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Eternal Cycle — 和の調律者 — 残響の六理

本作は、ゲーム企画『Eternal Cycle — 和の調律者 —』をもとにした読み切り小説です。


舞台は、六つの種族と複数の文明が共存する惑星。

世界は海洋、森林、都市、山岳、地下、交易路などに分かれ、互いに影響し合っています。


海流の停止、森林の衰退、資源独占、交易断絶、文明の暴走、思想の対立。

それらが積み重なることで、世界には《虚無》と呼ばれる侵食現象が発生します。


そして文明が自らを調律できなくなった時、最後の修復機構エターナルが現れ、世界は初期状態へ戻されます。


エターナルは倒すべき敵ではありません。

現れた時点で、その世界線は失敗したということです。


主人公は六人の少女たち。

魔族、天使族、エルフ、ドワーフ、人間、獣人族。

それぞれ異なる理を宿す彼女たちは、滅びを倒すのではなく、滅びが生まれる原因を調律していきます。

第一章 目覚めの残響


海は、もう長いあいだ息をしていなかった。


青く澄んでいたはずの水面は灰色に濁り、波は重く、潮風からは命の匂いが消えていた。

森は沈黙し、土は乾き、都市だけが夜を忘れたように輝き続けている。


人々はそれを、文明の発展と呼んだ。


けれどアオイだけは知っていた。


この光の先に、滅びがあることを。


「また……戻ってきた」


古代遺跡の冷たい床の上で、アオイは目を覚ました。


黒髪の少女だった。

人間族。

戦士。

前線に立ち、敵の攻撃を受け止めながら、戦いの循環を味方へ戻す者。


胸元には、小さな青白い結晶が埋め込まれていた。


調律核。


戦いの中で力を蓄え、仲間との共鳴によって世界の歪みに触れるための古代装置。

本来なら、目覚めたばかりの少女が知るはずのない名前だった。


けれどアオイは知っている。


一度、この世界は滅びた。


海は完全に沈黙し、森は枯れ、都市は資源戦争で焼け落ちた。

空の果てに巨大な輪が現れ、白い光がすべてを包んだ。


エターナル。


神ではない。

魔王でもない。

世界が壊れきった時に現れる、最後の修復機構。


現れたら終わり。

倒すことはできない。

世界は初期状態へ戻され、アオイだけが記憶を持ったまま、またこの場所で目を覚ます。


「今度こそ……」


アオイは立ち上がった。


その時、遺跡の奥で六つの光が順番に灯った。


赤紫の光。

白銀の光。

翠の光。

金の光。

青の光。

琥珀の光。


そして、五人の少女たちが目を覚ました。


第二章 六人の調律者


最初に目を開けたのは、魔族の少女だった。


長い淡紫の髪。

静かな金色の瞳。

角を持つが、その表情は穏やかで、どこか寂しげだった。


「……ここは?」


「ルシェリア」


アオイは思わず名前を呼んでいた。


魔族の少女は目を細める。


「初対面のはずですが……どうして私の名を?」


アオイは答えられなかった。

言えば信じてもらえない。

自分たちは一度、共に戦い、共に失敗し、共に世界を失ったのだと。


次に、白い翼を持つ天使族の少女が立ち上がった。


「私はセラフィナ。秩序と浄化を司る天使族です」


彼女の周囲には、まだ召喚されていない光の剣が、幻のように揺れていた。


その隣で、エルフの少女が胸を押さえる。


「フィリア……です。森の声が、聞こえない。こんなに近くに土があるのに、命の音が遠い」


翠色の髪をした彼女の肩には、小さな精霊が浮かんでいた。

精霊はフィリアの頬に触れ、慰めるように淡く光った。


少し遅れて、小柄なドワーフの少女が起き上がる。


「うわっ、頭痛い……。なんか、前にもここで転んだ気がする」


「ミルカ」


「え、なんで名前知ってるの? まあいいけど。ここ、古代構造がすごいね。壁の奥に送気管と循環路がある」


最後に、獣耳を持つ少女が跳ねるように立ち上がった。


「ライカ! 獣人族! なんかよくわかんないけど、ここ危ない匂いがする!」


その言葉に、アオイは胸が痛くなった。


前の世界でも、ライカは同じことを言った。

