黒騎士は語る
「どうして俺なんかを魔王にしたいのか、説明してくれないか?」
まず最初にしたことは、こちらに殺意を向けない黒騎士に問いかけることであった。奴は、んーそうだなぁと気だるそうに呟き、悩んだ末に口を開いた。
「詳しいことはあまり言えないが……世界の危機を救うためにおまえが魔王になることが適任であると見抜いた」
嘘かもしれない、と一瞬だけ疑ってしまったが黒騎士の目は澄んでいる。俺は人に裏切られてから、ずっと相手の目を見ることで嘘か誠か見抜いてきた。嘘であればどろどろとした欲望の塊に似たものが映り、誠であれば曇りの一点すらも見えない。
だからこそ、俺はこいつの言葉を信じることにした。
「だが、魔王はユグドラシエルを滅ぼそうとしているじゃないか」
「そんなことを気にするなよ。まあいいか。魔王がここを攻めたのは、おまえのような異世界人をこちらに呼ぶための手段だったんだよ。つーか、魔王はユグドラシルが危機になれば、異世界から勇者を召喚することを知っていたんだぜ?」
これも本当のことを示すように奴の目は澄んでいる。
「じゃあ、どうして俺を殺さない?」
異世界から勇者を召喚すると知っているのであれば、なぜここで始末しないのか不思議だ。現に俺は明と一緒に召喚され、勇者の仲間であることを周囲に認知されている。もしも、この黒騎士が俺が勇者の仲間であると知っていれば――殺しているはず。なのに、こいつはあえてそのようなことをしていない。
「ああ、簡単なことだ。魔王になる奴を殺したくないからだ」
「……」
「それに、おまえはそう簡単に人を信じることができないだろう?」
「どうしてそんなことまでわかる?」
「ははっ、おまえの姉である人物が詳しく教えてくれたのさ」
姉……だと? 俺には、姉と呼べるような人はいない。いるとすれば妹の巴ぐらいであるが……まさか、こいつ……!
「巴に手を出したのか!」
怒りをあらわにした俺は迷うことなく、黒騎士に襲い掛かる。黒騎士はやれやれという様子でが振るう槍をかわし、俺の腕をがっしりと掴んだ。
「落ち着け。オレはな、おまえの身内には手を出していない」
「そんなことを信じられるか!」
槍を放そうとしない黒騎士の腕を蹴ろうとするが、それもあっさりと奴の手に止められる。
「だから落ち着けよ。オレはリーンからおまえのことについて聞いただけで、その妹に手を出していない。というか、おまえに妹なんかいたのか?」
リーンから俺のことについて聞いた……だと? どういうことだ? ますます意味がわからなくなってきた。
「あー、面倒くせぇな。オレはアースとおまえたちのいた世界を渡り歩くことができるんだよ。でな、そこでたまたまリーンの魂を持った女と出会い、おまえのことについて教えてもらっただけさ」
嘘はついていない、とこいつの目を見ればよくわかることだが……リーンという女性が俺のことを知っているというのは、どういうことなんだ? まさか……リーンというのは、鈴音のことかもしれない。あいつであれば俺のことについていっぱい知っているし、好きな食べ物まで熟知している。
それに、こいつは異世界を渡り歩きことができると教えてくれたから……。
「鈴音がこっちの世界に、アースにいるってことなのか?」
「さあな? そんなことはオレにとってどうでもいいことなんだが……話を戻すぞ。魔王になりたいか、なりたくないかはっきりしやがれ」
有無を言わさない口調で黒騎士は俺に選択を迫る。俺が魔王になれば、勇者である明と対立するはずなんだがこいつの話を聞くかぎりでは世界を救うこととなる。もしも、断ることになれば俺の命はここまでであったと言えるだろう。
「悩むよな。仕方ない、魔王になる利点を教えよう」
などといきなり黒騎士は尋ねていないことを語り出す。
「魔王になることができれば、おまえは大切な人を守り抜くことができる」
「……っ」
「次に、適性魔法のないおまえでも魔法を使えるようにあることをしてやる」
どうして俺に適性魔法がないことを知っている、と疑問を抱いたがあえて口を挟むことなく話を聞く。
「魔族には、適性魔法がない人に魔法を扱えるように体のどこかにタトゥーを彫る技術がある。それさえあれば、おまえでも魔法を自由自在に扱うことができる」
