本番告白シミュレーション
好きなら好きって言えばいいじゃんと言われたから思い切って好きと言ってみたのだが、言われた本人はひどく驚いた顔をしてしまった。
当たり前か。
長いこと相談に乗ってもらっていたものな。
『わ、私?』
というくらいだから、本当に僕の恋の相手に自分はないと思っていたのだろう。
もしかしたら考えもしなかったのかもしれない。
確かに、僕といるときはラフな格好をしている時が多いし、化粧っ気も少ない。
同級生達と一緒に居るときには見せないリラックスした表情なんかをするときもよくあった。
相談に乗るのが楽しくて、僕が異性であることを忘れてしまっていたのだろう。
だから、彼女が我に返ったように急に前髪をいじってモジモジし始めた様子が可笑しくて、僕は少し意地悪をしてみたくなった。
僕は返事のない彼女の肩を強引に抱き寄せる。
胸が異常にドキドキした。
口から心臓が飛び出しそうというのはこのことか。
―――でも、そんなときは相手も同じくらいドキドキしているから、大丈夫。
笑ってそう言っていた彼女の顔が思い浮ぶ。
あの時、天真爛漫な笑顔だった彼女が、今は頬を赤らめている。
「こっちを向いて」
―――告白するときは相手の目を見て、はっきりと。
僕は彼女の言いつけを忠実に守る。
―――恥ずかしがって顔を上げない子には、ちょっと強引でも、顔をこっちに向けさせなさい。
僕はごく自然に彼女の健康的な黒髪に指を差し入れ、うなじを支え、出来うる限り柔らかな力を使ってこちらに顔を向けさせた。
「こっちを向いて」
真剣に言うと、彼女は落としていた視線を震わせながら徐々に上げ、潤んだ瞳を覗かせた。
綺麗だ。
で、次、何だっけ。
合わせた視線が外れ、フラフラと宙を漂う。
あ、そうだ。
「すきだ」
『すきだ、でしょ』
視線を戻すと、僕らの声が重なった。
「もう、肝心なところが抜けてるんだから」
彼女は耐えかねて、吹き出した。
僕もつられて笑い出す。
可笑しくてたまらない。
笑う彼女の顔が好きだった。
本当に楽しそうに笑ってくれるから。
「ねえ」
一通り笑った後、僕は気を取り直して彼女を抱き寄せる。
「もう一回最初から、いい?」
彼女は尚も可笑しそうに、でも、優しく肯いてくれた。