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白銀の魔王は黒き剣と踊る  作者: Victor
地下都市スビソル
38/68

十字星


 激しいオレンジ色の火花が散り、踊るように攻守を切り替えながら動き続けるヴィヴィアルトとカマキリ。

 ヴィヴィアルトは双剣を振るい、カマキリに攻撃しようとするがすばやい動きでかわされてしまい、逆に斬りつけられる。斬りつけられる瞬間にヴィヴィアルトはよけ、カウンターとして光を帯びた剣を横になぎ払おうとしたときに俺は彼女の名を叫ぶ。


「しゃがめ、ヴィヴィアルト!」


 俺の言葉を聞いたヴィヴィアルトはその場にしゃがみ、彼女を攻めろうとしたカマキリの鎌は空振りとなる。俺は黒剣に流していた黒い雷を解き放つように横になぎ払う。闇よりも濃い漆黒の刃がカマキリに襲いかかり、奴はすばやい動きであっさりとかわしてしまう。

 ちっと舌打ちし、隣にやって来たヴィヴィアルトに頼む。


「恵美の怪我を治してくれるか?」

「わかりました。わたしが戻ってくるまで持ちこたえてくださいよ?」

「ああ」


 俺に背を向けたヴィヴィアルトは恵美たちがいる方向に走っていき、カマキリは彼女の邪魔するように前に現れる。大地を砕かんばかりに強く踏み締めて再び漆黒の刃を放つ。ヴィヴィアルトの頭上を通過し、目を大きく見開いたカマキリが両腕の鎌で防いで飛ばされる。

 

「あ、危ないじゃないですか!」


 涙目のヴィヴィアルトが立ち止まって抗議するが、俺は顎をしゃくって、さっさと行けと命じる。

 ヴィヴィアルトが去るのを見送らず、俺は飛ばされたカマキリの姿を探し求めると空気を裂く音を耳にした。音がした方向に剣を振るうと手が痺れ、金属音が生じる。

 弾かれるようにカマキリが後ろに後退し、俺を睨んできた。


「てめぇ、あのときのガキじゃねえか」

「どのときだよ。俺はカマキリなんて知らねぇよ」

「兄貴にぶつかってきたガキを助け、オレを蹴ったじゃねえか!」

「覚えてねぇよ。俺は、おまえを殺さないと気が済まないからな!」


 再度ぶつかり合う黒剣とカマキリの赤黒い鎌。

 カマキリは片方の腕だけで俺の剣を防ぐと、空いているほうの鎌を振り払う。首を狙ってきた鎌をかわしたが、肩を深く斬りつけられた。痛みで顔をしかめ、身体がかっと熱くなる。

 ニタァと愉しそうに笑みを浮かべるカマキリはさらに俺を刻むために鎌を振るう。黒剣で受け止め、その状態で雷を流すとカマキリがさっと後ろに下がった。剣に雷を流している状態なので、俺は遠慮なく漆黒の牙を放とうとしたらのどの奥からなにかあふれ、むせてしまう。

 口からあふれてきたのは血。口元に流れる血をぬぐい、カマキリを睨みつけると奴は愉しそうに嗤う。


「けけっ、てめぇ、もしかして魔力がないから自分の命で代用しているのか?」

「おまえに答える義理などない」

「そうだよなぁ。だって、てめぇはここで死ぬからな!」


 距離があるはずなのにカマキリは赤黒い鎌を同時に振り下ろし、宙に血が付いたなにかが向かって来るのを見た俺は横に飛ぶ。びゅん、と俺の横を通過したのはおそらく明がよく使う風の魔法である風の刃ウインドカッター。不可視の刃だから普通は気付かないが……恵美と俺を斬り付けたせいで鎌に血が残っているから、なんとかよけることができた。

 前に飛び出し、やっかいなカマキリの鎌を落とすために接近していくのに、奴は風の刃ウインドカッターで近付けないようにしてくる。襲い掛かる不可視の刃に鮮血が少しだけ混ざっている、それと動く鎌の方向さえ気をつければ打ち落とせる。

 そうやって襲い掛かる不可視の刃を黒剣で弾き、接近していく俺に対して焦る様子もないカマキリ。ニタァと三日月のように口を歪ませるカマキリが嗤っていると気付き、鈴音が後ろで俺の名前を呼んだ。


「よっしー、後ろに飛ぶんやっ!」

「気付くのが遅ぇよ!」


 わき腹に衝撃が走り、思わず膝をついてしまう。鈴音が注意してくれたおかげで俺は死ぬことはなかった。片手でわき腹に触れると血があふれ、遅れて痛みが全身を駆け巡る。おかしい。俺はちゃんと奴の鎌の動きを見ていたはずなのに……!


