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10.ゲームスタート!!

 ――今までで、一番、『あの日』、に、近い、記憶。きっと、三日、前。



 ノイズ交じりの光景、


『恐れてたことが、現実になっちゃったよ』


 その中でも縁は、何だか今にも泣きだしそうに見えた。


『―――――』


 だから俺はたぶん何かを、縁を安心させようと何かを言ったのだと思う。

 けれど、それは縁には届かなかった。


『今からじゃ、無理だよ。

 それに、光一は夢の世界には向いてない』


 反発するように、俺が何かを言う。

 縁は、首を横に振る。


『そういうことじゃないよ。

 夢に向いてないからこそ、せめて意志を強く持って』


 また、俺が何か言う。

 縁はうなずく。


『トラベラーに、なって。

 そしたら、もしかしたら、いつかは……』




















 これがゲームだというのなら、自衛のためにも事態を解決するためにも、そろそろ動く必要がある。

 そんな結論に達した俺と四方坂は、いよいよ本格的にナイトメアの攻略を開始することにした。


 データウォッチを見ると、なんと残り時間は6時間あった。

 10分、20分ときて、なぜここでいきなり時間がこんなに増えたのかは不明だが、今から攻略していくことを考えるとむしろ都合がいい。


 とりあえずは凍った森を抜け、通常のフィールドへの帰還を目指す。

 当座の指針として、一面の森の中で唯一見える目印、森の切れ目から時折覗ける巨木に向かって進んでいくことにした。



 そして凍りついた地面に苦戦をしながら歩くこと五分ほど、凍りついた木々のエリアをようやく抜けた頃、俺は前方に、小さな生き物を見つけた。


「四方坂、あれ」


 そう四方坂に声をかけると、やはり気付いていたらしい四方坂が、すっと目を細めた。


 この世界に来て初めての、いや、魚人についで二番目の人間以外の生き物。

 ただし、あの魚人のように真っ黒な鱗をびっしりと生やしているとか、そういう恐ろしい生き物ではない。


 見た目はただのウサギ。

 ただし、耳がやたらととんがっていて、ちょっと物騒なイメージはある。


「『識別』した。ブレイドラビット。レベルは3」


 観察をしていると、四方坂からそう声がかかる。

 『識別』は四方坂の所持スキルの中にあった一つで、相手の能力が読み取れるらしい。

 こっちのレベルが5と7だということを考えれば、レベル3のこのウサギは雑魚だと判断していいだろう。


 ……まあ、見た目からしてウサギだし、どう見ても強敵とは思えない。

 攻略開始してからの初戦の相手としては、たぶん申し分ないだろう。


 しかし、実は不安材料がない訳ではない。

 俺はちらりと自分の右手を、そこに握られた自分の武器を見る。


 あの鱗人間との戦闘でショートソードを壊してしまったため、今の俺の武器はそこら辺で拾ったただの木の枝。

 四方坂に予備の武器でもあれば貸してもらおうと思っていたが、当然そんな都合のよい物はなく、メインの武器もそもそもロッドだった。


 普通に地面に落ちているような物が戦いに使えるかという疑問もあったが、『鑑定』スキルを持っているという四方坂に見てもらった所、



【木の枝】


種別:棒

攻撃力:2


77/80



 と出たらしいので、たぶん武器として使えなくもないだろう。

 攻撃力は期待出来ないが、素手で戦うよりはマシなはずだ。

 それに、もしかするとこの木の枝だって使っている内にレベルアップして、いつかはどんな剣にも負けない強い武器になるかもしれない。

 ……まあ、流石にありえない話だとは思うが。


 ちなみに『鑑定』も『識別』と同じスキルの一種で、鑑定はアイテムを、識別はモンスターを、それぞれ詳しく調べられるらしい。

 非常に便利だ。

 確か『トラベラーの必須スキル』だとペイモン君も言っていた。


 横目で四方坂をうかがうと、向こうも俺の方を見ていた。

 分かっている。

 いつまでもここで考え込んでいる訳にもいかない。


 幸い相手は一匹。

 まだこちらには気付いていない。


「四方坂。それじゃ、決めた通りに」


 そう四方坂に囁いて、俺は右手の木の枝を強く握る。

 もう一度、目標のブレイドラビットが俺に気付いていないことを確認してから、


「行く!!」


