2
それに、だ――
何故か私が勇者と言う情報が隠されています。
勇者だった私の髪の色も瞳の色も、年齢さえも正確に伝わっていないのはおかしいんです。
2年前はちゃんと噂になっていたはずですしね。
意図的に消され、上書きされている…?
どっちみち大きな存在があることは確かでしょう。
おっさん達と別れ、城下町にとってある宿に行きます。
城には帰らない方がいいでしょうね。
「大きな存在」とは城、国かも知れないんです。
宿に帰ると供がいます。
奴にも情報収集をさせていたのです。
ただし、酒屋ではなく色街で。
結果は似たようなものでした。
勇者様は美しく強く、それでいて心優しい。
国の重要人物達に惚れられていて、黒髪黒目。
使いの者は、茶髪灰目。
ただ、供の情報にはひとつ新しいことが。
なんでも、勇者が魔王を倒したと伝わってから、国の上層部と神殿が慌ただしく何かをしていたらしいのです。
それから暫くして、勇者様が帰還なさった―と。
……なんかもう決まりじゃね?
完璧に国が関わってますよね。
私を消す気満々ですよね。
そういえば、三ヶ月くらい前に嵌まった魔族の罠って人間染みていたような…
いやいやいやいや、人を勝手に疑うのヨクナーイ。
明日にでも城に忍び込みましょう。
え?当然正面からは行きませんよ?
疑うのもよくないけど馬鹿正直なのもよくないと思うのです。
なんにせよ今日はもう疲れた。
なにせ夕方やっとの思いで着いて、張り紙見つけてポカーン。そのあとすぐ情報収集に走ったから、まったく休んでいないのです。
今日はもう寝て、明日の昼からでも行きましょう。
重要な情報を持ってきたご褒美を―なんて言っている馬鹿な供にはもちろん鉄槌を下して強制的に眠らせました。
次の日。朝早くに起きて、素振りのノルマを終わらせたあと、軽く身体を洗って朝食に出ます。
朝食は宿でとり、部屋に戻って二度寝。
いいですよね~二度寝。いや本当疲れてるんですよ。
別に日常的にこんなことしていませんよ?
いや本当に。
で、まあ昼前に起きて供を連れ外に出ます。
屋台で昼食を取りつつ、どこに忍び込もうか相談です。
「やっぱり宰相のとこかなあ?なんか式前日だからって、自分の活躍を自慢してそうだよね。」
「ああ、安易に想像がつきます。彼は典型的な小物ですからね。最悪拐って脅して聞き出せばいいのでは?」
さらっと酷いことを言いつつ買ったばかりの串焼きを食べる供。――カイル。
「そうだよね~。まあ姉には見つからないようにしないと。絶対色々めんどくさい。」
「…そんなに酷い方なんですか、深衣の姉君は。」
「別に?私が勝手にそう思ってるだけかもね。 カイルも姉に惹かれたら好きにいっていいよ。」
「冗談。貴女以外に惹かれることなんて死んだ後でもありえませんよ。」
もちろんこう答えると分かってて言いました。
私が分かって言っていることも、カイルは解っています。
こんなことは今までありえなかった。
私はこう見えても一途なのです。
リューイという相手がいる以上、他の男とは距離を保ってきていました。
私に好意を持っているのであろう、と察した相手とは尚更です。
たとえ友人になったとしても相手が辛いだけだから。
だって私はリューイと別れる気はなかったし、リューイも本気で私を思ってくれていると信じていたからです。
まあ、違ったみたいですけど。
…だから、ぶっちゃけ泣きそうなんです。
いや、泣きませんけど。一人でも誰かの前でも絶対泣きませんけど。
だけど私も人間です。女の子です。
傷ついてるいま、優しい言葉が欲しいんです。信じられる、私が大事だという言葉が。