それは……おいしい話じゃないか。大切な人を守り抜くために魔王になり、さらに魔法を振るうためにタトゥーを体のどこかに彫ればいい。
「……悪くはないだろう?」
たしかに悪くはない。逆に俺にとって好条件じゃないか。でも、魔王になるためには魔族たちのトップに立たなければならないから努力するのみ。いつの時代だって、トップに立つためには周囲の人間を圧倒的な差で離さなければいけない。魔王であれば、なおさらだ。
「……いいじゃないか」
力を抜くと、黒騎士が掴んでいる槍を離してくれた。けれども、足は掴まれた状態である。
「ほう、魔王になるつもりになったのか?」
「もちろんだ――というと思ったか、糞野郎」
頭を後ろに下げ、勢いよく黒騎士の兜にぶつける。銅鑼を叩いたような音が兜から発せられ、そこに頭突きをした俺の頭はメチャクチャ痛い。その痛みの代償として掴まれていた足は自由となり、すぐさまに距離を取る。
「痛ってぇなぁ。この野郎」
頭突きされた場所をさする黒騎士の兜からのぞく瞳は楽しそうに輝いている。
「こっちも痛えよ。でもな、黒騎士。おまえはこのユグドラシルをいう国を攻めているから、手を組むつもりなんてさらさらねぇよ」
「ははッ、オレの正体に気付いていながらも会話していたのか。面白い奴だ。ますます、おまえを魔王にしたくなってきたぞ」
「遠慮させてもらう!」
槍の先を黒騎士に向けて、俺は突撃していく。あいつによけられることを知りながらも、俺はあえてこのようなことをしている。小細工など、こいつには効きそうもないから。
一気に黒騎士との間合いを詰めた俺は、奴の心臓目掛けて槍を向けるが上体をそらしただけでよけられた。勢いあまった俺はすぐさまに右足を地面に砕かんばかりに踏み込み、振り返りざまに槍を振るう。
鋭く空気を裂く音が発生し、同時にけたましい金属音が響く。当たった。手に残る感触を感じながらも、俺は黒騎士から離れるようにバックステップ。
「へぇ、なかなかやるじゃないか」
感心するように黒騎士が兜の中から目を細め、槍が当たったと思われる肩をさすっている。
「どういたしまして」
だから、俺も戦う相手に対して必要最低限の礼儀だけを尽くす。
「ところでよ、おまえの槍は魔導具だよな? 魔導具であれば、さっさとその能力を発動してくれよ」
「はっ、おまえに見せるまでもねえよ」
「そうだよな。だって、おまえには適性魔法もない上に、始めて魔導具を扱うからなぁ。初心者には、扱うこともできないのは当たり前だよなぁ」
「うるさいっ」
俺はまっすぐに黒騎士に向かい、槍で貫こうとする。が、奴は上体をそらしただけでかわし、そこで俺の槍を掴んだ。
「あーなるほどなぁ。こいつは、魔導具としての失敗作だから能力を発動できないのか」
「どういうことだ!? ジュリアスの話では自分の思う形を頭の中でイメージし、具現化させるじゃないのか」
「正解であって不正解でもあるな。本当は、発動となる言葉を口にすれば能力を起動させることができる。そのためにはおまえが言ったように、自分が思う形を頭の中でイメージし、具現化させなければならない」
黒騎士は掴んでいる槍に視線を落とし、空いている手で力強く握る。
「けれど、この魔導具はそうなるように設定されていない。つまり、見た目とおりの武器でしかない。だからな、将来魔王となるおまえにあるプレゼントしてあげよう。――<魔具創造>」
黒騎士がなにかを口にすると槍はぶるっと震える。
「<剣となれ>」
黒騎士が命じると俺と奴が握る槍に変化が訪れる。槍は黒騎士に命じられたことを果たすように青く輝きだし、除々に姿を変えていく。透き通るような青い刀身となった剣は、まるで俺に握れと語るように眼前にふわふわと浮かんでいる。
浮かんでいる剣を手に取ると、ずっしりとした重みが伝わってくる。それを試しに振ってみると片手でも扱うことができると実感し、俺は距離を取った黒騎士に迷うことなく斬りかかる。
「オレに感謝しないのか?」
「はっ、てめぇに頭下げる義理なんてねぇよ」
