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竜の里へ

 地下都市スビソルで吉夫たちと別れた明たちはフローラの故郷である竜の里に向かい、竜の谷にいるドラゴンゾンビを倒すために来たが……

 彼女の父親である竜王に「君では勝てない」と告げられる。

 だから明はドラゴンゾンビに勝つために、強さを求めて魔物を相手に修行していく。


 その頃暗黒の勇者のハーゼルと竜王は偶然出会い、語り合う。その際宙に襲いかかる謎の魔物。


 竜王に復讐をする青年も出現し、竜の谷に動きを止めていたドラゴンゾンビも動き出す。さらに竜の里を襲う魔物の群れ。予想していなかった相手がまさかの味方で、明は戸惑いながらも共闘を行う。

 


 スウェルダン大陸にあるスー山脈の頂上にはある街が存在すると言われている。

 そこは”竜の里”と呼ばれており、ここに住む種族たちは人でありながらも人ではない。彼らは” 竜人ドラゴノイド”と呼ばれる種族であり、人の形をした竜である。

 竜人ドラゴノイドたちは見た目は人であるが、その気になれば竜の姿にも戻れることだってできる。しかも、彼らは魔法というのを使わない。いや、使えないと言ったほうが正しい。彼らの身にはそれぞれの属性を宿しており、必要なときにその力を振るう。

 そんな種族たちが暮らす場所、フローラの故郷である”竜の里”を目指して吉夫たちと別れた明たちは、スウェルダン大陸にある唯一の山脈を上っている最中だったが、前触れもなく現れた魔物せいで苦戦していた。

 燃えるような赤い髪は寝癖のように跳ね、紫色の瞳を周囲に向けた彼は斜面を利用して勢いよく転がってきた大きな球体をよける。そのまま大きな球体は下まで転がる、かと思えばそれは宙返りし、太くたくましい四本足を地面につけた。

 

「アルマジロだよね……」


 明が呟いたとおり、彼の目の先にいるのは自分たちの世界にいるアルマジロであった。しかも、そのアルマジロは顔だけ可愛らしいが巨体であり、尻尾には鉄球ほどの大きさのものがついている。

 

「兄ちゃん! オレが足止めをするから、その間にフローラ姉となんとかしてくれっ」


 ツンツンした黒髪、同じ色の瞳、鷹のように鋭い目つきをした少年――レオナルドことレオは突然現れた魔物に向かい、剣を片手に飛び出す。彼は胸当てだけつけているため、下手したらあのアルマジロに潰されて肉塊と化す。

 黒い疾風が飛び出すと、アルマジロはレオを敵として認めたのか、それとも先に潰そうと決めたのか、身体を丸めて斜面でありながらも上っていく。無謀なことをしようとするレオ。

 だが、この山脈に上るまで何度も魔物と遭遇し、彼の実力を見たことがある明は信じることにした。


「フローラさんっ」

「わかっておる」


 アルマジロの攻撃を樹の上からうかがっていたフローラは顔にかかっている深い緑色の髪をかき上げ、吊り上がった金色の瞳を明に向ける。彼女がなにをしたいのか目でわかった明は全身に風の衣を纏わせた。

 明を中心とするように緑色の二つの帯が現れ、隣にやって来たフローラに風の付加魔法をかけると、彼はアルマジロの気を引き付けているレオの名を呼ぶ。レオは剣から連続で衝撃波を生み出し、迫り来るアルマジロに当てると相手は一瞬だけひるむ。

 すかさず明はアルマジロとの距離を詰め、剣を抜くことなく、風の衣を纏った状態で体当たりをくらわせる。普通であれば巨体であるアルマジロに対して体当たりしても意味がないかもしれない。けれど、いまの明は風の衣のおかげで相手を吹き飛ばすことができる。

 飛ばされたアルマジロの先には拳を構え、足を半歩開けているフローラがいた。彼女が着ている民族衣装は風によってなびき、裂帛の声とともに飛んできたアルマジロを殴る。

 ただ殴るではない。彼女の左腕全体には風が渦巻き、その一撃はたとえ硬いアルマジロの甲羅すら破壊することだってできる。明によって飛ばされたアルマジロは身体を丸め、身を守ろうとする。フローラは風が渦巻く左腕を思いきり振るう。

