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白銀の魔王は黒き剣と踊る  作者: Victor
召喚の国ユグドラシル
10/68

加護を得てから

 あの後、俺たちに追いついた恵美たちに発見され、なにも聞かれることもなく駐屯場まで戻った。気絶していた明は恵美たちが来る頃には目覚め、あいつに黒騎士は去ったと伝えておく。すると、明はもっと強くならないと僕は誰も守ることができない、と決意していた。

 それから駐屯場に戻った俺と明は、サティエリナから説教を受けることに。彼女は顔色一つも変えずに俺たちにどうしてあなたたちはバカで、無能な人たちですかなどと言われてしまったのだ。自業自得である俺たちは無言で聞いていたが、最後には彼女から心配しましたからと許されてしまった。

 これで終わりかと思えば、今度は恵美とジュリアスから説教を受けることとなる。恵美は吉夫くんのバカぁと泣きながら俺に抱きつき、ジュリアスは魔導具がなかったらどうするつもりだと叱られた。ノルトからは罰としてメイド服を着てもらいますからね、と人差し指を唇に当てた彼女の姿はかわいかった。そのことをすなおに告げると、からかってはいけません! と叱られてしまう。

 その日の夜は城に戻り、恵美と添い寝した俺はいつもとおりに起きてみると――


「なんだ……これは……」


 恵美に腕枕されている状態であったが、自分の身になにが起きているのか把握できた。まず、視界に入ってきたのは銀色の髪。恵美に腕枕をしている状態なので、空いている手で触れてみるとかなり長い。腰に届くぐらいまである、とわかった俺は途中である物体に目が止まる。

 胸にある物体は山のように膨らみ、呼吸するたびに規則正しく動く。着ているシャツが息苦しくなるほどだったので、そこに触れてみるとことにした。


「おお……柔らかい。って、胸じゃないか!」


 温かく、指が食い込むような感触をしているのは女性しかないはずの胸であった。なぜ、俺に胸がある!? 俺は男であるはずなのに、どうしてこんなものがついている!

 パニック状態になりかけた俺は、ふと昨日のことで黒騎士ザックが言っていたことを思い出す。


『白狼から授かった加護を扱いこなせるようにしておけよ。おっ、それと副作用に驚くなよ?』


 ……まさか、これが白狼から授かった加護の副作用ってヤツか? 女性化するということ……だよな。それ以外に思い当たることはないから……うん、俺は女性化してしまったようだ。


「恵美、さっさと起きろ」

「いひゃいよぉ、吉夫くん」


 俺の腕を枕にしている恵美の頬を遠慮なくつねてやり、強制的に目覚めさせる。彼女はうう~とうなりながら目をこすり、俺のほうを向いた。


「……」

「……」


 無言で見つめ合う俺と恵美。彼女は俺の顔をじろじろと見て、それから胸のほうに目を向ける。そのときに彼女の目がきらーんと怪しく輝いたときに、俺はすぐさま離れようとしたが――


「吉夫くんの胸って大きいね。これって巨乳だよね。そうだよね。じゃあ、ぱふぱふさせてもらうね」

「するな!」


 抵抗する前に彼女は俺の胸に顔を埋めると、そのままぐりぐりと動かす。それだけではなく俺を逃がさないように腰に手を回し、動きを制限する。


「吉夫くんから女の子みたいなあま~い匂いがするよ」

「こら、やめろ。そこから離れろ」

「嫌だよ。いつも私は吉夫くんに頬をつねられているから、仕返しさせてもらうからね」

「だったら、こうしてやるよ!」


 離れようとしない恵美の腹に手を伸ばし、遠慮なく彼女のそこをつかむ。


「きゃあ!」


 驚いた恵美は俺から手を離し、そのまま一定距離を取って恥ずかしそうにもじもじする。


「吉夫くんの……えっち」

「……」

「に、睨まないでよ! だって、えっちなんだよ! 女の子のお腹をつまむことなんて、胸に触れられることよりもすっごい恥ずかしいから。あっ、吉夫くんの目って海みたいに青いね」