鋭く空気を裂く青い剣を振るう俺は、黒騎士を黙らせるために何度も斬りかかる。が、すべて奴はかわし、俺に攻撃しようと思えばいつでもできるはずなのにあえてそうしなかった。いいや、攻撃する素振りすら見せない。
「少しは反撃しろよ!」
「おまえに実力差というものを見せつけてやるためだから、あえてなにもしないだけだ」
「マジでむかくな」
「はッ、だったらもっといいことを教えてやるよ。おまえの姉、リーンはこの俺が殺したぜ?」
リーンというのは鈴音かもしれない。もしかしたら巴かもしれない。
どっちがこいつに殺されたのか知らないが――俺の視界は憤怒によって赤く染まり、獣のようにおたけびを上げながら黒騎士に剣を振るう。
「ほう、おまえがどっちを想像したのか知らんが、少なくても妹のほうじゃないぞ?」
「黙れ!」
剣は俺の怒りに反応するように青く輝きだし、それを振り上げ、一気に振り下ろす。すると剣から青い真空の刃が生まれ、まっすぐ黒騎士に向かって襲い掛かる。
「ほう、なかなかやるじゃないか」
かわすつもりがないのか、あいつはその場にたたずみ、襲い掛かる青い真空の刃と真正面からぶつかる――はずだった。
「なっ」
驚きを隠せない。
黒騎士に襲い掛かっていたはずの青い真空の刃は、奴に触れる前に消えてしまったからだ。遠距離から効かない、と理解した俺はすぐさまに黒騎士との間合いを詰めていく。剣の扱いなど知らない俺は、黒騎士まである程度近づいたときに再び青い真空の刃を放つ。
「くっ、やるなムタヨシオ」
それなのに、黒騎士の鎧には傷一つもついていない状態であった。かわりに、奴がどのようにあれを打ち消していたのかはっきりとすることができた。黒騎士が握っているのは、漆黒に染まる一振りの剣。
それがさっきの真空の刃を打ち消していた、とわかると奴の剣だけに気をつければいいと納得してしまう。
俺の青い剣と奴の漆黒に染まる剣で鍔釣り合いをしている状態にも関わらず、こいつは心を見透かしたように疑問を口にする。
「おいおい、オレがこの剣のおかげでおまえの攻撃を防いだと思っているのか?」
「……そうだ」
「はっ、残念ながら不正解だ。正解は――これだ」
ずしっと全身が重くなったような感覚に一瞬だけ襲われた。これが黒騎士の言っている正解なのか? と疑問を抱いていると俺は地面に叩きつけられた。
なにが起きたのか理解できない俺は、黒騎士を見上げる形となりながらも睨みつける。
「オレの能力である<重力>だ。つーか、魔族には生まれたときにすでに一つの能力が備わっている。けれども、オレは異端であった。一人につき一つのはずの能力は、オレには三つもあった。
ひとつは、いまおまえの周囲を重くしているのは重力操作である<重力>。
次は<魔具創造>という能力。これはどのような武器でも魔導具にしてしまい、触れただけでどのような特性があるのか見抜いてしまう。
そして、おまえの攻撃を消すことができたのは<無効化>。これは、どのような攻撃であっても無効化してしまうが、一日に三回しか使用できない欠点がある。それでも、切羽詰った状況では便利だぜ?」
俺が動けないこといいことに、黒騎士は自分の能力についてベラベラとしゃべる。なんでこんなことを教えるんだよ、と心の中で悪態をついた俺は時間稼ぎのために問いかける。
「魔族ってなんだよ」
「いい質問だ。魔族っていうのはな、見た目は人と変わらないがそれぞれ特徴がある。強靭な爪を生やしたり、岩のような硬い鱗を持っている。背中に翼を生やしたり、頭に角があったりするのも魔族だな。
んで、さっきも言ったとおりに魔族っていうのは生まれつき、一人につき一つの能力を保有している」
やはり、これもまたあっさりと教えてくれる。どうしてこの黒騎士は俺に魔族について、自分自身の能力について語ってくれるだろうか? ……ああ、そうか。俺がこいつの重力によって全身が地面に縛られるぐらいの重さがかかっているからだな。なにもできないと踏まえているから、こいつは余裕なんだよな。
動けない俺は剣を握る手を強く握り締める。どのように真空の刃を放っていたのか、俺自身わかっていない。ただ振るうだけで発生していた、と理解していた。ならば、振るうことなく真空の刃を発生させることも可能かもしれない。
