ヴォルカノ火山
ペドロから頼まれたあと、恵美とヴィヴィアルトは道場に残って鍛錬をすると言い出し、また彼も彼女たちの相手をすることになった。彼女たちと別れ、アマリリスと鈴音と共に一度「赤きしっぽ」に戻って必要なものを揃え、徒歩で一時間ほどかかるヴォルカノ火山までわずか三十分ほどで着いた。
その理由は街道で大型の猪とオークの群れと遭遇してしまい、炎や雷で脅して追い払おうとしても怯えることなく牙を向いてきたので逃げ出した。走って疲れた俺たちはヴォルカノ火山の麓に着いて、ようやく一息つく。
アマリリスいわく、街道でもたまに魔物が現れて、襲い掛かることがあるから油断などできないというのだ。そういうことは麓に着く前に教えて欲しかった。
このヴォルカノ火山と呼ばれている由来は、ヴォルカノと呼ばれる炎龍が火山の奥から目覚め、人を喰い、気まぐれに街を蹂躙し、その口からあふれる吐息は灼熱の如くだったという。邪神が封印されたあとにそれが目覚め、師子王ペドロと火の精霊王は力を合わせて倒したことを道場から出る前に聞かされた。
「ちょっと、いつまでヴォルカノ火山を見上げているわけ? さっさと入るわよ」
銀色に輝く手甲と脚絆を装備したアマリリスは火山の入り口に立って、俺と鈴音に声をかける。行方不明になっているのは彼女の知り合いなので、早く見つけて無事かどうか知りたがっているので鈴音と目を合わせると、何も言わずに俺の隣に並び立つ。
隣にいる鈴音は装備らしい装備などまったくない。胸当てすらつけていなくて、漆黒の槍さえ背負っていない。こちらは一応胸当てをつけていて、この前買った風の魔導具をぶら下げ、腰には銀色の剣を差している。
大丈夫なんだろうか、と心配していると彼女は腕を組んで胸を押し当ててきた。頬が熱を帯びていくのを感じていると、火山の中に入ろうとしたアマリリスは足を止めてこっちを睨む。
「ふふっ、心配せんでええよ。うちはこっちのほうが動きやすいからな。それにいざとなったら、よっしーが守ってくれるやろ?」
鈴音に考えていることを見抜かれて、驚いてしまう。忘れていた。こいつ、昔から俺の考えていることを見抜いてしまうから、からかわれることがよくあった。そんなことを思い出していると、先ほど自分が口にした言葉で照れているのか、恥ずかしそうに微笑んでいる鈴音。
こういう表情の鈴音をあまり見たことがなくて、見惚れてしまいそうになったが彼女の小指に自分のを絡めて約束した。
「おまえを守るよ、鈴音」
――ヘンリー、何があっても僕は君を守るからね
目の前には鈴音がいるはずなのに、なぜか彼女の面影と重なる。銀細工のように輝く髪、白い瞳の女性……この人はヨシュアの恋人であるヘンリエッタ。彼女は差し出された小指を絡んで、ええ、と答えてヨシュアに口づけを交わす。
ヘンリエッタは口づけを交わした後、頬をうっすらと赤らめてそっぽを向いて、ヨシュアさんもしてよ、バカと小さく呟いていた。
落ち着かないように銀細工の髪を指でいじって、ちらちらと恥ずかしそうにこちらの様子をうかがう。ヨシュアはそんな彼女に苦笑し、唇を重ね、絶対に守るよと耳元に囁くと彼女は首元まで赤くなっていく。
だけど……ヨシュアは約束を守ることができず、闇堕ちしたリーンによってヘンリエッタは命を奪われ、愛しい姉をこの手で殺めた。
何を視ているんだ、俺は。首を横に振って、鈴音を引き寄せて抱き締める。
「よっしー……?」
困惑している鈴音には何も言えず、彼女の温もりを求めてさっきよりも強く抱き締める。喪いたくない。傍にいて欲しい。前世であるヨシュアの記憶を通して、大切な人を喪う気持ちを味わっているからこそ、彼女を守りたい。
「ごめん、鈴音。落ち着いたから、安心してくれ」
「……うん」
何も聞いてこない鈴音から離れ、改めて決意を決めた俺は前を向いてこちらを待っていたアマリリスに謝罪した。
