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「簡単に言えば、古い文献が見つかったから新しい勇者を召喚したみたい。で、本物の勇者様を傷つける事なく魔族を排除しようと。」
「古い文献?」
カイルが眉をしかめます。
「勇者は黒髪黒目でなきゃダメ、とか。3ヵ月前の魔族は、やっぱり宰相が仕組んでたみたい。」
カイルの雰囲気が黒くなります。まあ、あの時私死にかけましたしね。
カイルの中で宰相は抹殺リストに名を連ねたでしょう。
「そうですか…その文献の出所を探らなければなりませんね。」
「うん。私も思った。ま、大体想像は着くけどね。」
「…ソフデュール家ですか。」
「それにあの性悪貴族が便乗したってトコロかなー。その場合の利益は何だろうね?」
三大貴族のソフデュール家と、私が可愛がって貰っていたルナデュール家は元々対立していたのです。
で、ルナディール家主導で勇者召喚を行い、私が当主になついた事に寄り、ソフデュール家は劣勢だった。
だから私が居ない間に勇者ではない、と主張するために宰相を利用し、新しい勇者召喚をソフデュール家主導で行ったのでしょう。
今考えれば、ソフデュール家や派閥の貴族達は、最初から私の情報流すの反対してましたね。
勇者様の身を守るためーとか言ってましたが。
ルナディール家主導で召喚を行った時から、考えていたのでしょう。
…面倒臭いな、貴族。
「あの性悪貴族はソフデュール家の令嬢にかなり執着していましたからね。どうせその辺りでしょう。」
「あー、あの子か…。顔はキレイだけど、好きになれないタイプだなー。」
「貴族なんてそんな物ですよ。ルナディール家が異常なんです。」
「だよね。」
あの家はフランクすぎです。
「まあ、大体見えてきたね。」
「ええ。あとは何故陛下達が、新しい勇者にほだされているのか…。」
「あ、そこも大体想像着く。」
カイルは驚いた顔でこちらを見る。
「なんかね、姉の能力探ろうとしたらロック掛かってたんだよね。無意識で。」
「ロックですか…。解除は?」
「3日もあれば出来るけど。」
「明日には間に合いませんか。」
「ウン。だけど今までを振り返れば能力は予想できる。」
「聞いても?」
ニヤリと笑ってみせる。
「たぶん信じないよ?」
「貴女を信じないなんてありえませんよ。」
目を優しく細めて、何処までも甘く言う。
「……あっそ。姉のチカラはねー、…魅了。それだけ。」
「…魅了? それだけ、ですか。」
「うん。他は何も変わってない。私みたいにチートにもなってないし。多分私が異世界に来て貰ったチカラの分、全てを魅了するチカラに変えている。」
「…それは。厄介ですね。」
そうなんだよねー。私が異世界に来てから貰った能力は莫大。
それこそ世界を滅ぼせるくらい。
その全てを魅了させるためだけに変えたとなったら、簡単には抗えないだろう。
「…俺は会わない方が良さそうですね。」
「そうだねー。あれ、そう考えると若干抗ってた騎士団長はすごいのか。」
私が感心するように呟くと、カイルはちょっとムッとします。
「俺だって例え魅了されても貴女を想って切り抜けてみせますよ。」
…何可愛い事言ってるんですか。美形が言うと、キュンとくる前に何故か苛つきが訪れます。
「へー。ま、面倒は掛けないでね。」
このままだとそれを証明するために、姉に会いに行きかねませんし。
それで魅了されちった、とか笑えない。
「…ぐ。…はい。」
「姉の能力は大体当たってると思うけど、気になるのは私が騙した、って所だよね。」
「…そうですね。勇者だと騙った、とかでしょうか?」
「いや理不尽すぎでしょ。馬鹿ですか。あんた達に勇者だって祭り上げられたんですが。」
「まぁさすがにあり得ませんか。他は、深衣が魔族側に味方し裏切った、あるいは逃げた…とか吹き込まれたかもしれません。」
「…その辺りは今夜だね。リューイ達が何か喋るでしょ。」
カイルも頷き、時計を見た。
「そろそろ店も込み始めますよ。飯に行きませんか?」
もう19時ですか。
「そだね。宿屋の酒場でいい?めんどい。」
「勿論。」
1階に降りて行くと、ギリギリ席は空いてました。注文はカイルに任せます。
…こっちの世界の料理、まだ覚えてないんですよね。定番物なら分かるんですが。
「あら!おふたりさん、お酒はいいの?明日は皇帝陛下と勇者様の結婚式なのに!」
「あー…忘れてた!目出度いもんね、騒がなきゃ!」
私達を式を見にきた旅行客だと思っているのでしょう。
「じゃあ、生ふたつでいいわね?楽しみよねえ、世界を救った勇者様が我が国の陛下とご結婚だなんて!」
「そうですね。世界を救った勇者様が。」
カイルが皮肉気に言います。店のおねーさんは首を傾げました。
「でも本当、これで隣国のお情けに頼らなくてもいいし!」
「そうですね。」
おねーさんはカイルの態度にまた首を傾げたあと、他から声が掛かりそちらに注文を取りに行きました。
この国は小さくて、勇者召喚の魔法が使えるという事だけで今まで生き残っていました。
それが安定したのは数年前、先王の時代に隣の大国と同盟を結んだのです。
だけど大国に大したメリットはありません。
国民はいつ反古にされるか分からないそれを、隣国のお情けと呼び将来に不安を持っていました。
「馬鹿。テンション低いと目立つよ。」
「…すみません。」
「ま、早く食べ終わって部屋に戻ろ。盗聴しなきゃだし。」
「ええ。あ、野菜も食べなきゃ駄目ですよ。」
……母親か。いやそんな事言われたことないけど。