「……はあ」


 ため息をついた俺は恵美の腹の感触を思い出す。余計な脂肪などなく、すっきりとした体つき。ぷにぷにしていたら……ちょっとは楽しめたかもなぁ。


「ちょっと、吉夫くん。いま私のお腹がぷにぷにしていたらよかったと思ったよね」


 ジト目で見てくる恵美。


「まあな」

「これでも私は毎日剣道しているから余計な脂肪なんてないよ」

「どうでもいい情報ありがとう。さて、ノルトが来る前にさっさと身なりを整えるぞ」

「ノルトさんなら……あそこにいるよ?」


 恵美が指差した場所には、半開きになったドアからのぞく白い頭がひょっこりと出していた。こちらの様子をうかがっていることがよくわかったぞ、ノルト。


「ノルト、よくも朝からのぞきをするよな」


 びくっと白い頭が震えると、そこから隠れていたノルトが顔を出す。彼女は頬をほんのりと染め、赤い目を俺と合わせないように泳がせている。


「ノルト」

「は、はいどうしましたかヨシオ様?」

「まさかおかしな想像とかしていないよな」

「その……つい、してしまいました。ヨシオ様の胸元にメグミ様が顔をぐりぐりと埋める姿は、最高でしたね」


 正直に吐露してくれるノルトに俺はどうして助けてくれなかったと目で訴える。すると、彼女はどうしてヨシオ様が女性化しているのか教えくれませんか? と話をそらしてきたが、正直に加護のことを打ち明けた。白狼の加護によって副作用が起き、女性化してしまったと。

 納得したノルトはサティエリナ様に相談してください、と最後にまとめると俺たちを食堂まで案内してくれた。

 その際、明が女らしい吉夫だ! 巨乳はすばらしい! とほざいていたのでぶん殴っておいた。ジュリアスやサティエリナは瞬きすることも忘れて、俺に見惚れていたらしいとノルトから耳打ちされた。

 どうして彼女たちが俺に見惚れてしまうのか、よくわからない。

 後で鏡を見てわかったことが一つある。俺の髪は銀色に染まり、腰まで伸びていた。胸は山のように大きく膨らみ、俗にいう巨乳と変化している。おまけに耳は頭の上に生えてしまい、三角巾をしている。さらにとどめというのか、しっぽまで生えていた。

 俺は人から獣人という種族にランクアップした瞬間であった。



 ◇  ◇  ◇

 


 俺が女性化してから三日が経ち、白狼の加護を扱いこなるために今日も訓練場で稽古をしていた。俺の稽古の相手はしてくれるのは、なんと氷姫という二つ名を持つサティエリナであった。

 彼女は魔法のまの字すら知らない人に徹底的に教えます、と女性化した初日に告げられた。なにをどのように教えるのか、とわくわくしながら彼女が指名した場所――訓練場に向かう。恵美は俺と同じように魔法について知らなかったので、この機会に一緒にサティエリナから教わることに。

 なぜか、明から死ぬなよ吉夫、メグさんと苦笑しながら見送られた。

 その結果――これだ。


「うお、危ねえなサティエリナ!」


 矢の如く降り注ぐ鋭い五つの氷塊――氷の(アイスニードル)をかわすために足に魔力を流す。バチィと雷を帯びた足で大地をける。それだけでぐんっと全身は一瞬にして加速してしまう。


「ふう……死ぬかと思った」


 さっきまで俺がいた場所に氷塊が突き刺さり、それを見た俺はだいぶ慣れてきたなと実感する。三日前まではどのように魔法を使うのかわからなかったが、サティエリナが教えてくれたおかげで理解できた。

 彼女が俺と恵美に教えてくれたこと。それは全身にあふれる力をある場所に集め、必要なときに爆発させる。要するに必要な力はそのときだけ利用すればいい。それさえできれば後は簡単、とサティエリナに教わったのはいいが……彼女のせいで何度も死に掛けた。

 この全身にあふれる力というのは魔力という。人間なら誰でも持っていると言われているため、意識さえすればちゃんとわかるという。で、魔法を発動させるには魔力が必要。魔力っていうのは……例えるなら人の体に流れる血液だな。人間に血液が循環しないと生きていけないと同じように、魔力とは魔法を発動させるもとである。魔力がなくなれば、魔法は使用できない。その魔力っていうのは人間の血液とは異なり、修行さえすれば上がるというので俺と恵美は徹底的にそのことについて学んだ。

 サティエリナが放つ緩やかな氷の(アイスニードル)をかわし、または破壊しなければならなかったから時間が懐かしい。彼女は慣れるまでやりなさい、と命じられた俺と恵美はお互いに励ましながらサティエリナの特別訓練を受けた。