そして、その予感は当たっていた。


六人の前に、巨大な惑星地図が浮かび上がる。


世界は六角形の領域に分かれていた。

海洋。森林。都市。山岳。地下。交易路。

そこに、赤や黒の異常反応がいくつも刻まれている。


最も濃い黒は、海にあった。


「海洋循環、停止寸前」


ミルカが古代文字を読み取る。


「深層酸素、危険域。表層生態、崩壊開始。交易路、三か所で断絶。漁業国家と工業国家が軍事衝突寸前」


フィリアの顔が青ざめる。


「海が……息をしていない」


セラフィナは翼を広げた。


「ならば原因となるものを浄化すべきです。混乱は秩序によって鎮めなければなりません」


ルシェリアは静かに首を振る。


「浄化だけでは足りません。なぜそこまで歪んだのかを見なければ、同じことがまた起こります」


ライカは拳を握る。


「でも急がないと、誰か死ぬよ」


その通りだった。


前の世界では、アオイたちは最初の海洋異変で討伐を選んだ。

深海から現れた巨大な虚獣を倒し、一時的に海は静まった。


けれど原因は残った。


海流は止まったまま。

酸素不足は深まり、漁場は奪い合われ、国家間の争いは激化した。

やがて虚無は海から陸へ広がり、世界は崩壊した。


今度は、同じ選択をしてはいけない。


「行こう」


アオイは地図の黒い海を見つめた。


「でも、ただ倒すためじゃない。海がなぜ壊れたのかを、見に行く」


第三章 息を忘れた海


一度に行動できるのは三人まで。


古代遺跡の転移門は、三つの調律核にしか反応しなかった。

アオイは迷った末、最初の海洋異変へ向かう仲間を選んだ。


ルシェリア。

フィリア。

そしてアオイ自身。


魔法による広域制圧。

精霊による回復と自然操作。

そして前線で耐える戦士。


残るセラフィナ、ミルカ、ライカは遺跡に残り、支援と解析を担当することになった。


「納得できません」


セラフィナは少し不満そうだった。


「私の光剣なら、海から現れる敵を効率よく制圧できます」


「今回は制圧だけじゃダメなんだ」


アオイは言った。


「まずは海の声を聞きたい。フィリアの力が必要になる」


フィリアは不安げに視線を落とした。


「私に、できるでしょうか」


「できるよ」


アオイは即答した。


前の世界で、フィリアは最後まで海を救おうとしていた。

たとえ間に合わなくても、その祈りは確かに世界に残った。


フィリアはアオイを見つめる。


「アオイさんは、私を知っているような目をしますね」


「……夢で見たのかも」


「私も、夢を見ました」


フィリアは小さく言った。


「灰色の海で、アオイさんが泣いている夢です」


アオイは何も言えなかった。


残響。


仲間たちは記憶を失っている。

けれど完全には消えていない。

夢、既視感、胸の痛み、理由のない涙。


それらは前の世界から持ち越された、小さな光だった。


転移門が開き、三人は海辺の廃港へ降り立った。


そこに広がっていたのは、死にかけた海だった。


波は黒く、浜辺には魚の死骸が打ち上げられている。

遠くでは漁船が焼け、兵士たちが港を封鎖していた。

工業都市から流れ込む排水路は泡立ち、空には低く重い雲が垂れ込めている。


「ひどい……」


フィリアの精霊が震えた。


ルシェリアは海面に手をかざす。


「魔力ではありません。これは、もっと根本的な循環不全です。水が動いていない。命が巡っていない」


港の奥から怒号が聞こえた。


「この海域は我々の管理下にある! 漁業国家の船は出ていけ!」


「ふざけるな! お前たちの工場が海を殺したんだ!」


「証拠はない!」


「魚が死んでいるだろう!」


争いは、もう始まっていた。


アオイは剣を握る。


だが抜かなかった。


ここで誰かを倒しても、海は戻らない。


その時、海の底から低い音が響いた。


地鳴りではない。

咆哮だった。


黒い水柱が立ち上がり、巨大な影が姿を現す。


深海虚獣。

アビス・リヴァイア。


鯨のような体に、竜のような鰭。

体表には黒い結晶が生え、虚無の霧をまとっていた。


兵士たちが叫ぶ。


「災厄だ!」


