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白銀の魔王は黒き剣と踊る  作者: Victor
炎の国フォガレイム
56/68

彼ら

 太陽が力強く輝き、ヴォルカノ火山の洞窟の反対側に彼らはいた。そこは大小さまざまな石が転がる場所で、歩くには不向きであるがここを知っている者にとってはよい修行場であった。

 足場の悪いここで足さばきの練習ややたまに姿を現す魔物を相手にしたりして、修行に励む人たちがよく来る隠れスポット。

 ここで鍛錬を黙々と続ける獣人に背後から近寄る人物がいた。


「どうだい、新しい力は?」

「……悪くない」


 猫っ毛の髪は黒く、茶色の瞳、どこにでもいそうな平凡な顔立ちをした少年――虹の勇者アレクはぶっきらぼうに返す獣人に苦笑してしまう。

 前髪で顔を隠した黒髪の獣人はアレクが話しかけないとわかると、鍛錬に戻る。彼は一週間もずっとこうして鍛錬に励んでおり、アレクは出会った時のことをふと思い出す。

 彼はアレクたちがここに来る前からたった一人で鍛錬を続けていた。気になって理由を尋ねると、通っている道場で落ちこぼれとして扱われている連中を見返したいという。

 なので、アレクは仲間とともにヴォルカノ火山の奥に住む火の精霊王と戦い、彼が守り続けていた宝を苦戦の果てに手に入れた。宝は所有者の力を最大限まで引き上げる、と獣人はヴォルカノ火山に入る前に教えてくれていたので、手に入れたそれを渡した。

 燃えるように赤いひし形、聖なる雰囲気を持つ宝を。

 さすがに獣人もそれに驚きつつも感謝し、渡されたことによってその宝は彼の身体に溶け込んでいき、同化してしまう。それによって、これまで気を練っても何もできなかったはずの彼から炎があふれ、習得できずにいた技の練習を行って徐々に扱いこなしていった。

 アレクも得た「力」があるため、それの練習も兼ねて獣人と納得できるまで何度も手合せを行い続けた結果、理性を保ちながら解放できることができたため、充実した一周間であったと言える。

 人間(ヒューマン)以外の種族は嫌いのアレクであるが、力を求めるようにただひたすら努力する人物は好意を抱き、つい手伝いたくなるのは彼の悪い癖である。

 なにせ、これまで貴族や王族まで喧嘩を売ったことがあり、今回は精霊王まで手を出したので、これをギルドに知られたら冒険者として動くことは二度とできない。


「アレク様、ラエン様。ご飯の用意ができましたよ」

「いま行くよ、レナ」


 そんなことを思い出していると、昼食を用意してくれた少女――ハーフエルフのレナに声をかけられた。ふと、いまともにいる二人の仲間との出会いを思い返す。

 ギルドの討伐クエストの帰り道、魔物に襲われる少女を見かけてしまい、思わず助けてしまった。以来、レナはあなたに命を救われましたので、と旅に同行することになった。後衛で魔法を唱える彼女はアレクを支えてくれるが……どじさえしなければとってもうれしい。

 もう一人の仲間であるマシャードは奴隷として売られていたため、アレクは一目で彼が使えそうと感じてすぐにその場で買った。奴隷である彼はアレクに逆らうことなどないが……あまりにも目にあまる行動を拳で止めることもある。


「はあ……」

「どうした?」


 つい重いため息をついてしまうと、並ぶように隣を歩くラエンに心配されたので、思ったことを口にしてしまう。


「ここに来るはめになったことを思い出しだけだよ」

「……女たらしのおまえだから仕方がないだろう?」

「そっちじゃないよっ。……せっかくだからラエンに教えるよ。どうして僕たちがここにいるのか」


 一週間前、逃げるように――いや、この炎の国フォガレイムに強制転移させられた日のことをラエンに話していく。

 自ら虹の勇者という二つ名を名乗り、海の中央にある聖都サンタルチェでレナとマシャードとともに過ごしていた日々。ギルドの依頼をこなし、たまに好みの女性を誘ってよく断られたアレクは、気まぐれにレナとマシャードと一緒に教会に入ってみた。

 聖都にある教会は荘厳で美しく、よく結婚式やミサに使われている場所。信者たちは神ではなく、聖都に住む光の精霊王に祈りを捧げることをレナから説明され――それを見つけた。


「それってなんだ?」


 長ったらしいアレクの説明に我慢できなくなったラエンは、口を挟んでさっさと終わらせて欲しいという雰囲気を感じさせる。


「落ち着いて最後まで聞いてくれるかい? ここから本番だからさ」

「……わかった」

「教会の奥にあったのは、まさに僕が持つにふさわしい物だったんだ。だから、それを守る騎士たちにあれをくれないか? と頼んで……」

「ちょっと待て。騎士が守るそれを……おまえが奪ったわけじゃないよな?」


 レナとマシャードがいる場所に着き、円を描くように置かれた赤い石の上には美味しそうなにおいを漂わせる鍋がある。アレクとラエンはレナから受け取った木の器に入ったスープを手にして、浮かび上がる干し肉を木のスプーンですくって口に含む。


「うん。今日はおかしな食材が混ざってないね」

「……話をそらすな」

「すまない。えっと……どこまでだっけ?」

「聖騎士たちと……だ」


 その一言を聞いたレナは深くため息をつき、マシャードは彼女におかわりを求めてあのことを忘れるように食べていくことを、アレクはまったく気が付かない。


「主張してもダメだったから、僕は彼らを倒して手に入れた。あとは堂々と僕がこれの所有者としてふさわしいことを証明しようとしたのに……」

「最後まで言わなくてもわかるから、黙ってくれないか?」

「僕は騎士たちと神官たちに狙われた。どこに隠れても、彼らは必ず姿を現して僕らを殺そうとしてきた。聖都から逃げようとしても、なぜか戻って来てしまう」


 熱く語るアレクに呆れた眼差しを向けてしまうラエン。彼はレナとマシャードが苦労していることに同情してしまい、さっさとアレクの話を終えるために結論を求める。


「ある日、僕らは白衣を着たおじいちゃんと出会って、騎士たちを一瞬で無力化させた。そこで彼らは僕らをもっとも近い場所に強制転移して、愛しいハニーと出会ったのに……あの悪魔のせいで……!」

「もういい。俺はおまえがとんでもないバカだとわかったから」


 酒場で出会った愛しい少女のことを思い出すと同時に傍にいた悪魔のことまで脳裏に浮かび上がる。愛しい少女は自分が出会ってきた異性の中で一番美しく、自分にふさわしい。


「あいつの頭のねじはどこか外れているな」

「ら、ラエンさん。お、お願いですから、もっと小さい声で言ってください」

「妄想中のあいつには聞こえないから、大丈夫だろう」


 アレクはレナとラエンが交わしている言葉などまったく聞こえず、ただ愛しい少女を取り戻すために思考していく。


「……ラエン」

「なんだ?」

「君の力を試したくないか?」


 あることを閃いたアレクに、ラエンは狂気の笑みを浮かばせながら肯定し、やることが決まった彼は愛しい少女のことを考える。

 君は悪魔によって記憶を奪われた憐れな少女。もう二度と君を手放すつもりはないから……待っていてね、ハニー。


「…………アレク様のバカ」


 消え入りそうなほど小さい声で呟いたレナの声は誰にも届かない。

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