 小声でそう宣言をして、飛び出していく。



 ――道中、四方坂とは大雑把にだが戦闘についての打ち合わせをした。


 四方坂は俺とは違い、能力値のタイプは魔法(本当はこの世界では理術というらしいが)寄りで、いくつかの攻撃魔法を習得しているらしい。

 せっかくなので魔法を見せてもらおうかとも思ったが、ちょっとした事情というかトラウマから断念した。


 だって、四方坂に限ってまさかないとは思うが、だからこそ四方坂が魔法スキルの確認で、


「ファイアーボール、とぉー!」


 とか言い出したら、俺はきっと立ち直れない。たぶん羞恥のあまり、恥ずか死とかしてしまうに違いない。


 とにかく、敵に遭遇したら俺が左から回り込み、四方坂がその後ろから攻撃魔法を撃つ、というスタンスで戦うということを、大雑把ながら決めておいた。


 なぜ左から攻めるようにしたかと言うと、俺たちはどちらも右利き。

 素人考えではあるが、俺が左側に寄っていた方が後ろの四方坂は魔法を撃ちやすいだろうし、俺としても敵が右側にいた方が武器が振りやすいだろう。

 その辺りを考えての配置である。


 しかし逆に言えば、それ以外のことについてはほとんど決めていない。

 アドリブが苦手な俺としては不安ではあるのだが、パートナーどころか自分がどこまで戦えるかも分からない現状、あまり色々と決めすぎても邪魔になるだけだろうという判断からだ。



 それが吉と出ると凶と出るかは、この戦闘で分かるだろう。

 今はこの、ナイトメアにやってきてから二度目の戦闘が無事に終わるように全力を尽くすだけだ。


「援護は頼んだぞ、四方坂」


 口の中でそう呟きながら、ブレイドラビットに向かって駆けていく。


 連携という課題がある以上、制御の難しい『魔力機動』は使わず、自分の足で地面を蹴る。

 足元でシャリシャリと霜を踏んづけるような感触がするが、足場は悪くない。

 俺はあまり広くない道を、出来るだけ左側に寄るように気を付けながら走り抜け、ブレイドラビットに忍び寄った。


 ブレイドラビットまで、目測で十歩ほど。

 相手はまだ俺たちに背を向けていて、こちらに気付いている様子はない。

 これは見つからずに攻撃出来るか、と思った瞬間、


「ッ!!」


 野生の勘の鋭さか、そいつは機敏に振り返った。

 そして、


「なっ!」


 ブレイドラビットは接近する俺に気付くと、すぐさま敵意をむき出しにして俺をにらみつけ、まるで威嚇するように両耳をこちらに向けた。

 その直後、俺はブレイドラビットの名の由来を知る。

 立てた両耳が、鋭利な刃物になっていた。


(どうする? こんな木の枝で、あんなのに対抗出来るのか?)


 残り五歩。

 足を止めないまま、束の間、逡巡する。

 だが、


(いや、行く!)


 迷いはあったが、振り切って進む。

 これから先、もっと厳しい選択を迫られる場面がたくさんあるだろう。

 いつも考えすぎて何も決められない俺だからこそ、迷いを振り切って決断することが必要だった。


(『魔力機動』がある以上、どんな状態でだって方向転換出来る。

 相手が刃を向けてきても、かいくぐって一撃入れる!)


 ブレイドラビットまで残り三歩。

 俺がそんな捨て身とも言える覚悟を決めた瞬間、


 ――ヒュン!


 高い音を立てて、俺の右側を閃光が駆け抜けた。


(四方坂の魔法の矢!!)


 全速で走る俺を遥かに凌ぐ速度で飛んだ魔法の矢は、ブレイドラビットの耳に着弾。

 凄まじい威力を見せて、刃ごと耳を吹き飛ばした。


(ナイスアシスト! これなら行け……えぇ?!)


 しかも、四方坂が放った魔法の矢は一発だけではなかった。

 二の矢、三の矢、四の矢と、まさに矢継早な勢いで魔法の矢が次々とブレイドラビットに殺到、必殺の威力を持った魔法の矢が、ウサギの小さな体を蹂躙する。


 目を丸くする俺の前で、結局10本ほどの魔法の矢が魔物の体を貫いていき……。

 ブレイドラビットは瞬く間に光の粒に変換され、空気に溶けていく。

 後には、ドロップアイテムだろうか、ウサギの尻尾と思われるもこもこの毛の塊が残るだけ。


 こうして、俺たちの二度目の戦闘は、俺たちの圧倒的勝利によって幕を閉じたのだった。






 ……というか、あれ? 俺の出番は?


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