 二日もサティエリナの特別訓練を受け、三日目になると個別指導となる。雷という未知の魔法を扱う俺にはサティエリナ、風を操る明には同じ使い手のノルト、土の初心者である恵美にはジュリアス。

 ちらっと彼らの様子をうかがってみると、目を閉じた明が剣を構えていた。そんな彼にノルトはためらいもなくナイフを連続で投擲。無防備な明にナイフが当たる、と思った俺はあいつを助けるために動こうとすると、


「大丈夫よ、ヨシオ。アキラさんには当たらないから」


 物静かな口調でいつの間に俺の隣に立つサティエリナは断言した。彼女の言葉を信じ、明を見守ることにした。

 襲い掛かるナイフのことなど気にすることもなく、剣を構えている明はその場から動こうとはしない。本当に大丈夫なのか? と不安になってきたところで明が目を開く。けれども、動こうとはしない。なにをするのか、と心配していると彼を守るように螺旋(らせん)状の風が現れ、明に向かっていたナイフを弾いた。


「あれはなんだ、サティエリナ」

「あれは風の衣と呼ばれるアキラさんのオリジナル魔法。風の衣はアキラさんの周囲に漂い、彼を守るように展開されているのよ」

「そうか。ところでナイフを弾いたのか?」

「軌道をそらしたのよ。それと、オリジナル魔法は自分で思いついた魔法であることを教えておくわ」

「ありがとう」


 明の周りには数え切れないほどのナイフが地面に転がっていた。へえ、あれを全部風の衣で軌道をそらしたのか……やるじゃないか、明。


「ねえヨシオ。わたしよりもアキラさんが気になるのであれば、今日の個別指導をここまでにするわよ?」


 栗色の瞳で俺を見つめてくるサティエリナ。俺の動きに合わせて<氷の棘>を放ったせいか、白い頬はうっすらと赤く、栗色の髪は乱れている。俺としてはもう少しだけ彼女の指導をしてもらいたいところ。だが、サティエリナは三日も連続で俺の相手をしてもらっているので今日はここまでにしよう。


「それと、どうして俺が明を気になるのか述べてみろ。サティエリナ」

「あら。彼のことを目で追っているじゃない」

「親友として心配なんだよ」

「それを聞いて安心したわ。……汗をかいたから一緒に入浴しない?」


 氷の微笑みを浮かべるサティエリナはとんでもない提案をしてきた。普通であれば逆らうのが当たりまであるが、いまの俺は男性ではなく女性の体つきをしている。加えて、彼女には女性化したあなたにはわたしの専属従者になってもらうわ、と言われているのだ。

 どういうことなのか詳しく説明すると、女性化した俺を恵美の魔の手から逃がすために自分のメイドにした。恵美が俺にしてくることは……童貞に関わることなので、あえて語らない。 


「なあ、サティエリナ」

「なにかしら」

「どうして変態野郎とか言わない?」

「あなたが女性だから言わないのよ。それともなに、変態従者と呼ばれたいのかしら?」

「俺が悪かった。ところで恵美とジュリアスを誘わないのか?」


 刀を己の一部のように振るう恵美と巧みに剣を操るジュリアスの姿を見ながら問いかける。


「あなたが風呂場でメグミさんに襲われたいのあれば、わたしは構わないわ」

「俺が男の体であれば逆にそうしていたよな」

「たしかに、あなたであればそうしているわね」


 このような会話をしながら、俺とサティエリナは風呂場で疲れた体を癒す。幸い、まだ午前中であったせいか住み着いて働くメイドの姿はどこにもなかった。俺とサティエリナはお互いのことを見ることもなく体を洗い、タオルを巻いて風呂でリラックスしていく。

 後で、恵美と一緒に入浴したジュリアスとノルトに彼女の毒牙がかかったというのは、また別の話。






 訓練からだいぶ時間が経ち、ゆらゆらとスカートを揺らしながらとある人物の部屋に向かう。三日もメイド服を着ていたおかげですっかり慣れてしまったスカート。最初は下がすーすーして落ち着かなかったが、いまでは気になることすらない。なぜなら、明が俺の胸を凝視してくるから奴をその度に睨みつける。ジュリアスの気持ちや胸が大きい女性の気持ちがよくわかる。男って胸が大きい女性が好みなんだよな。