剣先に真空の刃をためるようにイメージしていく。魔導具は自分の思う形を頭の中でイメージし、それを具現化させるだけでいいはずだ。
時間稼ぎをするために上機嫌な黒騎士に最後の問いをする。
「どうして恵美はここに来た?」
「メグミ? ああ、あの娘か。あの娘には、今日の朝からここに来るように暗示をかけていたんだ。ほら、じっーと誰かに見られているような視線を感じなかったか?」
「……それがどうした」
「あれが俺の視線だったんだぜ? まあ、なぜかおまえには暗示が効かなかったのは……きっとヨシュアのせいだろうな」
ぼそりと最後のほうになにかを呟いた黒騎士。
なにを言ったのか、俺は聞きたくはなかったが友達である恵美に暗示をかけた罪だけは許さない。
重力に縛られた身体に鞭打ち、剣を握る手首のスナップを振るう。そのおかげで剣先を地面に向けることができた俺は、怪我することさえためらわずに溜めた力を一気に放出。
これによって黒騎士が驚きの声を上げ、俺は宙に浮かんでいた。腹が焼けるように痛むがいまは気にする必要はない。
剣の柄を両手で握り、落下していく勢いを利用しながら眼下にいる黒騎士へと振り下ろす。迎い撃つように黒騎士は漆黒に染まる剣を振り上げる。両者の剣が激しくぶつかり合い、けたましい金属音が静かな訓練場に響き渡る。
「吹っ飛べ!」
拮抗状態であったが、溜めた力を放出することによって黒騎士を弾き飛ばすことに成功。反動として、至近距離であれを使用したせいで両手が痺れるような感覚に襲われ、自然に奴との距離を取ることもできた。
ぴきりとなにかが割れる音を聞いた俺は、黒騎士を睨みながらも様子をうかがってみる。すると、奴は兜をつけていてもわかるほど大げさにため息をついた。それから、自ら兜を脱ぎ捨てる。
兜を取った黒騎士の顔は気だるい表情をしていた。短く切り揃えられた黒髪、右目はルビーのように赤く、左目はアメジストを連想させるような輝きを放っていた。
「ちっ、兜さえ壊れなければおまえに正体をばらすことなく、近づくことができたのにな」
残念そうに不満を漏らす黒騎士は、俺に向けてすっと手を前に出すと、
「沈め」
それだけで俺の全身は鉛を詰めたように重くなり、地面に倒れこむ。みしりと骨がきしむような音を聞いてしまい、先ほどよりも比べものにならないほど重力をかけていることを悟る。
「さっきの倍の重力をかけたから、いまのおまえは身動きすらできないぜ」
余裕の黒騎士は俺に近づきながら、またべらべらとしゃべりだす。
「ところでよ、おまえとあの娘がどのように暗示にかかったのか知りたくないか?」
「聞きたくねぇよ」
「そうかそうか。そんな知りたいのであれば教えてやろう」
俺の言葉を無視した黒騎士は手を右目にかざしていき、迷うことなく己の目に指を食い込んだ。ぶちゅという音を聞き、そこから血がだらだらと流れていくのに奴は指をさらに奥へ入れる。痛みを感じていないのか、顔色一つも変えてはいない。
「実はオレの右目がおまえたちに暗示をかけたのさ」
ルビーのように爛々と輝く目を俺に向ける黒騎士。右目があった場所から血がどろどろとあふれていき、頬を赤く染めていく。
「どんな風にやったんだよ……!」
吐き気を抑えながら、どのように奴が俺たちに暗示をかけたのか気になった。
「まっ、こんなもんさ」
黒騎士が目を地面に落とすと、異変が起きた。地面に落下するはずの目は宙で止まり、ぷるぷるとゼリーのように震えるとばさっと黒い翼を生やした。小さな目に黒い翼。意思を持っているかのように血走った目はぎょろぎょろと動く。
「どうだ? すごいだろう」
「知るかよっ」
「はっ、生意気なガキだ。んじゃ、未来の魔王候補にせっかくだからいいことを教えてやるよ。
力が欲しいのであれば、フィオナの森に行け。そこには精霊の白狼がいるはずだ。もしも、おまえが白狼の試練を突破することができれば加護を得ることができる。が、あいつに出会うことができる確率は限りなく低いが……おまえなら、きっと白狼がいる場所に辿りつくことができるだろう」
フィオナの森……たしか、魔物がいる場所じゃないか。なのに、どうしてこいつはそこに精霊がいるとわかり、さらに名前まで知っている?