 空気を震わせる音が響き、アルマジロはフローラの足元に崩れ落ちる。明とレオは彼女に近づくと、フローラはふうと安堵の息をつく。三人は殴られた箇所だけ甲羅が見事に破壊されたアルマジロを見て、彼らは休憩をすることにした。

 

「すごいね、フローラさん」

「なに、アキラの付加魔法がなかったらあれはできなかったのじゃ」


 山を上り続け、途中で息絶えたアルマジロさえ襲われなかったら彼らはもっと進むことができたが、さすがに戦闘後は疲れてしまう。しかも、山の中腹だからか空気が薄い。激しい戦闘後は息が上がってしまうため、小まめに休憩しないと彼らはいつまでも頂上に辿り着けない。

 吉夫たちと別れてから数日が過ぎ、彼らは何日も時間をかけながらゆっくりと、しかし確実に頂上を目指していた。さきほど襲ってきたアルマジロのような魔物もいれば、樹に化けた魔物もいるため、気を引き締めないとすぐにやられてしまう。

 これまでゴブリンやバーサーゴブリン、ゴーレムなどの魔物を相手にしてきた明にとってどれも戦ったことのない種類の彼らは強く、しぶとい。逆にこの山を下りてきたフローラは慣れているのか、彼らの弱点をついて倒し、レオは少年でありながらも剣を巧みに操って切り裂いている。

 こうやって彼らに囲まれていると、明は自分が未熟であることを思い知らされる。レオは年下でありながらも剣を自分の手足のように振るい、フローラは武器などなく己の拳と足のみで相手を倒す。

 自分は剣も魔法の両方が中途半端であるため、彼らがうらやましい。


「兄ちゃん。オレはもう大丈夫だから先に進もう」


 悩んでいると立ち上がったレオに催促され、一度回りの様子をうかがうと薄暗くなっていた。夜になれば、その時間帯のみ活動する魔物もいるかもしれない。その上、夜目が利かないから危険だ。

 

「今日はここで休もう」

「わかった。兄ちゃんも疲れているもんな。じゃあ、オレは先に寝るよ」


 腕をなにもない空間に伸ばすレオ。なにかを握り締めたようにつかみ、彼はそこから分厚いマントを取り出して身体に包み、座ったまま気持ちよさそうに眠る。

 アルマジロの足止めに体力を消費した彼をゆっくり休ませたい明は、焚き火するために木の枝を集めようと腰を浮かそうとするが。


「アキラ、妾が先に集めておいたぞ」


 両腕にたくさんの木の枝を集めたフローラが目の前に立っていた。知らない間に彼女が木の枝を集めてくれたことに感謝し、空間魔法から干し肉を取り出してそれを食べる。レオはなにも食べていないが、きっとあとで食べると考えている明はそのことについて追求せず、ゆっくりと彼を休ませておくことにした彼は干し肉と果物を取り出しておく。

 フローラは木の枝を組み立て、すうと息を吸うとそこに”火を吐いた”。彼女の口から放たれた火は乾いた木の枝を燃やし、ばちばちっと音を鳴らす。満足そうにうむと頷いた彼女は明の隣に腰を下ろす。彼女が火を吐いたあとに取り出しておいた食べ物を渡す。


「フローラさんの息吹ブレスって便利だね」

「妾を道具扱いするではないっ」

「ごめん。でも、竜人は全員息吹ブレスを使えるの?」

「当たり前じゃ。全員使えなければ竜人ドラゴノイドと呼べぬ」


 ばちっと木の枝が音を立て、明は火が消えないように枝を追加し、ふと自分のほうを見つめているフローラにどうしたの? と問いかける。すると彼女はなんでもないのじゃ、と恥ずかしそうに目をそらし、空を見上げる。