「撃て! 撃ち殺せ!」


アオイは前に出た。


「違う」


彼女には聞こえていた。


それは怒りではなかった。


苦しみだった。


第四章 討つか、赦すか


アビス・リヴァイアの尾が港を薙ぎ払った。


アオイは盾を構え、衝撃を受け止める。

腕が痺れ、足元の石畳が砕けた。


「アオイ!」


フィリアの精霊が光を放ち、アオイの傷を塞ぐ。

同時に薄い翠の膜が三人を包み、飛んできた黒い結晶を反射した。


ルシェリアが両手を広げる。


「炎だけでは海を傷つけます。ならば――風と氷で」


彼女の背後に巨大な魔法陣が展開され、冷たい風が黒い霧を切り裂いた。

氷の槍が海面を走り、虚獣の体に突き刺さる。


だが虚獣は倒れない。


むしろ痛みに反応し、さらに激しく暴れた。


「やっぱり、ただ攻撃するだけじゃダメだ」


アオイは歯を食いしばる。


前の世界で倒した時と同じだ。

倒せば一時的には静まる。

だが海の苦しみは残り、別の虚獣が生まれる。


アオイは虚獣の胸元にある黒い核を見た。


あれを砕けば勝てる。


けれどそれは、原因を見ずに結果だけを壊す行為だった。


「フィリア、海の底に声を届けられる?」


「やってみます」


フィリアは目を閉じた。

精霊たちが海へ潜り、淡い光の線が深海へ伸びていく。


その瞬間、三人の意識に映像が流れ込んだ。


止まった海流。

酸素を失った深海。

沈んだ魚群。

赤く染まる沿岸。

工業都市の排水。

漁業国家の飢え。

資源を守るために閉ざされた港。

奪われることを恐れた軍備。

軍備を見た隣国の恐怖。

恐怖が生んだ攻撃。

攻撃が生んだ憎しみ。


アビス・リヴァイアは、悪ではなかった。


海が受け止めきれなかった痛みが、形を持ったものだった。


「アオイさん……」


フィリアの声が震える。


「この子、怒っているんじゃありません。苦しくて、息ができないんです」


ルシェリアは魔法陣を閉じた。


「なら、倒すべき相手は虚獣ではありません。止まった循環そのものです」


港の兵士たちは叫び続けている。


「何をしている! 早く討伐しろ!」


「その怪物を殺せ!」


アオイは剣を握り直した。


討つことはできる。

その方が早い。

その方が分かりやすい。


けれど、世界はそれで一度失敗した。


「私は……同じ終わりを選ばない」


アオイの調律核が青く輝いた。


攻撃を受け、仲間と呼吸を合わせ、敵の痛みに触れたことで、核に力が満ちていく。


個人の必殺技では足りない。

必要なのは、三人の理を重ねる調律奥義。


アオイは叫んだ。


「ルシェリア、海面の黒霧を払って!」


「承知しました」


「フィリア、深海に精霊を!」


「はい!」


三つの調律核が共鳴した。


アオイの循環。

ルシェリアの広域魔法。

フィリアの自然回復。


光は一本の輪となり、海へ沈んでいく。


「調律奥義――」


アオイは剣を海面へ突き立てた。


「《蒼環のリヴァイヴ》!」


海が鳴った。


ルシェリアの風が黒霧を裂き、フィリアの精霊が深海へ命の光を運ぶ。

アオイの剣から流れた青い光が、止まっていた水の層を揺り動かした。


深層の水がゆっくりと上がる。

冷たい水と温かな水が混ざり、眠っていた栄養が表層へ戻る。

小さな光が海中に生まれた。


命の粒。


アビス・リヴァイアの咆哮が変わる。


怒りではない。

泣き声だった。


黒い結晶がひとつ、またひとつと砕けていく。


虚獣は海へ沈みながら、三人を見た。


その瞳には、もう敵意はなかった。


第五章 残された者たち


遺跡では、ミルカが古代装置を解析していた。


「やっぱり海底に送気管がある。壊れてるけど、修理すれば深海へ空気を送れる。ついでに循環ポンプも残ってる」


セラフィナは光の剣を宙に並べた。


「敵が現れた場合は、私が迎撃します」


「敵って言っても、全部倒せばいいわけじゃないんでしょ?」


ライカが耳をぴくりと動かす。


「アオイ、前にそれで失敗した顔してた」


ミルカは工具を止めた。


「前に?」


「わかんない。でも、そんな気がする」


セラフィナも胸に手を当てる。