「キシシ、その目。どうしてオレに当たったのか気になってしょうがないだろう? 教えてやるよ。オレから放たれる真空の刃は、自由自在に操ることができるんだぜ。おまえがオレの動きを気にしているのを見ていたから、当てるのも簡単だったぜ!」


 得意げに自分の能力を自慢するカマキリに、こいつがルゴルと同じ魔族であったことをすっかり忘れていた。あのルゴルはおそらく”吸収”。俺が魔導具であるハルバードを使用し、炎の刃を当てようとしたときにルゴルは胴体にある口で呑み込んで、そっくりそのまま返してきた。

 このカマキリは”風の刃を操ることができる”。推測だが、そう考えてもおかしくない。

 

「……くっ」

 

 立ち上がろうとしたら不可視の風の刃が俺の脚をかすめ、カマキリを睨むとあいつは愉しそうに鎌を動かしていく。肩、腕、脚とさまざまな場所に不可視の刃が通り過ぎていき、俺をじわじわといたぶるこいつは、わざと外している。

 くそっ。

 黒剣を握って、不可視の刃を打ち落とすために動こうとするが身体から力が抜けていくせいか、うまく振るうことができない。倒れそうになる身体に鞭を打ち、立ち上がる。

 

「おらぁ、最初の威勢はどこに行ったんだよぉ!」

「うるせえ」


 前に進むために大地を踏み込み、脚に雷を流して飛ぶ。不可視の刃がどこから飛んでくるのかわからないが、カマキリの好きなようにされるだけは我慢できない。不可視の刃は身体をかすめ、身体に傷を作りながらもカマキリとの間合いを詰めることに成功した俺は黒剣を振るう。

 カマキリの身体を切り裂くかと思い、黒剣が奴に触れると――耳障りな音が響き、硬い感触が返ってきた。刃がカマキリの身体に触れた状態で止まっていることに俺は驚きを隠せず、奴はキシシと嗤う。


「オレは出来損ないのルゴルと違っていつでも硬質化できるからな!」


 最悪だ。このカマキリは『硬質化』と呼ばれる魔法を使えるせいで、攻撃が通らない。だったら、無理でも通させてもらう。黒剣に雷を流し、迸る黒い閃光を宿したまま横になぎ払う。密着していた俺を斬ろうとしたカマキリは鎌を振り下ろすのをやめて、後ろに下がると漆黒の牙が外れてしまう。


「あ、危ねぇ。いまのは死ぬかと思ったじゃねえか」


 乱れた息を整えながら離れたカマキリを睨みつける俺。動揺しているカマキリに追撃でもしようとしたときにくらっと視界が歪む。

 

「くそっ……限界が近いってことかよ……」


 さすがにまずい。魔力の代わりとして命を代用にしているから、このままでは死ぬ可能性が高まって来ている。立っていることだって辛い。視界が定まらない。このまま地面に倒れてしまったほうが楽だと思えるぐらいだ。

 それでも、俺はカマキリを殺すまであきらめない。あきらめたくない。恵美を傷つけたこいつを殺すまで、俺は自分の命を代償にしてもいい。

 


「ヨシオさん! 大丈夫ですか」

 

 隣にやって来たのは額に汗を浮かべるヴィヴィアルト。彼女がここにいる、ということは無事に恵美の治療が済んだということ。恵美が無事なのか確かめると、ヴィヴィアルトは頷いて肯定してくれた。

 恵美が無事か……。なら、もたもたしていられないな。限界であると感じている俺はカマキリを見据える。


「ヴィヴィアルト、一気に決めるためにあれをやるぞ」

「あれをここでやるつもりなんですね。……それしかないのであれば、やりましょう」


 あれをやると決めた俺たちは斬りかかってきたカマキリの攻撃をよけ、剣と全身に黒い雷を纏わせていく。同じようにヴィヴィアルトも全身に白い光を纏わせ、双剣をひとつにするように重ねる。重なった双剣はひとつの剣へと変わり、それを握ったヴィヴィアルトはカマキリを見据え、距離を取る。

