也がぽつりと漏らした。

 枯れてしまった木をよく見ると、全体的にしおれ、確かに生命力が感じられない。

 そうして木々が全面的に生命力を失っているのに、地面がぬかるんだように湿気を帯びているのが不気味さを煽る。

 それにしても、これだけの広い範囲の木から力を奪うような物とは一体なんなのか。

 想像もつかないだけに、恐怖を感じずにはいられない。


 それに、枯れた森の中に入ってからもう数分が経つが、まだ『ヘルサラマンダー』はおろか、他の雑魚モンスターの姿も一度も見かけていない。

 これは明らかに異常な事態だと言えた。


 ちなみに隊列だが、先頭が奏也、月掛、しんがりが俺、という並びに自然と変わった。

 本当は俺が先頭を行くべきなのだが、この不気味な森を積極的に進む勇気は俺にはなかった。

 月掛もやはり恐ろしいのか、たまに後ろを振り返っては俺がいるのを確認してホッとした様子を見せ、その後なぜか目をつりあげて不機嫌そうな顔をして前を向く、という奇行を繰り返している。


 本当に何を考えているんだか。

 俺がこっそりため息をつこうとした時、淀みなく歩いていた奏也の足が、不意に止まった。

 また後ろを振り向こうとしていた月掛がその背中にぶつかりそうになり、慌てて足を止めた。


「何があったんだ?」


 俺も疑問の声と共に奏也の肩越しに前を見て……その理由を知った。


 ここにやって来てから、三つ目の異変。


 ――それは、真っ二つに切り倒された大木だった。



 その木は、ちょうど俺の胸の辺りで、綺麗な真一文字に切り倒されていた。

 大木、と言ってもせいぜい一抱えくらいの大きさだが、それでも切り倒そうと思ったらそれなりの労力が必要だろう。

 それに、何より……。


「切断面が、綺麗過ぎる……」


 切り株となった木の表面を撫でて、俺はつぶやいた。

 切断面に、段差やざらつきが全くない。

 余程鋭利な刃物で一息に切らなければ、こんな切り口にはならないだろう。


 試しに、と、切り株の隣に落ちた木の上半分に、俺は渾身の力を込めてショートソードを振り下ろした。

 サクッと思ったよりも軽い手応えが伝わって、ショートソードが木の中にめり込む。

 しかし、刃が完全に木に埋まった辺りで刃は止まり、それ以上は力を入れても進みそうになかった。

 少なくとも、一太刀で木を真っ二つ、なんて、俺にはとても無理だろう。


「一体どれだけの力があれば、こんなことが出来るんでしょうね」


 それを見て、奏也も流石に顔色を青くしている。

 月掛は奏也の後ろで小さく震えているようだ。


 俺だってこんなことが出来る化け物とは戦いたくない。

 だからこそ、重い口を開いた。


「『ヘルサラマンダー』っていうのは、もしかして手にハサミでもくっつけてるのか?」


 冗談めかして尋ねる。

 これが『ヘルサラマンダー』なら相手は相当な強敵ということになるし、そうでないなら別の恐ろしい何かがこの森にいたということになる。


「『ヘルサラマンダー』は、『ヘルリザード』と同じくリザードマンの亜種です。

 当然人型の魔物で、今回は村の人間に、曲刀を持っている姿を目撃されたそうです」

「……つまり?」

「恐らく、これを行ったのは『ヘルサラマンダー』でしょうね」


 沈鬱な声で答える奏也の声。

 そしてそれを最後に、俺たち3人の間に沈黙が落ちる。


 奏也は未練がましく何か抜け道を探すように木の切断面を撫でている。

 月掛はそんな奏也を不安そうに眺めながら、物音がする度に大袈裟なほどビクッと反応して、心細そうにしている。


 その様子を見て、俺は、



「……戻ろう」



 とうとうその言葉を口にした。


 即座に反応したのは奏也だった。


「そんな、ここまで来てっ!」


 と激昂しかけるが、


「……いえ、そうですね。その方が、いいかもしれない」


 自分を抑えるだけの理性はあったようだ。

 一方で、


「あ、あたしは、奏也様がいいって言うなら、もどっても……」


 月掛は奏也に気を遣いながらも安心した様子だった。


 俺はと言えば、本音を言えばここで諦めたくないという気持ちはある。

 だが、ここでの異変の原因が『ヘルサラマンダー』だとすると、相手は木を一太刀で両断出来るほどの剣の腕を持っていて、素手でも地面をえぐるほどの力を持ち、最悪の場合広範囲にわたるエナジードレインの技まで持っているかもしれないのだ。

 くだらない意地なんかで戦っていい相手ではない。


(……これでいいんだ。これで)