 メイドとして過ごしている内に、俺はサティエリナの相手ばっかりをしている日々であるといまさら気が付いた。だって彼女の髪を梳いたり、話相手になったり、訓練に付き合ったり……。

 おかげで恵美がサティエリナさんの傍にいないで私にも構ってよ! と頬を膨らませてすねていた。毎晩添い寝してあげているのに……それはないだろう、恵美。

 あれこれ考えているうちにとある人物の部屋に着いた。


「入るぞ、ジュリアス」

「ちょ、ちょっと待て!」


 部屋の中から焦ったジュリアスの声が響く。そんなことにおかまいなしに部屋へ足を踏み入れると、タンクトップに似た服を着ているジュリアスが慌ててズボンをはいていた。おっ、爆乳である彼女の谷間はすばらしく、下着は緑色。目の色と同じだからいまの彼女はよく似合うよな。へぶっ。


「じ、ジロジロ見るな!」


 俺に枕を投げたジュリアスの顔は火が吹くほど赤い。彼女の着替えが終えるまで俺は背を向き、これが噂のラッキースケベか、と納得してしまった。マンガや小説でしか起きないイベントだと思っていたが……現実でもあるんだな。


「も、もういいぞ」


 許された俺はジュリアスのほうを向くと彼女の頬は赤く、目を合わせようとしない。床に落ちている枕をぽんぽんと叩き、彼女にベットに座らないか? と提案してみる。ぎこちなく頷いたジュリアス。俺はベットに腰をかけると彼女も隣に座り、しばらく沈黙が続く。

 ある程度時間が経つと、俺はジュリアスにアレはどうだった? と問いかける。こちらの言いたいことがわかっているジュリアスはなめらかにしゃべりだす。


「いろいろとフィオナの森について調べ、いくつかわかったことがある。

 一つは、あそこは昔から精霊白狼が暮らし、ユグドラシルに住む人々を魔物から守り続けていた。だが、ある日を境に白狼は人々を守ることをやめてしまい、森の奥でひっそりと暮らすようになった」


 すらすらと説明していくジュリアスに、俺は彼女に白狼と聖地について調べさせてよかったと安堵した。ジュリアスは姫のサティエリナやメイドのノルトとは違い、たっぷりと時間がある。空いている時間に素振りをしたり、読書をしたりするとノルトから情報を手に入れたのでジュリアスに頼んだ。

 二つ返事で承諾してくれたジュリアスだが、そのかわりに毎朝彼女の手合わせをしないといけなくなった。俺と彼女はこの三日間、毎朝の手合わせを楽しんでいるがけっして手を抜いていない。


「白狼はどうしてユグドラシルを守ることをやめた?」

「かつての国王がフィオナの森を切り開き、さらにユグドラシルを大きくしようとしたのだ。人間を守り続けていた白狼は許せなかっただろう。いままで守り続けていた人々が自分の森を壊すことを。だから、白狼はその国王を殺し、ひっそりと森に住むようになった……と姫様が教えてくれた」


 よし、情報提供してくれたサティエリナにはメイドとして奉仕でもするか。マッサージでもいいかな。


「聖地については?」

「姫様いわく邪悪な存在の<欠片>を精霊が監視しているという」

「ん? それでは聖地と呼べないじゃないか」

「まあ、待て。最後まで話を聞け。白狼の暮らす場所だけ魔物はいっさい近寄らず、貴重な植物が生えている。例え、オウーロの実と呼ばれている植物。原因不明の病気、猛毒、高熱。ありとあらゆる症状を治す万能の実である」


 あっ、思い出した。自称オウーロの実を作った本人――黒騎士ザックと彼に連れて行かれた小柄な少女。銀細工のような髪をツインテールに結び、海のように目が青く、くりくりとした瞳。子供のように幼い顔つきであった彼女の名前……聞いていなかったな。

 あの少女がオウーロの実を求めていたのは、アマちゃんと呼ばれる友達のためだな。よく聖地にいる白狼に臆することなく堂々と立ち向かったよな、あの娘。それだけ、アマちゃんのことが大事ってことか。