 俺も同じように距離を取り、ヴィヴィアルトと離れた位置で並ぶように立つと彼女は頷いた。あれをやる準備が整い、俺たちは同時に走り出す。

 カマキリは俺たちが何かをするのを見抜いたのか、両腕の赤黒い鎌を振って不可視の風の刃を放っていく。正面からかもしれないし、カマキリの能力で横から、もしくは斜めかもしれない。どこからやって来るのか俺とヴィヴィアルトはわからないが、あれをやるためにひたすら前に進むしかない。


「ビビらねえなら、もっと他のことをしてやるよ! 血塗られし刃!」


 赤黒い鎌が禍々しく輝き、カマキリがそれを放つと風の刃と違って目にすることができる刃であった。半月状の赤黒い刃が俺とヴィヴィアルトを切り裂こうと迫りくるが、それでも走る速度を落とさない。

 カマキリは腹が立ったように赤黒い刃を二度も放ち、合計三つの刃が迫ってくる。あれは不可視の風の刃よりもよけやすい。が、カマキリはそれらを操ることができることを忘れてはいけない。

 

「ヴィヴィアルト、突き進むぞ!」

「最初からそうするつもりですよ!」


 ヴィヴィアルトを切り裂こうとしてきた赤黒い刃は、剣で受け流された。彼女なら大丈夫、と自分に言い聞かせて鈴音と一緒に踊った感覚を思い出す。

 トローヴァと戦ったとき、ハーゼルが剣の雨で貫こうとしたときも思い出す。

 あのときは必死だった。相手を倒すことしか頭になく、身体が勝手に動いていた。鈴音のときも、彼女がリードしていたせいで身体は自然と動いて、岩の竜の攻撃もかわすことができた。

 これは賭けだ。

 俺が死ぬか、それともカマキリを殺せるか。

 眼前に迫る赤黒い刃を頭を少しだけずらしてよける。胴体を半分にするために横に迫ってきた刃を黒剣で受け流し、脚を狙ってきた刃は軽快なステップを刻みながらかわす。三つの刃をかわし、ようやくカマキリまであと五歩を詰められると感じたときに背後から鋭く空気を裂く音を聞いた。

 一つだけではなく、複数の音が聞こえてしまうのはカマキリが俺ではなく、後ろにいる負傷した恵美を殺したいから。

 振り返るわけにはいかない。ここは、鈴音に任せる。彼女のことを信頼している俺に、鈴音が腹の底から声を出す。


「うちに任せておきな、よっしー! メグみんを傷つけたそいつを斬るんやっ」

「ああっ!」


 信頼している鈴音の声を聞いた俺は迷うことなく前に進み、ヴィヴィアルトと同じタイミングで一気にカマキリとの距離を詰める。信じられない、という顔をするカマキリであるが奴は動揺を隠すように両腕の鎌を構えなおす。

 一気に距離を詰めた俺とヴィヴィアルトはカマキリの腕を狙うように剣を振り下ろす。同じタイミングで剣を振るわれた剣をカマキリは防ぐことなく、むしろ近づいてきた俺たちを狙うように鎌を動かした。

 確かな手ごたえを感じながら俺とヴィヴィアルトはカマキリを通り過ぎると同時に、左腕に激痛が走る。俺たちが奴を通り過ぎる直前に両腕の鎌で反撃したカマキリに驚いた。

 ヴィヴィアルトのほうを見れば、彼女は右腕から血があふれ、着ている白い服が朱に染まっていく。それでも彼女は倒れず、左手に握っている剣を杖にしてカマキリの様子をうかがっていた。


「ぐあああっ。お、オレの腕があああっ」


 本来、カマキリの両腕にあるはずの赤黒い二つの鎌はそこにはない。肘から先を俺とヴィヴィアルトが同時に切り落としたおかげで、奴はもう鎌を振るうことができない。肘から先はなにもなく、そこからあふれ出る血は地面に転がる奴の両腕であった鎌に降り注ぐ。

 俺たちが奴の鎌を落とすことができたのは、剣に光と雷を纏わせていたこと、それと関節を狙ったほうが斬りやすいと思っていたから。

 予想通りに奴の関節は斬れてしまい、まさかあそこで反撃されると思わなかった俺たちは奴を警戒する。たとえ、両腕をなくしていたとしてもカマキリは魔族だ。なにをするのかわからない。倒れそうになる身体に鞭を打ち、黒剣を構えなおして奴にとどめを差すために魔力を生み出そうとしたら、視界が揺れる。