「すまない。おまえの知り合いを探さないといけないのに」
「あんたに何が起きたかわかんないけれど、いい目になったじゃないの。あ、そうだ。リンネ、あとでメグミにこのことを教えても文句ないわよね?」
赤い目を細め、にんまりと笑うアマリリスに鈴音は俺にされたことを思い出し、顔を真っ赤にさせていき、恥ずかしがっている。鈴音と目が合い、彼女は睨み付けてくるけれど涙目だから怖くはない。逆に可愛らしい。
「じゃ、そろそろ行くわよ。ヨシオ、リンネのことを頼んだわよ」
「ああ、任せておけよ、アマリリス。鈴音は俺が守るよ」
「し、しっかりと守ってくれたら、ご褒美にキスしてやるで!」
「だってよ、ヨシオ。守ってあげなさい」
「ご褒美がもらえるなら、頑張れるな。でも、舌を絡めるのは勘弁してくれよ?」
「うー……よっしーのあほっ」
からかわれることに慣れていない鈴音は罵倒し、俺とアマリリスお互いに苦笑しながら、ヴォルカノ火山の洞窟に足を踏み入れた。
ヴォルカノ火山の中は熱く、洞窟を歩き続ける俺たちの体力をじりじりと奪っていく。サウナで過ごしているようなあの熱さを感じ、前触れもなく姿を現す魔物を追い払い、または逃げながら洞窟の奥に向かっていく。
ヴォルカノ火山では火の魔鉱石が取れるため、持って帰ることが出来れば炎の国にいるドワーフたちに魔道具にしてもらえるように加工ができる。空間魔法に仕舞っているあのハルバートも、ここの魔鉱石から作られていることをダイナスから聞いていたのを思い出す。
「それにしても懐かしいわね」
「ん? なにがだ」
「ここに決まっているでしょう? ここは昔から修行として使われてきたのよ」
懐かしむように洞窟の壁をなでるアマリリス。昔からということは、アマリリスが生まれるもっと前か。だから、アマリリスは迷うことなく先頭を歩いて、火の精霊王のもとまで案内して……いるのか?
「なあ、アマリリス」
「なによ」
「おまえ、火の精霊王がどこにいるのか知っている……よな?」
不安になった俺は恐る恐るアマリリスに訊いてみると、彼女は当たり前のように知らないわよ、と告げた。
「おまえ……まさか、探していればいつかは見つかるって考えていたな」
「し、仕方がないでしょ! あたしだってまだ会ったことないんだからっ」
「はあ……」
言い返すアマリリスについため息をついてしまうのは、鈴音。
何か手がかりでもないのか、と壁や足元の岩の地面など見ていると視線の先には魔物の群れが映った。宙に浮かぶ怨念がこもった剣や中身がないさまよう鎧、青白い光の塊……もう相手にしていてうんざりしているから、逃げることにした。
げっと嫌そうな顔をしたアマリリスも戦うつもりなんて、もうないだろう。戦闘しても体力を消費するだけなので、逃げることに決めている。
鈴音から差し出された手を繋ぎ、腰に空いている手を添えて、襲いかかる剣や飛び交う火の球を踊りながらかわす。
――リーン、もうちょっとだけペース落としてよ
――嫌よ。ヨシュア、私のわがままに付き合いなさい
ヨシュアの記憶が前触れもなく甦る。目の前には鈴音がいるはずなのに艶やかな黒髪を束ね、夜を映し出したような深い闇の両眼をした女性……リーン。黒いドレスを着ている彼女はくすくすと笑みをこぼし、自分のペースでヨシュアを振り回す。
――ヨシュア、あなたのこと好きよ。でも、あなたはヘンリエッタを選んだからもう私のほうには振り向いてくれないでしょう。だから、こうして踊っているときぐらい、好きにさせて
「よっしー! しゃんとせんかっ」
耳元で怒鳴る鈴音のおかげで、いま自分がしなければならないことを思い出し、首にぶら下げている風の魔導具に魔力を流して発動させる。貫かんとばかりに襲いかかる剣の群れに作り出した風の壁で防ぎ、そこで止まる魔物たちだが追撃するかのようにウィルオウィスプは身体を膨らませて突進してきた。