 俺は湧き上がる悔しさとやるせなさを胸に押し込めて、先頭に立って枯れた道を戻っていった。



 ――こうして、俺たちの初めてのモンスター討伐は、始まる前に終わってしまったのだった。




 皮肉にも、帰り道は行きよりも順調に進んだ。

 俺たちはイベントを失敗した鬱憤を晴らすように足を速め、大樹に戻る道を急いだ。

 おまけに行きでモンスターを倒していたせいか、魔物とのエンカウントも輪をかけて少なかった。


 そのような要素もあり、結局俺たちは現実世界に戻る10分前にはもう、村の入り口まで戻って来ることが出来た。


「まず、七瀬の様子を見に行こうか」


 やはり気落ちしている様子の二人に気を遣って、わざと明るくそう提案した。


 七瀬が寝ているという家を覗くと、そこには先客がいた。

 後ろ姿だけで分かる。

 銀髪に尖った耳。

 ……ナキだ。


「ナキ。七瀬についててくれたのか?」


 俺が声を掛けると、


「…用事が、思ったより早く終わっただけ」


 そうつれない言葉を残すが、俺の言葉を気にしていてくれたのは明らかだった。


「それでも、ありがとう。

 そっちの用はうまくいったのか?

 残念ながら、こっちは失敗しちゃってさ」


 悔しさを紛らわすようにわざとらしくはははと笑うと、そんな俺をナキが冷ややかな目で見た。


「……そんなの、当たり前」


 そして、ぽつりとこぼしたのはそんな言葉。

 その言葉が、イベントの失敗に苛立っていた月掛を暴発させた。


「あ、あんたねっ! 勝手なことを言わないでよ!

 あんたは、あれを見てないから……」


 苛立ちをぶつけるようにそう叫ぶが、ナキはあくまで冷静だった。


「もちろん私にだって、無理。だって……」


 そう言って、ナキは俺の顔を見ながら、



「……『ヘルサラマンダー』は、ずっと前に死んでいるから」



 突拍子もないことを口にした。

 一拍遅れ、


「「「…は?」」」


 俺と月掛、奏也の顔までが、驚きに染まる。


「ど、どういうことなんだ?!

 もしかしてナキ、お前、『ヘルサラマンダー』を前に倒して……」


 俺がそう問い掛けるが、ナキは首を横に振った。


「私じゃ、ない。倒したのは……」


 そうして、ナキの細い指が示したのは、



「――え? 俺?」



 なぜか、俺だった。


「普賢、君?」


 奏也が信じられないというような顔で俺を見て、


「…………」


 月掛が、うわ、こいついつかやると思ってたわよ、みたいな軽蔑の眼差しを俺に向けた。


「ちょ、ちょっと待てよ!

 俺はここに来るまで『ヘルサラマンダー』なんてモンスター、見たことも聞いたこともなかったんだぞ!?

 一体いつ……」


 俺は慌てて抗弁しようとするが、


「…インベントリ、開いてみて」


 というナキの言葉に、渋々インベントリを開く。


「ここに何があるって言うんだ?」


 俺はそう言いながら一つ一つアイテムを確認していく。

 ポーションに傷薬、予備のショートソード。

 それ以外にあるのはモンスタードロップのウサギの尻尾に、最初の魚人がドロップしたアイテムだけで……と最初の二つのアイテムにカーソルを合わせて、



『火蜥蜴の徽章』

『ヘルサラマンダーの鱗』



 俺は、完全に固まった。


 なぜだろう。

 暑くもないのに汗が噴き出て、だらだらと流れて止まらない。


 うん、落ち着こう。

 落ち着いて、ちょっとだけ考えてみようか。

 俺は努めて冷静になって、最初の夜にナキを襲おうとしていた鱗野郎、俺が初めて倒したモンスターのことを思い出す。


 今思えば、あいつは他のグリーンウルフやブレイドラビットなんかのモンスターに比べると、若干毛色が違うというか、ちょっと強そうじゃなかっただろうか。

 それに、ナキに切り付けようとした剣はなんとなくだが曲刀っぽかった気がするし、ついでによく思い出してみれば、あの鱗の感じは魚人というよりなんとなくリザードマンっぽかったような気も……。


 そして、それが本当なら、つまり……。


 ――俺たちは、もうとっくに倒した相手を探して森をさまよって、既に持っているアイテムを渡すだけのイベントのために、あんなに神経をすり減らしてたってことか?


 こんなの、言える訳がない。

 俺はインベントリから視線を逸らし、こっそりと皆の様子を盗み見た。


 あからさまに動揺している俺に眉をひそめている奏也。

 何かを予感しているのか、腰に手を当てて説教モードに移りそうな月掛。

 呆れた様子で俺に冷たい視線を送っているナキ。


 三者三様の反応だが、確実に言えることは、全員が等しくその目に懐疑と不審の色を備えているということだった。


(ど、どうしよう…!?)


 俺は針のむしろのような視線に晒されながら、貴重なクエストアイテムの入ったインベントリを前に、ただだらだらと汗を流し続けていた。



 ――こうして、俺たちの初めてのモンスター討伐は、始まる前に終わってしまっていたことが発覚したのだった。

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