 気がついたら、俺は膝をついていて手足にまったく力が入らなかった。握っていたはずの黒剣は地面に転がり、消えていく。身体はこれまで受けた痛みによって悲鳴を上げ、息も乱れ、意識が朦朧もうろうとしている。身体が限界であるというサインを出していても、俺はカマキリを許せない。


「ヨシオさん!?」

「お、俺のことはいい。早くあのカマキリにとどめを」

「……わかりました。きゃあ」


 隣にいたはずのヴィヴィアルトが蹴られたボールのように飛んでいった。飛ばされた彼女の名前を呼ぼうとしたときに、俺も誰かに蹴り飛ばされた。肺から空気が漏れ、傷だらけの身体で何度も地面をリバウンドした俺は蹴り飛ばした人物に目を向ける。

 カマキリを庇うように奴の目の前に立つのは銀の鎧を全身に覆った大柄な騎士。奴の腰には剣と背には大剣と盾があり、俺を殴り飛ばし終えた状態――正拳突きのまま。


「ルニウス、不様だな」


 低く、それでいてよく聞こえる男性の声。カマキリ――ルニウスと呼ばれた魔族は男性に名を呼ばれ、びくっと身体を震わせる。まるで怯えているように。

 

「貴様が鎌を一度に二つを失うのは、俺に敗れて以来だな。しかも、負けた相手が疲労している者たちとは……」

「あ、兄貴っ。オレは油断していたわけではないんだ!」

「ああ。知っている。遊んでいただろう」

「……っ」


 ルニウスに背を向けたまま、騎士は俺のほうに近づいていく。騎士に殴られた俺は身体を起こそうとするのに、まったく力が入らない。くそっ、どうして動かないんだ!


「ほう……目だけは一人前だな」


 俺の髪をわし掴みし、騎士の目線の高さまで持ち上げられる。抗う力すら残されていない俺は奴を睨むことしかできない。


「<欠片>を宿しているみたいだな。貴様には悪いが、もらっておく」

「がはっ」


 騎士の腕が俺の胴体に吸い込まれるように”入っていく”。身体の内側をまさぐられ、胃の奥からせりあがってくる吐き気。口の中に広がる鉄の味。動けない俺は騎士の片手が俺の体内をあちこちいじられ、このまま死ぬのかと感じているときに奴の腕が止まる。まるで目的の物を見つけたように。


「<土の欠片>のかわりに貴様が保持している<雷の欠片>をいただこう」


 すっと腕が俺の身体から抜かれると、奴の手のひらには見覚えのある黄色く、神聖な雰囲気をあふれさせるひし形が握られている。<雷の欠片>は騎士を拒絶するように雷を迸り、それでも奴は何の躊躇いもなく己の胸元に近づけていく。

 俺には興味がないと言わんばかりに騎士は放り投げ、受け身を取ることさできずに地面に叩き付けれた。


「やめろ……」


 奴の手にある<雷の欠片>はゆっくりと騎士の胸元に吸い込まれていき、見ることしかできない俺。騎士はルゴルのように<欠片>が暴走することを恐れることがないように、胸元に吸い込まれていくのを眺めていると――。


「――返してください」


 凛とした女性の声と同時に騎士に斬りかかってきた黒いローブを着た者が乱入し、漆黒の刃が生まれる。彼女が放った漆黒の刃によって、騎士から<雷の欠片>が離れた。


「なっ」

「行かせません」


 騎士が飛ばされた<雷の欠片>を掴むために手を前に出すと、女性が奴の腕を切り落とすかのように細長く、黒い金属を振り下ろす。危機を察したように騎士は後ろに飛び、背中にある剣に手を伸ばそうとしたときに白い炎の塊が横切った。これは……恵美がヘンリエッタから授かった聖なる炎。


「吉夫くんには指一本も触れさせないから」


 赤く染まった衣服のまま、立ち上がった恵美の全身から白い炎があふれ、手を前に出す。それだけで彼女の周囲から数えきれない白い炎の玉――火炎の球ファイヤーボールが生まれる。