もう一度風の魔導具を発動。宙に足場を生み出し、そこに飛んでかわし、また攻めてくる魔物の猛攻を踊りながらよけ続けていく。当たったら怪我ではすまないはずなのに、その状況を俺と鈴音はお互いにフォローしながら軽快なスッテプを刻み、舞い、反撃することもなく魔物の群れを抜けた。
俺たちが乱れた息を整えている間にアマリリスも魔物の群れから逃れようとしていた。赤い疾風の如く狭い洞窟の中を動き回り、彼女は最後に道を塞いでいた眼前の魔物に炎で吹き飛ばし、土煙を立てながらようやく止まる。
「ふう、いい汗かいたわ」
さわやかにそんなことを言い出すアマリリスの背後を狙って、身体を膨らませたウィルオウィスプの群れが突進してくる前に三人そろってその場から逃げ出す。どんっと腹の奥で響くほどの爆発音が響き、ある程度距離を稼いで後ろを振り返ってみるともう魔物は追いかけてこない。
「信じられないわ。あんたたちよく無傷で抜けることができたわね」
アマリリスは岩に座って、目にしたことをいまだに信じていないようだ。俺と鈴音もほどよい大きさの岩に座ると、彼女は目を閉じて闇魔法の一つである「祓い」を発動させた。
「祓い」は魔物を引き寄せないかわりに魔力の消費が多いと鈴音は言っていた。周りには小さな黒い魔法陣がシャボン玉のようにふわふわと浮かび、これが全部消えるまで効果は続く。
「まっ、これはうちとよっしーだけしかできへんし。他の人がやっても、絶対に無理やもんな。な、よっしー?」
自信にあふれて胸を張る鈴音にそうだな、と返すと、疲れているのか彼女はもたれかかってきた。汗と女性独特のにおいが鼻孔を刺激させ、心臓がばくばくとうるさいくらい早く脈打ち、できるだけ彼女のほうを見ないようにしておく。
これを見て、ちっとわざと舌打ちしたアマリリス。あいつがいれば、あたしだって見せつけるようにいちゃいちゃしたのに……と小さく呟いていたのが聞こえた。
「なあ、アマちゃん。道場で暗い顔をしっとたのは、メグみんが<火の欠片>所持者になったせいやろ?」
空間魔法の中に入れていた水や干し肉などを取り出し、それを食べてリラックスしていたアマリリスは鈴音にそう言われ、彼女はそうね、と肯定した。彼女は抱いている感情を吐き出すように俺と鈴音に打ち明ける。
「あたしはずっと努力して、やっと気を炎に変化させることまで到達したのに……。メグミは教えたことを簡単にできたから、へこんでいるのよ」
「しゃーないやろ。メグみんはヘンリエッタの前世や。うち……リーンとして生きていた頃なんてな、ヘンリエッタは息をするように上級の火魔法を扱っておったんや」
「なにそれ……すごくない?」
「すごいわ。うちなんて、それで嫉妬しておったし。ま、そういうことや。火に関してヘンリエッタ……メグみんには火で勝てる人なんておらんよ。けれどなぁ、いまのメグみんはまだまだやから誰かさんが手伝ってくれへんと上達せんよぉ?」
遠回しに鈴音はアマリリスに恵美に手伝って欲しいということを伝えていて、それを聞いた彼女は強気な赤い瞳を輝かせて、同じ色の髪を靡かせながら告げた。
「このあたしがメグミを<火の欠片>保持者にふさわしくさせるために、これからどんどん教えていくわよ! ヨシオ、あんたはあたしのストレス発散にでも付き合いなさいよね!」
「やめてくれよ、アマちゃん」
「アマちゃん言うな、って何度言えばわかんのよ!?」
耳をぴんと立て、しっぽの毛を逆立たせるアマリリス。あ、これはやばい。いままでアマちゃん呼ばわりしてこうなったことはないはずだけど、今回ばかりはまずい。
と、ちょうどその時にタイミングよく「祓い」の効果が薄れていく。小さな黒い魔法陣の数が減っていき、休憩もこれで終わりを告げるおかげで俺はアマリリスに怒られ……。
「ふんっ!」
