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襲撃

 日が昇る頃にあてがわれた部屋で起きた明は、どこからか感じたことのある”闇”が近づいていることに気付き、屋敷を飛び出した。

 脚に風を纏わせ、森から感じる闇のほうへ走り続けた結果、そこにいたのは黒い左腕をした銀髪青眼の貴公子然とした青年。それから穏やかな顔立ちをしたまま、そんな青年を見つめる竜王。

 あの青年――忘れることができない相手、ハーゼルへと明は迷うことなく斬りかかったがすべて防がれてしまう。さらに邪魔するように地面から現れた泥の異形。

 異臭を漂わせる異形は、腐りかけた腕をこちらにかざすと魔法陣が展開された。発動させるよりも早く明は剣に纏わせた紅蓮の炎で切り裂き、いざハーゼルへと斬りかかろうとしたのに彼はそこにはいなかった。

 逃げられた。

 彼のせいで吉夫は闇堕ちしてしまい、自分を殺して欲しいと願った彼と殺し合いをした。もう二度と親友とはあのようなことをしたくない彼は、吉夫を闇堕ちさせたハーゼルを憎んでいた。

 だから、殺すことに躊躇いなどなかった。

 悪は切り捨てるべき存在である、と再認識した明は無傷な竜王の無事を確かめ、彼と共に”竜の里”へと戻る。

 朝早くから市場の準備をする人や、畑仕事をする人たちを屋敷に戻るまで見かけ、竜王は彼らに声をかけていく。もちろん、彼を見かけた人々も声をかける。ここの王でありながらも、気さくに民に声をかける彼はまるでどこにでもいるような人物。しかし、彼がその気になれば明など一瞬で負けてしまう実力者。

 屋敷に戻り、竜王はいつものように朝食を作るためにまっすぐ厨房へ。彼が料理好きである、と屋敷で過ごしていればわかる明は出来上がるまで剣の素振りでもすることにした。屋敷の外にある庭で素振りをしているととある人物があくびをしながら近づいてきた。


「おっ。兄ちゃん、おはよう」

「レオ。おはよう。さっき起きたのかい?」

「まあね。なんかさ、懐かしい魔力を感じて眠れなかったから……」


 ツンツンした黒髪をかき、鷹のように鋭い瞳は同じ色。寝巻きからいつもの黒一色の冒険用の服に着替えレオの腰には剣が差してある。


「レオ。もしもよかったら付き合ってくれるかな?」

「いいぜ。つい兄ちゃんがフローラ姉ちゃんをつい押し倒してしまったもん、なっ!」


 始まったと同時にレオは大地を蹴って距離を詰めてくる。抜刀しながら迫り来るレオに慌てることもなく、明は剣を鞘に収めたまま防ぎ、その状態で彼を後ろへと飛ばす。防がれたレオは着地し、力をためるように膝を折り曲げ、一瞬にして明の視界から消え去る。

 消えた、と錯覚するようなほどレオは速く動いている。何度も彼と手合わせしている明にとって見慣れた動きと速度。これぐらい、どうってことはない。

 目を閉じ、耳を澄ましていると左右から鋭く空気を裂く音が聞こえた。

 鞘から剣を抜くことなく、むしろ彼はそれを放り投げる。なっと驚く声に苦笑し、明は両手に風を集めて両腕を大きく広げた。風を纏わせた両手に左右から振り下ろされる二つの漆黒の刃が触れ、霧散してしまう。

 

「それはねぇだろ、兄ちゃん!?」

「ありだよ、レオ」


 風の流れでレオが後ろにいることを察知し、彼が剣を振り下ろしていることまでわかった明は上体をひねって、彼の剣をかわした。レオの剣は地面へと叩きつけられ、無防備な彼の首もとに明は手刀を当てて、勝利宣言をする。


「僕の勝ちだよ、レオ」

「ちくしょう。前までは兄ちゃんに勝てたのに……」


 悔しそうにぼやくレオ。”竜の里”に着くまで勝っていた彼であるが、日が経つにつれて明は強くなっていき、あっという間にレオを追い抜いた。レオは知らないが、明は一度見ただけで覚えてしまう才能がある。だから、何度も手合わせすれば自然とレオの動き、仕草、癖を理解し、さらに剣の扱いも知る。