 騎士は剣ではなく、盾を手に取るとさらに後ろに飛ぶ。追いかけるように恵美が放った無数の火炎の球ファイヤーボールが飛び交う。騎士は盾のみで降り注ぐ白い炎をひたすら防ぎ続け、俺は目の前に転がる<雷の欠片>に手を伸ばす。立ち上がって、彼らの戦いを見守る。

 

「ちっ。これ以上やってられるかよっ!」


 白い炎に押されているはずの騎士が盾を前にして走り出し、恵美は火炎の球を放つのをやめた。続けて、黒いローブを着た女性が俺に迫ってくる騎士との間に立ち、細長い黒い金属を振るう。高速で迫る黒い一閃を前にしても騎士は歩みを止めず、また女性もそれだけで終わらせるつもりなどなかったように間合いを詰めた。

 黒い一閃を打ち落とすかのように騎士が剣をなぎ払おうとしたとき、自分が放った技と重ねるように女性は細長い金属を振り下ろす。

 彼女が騎士とすれ違った瞬間に生まれたのは二つの黒い斬撃。交差するように放たれた二つの黒い斬撃は、俺とヴィヴィアルトがやろうとしたことと同じ技。

 十字星。

 未完成である俺とヴィヴィアウトは、十字星ではなくただ同時にルニウスの両腕を切り裂くだけとなった技。俺たちはあの瞬間に交差する予定であったが、まだ未完成であるためそうするしかなかった。


「くっ。仕方がない」


 正面から十字星を受けたはずの騎士の銀の鎧には……傷一つ付いていない。ただ、奴が踏ん張った証拠として地面に靴底の跡が残っている。


「ルニウス。その小娘から離れろ」


 ルニウスがいる方向に目を向けると、肘から先に鮮血のように赤い鎌を携え、鈴音と戦っていた。待て、あいつは俺とヴィヴィアルトによって両腕を切り落としたはずなのに……どういうことだ。

 騎士の命令を聞いたルニウスは後方に下がると、鈴音は迷いもなく漆黒の槍を投擲。高速で迫る黒い流星と化した槍をルニウスが鎌で打ち落とすかと思えば、奴の前に騎士が割り込み、それを掴んだ。軽々と掴んだ騎士に鈴音はちっと俺まで聞こえるように舌打ちし、手を前に出す。

 そんな彼女に恵美が隣に並び、あふれる白い炎を解き放つように鈴音と同じことを行う。彼女たちが手を前に出したことによって、全身から炎と闇があふれていく。

 これを目にした騎士は逃げろ! とルニウスに向かって叫ぶと奴は盾を構えた。盾を構えた騎士から二重の魔法陣が浮かび上がり、ルニウスはすまない、兄貴と答えるとこの場から姿を消す。

 見計かったかのように、恵美と鈴音の白い炎と闇が同時に解き放たれる。二つの属性が交じり合い、一つとなった彼女たちの一撃を正面から受け止めるように騎士に直撃した。

 盾を構えた状態のまま、騎士は後ろにじりじりと押されていく。このままあの騎士を倒してしまえばいい、俺がそう思っているときに奴が盾を構えたまま前に進みだす。

 さすがに俺も、恵美や鈴音も驚いているみたいだ。そんな中、女性が動く。

 彼女は黄色い光を発し、細長い金属を静かに構える。腰を低くして、右足を前に出す。あれは居合い。でも、ただの居合いではなく、俺が”知っている構え”であった。


「――無影」


 鞘走りの音が聞こえると、複数の黄色い斬撃が宙を飛び交う。盾を前にしながら進んでいた騎士は自分に向かってくる複数の黄色い斬撃に気付くと、背中にある大剣を手にしてその場で回転。これによって恵美と鈴音が合わせた魔法が切り裂かれ、女性の攻撃も打ち消された。


「これじゃあどうにもならねぇ。<欠片>の一つも奪えないのであれば……あきらめるとするか」


 まるで何事もなかったかのように背を向ける騎士。

 これには誰にも予想ができず、てっきり奴が反撃してくると思っていたからだ。去っていく奴の後ろ姿が霞んでいき、騎士が完全にいなくなると俺はふうと安堵の息をつくことができた。

 

「あ……れ……」

  

 安心した途端に俺は急に眠気を感じ、どさりと地面に倒れてしまう。

 倒れる間際に見たのは、黒いローブを纏った女性が心配するようにこちらに駆け寄る姿であった。

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