「最後に訓練場の近くに生えている樹はユグドラシルと呼ばれ、この国の象徴である」

「ああ、あの樹か」

「そうだ。あれは白狼が昔の国王にあげたと言われている樹だ。それをおまえは……」


 ジュリアスの言いたいことがなんとなくわかる。俺、あそこで恵美に膝枕してもらったからな。神聖な樹の下でそんなことをするのは、俺と恵美くらいしかいないだろう。


「ヨシオ、頬が緩んでいるぞ」

「そうか?」

「ああ。だらしなくにへらっとしている貴様は気持ち悪い」

「仕方ないだろう。始めて異性に膝枕してもらったから……」

「……ヨシオ?」


 始めて異性に膝枕をしてくれたのは恵美なのに、どうして脳裏には腰まで白い髪を伸ばした女性の姿が浮かぶのだろうか? 白い髪をした女性は優しく微笑み、目を細めて俺の頭をなでる。この女性は……結婚式でリーンという人に殺された人物。名前はたしか……。


「ヘンリー……。いや、ヘンリエッタ」


 本名はヘンリエッタであるが、俺だけにヘンリーと呼ぶことを許された。過去の俺……言い変えるのであれば前世だな。ん? まさか……ここに召喚された全員が前世の記憶を持っていたりしてな。そのような偶然があったら、運命と呼べるよな。

 ある程度考えをまとめた俺は、黙ってこちらを見守るジュリアスに確認してみる。


「なあ、ジュリアス。黒騎士はあっさりとユグドラシルから手を引いたけれど……これでここが安全になったと思うか?」


 彼女には三日前のことを包み隠さずに話しているので、俺の言いたいことがわかっている。

 ふむと思考するようにジュリアスは胸の前に腕を組むと、立派な果実があらわとなる。タンクトップを着ているせいか、それとも腕を組んでいるせいか渓谷の如く深い谷間が見えてしまう。これぞ眼福だ。


「……ヨシオはどう思う?」

「ジュリアスの谷間は最高だ」

「ど、どこを見ている変態!」


 胸を隠すように両腕に覆い、きっと睨みつけてくるジュリアス。凛々しい顔つきをしている彼女が睨めば大半はひるむが、いまのジュリアスは頬が紅潮しているのでかわいい。


「すまない。あまりにもすばらしくて見惚れてしまい、すなおに思ったことを口にしてしまった」

「すなお過ぎるだろう! だが……謝ったから許すとするか」


 怒られると思っていたが、すんなりと謝罪を受け入れてくれたジュリアスに感謝し、彼女にさきほどの答えを返す。


「俺はまだなにか起きると思う。白狼がいる聖地で邪悪な存在の<欠片>がよみがえりそうだ」

「ヨシオも私と同じか。しかし、なぜそう思う?」

「勘だな」


 会話が途切れたのを潮時に、ベットから立ち上がった俺はノルトから教わったことをしてみる。スカートの裾をつまみ、優雅に頭を下げる。


「いまから私とお楽しみをしますか? ご主人様」


 熱ぽっい視線を送り、猫のなで声のように甘く告げる。


「なっ、なな……」


 さきほどよりも顔を赤くしたジュリアスは叫ぶ。


「ど、どうして私が貴様と同性同士でしなければならない!」

「じゃあ俺が男の体になっていたらシてよかったのか?」

「そうだ。って、違う! ヨシオであれば抱かれていいのではなく、異性としてならいいのだ!」

「さすがに同性でするのはまずいからなぁ。でも、俺なら恵美とおまえの三人でするなら……していいぞ?」


 上目遣いでジュリアスを誘う俺。


「だ、ダメだ! 絶対に同性でするのはよくない!」

「誰も同性であるとは言ってないだろう? 俺が男に戻った暁に、おまえたちを抱くってことだ」


 茹でたタコのように全身が赤くなっていくジュリアスの反応がおもしろい。もしかして、三人でした場合のことを想像してしまったのか?


「ジュリアス、いまから手合わせするぞ」


 彼女を現実に戻し、なおかつ冷静にさせるためにそのような提案をしてみると。


「……わかった」


 と喰いついてきたので俺はルールの再確認をさせる。

「ただし、どちらかが負けた場合――」

「メグミにたっぷりと胸を揉ませるという罰ゲームであったな」

「ああ。じゃあ、さっそくやるか」


 俺たちは訓練場に向かい、日が暮れるまで手合わせを続けた。なぜならこの勝負に負けてしまった場合、恵美が飽きるまで胸を揉まされるのだ。意味するのは俺たちの貞操が彼女に奪われるということ。

 お互いに失いたくないものがある俺たちは今日も引き分けとなり、両者の操が守れたのだ。

 ちっ、今日こそはジュリアスに勝てると思ったのにな。

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