 レオが勝てないのは明の才能のせいであり、彼自身はこれをうまく利用しながら日々を過ごしているのだ。


「アキラー、レオー。朝ごはんだよー」


 タイミングよく宙をくるくると舞いながらやって来たのは風の精霊であるアイリス。彼女は明の肩に座り、行こうよ! と元気よく振る舞う。彼女が食いしん坊であることを知っている二人は苦笑しながら屋敷へと戻る。途中で手を洗った二人を迎えたのは。

 

「遅いぞ、二人とも」


 食堂に入ると、細長いテーブルの席に座っているフローラは二人のことを咎めるが込められている言葉はどこか温かい。明とレオは苦笑し、ここ最近慣れたいつもの場所へと座る。

明はフローラの隣に座り、彼の向かい側にはレオ。フローラの反対側の席は空いているが、そこは竜王がいるべき場所。竜王が朝食を次々とテーブルの上に並ばせていくと、アイリスはよだれを垂らして目をきらきらと光らせる彼女に明とフローラは苦笑する。

 テーブルの上には、明の世界で見慣れた食品が並んでいる。ふっくらとし、白い米粒が山のように盛られているご飯。おわんの中では味噌汁に似ている感じの汁。中には豆腐とわかめ。けれど、あくまで最後にはもどきがついてしまうのはあまりにも似ているから。

 この前魚屋で見た鋭き剣と呼ばれる魚であるが、小ぶりである。さすがにあの鋭い部分だけは取ってあるのは、危険だからだろう。


「ねえねえ、アキラ。食べもいいかな?」


 竜王がアイリス専用の小さな食器を用意しているため、彼女の前にあるそれらを食べたくて、そわそわしているアイリス。席に着いた竜王がアイリスに食べてもいいよ、と許可を出す。許可を出されたアイリスはさっそく食べだし、おいしそうに味わう。

 明たちも竜王がそろったことで朝食を食べだし、他愛もない会話をしながら箸を動かす。全員が食べ終えところで、レオはなにかを決意したように顔を上げ、のんびりとお茶を飲んでいた明に告げた。


「兄ちゃん。オレさ、こんな夢を見たんだ」

「夢? どんな内容なんだい」

「笑わないで聞いてほしい、兄ちゃん。……大人になったオレが銀色の髪で、青い瞳をした人と酒場で楽しそうに語り合って、酒を片手に飲み合っていたんだ」


 お茶をのんでいた明は、レオが口にした人物についてまさか、ととある人物を思い浮かべる。該当する人物は、ハーゼルしかいない。

 けれど、なぜ彼の夢にハーゼルが現れるのか明にはわからない。そんな彼らを尻目に竜王がなるほどね、と小さく呟いたことに気が付かなかった。


「……兄ちゃん? どうしたんだ、そんな怖い顔をして」

「いや。なんでもないよ。ただ、自分の知っている人と特徴がそっくりだな、って思ってさ」


 そこでフローラがそうじゃ! と何かを思い出したように顔を上げ、ヴィヴィアルトと同じ特徴ではないかの? と確信したように口にする。


「本当だ。ヴィヴィ姉ちゃんと同じだ。まさか、オレの前世……じゃなくて、未来かな」

「もしかしたら、封じられた記憶かもしれないよ」

「えっ」


 これまで沈黙を貫いていた竜王がそれだけ告げると、空の茶碗を転移させ、彼自身も同じように姿を消す。意味ありげな言葉を口にした竜王が消えたことで、明たちは疑問を抱くことしかできなかったが、いまはそれでいいだろう、と判断していたときに外が騒がしくなるのを感じた。

 いや、正確に言えば風がざわめいている。ここ最近、”竜の里”で風の魔法を中心として訓練し、魔物を相手にしていたせいか、風のことがわかってしまう。なぜかわからないが、明は戸惑いながらも風に意識を向ける。

 風に意識を集中すると、”竜の里”全体へと広がっていくがざわめく場所のみ感知させていく。

 ”竜の里”の入り口には、人であって人ではない存在感を放つ人物が立ち、こちらの様子をうかがうように見ているだけ。相手は男性、となんとなくわかった明はそのまま風に意識を集中させていると、彼の背後から何かがやって来るのも気付く。

 気配からして、感じるのは生き物の息遣い。それも複数ではなく、かなりの数。ここに向かってきている、ということはおそらくは”竜の里”へと攻めるかもしれない、と結論に至った明はテーブルから立ち上がる。

