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「ま、何にせよ、これ食べ終わったら行くから。」
「ええ、分かりました。術は俺が掛けましょうか?」
城には当然結界が張ってあります。
不正入城の場合、一流魔術師でもまず入るのは不可能ですし、
もし入れても結界に傷をつければ瞬く間知れ渡り包囲されるでしょう。
「いや、自分でするよ。別行動するかもしれないしね。」
もちろん私には関係ありません。
“空間をずらす”ことが出来るので、カイルと一緒に城の中まで普通に移動できます。
でも私やカイルの魔力が城にあることがバレたらヤバいので、
自分たちにも結界を張るのです。
魔力を外に出さず、結界を張っていることも気づかれない術です。
大体そういう術は面倒だからカイルにやってもらっていたんですけどね。
離れている他の人の分も掛けるって、結構大変みたいです。
今回は少しの粗も許されないので自分でしましょう。
所変わって現在皇城。
執務室がいくつか集中してある宮にいます。
そのうちの一つ、相談して決めた宰相の執務室。
「くっくくっ…とうとう明日か…ほぼ私の思い通りとは、笑いが止まらんなあ」
ちなみにコレ独り言です。
…本当に小物っぽいなあ。
何がどう思い通りなのか知りたいので、
気持ちを煽り高揚させる魔術を使います。
「くくっあっはっはっは!勇者は黒髪黒目でなければならない――なんて文献が見つかった時は焦ったが、よりよい勇者を喚べたのだ。神の采配に違いない。その上あの偽物は力だけは強い…本物の勇者を殺すことなく、魔王を倒せた挙げ句魔族は壊滅……」
不気味に笑いながらグラスに入った酒を一気に飲みます。
「っはあ…あの魔族が使えず偽物を殺し損ねたのは問題だか、どうせその内どういうことだと城に来るだろう。その時殺せばいい…!」
悦に入っているのでしょう。
誰から誰が共犯か知りたいのですが…
もう少し魔術を強くしてみます。
「くひっくひひっああ、明日…明日が過ぎれば何も問題ない…たとえ偽勇者が帰ってきてもだ…くひひっ」
…しまった。調子に乗りすぎましたね。
まあいいです。予定通り回っていきましょう。
次は三大貴族の内の一人、ソフデュール家当主の所ですかね。
同じ宮に執務室があるので、そちらに向かいます。
ああ、そういえば、カイルとはさっそく別行動です。
正直に言うとカイルも信じられるか微妙ですしね。
神官長、騎士団長、魔術師団長たちの私室、執務室に盗聴の働きがある魔術を掛けてもらっています。
もちろん宰相の部屋にも掛けました。
勇者、皇帝陛下、計画…などが聞こえたら録音できる設定にして。
いやあ、さすが私。
宰相のただの自慢話とか聞きたくないしね。
それからソフデュール家当主の執務室に行きましたが不在。
同じ設定の術を掛けて今度は上級貴族の大臣の部屋に行きます。
その大臣はずる賢く悪趣味で、表には出ていませんが悪い話には事欠かない親父です。
別の宮にいってそいつの執務室へ。
在室でしたが執務中でした。
へえ、前日ですし浮かれていると思いましたが…
暫く待ちましたが私語もなく淡々と。
しょうがないので同じく設定付きの盗聴の術を掛け、皇宮へ向かいます。
その途中で三大貴族の一つ、ルノデュール家当主を見かけました。
…この人は積極的に関わっていないと思うんですよねえ。
というか、関わっていてほしくないです。
私にとっては父の様な人でしたし、おおらかで心が広く、みーちゃん、と可愛がってくれていました。
…盗聴の術を掛けるべきでしょうか。
掛けるべきなんでしょう。だってこの人も私を裏切ったのかもしれない。
あの優しさは嘘だったのかもしれない。
迷いましたが、みーちゃん、という言葉が出たときのみに録音する設定にして掛けました。
…やっぱり期待したいのです。
私を心配してくれていると。
行く途中だった皇宮へ。
私の今日の目的は、もともとリューイの私室に宰相たちと同じような術を掛けることだったんです。
結婚式前夜。
習わし通り、部屋に親しい友人を集め飲み明かすのでしょう。
だから例えカイルがあちら側でも、神官長たちの部屋の術から何も聞こえなくても問題ありません。
リューイの私室がある皇宮の奥へ。
…もちろん、隣は皇妃の部屋です。
会いませんように会いませんように会いませんように……
なーんて思っていたら逆に会うものなんでしょうか。
会いました。というか居ました。
リューイの私室に、ふたりで。