「私も……エターナルという言葉を聞くと、理由もなく息が苦しくなります」


ミルカは黙り込んだ。


彼女の手元には、まだ作った覚えのない設計図があった。

けれどなぜか、完成形が分かる。


どこに管を通せばいいか。

どの弁を開けば水が動くか。

どの装置を先に直せば、海は再び息を始めるか。


「これ、たぶん私、一度作ったことがある」


ミルカは小さく笑った。


「覚えてないけど、手が覚えてる」


ライカが立ち上がる。


「じゃあ行こう。アオイたちだけじゃ手が足りない」


「でも転移門は三人までです」


セラフィナが言う。


ミルカはにやりと笑った。


「だから構造を変えるの。正面から行けないなら、支援路をつなげばいい」


ドワーフの少女は古代装置に手を置いた。


「構造は、壊すためじゃなく、つなぐためにあるんだから」


遺跡の壁が震えた。


新しい光路が開き、海底施設への支援回線がつながる。


セラフィナの光剣がそこへ飛び込み、遠隔で防衛機構を起動する。

ライカは転移陣の縁に飛び乗り、獣人族の直感で危険な経路を見抜いた。


「こっち。こっちなら崩れない」


三人の支援が、海へ届く。


アオイたちが戦っている海域の下で、古代施設が目を覚ました。


深海へ空気が送られる。

止まっていた水が動き始める。

虚無の霧が、少しずつ薄れていく。


六人は別々の場所にいながら、同じ世界を支えていた。


第六章 エターナルの影


海洋異変は終わった。


けれど、世界が救われたわけではない。


港ではまだ、工業都市と漁業国家の兵士たちが互いを睨み合っていた。

海がわずかに回復しても、憎しみはすぐには消えない。


アオイは彼らの前に立った。


「この海は、どちらか一方のものじゃない」


兵士たちは反発した。


「綺麗事を言うな!」


「我々にも生活がある!」


「奪われる前に守るしかないんだ!」


アオイは頷いた。


「知ってる。守りたいものがあるから、争いになる。だからこそ、仕組みを変えないといけない」


ルシェリアが続ける。


「排水を止めるだけでは、工業都市が飢えます。漁を再開するだけでは、海が回復しません。必要なのは、罰ではなく調整です」


フィリアは海を見つめた。


「海には、休む時間が必要です。けれど人にも、生きる糧が必要です」


その時、遺跡からミルカの声が届いた。


「海底循環装置、仮復旧完了。あとは沿岸の排水路を組み替えて、浄化区画を作ればいい。工業都市の技術者と漁業国家の船が両方必要」


ライカの声も響く。


「交易路なら私がつなぐよ。片方だけが得する道じゃなくて、両方が運べる道にする」


セラフィナは静かに言った。


「秩序は罰だけで作るものではありません。守るべき規則を、共に定めるべきです」


兵士たちは黙った。


敵を倒して終わる方が簡単だった。

誰かを悪者にして、責任を押しつける方が分かりやすかった。


けれど、それではまた同じ虚獣が生まれる。


海を殺したのは、一人の悪人ではない。

便利さ。恐れ。無関心。短期的な利益。奪われる前に奪えという思想。


それらすべてが、少しずつ海を追い詰めていた。


だから、直すにも一人では足りない。


六人の理が必要だった。


調和。

秩序。

循環。

構造。

発展。

流動。


その時、空の果てで何かが軋んだ。


アオイは息を呑む。


白い輪が、雲の向こうにうっすらと見えた。


エターナル。


まだ現れてはいない。

けれど、世界の失敗を感知している。


アオイの胸に、前の世界の記憶が蘇る。


白い光。

消えていく仲間たち。

ルシェリアの伸ばした手。

フィリアの涙。

セラフィナの祈り。

ミルカの未完成の装置。

ライカの「次は間違えない」という声。


そして、すべてが初めに戻った。


アオイは震えた。


「また……来るの?」


ルシェリアがそっと隣に立つ。


「アオイ。あなたは、これを知っているのですね」


「……うん」


「なら、今度は一人で抱えないでください」


フィリアも頷いた。


「全部は思い出せません。でも、アオイさんが一人で泣いていたことは覚えています」


セラフィナの声が通信越しに届く。