 険しい顔をした明に全員の視線が集まるが、彼はそのことを気に留めることなく自分の部屋に行き、鞘に収まっている剣を手に取る。なにかが起きる、と予感しながら屋敷を出るといつの間にいつもの民族衣装の服装を着たフローラが待っていた。


「アキラよ、妾も行くからの」

「……わかった」


 止めても無駄であると理解している明は、フローラと一緒に”竜の里”の入り口まで走り抜けると、そこにいたのは風で感じた人物が立っていた。

 逆立った短い金髪に三白眼、煌びやかな服を着ながらもそれを着崩した青年。明はいつでも剣を抜けるように柄に手を添える。フローラも腰を落とし、足を半歩ほど開いて相手の様子をうかがっている。

 

「ふん。貴様はあの男の娘か」


 あの男の娘、明が思い当たる人物は竜王の娘であるフローラしかいない。しかし、なぜこの青年は初対面で彼女が竜王の娘であると見抜いたのだろうか。次に青年は明に視線を向け、挑発するように言葉を紡ぐ。


「貴様は我の村を奪った男を守るというのか。勇者でありながらも、そのことを知らないとは無知だな」

「何の話をしている?」

「ふん。貴様に話すまでもない。なぜなら、この村はいまからなくなるのだからな」


 見下した青年の言葉にいらっとした明であったが、彼が言ったことにどういう意味なのかわからなかった。青年はすっと手を前に出すと、指を鳴らす。ぱちんと小さな音であったが、それを合図かのように彼の背後から魔物たちが現れる。

 大猿、キラービー、オーク、さらにゴブリンまでと大量の魔物たちがいっせいに姿を現し、我先へと迫ってくる。

 驚いた明、けれど村と隣にいるフローラを守るために剣を抜き放ち、紅蓮の炎を宿して横へとなぎ払う。続けて炎の刃フレイムエッジを地面へと放ち、壁をイメージする。

 明のイメージを受け取った炎の刃フレイムエッジは”竜の里”を守る炎の壁と化し、侵入してきた魔物を燃やす。それでも仲間を盾にして侵入してきた魔物を明は剣で切り伏せ、フローラも棍棒を振り下ろしてきたオークを殴り飛ばす。

  だが、あまりにも数が多過ぎて明たち二人だけでは対処できない。

 ”竜の里”へ魔物を呼び寄せた青年は宙に浮かび、腕を組んで自分たちのことを見下ろしていた。明はキラービーを剣で切り裂き、彼を睨みつけるが相手はふんと鼻で嗤う。

 彼にいらいらしながらも明はいったん後ろに下がり、フローラを巻き込まない位置に立つ。紅蓮の炎が剣に集い、それを上に掲げて鳥の形へと変化させる。


「これでまとめて消し去れっ」


 オレンジ色の巨大な炎の鳥を生み出した明はそれを剣に宿したまま、一気に振り下ろす。魔物を焼き尽くすように炎の鳥は翼を大きく広げ、彼らへとまっすぐ向かっていく。”竜の里”を滅ぼそうと頭にしかないのか、魔物たちはかわすことなく次々と黒こげと化す。

 おかげでかなりの数の魔物を減らすことができたが、明は肩で呼吸しながらも剣を構える。さっきの魔法は魔力消費が激しい一撃。地下都市スビソルでも使ったことがある明はそれを理解しながらも、炎の鳥を発動したのは”竜の里”を守るため。


「ほう。なかなかやるではないか」


 宙で佇んでいた青年は明に対する態度を変えるように感心し、もう一度だけ指を鳴らす。

 すると、炎の鳥によって焼死体と化していた魔物が起き上がり、ずるっずるっと足を引きずりながら近づいて来る。明とフローラは魔物が”アンデット”になったことに驚き、それでも攻撃の手を止めることなく剣を振るい、拳で打ち抜く。


「くっ。父上はなにをしておる!」

「フローラさん。いまはここを持ちこたえることが優先だっ。きっと、助けに来るはずだ」

「そうかもしれぬっ! アキラよ、妾に風の付加魔法を」


 ゴブリンを殴り飛ばしたフローラの背後に回り、明は彼女に風の付加魔法をかける。それだけで彼女から風が渦巻き、拳を振るえば目に見えない衝撃波が放たれる。さらに彼女は”竜化”を行う。