……ない。鼻を鳴らして、前へとずんずん進んでいくアマリリスに拍子抜けした。てっきり殴られることを覚悟していたが……。
「行こっか、よっしー。放っておいたらアマちゃん、迷子になってしまうしな」
「そうだな」
止まっていた足を動かすために、俺たちは火の精霊王のいる場所を探し求めて再び歩み出す。
あれから鈴音とアマリリスは一気に打ち解けてしまい、魔物の襲撃など奥に進めば進むほど姿を見せなくなっていく。ヴォルカノ火山の奥まで迷うことなく歩き続けていると、途中で壁に鋭く裂かれたあとばかり目立つようになる。それだけならまだしも、焦げたあとや大きなハンマーで叩かれたあとまであることに、誰もが疑問を抱く。
「なあ、アマちゃん。火の精霊王にケンカを売る阿呆っておるんか?」
「あたしは聞いたことないわよ。……って、リンネ」
ジト目で鈴音のことを見るアマリリスに、彼女は気にすることなくなんや? と人懐っこい笑みを浮かべる。
「いつからあたしのことをアマちゃんって呼ぶことにしたのよ?」
「よっしーがええなら、うちもええやろ? ヴィーちゃんにもそう呼んでもいいって許可されたからなぁ」
「ヴィヴィのバカっ。帰ったら、いじってあげるわ!」
ここにはいない親友に宣言するアマリリスが面白くて、つい苦笑してしまうが俺は壁を眺めながら火の精霊王は近くにいるかもしれないと考える。
鈴音は気に入ったアマリリスをからかうように、ヴィヴィアルトから聞かされた話を語っている。頬を赤くしたり、必死に弁解したり……ってこうやって見るとアマリリスは面白いな。
睨まれて、なに見ているのよ! と怒られる前にさらに奥へ進むと……そこに俺たちが探し続けていた火の精霊王らしき生物が地面に横たわっていた。四メートルもある大きな鳥、黄色のくちばし、鷹のように鋭い瞳は閉ざされている。赤と黒が入り混じった翼と身体。彼から感じるのは……弱々しく、いまにも消えてしまいそうな炎。
どうすれば……彼は助かる? 俺にはヴィヴィアルトが持つ傷をふさぐ魔導具などなければ、そのような魔法さえ知らず、何もできない自分の無力感を感じているとそこへ鈴音の声が洞窟に響く。
「アマちゃん! 思いきり火をこいつにぶつけなっ!」
「え、な、なんで?」
「理由はあとで説明するから、はようせんかっ」
やじを飛ばす鈴音に納得できないような顔をしていたアマリリスだが、決意を決めたように拳に炎を宿らせる。
「どうなって知らないわよ! 獅子円舞っ」
獅子の形をした炎が放たれ、襲いかかるように牙を向く獣だったが火の精霊王に吸い込まれるように消えていく。炎ならば火の精霊王に吸収されるならば……空間魔法にあるハルバートを取り出して、ありったけの魔力を込めてく。
「もう一回や! …… よっしー、なにするつもりや?」
「こうするに決まっているだろ!」
ハルバートの刃は魔力を注がれたことで赤くなり、動かすだけで火が漏れる。それを構え、アマリリスがもう一度獅子円舞するタイミングに合わせて上段から振り下ろす。
引き裂くような炎の刃と襲いかかる炎の獅子が同時に火の精霊王を包み込み……甲高い鳴き声が洞窟内に反響。力強い羽ばたきとともに熱風が襲うが、ハルバートを地面に突き刺して飛ばされないようにした。
『感謝するぞ、人の子たちよ』
低く、それでいで厳かな声と雰囲気をするのはさっきまで地面に横たわっていた火の精霊王。閉ざされていた瞳はオレンジ色の瞳で、そこに俺たちを写していた。
「感謝するなら、 うちらを飛ばさないようにしてくれんか?」
いつの間に取り出した漆黒の槍を大地に突き刺していた鈴音は、それを抜くと霧散して消えていく。風圧によって乱れた髪を整える鈴音。アマリリスは? と探し求めると体勢を低くして風圧をしのいだようだ。
『すまない。我に注がれた力が強かったせいかもしれない』