「記憶がなくとも、胸に残る痛みがあります。それを無視することは、秩序ではありません」


ミルカが笑う。


「設計図ならあるよ。たぶん前の私が残した。なら、今の私が完成させる」


ライカは明るく言った。


「大丈夫。次はみんなで走ればいい」


アオイは空を見上げた。


エターナルは倒せない。

倒す必要もない。


現れた時点で、世界は失敗したということ。


ならば目指すべきは、エターナルを倒す未来ではない。


エターナルが現れなくてもよい未来。


世界が、自分自身を調律できる未来だ。


第七章 和の調律


海洋異変のあと、六人は各地を巡った。


森では、エルフの保守性と人間の開発欲が衝突していた。

フィリアは森を閉ざすだけでは守れないと知り、アオイは発展が常に正しいわけではないと学んだ。


地下都市では、ドワーフの強固な構造が格差を生んでいた。

ミルカは構造が人を守る一方で、人を閉じ込める檻にもなることを知った。


天使族の防衛都市では、秩序が行き過ぎ、異なる思想を排除し始めていた。

セラフィナは初めて、正しさが人を傷つけることを認めた。


交易路では、獣人族の流動性が利用され、弱い国から資源が吸い上げられていた。

ライカは、ただ流れを作るだけではなく、流れの向きを見なければならないと知った。


魔族の同盟都市では、調和を重んじるあまり、問題を先送りにしていた。

ルシェリアは、争いを避けることと、向き合うことは違うのだと悟った。


そして人間の工業都市では、発展の光があまりにも眩しく、影にいる者たちの声が消えていた。


アオイは、自分の種族を恥じた。


けれどルシェリアは言った。


「発展は罪ではありません。問題は、発展が何とつながっているかを忘れることです」


フィリアも言った。


「人間の変わる力は、世界を壊すことも、救うこともできます」


ミルカは肩をすくめた。


「壊れた構造は直せる。問題は、壊れていると認めるかどうか」


セラフィナは静かに微笑んだ。


「秩序もまた、変化を受け入れなければ硬直します」


ライカはアオイの背中を叩いた。


「走りながら考えればいいよ。止まってたら、どのみち腐る」


六人は、敵を倒すだけではなく、原因に触れていった。


虚無から生まれた怪物たちを、時には討った。

どうしても止めなければならない暴走はあった。

赦しだけでは救えない命もあった。


けれど討伐の後には、必ず調律を行った。


なぜ生まれたのか。

どこで循環が断たれたのか。

誰が見落とされていたのか。

どの構造が歪みを生んだのか。


問い続けること。


それが、和の調律者の戦いだった。


やがて、世界は少しずつ変わり始めた。


海が濁れば、海を聴く者が現れた。

森が沈黙すれば、森へ戻る道が開かれた。

都市が熱を持てば、光と水と土の循環が組み直された。

交易が歪めば、流れを正す者が集まった。


完全な世界ではない。


争いはある。

失敗もある。

欲も恐れも消えない。


けれど、壊れる前に気づく者が増えた。


世界はようやく、自分で自分を調律し始めた。


終章 エターナルが現れない朝


最後の夜。


六人は、最初に目覚めた古代遺跡へ戻ってきた。


惑星地図には、まだ黒い点が残っている。

すべてが解決したわけではない。


それでも、かつて世界全体を覆っていた虚無の霧は薄れていた。


アオイは空を見上げる。


前の世界なら、もうエターナルが現れている時間だった。


白い輪が空を割り、すべてを初めに戻していたはずだった。


けれど空は静かだった。


夜明け前の青い空に、星が瞬いている。


「現れませんね」


セラフィナが言った。


「うん」


アオイは小さく頷いた。


「世界が完全になったからじゃない」


ルシェリアが続ける。


「壊れる前に、気づけるようになったから」


フィリアは微笑んだ。


「海も森も、まだ傷ついています。でも、もう沈黙してはいません」


ミルカは工具を肩に担いだ。


「修理する場所は山ほどあるけどね。まあ、構造ってそういうものだよ。完成したら終わりじゃない。直し続けるから持続する」


ライカは大きく伸びをした。