 瞳孔が縦に割れ、薄っすらと全身に鱗を生やし、彼女の両手は鋭い爪へと変化する。鋭い爪と風の付加魔法を得たフローラは容易に敵を切り裂き、暴風雨の如く蹴散らしていく。

 負けていられない明も風の衣を発動させる。二本の緑色の帯が自分を中心に現れ、敵へと突撃。ただ突撃するだけではない。風の衣は高速で回転しているため、敵へと触れたら相手を容易に傷つけることができる。なので、いまの明は風の衣で敵の攻撃を受け流し、さらに触れた相手を裂くことができてしまう。

 息の合った動きで魔物たちを翻弄し、次々と倒していくがすぐにアンデット化してしまい、二人はいっこうに減らない相手とひたすら戦うしかない。

 アンデット化した魔物は知能がなく、偽りの命を与えられていまの主である青年にただ従うだけ。痛覚などなく、動きを止めるためには頭部を破壊するしか方法がなかった。


「……粘るな」


 倒れることなく魔物たちの相手をしている明たちに青年は悔しそうに呟き、自ら動き出そうとしたときに忌々しい雰囲気を察知したように顔を上げる。これまで”竜の里”を攻めるしか頭になかった魔物も、アンデット化した魔物も急に動きを止め、怯えるように明たちの背後を凝視する。


「やあ。アキラ君、フローラ。ちょっと兵士たちを集めるのに苦労したよ」


 穏やかな笑みを浮かべながら援軍としてやって来たのは竜王と鎧を身に纏った男性たち。彼らの手には剣と縦が握られており、竜王が手を上げただけで男性たちは魔物に向かって攻め出す。

 盾によって吹き飛ばし、邪魔する魔物は剣によって切り裂く。または盾や剣を持つことなく、フローラと同じように”竜化”した者は爪で切り裂き、脚で蹴り飛ばす。


「父上っ。遅いではないか!」

「すまない。本当なら私が食い止めてもよかったが……君たちなら止めることができる、と信じていたから兵士たちを集めていたんだ」


 食いかかってくるフローラを軽く受け流した竜王は、明へと感謝の言葉を述べる。”竜の里”を守れることができた、と安堵してしまう明。

 そんな竜王を宙で佇んでいた青年が竜王を射殺さんばかりと睨みつける。

 

「貴様あああっ」


 これまで見下していた青年が感情をむき出し、彼から青い炎が迸る。あふれた青い炎によって彼の近くにいたキラービーは燃やされ、それを集束させていく青年。小さな青い炎は青年の頭上で一気に巨大化し、腕を振り下ろすと同時にこちらへと落ちてくる。

 ”竜の里”を一瞬で滅ぼそうとする青年の一撃を、明は自分の前世であるガウスの”破壊の炎”を解き放とうと考え、しかしどうなるのかわからない彼は躊躇してしまう。この躊躇いのせいで青い炎はすぐ眼前へと迫っていた。焦りながらも、”破壊の炎”を剣に注ごうとするよりも早く、とある人物が前に立つ。


「なっ、ち、父上っ。何を考えておるんじゃ!?」


 動揺しているフローラに竜王は答えることなく、ただ落下してくる巨大な青い炎へと手を伸ばし――それが泡のように弾け散る。あっけなく消え去った青年の一撃に誰もが驚愕の表情を浮かべた。

 

「ふ、ふざけるなっ」


 青年は先ほどよりも小さく、それでいてたくさんの炎の球を生み出すと、雨のように降らす。さすがに竜王も面倒なのか、やれやれと呟きながらもオレンジ色の炎を壁へと変化させて防ぐ。

 青年の炎の球によって巻き込まれないためか、竜王は同時に自分たちの仲間を包むように薄っすらと炎の膜を張っていた。明たちも竜王が生み出したオレンジ色の炎の膜に包まれ、炎の球から逃れることができた。

 

「……ふう。さすがに辛いね」


 額に珠のような汗を浮かべる竜王は顔色を変えることなく、ぼやく。

 青年が降り注いだ青い炎によって、魔物の大半は消え失せてしまい、これで彼自ら戦わないといけないと誰もが思っていたときにどこからか竜の咆哮が響いた。

 ただの咆哮のはずなのに、一瞬だけ地面が揺れた感覚に驚く明。それは自分だけではなく、他の人たちも腰を抜かしたり、膝に地をついていたりしていた。ただ、竜王はこれまで顔色を変えなかったが、焦るようにそこへと目を向ける。