俺が疑問を抱いている間に黒騎士はふうとため息をついて、最後に教えようと前置きをする。
「七日後にこのユグドラシルを攻めることをおまえに告げておこう。その間にさっさと白狼と出会い、加護を授かれ。そして、オレはもうここには用がないからかわりに二人の魔族を派遣する。
一人は魔王候補であるおまえに、もう一人は勇者候補であるあの少年にやるから心配するな」
黒騎士は優位な状況であるから、俺に情報を提供してくれる。こいつ、俺が魔王になることを望んでいることが気に食わないが、いまばかりは感謝しなければならない。
俺にたっぷりと時間を与えてくれたことを。
「ヨシオ様から離れなさいっ」
一陣の風が吹き、黒騎士に向かってなにかが放たれる。黒騎士は目を大きく開かせながらも漆黒に染まる剣を振るい、それを弾いた。金属音がぶつかり合う音が響き、同時に俺の全身にかかっていた重力がなくなった。
これを機に俺は剣を握り締め、黒騎士との距離を詰めていく。
「援護させてもらいます、ヨシオ様」
ノルトの声が背後から聞こえると、いくつもの一陣の風が隣を吹き抜ける。黒騎士が漆黒の剣を振るう度に金属音が響き渡り、俺は剣に力をためていきながら前へ大きく踏む込む。
「くたばれ、黒騎士!」
「はっ、そう簡単に死ねるかよっ」
交差する青と黒の剣。
ためた力を一気に放出させ、黒騎士の剣を弾き飛ばそうとするが奴はニヤリと笑う。
「おまえだけがそれをできると思うなよ」
漆黒に染まる剣が黒く輝きだし、俺が放出していた力はそれを前に消えてしまう。いいや、吸い込まれていく。青く輝いていた俺の剣は光を放つことなく、ただの武器となってしまう。
黒騎士が剣を振るえば黒い斬撃が現れ、俺を軽々と吹き飛ばした。全身は焼けるような痛みに襲われ、地面をごろごろを転がってしまう。すぐに立ち上がろうと足に力を込めようとするのに、意思に逆らうように動かない。
「ヨシオ様!」
視界のすみでノルトが近寄ってくる。
「やっべ。やり過ぎた……じゃなくて、こいつの魔導具の能力がそれだけ高いってことか」
黒騎士が反省しているように語る。
「あなただけは……あなただけは許せません」
ノルトが俺の前に立ちふさがり、彼女の背中から白い翼がばさっと生えてくる。天使のような純白の輝きを放つ翼に見惚れてしまった俺は、戦闘中であることすら忘れてしまう。
「へえ、まさかおまえは……」
「黙りなさい」
「まあ、いいか。んじゃ、そいつに伝言を頼むぜ。リーンを殺したのは嘘であり、ただおまえの――」
「あなたの命を奪わせてもらいます」
「おいおい、少しは話を聞いてくれよ」
金属音が響き渡り、薄れゆく意識の中で彼らの会話を聞きながら瞼を下ろした。