「じゃあ、また走らないとね。止まったら循環じゃないし」


アオイは五人を見た。


前の世界では、みんな消えていった。

記憶を失い、初めに戻り、それでも残響だけを抱えて再び出会った。


今、彼女たちはここにいる。


同じ朝を迎えている。


アオイの胸の調律核が、静かに光った。


それは勝利の光ではなかった。


終わりの光でもなかった。


続いていくための光だった。


「ねえ、アオイ」


フィリアが尋ねる。


「もしまた世界が壊れそうになったら、どうしますか?」


アオイは少し考えて、笑った。


「また調律する」


「何度でも?」


「何度でも」


ルシェリアが穏やかに頷く。


「それが、循環です」


セラフィナは翼を広げた。


「それが、秩序を生かす道です」


ミルカは笑う。


「それが、壊れない構造を作る方法」


ライカは拳を突き上げる。


「それが、流れ続けるってこと!」


朝日が昇る。


海が光を返し、森が風に揺れ、都市の灯りが少しずつ夜へ還っていく。


エターナルは現れなかった。


世界が救われたからではない。

世界が、自らを救う方法を覚え始めたからだ。


アオイは歩き出す。


隣には、五人の仲間がいる。


調和。

秩序。

循環。

構造。

発展。

流動。


六つの理は、ひとつの和となって世界に響く。


そして夜明けの空に、六人の声が重なった。


「Eternal Cycle――巡れ、廻れ。

この世界を、滅びではなく循環へ。」


了。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


本作『Eternal Cycle — 和の調律者 — 残響の六理』は、ゲーム企画『Eternal Cycle — 和の調律者 —』をもとにした読み切り小説です。


この物語は、単に「悪を倒して世界を救う」話ではありません。

敵がなぜ生まれたのか。

文明はなぜ壊れていくのか。

循環はどこで断たれたのか。

そして、滅びを防ぐために本当に必要なものは何なのか。


そうした問いを、六種族の少女たちの視点から描いた物語です。


エターナルはラスボスではありません。

世界が自らを調律できなくなった時に現れる、最後の修復機構です。

だから本当の勝利は、エターナルを倒すことではなく、エターナルを必要としない持続的な文明を築くことにあります。


本来のゲーム企画では、主人公の種族・職業・スキルを自由に選び、三人編成で各地の文明や生態系の異変に介入していく構想になっています。

この小説では、その世界観を読み切りとして分かりやすくするため、人間族の少女アオイを中心に描きました。


また、本作の主題歌として、SUNO用の歌詞

『Eternal Cycle — 和の調律者 —』

も制作しています。

オープニングアニメソング

- YouTube版

https://youtu.be/3VA1D-Lud4s?si=Ih1xksI18diwb4cs

- SUNO版(フル音源)

https://suno.com/song/0f10ad37-72d3-4370-8243-ca64ab5efe79


ゲーム企画としての詳細は、noteおよびGitHubにまとめています。


Eternal Cycle — 和の調律者 — v1.02

https://note.com/inchacomusho/n/n8cbbbdb80854


Eternal Cycle — Harmonizer of Wa — v1.02

https://github.com/InchaComisho/Eternal-Cycle-Harmonizer-of-Wa-v1.02


この物語が、ただのファンタジーではなく、

「文明とは何か」

「自然と共に生きるとは何か」

「倒すだけでは解決しない問題にどう向き合うのか」

を考える小さなきっかけになれば幸いです。


読んでいただき、本当にありがとうございました。


マスター

inchacomisho / inchacomusho

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