俺とアマリリスが合わせた炎のせいってことかよ……。おかげで弱々しかった火の精霊王は力を取り戻し、彼を助ける方法を知っていた鈴音に説明を求める。
「精霊王ってなあ、一つの属性に特化している存在なんや。せやから、それぞれの王は自分の属性と同じ場所か魔法によって力を得る……って、とあるシスターが教えてくれたで」
「ほお……」
興味深いことを教えてくれた鈴音に感謝し、しっかりと身体を伸ばす火の精霊王を見上げてペドロから〈欠片〉を受け取りに来たことを告げる。すると、火の精霊王はすまないと俺たちに謝罪してきた。
「どういうことよ? それよりも名前教えてくれない?」
大胆にもアマリリスは俺たちと接するかのように、火の精霊王に名前を聞くとは……ある意味すごいな。
『我は火の精霊王であるソル。……すまないが、〈火の欠片〉は虹の勇者と名乗る者たちに奪われた』
「……この壁の傷痕は全部あいつらのせいか」
『すまない。 我の腕が鈍っていたせいだ』
「大丈夫だ。あの野郎、今度出会ったらぶん殴ってやるから気にしないでくれ」
まさかここに来ているとは、誰もが想像してなかったことだ。鈴音は火の精霊王であるソルにどんな攻撃、どのような魔法なのか次々と質問していく。
アマリリスと俺は鈴音がソルに質問を終えるまで待ち続け、納得したようにありがとさんと感謝してこっちに戻ってくる。
「生徒がいなくなった一週間前と同じ頃に、その虹の勇者が来たから……ただの偶然じゃないかもなぁ」
「もしかしたら、その行方不明と虹の勇者は一緒に 行動しているかもしれない。そのときに、〈火の欠片〉を取り戻せばいいか」
「せやな」
一応これからなにするのか鈴音との間で決まったが、アマリリスは浮かない顔をしている。やっぱり、行方不明の生徒が虹の勇者たちと行動していることが気になるのか?
気まずい空気になったときに、ソルが口を開いた。
『そこのおぬしよ、白狼と似ている雰囲気だが……彼奴になにが起きた?』
「これは……」
フィオナの森で起きたことを話すと、ソルは口を挟むことなく最後まで白狼の最後を聞き終え……一滴の雫が地面に落ちた。ソルはただ一言だけ、彼奴は昔から我の友であった、とこぼしてそれ以上白狼に関して何も言わず、オレンジ色の瞳に俺を映す。
『おぬし、〈雷の欠片〉保持者であるな?』
「ああ」
『ならば聞け。すべての〈欠片〉保持者にも我がいまから伝えることを告げよ。己の願いと想いを込めて力を求めよ。さすれば、扉は開かれぬ、とな。我とてどのような意味があるのか知らぬ』
遠回しの表現に鈴音は首を傾げ、アマリリスはなにそれと口にしてしまうけれどもソルは気にしていない。俺もソルがなにを伝えたいのかわからないが……〈欠片〉に関することだからしっかりと覚えておこう。
『さあ、用が済んだのであれば我の背中に乗ってゆけ。街まで送ってやろう』
背を向けたソルは乗りやすいようにしゃがみ、彼に感謝しながら首元に腕を回す。大丈夫だろうか、と心配していたが……ソルは何も言わずに黙って俺たちが上るのを待っている。
そこへ誰かが俺の身体に腕を回し、密着するように身体を押し当ててくるのは――鈴音しかいない。
「えへへ、よっしーの背中は意外とたくましいなぁ」
花が咲くように微笑んだ鈴音は、肩にあごを乗せて頬をくっつけてきた。背中に感じる鈴音の温もりと傍にいてくれる安心感、恥ずかしいと感じながらもつい頬を綻んでしまう。
「ねえ……あたしがいることを忘れないでくれる?」
不機嫌なアマリリスの声は後ろから聞こえ、惚気てしまう鈴音に注意してからソルに声をかける。
「ソル、いつでもいいぞ」
『ああ。……頼むから、我の上でのろけ過ぎないでくれるか?』
「すまない」
ソルからも注意されて、俺と鈴音はそろって苦笑してしまう。それからソルは翼を羽ばたかせて、真上に大きく開かれた穴から飛び立った。