 空には青天の夜空が広がり、星たちは光り輝き、蒼い満月が主役のようにそこを独り占めしているように見えた。ユグドラシルから地下都市スビソルまで毎晩周囲のことを警戒していたため、夜空を見上げる余裕などなかった。

 でも、こうしてフローラと一緒に見上げる夜空も悪くはない。こうやって肩を並べて座るのは今日で始めてではなく、吉夫たちと別れてからたまにこのように夜を過ごしている。

 葉同士がこすれ合う音、ふくろうのように鳴く鳥の声、隣に感じるフローラの存在感。

 こうしているのも悪くはない。

 

「……くしゅん」


 肌寒い風が吹き、可愛らしいくしゃみをしたフローラ。彼女が着ている黒を強調とした民族衣装は肌の露出が少なく、見た目からにして薄いはずなのに平気そうな顔をしている。そんな彼女に苦笑しながら空間魔法から分厚いマントを取り出し、彼女を覆うように広げて被せる。きょとんとしたフローラは明から顔をそむけ、自分から離れていく。

 

「か、感謝するアキラっ」

「どういたしまして。じゃあ、僕はこのまま見張っているからフローラさんは寝ていいよ」

「アキラ、おぬしは疲れているはずじゃから寝てもよいのにっ。妾だけでは不公平だ」

「あれぐらいで疲れないよ」


 ふと魔物であるアルマジロに出会うことまでのことを思い出してみる明。アルマジロだけではなく、樹に化けた魔物、大きな蜂、オークと遭遇した。そのうち、ほとんど明とレオが積極的に動き、フローラに負担をかけないようにしたのは二人だけの秘密。

 疲れてないと言えば嘘になる。

 吊り上がった金色の瞳は心配そうに明の紫色の瞳をじっと見つめ、しばらくこの状態が続くと彼は肩をすくめた。

 

「お言葉に甘えさせてもらうよ、フローラさん」

「うむ。そうするがいい」

「眠たくなったら、僕に声をかけてね」

「承知した」


 新たなマントを空間魔法から取り出し、それに身を包んだ明はこれまでの疲れのせいか、あっという間に眠りについた。

 そんな彼を優しく見守るフローラは。


「やれやれ……仕方ないのう」


 うっすらと口元に笑みを浮かべた彼女は、ぱちっと音を立てる炎に木の枝を入れて、夜が明けるまで火の番をし続ける。






「んっ……」


 隣に感じる温もりと甘い匂い、それから太陽が目覚めたことによって木々からこぼれる木漏れ日。

 山頂の朝は肌寒く、ぼんやりとした思考で目を開け、寄り添うように明の隣にはフローラがいた。すうすう……と彼女の寝息が聞こえ、顔にかかる緑色の髪を払ってあげようとしたときにぱっちりと目が開かれる。

 明とフローラはしばしその状態で硬直し、彼女の頬はゆっくりと赤みを帯びていく。さすがに気まずい明は彼女に挨拶だけでも済ませておくことにして、さり気なく髪を払っておいた。


「おはよう、フローラさん」

「お、おはようなのじゃ、アキラ。ゆっくり眠れたかのう?」

「フローラさんのおかげで疲れが取れたよ、ありがとう。でも、次からは声をかけてくれないとフローラさんにも負担がかかるから……」

「わ、妾はいいのじゃ! おぬしは最近まともに寝ておらんからな!」


 さすがに彼女に言い返せない明はそうだね、と肯定し、気持ちよさそうに眠るレオが起きるまでお互いについて話し合う。

 明は自分たちがいた世界について、フローラは”竜の里”について。それぞれ異なる文化を語り合う二人は驚き、楽しみ、笑いあった。レオが起きるまで彼らはお互いに離れることはなく、そのまま過ごす姿はまるで仲がいい恋人にしか見えない。

 太陽が晴れ渡る青空に昇る頃にはレオは目覚め、彼らは昨日手に入れた果物と干し肉を食べてから頂上に向けて歩き出す。

 この日、彼らは魔物に遭遇することなく、穏便に”竜の里”へと辿り着いた。

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