「まさか……」

「ようやく気付いたか! 我は貴様が”竜の谷”と”竜の里”を守っていることぐらいわかる。しかし、貴様の力を消費させすれば、いずれかの結界が解けると我は予測していた」


 ”竜の里”に結界が張られていることなど知らなかった明。フローラは歯を食いしばり、宙に浮かぶ青年を爪で切り裂くために大地を蹴るが彼は片手で防ぐ。振り下ろすはずの腕を止められ、空いている手で爪を振るおうとする前に投げられた。

 飛ばされるフローラを明は風の衣を彼女の着地する場所に展開し、地面に叩きつけることなく風の帯によって受け止めれる。その間に竜王と青年の睨み合いが続く。


「……君はさっきの魔法のおかげで自分の仲間たちを減らしたのに、まだ勝てると思っているのかい?」

「当たり前だ。貴様に復讐を終えるまで我は止まらぬっ」

「……復讐だって?」

「貴様が忘れたとしても、我は忘れぬ!」


 懐から黒い結晶をいくつか取り出した青年が放り投げると、そこに集まるように魔物の死体が吸い込まれていく。

 人の形をし、背中からは破れた昆虫の羽、骨の形をした翼が二対。胴体からは腐りかけた人の腕、大猿のように太くたくましい腕。頭部には複数の目を持ち、獲物を求めるようにぎょろぎょろと動かし、足のないそれは兵士たちへと襲い掛かる。


「本当にあなたって私がいないとなにもできないかなー?」


 場違いな無邪気なアイリスの声が響き、いままさに兵士たちに襲い掛かろうとした異形は横向きの鋭い風の竜巻によって切り裂かれる。ちょこんと明の肩に乗ったアイリスは彼に微笑む。


「はは……助かったよ。さすが、風の精霊王だね」

「褒めてもなにもあげないよ。あっ、逃げた……じゃなくて、”竜の谷”に転移したんだね」


 異形へと勇敢に立ち向かう兵士たちに任せ、竜王が明たちのところまで下がるとアイリスに頭を下げる彼。まさかアイリスが風の精霊王であることなど、明とフローラは想像すらしていなかったので内心、驚いている。

 加えて、逃げ出した青年の行方までわかるとはさすがは風の精霊王と言うべきか。


「ねえ、アキラとフローラ。二人で”竜の谷”に行かないとまずいことになるよ?」


 くりくりとした緑色の瞳に見つめられる明とフローラは覚悟した。明としては、”竜の里”を守りたいが地下都市スビソルでフローラから”竜の谷”にいるドラゴンゾンビを倒して欲しいと頼まれた。

 たとえ、自分に力がなくてもできる限りのことはしたい。時間稼ぎでもできれば、後は竜王の力で倒してもらうしかない。


「……アキラ君。後で追いつくから、死なないでくれ」

「はい」

「妾は全力でおぬしを補助することを忘れるではないぞ、アキラ」

「ありがとう、フローラさん」


 三人の会話を黙って聞いていたアイリスは明の肩から離れ、彼とフローラの周囲に風を生み出す。


「じゃあ、わたしたちも”竜の谷”に行くからね」


 アイリスの言葉を最後に、明たちは”竜の里”から姿を消した。

 彼らが去るのを見送った竜王はいまだに異形とアンデット化した魔物、それから我を忘れたように暴れる魔物との戦闘を終わらせるために彼を呼んだ。


「それじゃあ、レオ君。一時的に呪いを解かれた君の実力を見せてくれ」

「わかったよ。つーかよ、おまえらの仲間を巻き込ませてしまうからさ、下がらせてくれないか?」

「いいよ」


 ”竜の里”で黒い疾風が吹き荒れる。

 


 竜王は『竜の里』に魔物を近づけないために『竜圧』と呼ばれる技を使っているおかげで平穏な日々を過ごすことができます。広範囲なので頂上にはほぼ魔物がいませんが、『竜圧』のギリギリの場所で過ごす魔物もいたり。

 今回の青年が魔物を率いることができたのは彼に操られていることで、竜王の『竜圧』が効かなかったため。

 また『竜の谷』にいるドラゴンゾンビがそこから動かないのは竜王の『竜圧』のおかげである。ドラゴンゾンビが動き出したのはかかっている『竜圧』がなくなってしまったため。


 ……うむ。これを説明できればよかったですね。


  それとこのとき明が使用しているのは破壊の炎ではなく、火の魔法であることすら彼自身気付いてません。

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