5話 主役は遅れてくるもんだ!
決闘当日
街はお祭り騒ぎである。
闘技場までの道の両側に、いろいろな出店が並んでいる。
怪しいチケット売りのおじさんまでもあちらこちらで声を上げてチケットを売っている。
その賑わいは宿屋の僕の部屋まで聞こえてくる。
「夢なら覚めて……」
よし!寝よう!それが一番だ!
「マルクー!朝だよー!」
元気よくエミリが部屋に入ってきた。
「僕はいませんよ。お帰りはあちらですよ」
そう言って布団から手を出してドアを指さした。
「バカやってないで起きるのよ」
エミリが布団を剥ぎ取る。
ほんと、勘弁してください。
「相手はSランクなのよ!私たちより上なのよ!でも大丈夫!マルク凄いんだから!私との特訓があったんだから何とかなるわ!」
「不安しかないんだけど……」
「前もSランク倒してるじゃない!がんばって!」
あれは……相手がドジなだけじゃ……。
街中で僕たちを見たSランクさんが、何が気に食わなかったのか知らないけど、槍を振り回して飛んできた所に咥えていた吹き矢を吹いたら、くるくる回って反対方向に落ちただけじゃん……。
「それはそうと、もしエミリが戦ったら勝てそう?」
「無理でしょ。相手はSランクよ。私、Dランクだもん」
「いや、僕もDランクなんですけど」
「マルクならいけるわ!」
僕が勝てるという根拠が欲しいです。
「ならこう言うわ」
エミリがモジモジしながら両手を胸のあたりで握り視線を泳がせてから、上目使いで
「……私のために勝ってくれる?あの男から守ってくれる?」
これは卑怯だ!けしからんです!エミリさんいつの間にそんな技を!
エミリの握っている手の中からクシャリと聞こえたような気がしたが……。
「わかったよ……やれるところまで頑張ってみるよ」
「ほんと!?」
「うん」
そういうとエミリは後ろを向いてうつむき、微かに震えて……一言。
「……よかった」
クシャ
また変な音が聞こえたような、気のせいかな?
「よし、朝ごはん食べに行こう」
「着替えたら行くよ、下でまってて」
着替えが終わり、決闘に挑む決心もついた――たぶん。
―― 決闘場前・大通り ――
そこにSランクの彼が居た。
大通りのど真ん中で仁王立ちして誰かを待っているようだ。
「兄ちゃん!んな所に突っ立てると往来の邪魔だ!端によれ、端に!」
「あ、すんません……」
馬車の御者さんに怒鳴られてるよ……
僕たちは今、屋台の陰から大通りを眺めている。
「うわ~……」
エミリの顔が歪んでますよ。
「あそこは通りたくないね、このまま屋台の裏から行こうか」
「そうしよそうしよ」
闘技場まで屋台の裏側を進んでいき、闘技場決闘者入口と看板が出ていたのでそこまで行く。
入口では兵士が数人立っていて、そのうちの一人に声をかけた。
「すみません、今日ここで決闘する事になっているマルクですが」
「おお!君がマルク君か!見た目と違って随分と華奢なんだね」
「はぁ」
「おお、失礼しました。では控室までご案内いたします。お連れの方もご一緒に」
僕らは控室まで案内してもらった。
「飲み物とかはそこの内線で頼めますよ。では、決闘の時間までごゆるりと」
「エミリ、内線って何?」
「知らないわ、初めて聞いたもの」
「試してみようか」
「そうね」
内線とかいう物にボタンが付いている。押すのかな?
ボタンを押してみると女性の声が内線から響いてきた。
『はい、決闘者の方ですね。ドリンクのご注文ですか?ご一緒にポテトはいかがですか?』
「エミリ……何かたのむ?」
「じゃ、わたしコーラLサイズとポテトとポップコーンキャラメル味で、サイズはバケツサイズでお願い」
エミリはメニューを見ながら注文する。
「……僕はお水を」
『かしこまりました。後ほどお持ちいたしますのでお待ちください。ブチッ』
内線が切れた。
「注文が来るまで座って待っていましょう。マルクも座りなよ」
自分の隣の席をポンポンと叩く。
僕はエミリの隣に腰を下ろした。
僕は緊張して声が出ない。
何故……
決闘が始まるからか?
違う。
隣のエミリがなんか可愛くて……
「どうしたの?」
「ななな、なんでもありません!
心の中でモンモンしていたら、ドアがノックされた。
「い、今開けます」
扉を開けるとメイドさんが注文の品が乗った台車を押して入ってきた。
「こちらが頼まれた品物になります」
そう言ってメイドさんはテーブルの上に頼んだ品を並べていった。
最後に丸くなった紙をテーブルに置いて……
「ご注文ありがとうございました」
と言ってメイドさんは部屋から出て行った。
僕は丸まった紙を手に取り紙を見つめた。
“コーラL 1000
ポテト 無料
ポップコーン
キャラメル味
バケツサイズ 8000
お水 5000
手数料 2000
合計 金16000”
「ボッタクリじゃん!」
叫んだよ!
場内アナウンスが響く——
『まもなく決闘が開始されます。決闘者の方は兵士が参りますので指示に従ってください』
「始まるわね」
「あぁ、緊張するー」
「マルクなら大丈夫よ!特訓頑張ったから!Sランクにどこまで通用するかはマルク次第よ」
エミリが励ましてくれる。
僕も男だ!頑張るぞ!
その時部屋が開かれ、兵士が入ってきた。
「決闘のルールをご説明いたします。何も難しいことはありませんよ。気絶、または死亡したらその場で負けが確定します。剣、魔法、何を使ってもかまいません。それとこれが一番肝心なのですが、観客を沸かせることが義務づけられています。負けるにしても簡単に負けないでください。以上になります。」
……絶句
生死は、まぁよく聞くけど……死にたくないけど。
それより、何?観客を沸かす?簡単に負けるな?
ひどい見世物だな!
これは、早々に気絶して負けたほうが絶対にいいよね?
命あってこそだよね?ね?
「それではご案内いたします。お連れの方は別室でご観戦いただけますのでそちらもご案内いたします」
兵士に案内されて入場口まで案内され、ここで待つように指示を受ける。エミリは別室まで案内されていく。
急に心細くなったよ。
闘技場内は割れんばかりの歓声が響いている。
まもなくして場内に始まりを告げる鐘が鳴り響いた。
場内が静まり返る。
アナウンスが流れる。
『さぁ、本日の決闘は、噂のDランク剣士、冒険者マルクだ!彼はなんと過去にSランク冒険者を無傷で倒したという噂がある!しかも、それを裏付ける証拠もあるぞ!なんと彼はゴブリン二百匹を一人で倒し!さらにダークスネイクを討伐した!これはギルドから得た情報だ!間違いないぞ!』
会場内が先ほどよりも凄まじい歓声に包まれた。
『さぁ!噂の剣士、マルクの登場だぁ!』
さらに大歓声……
その情報……間違ってますよ……
僕はトボトボと闘技場に歩いて出て行った。
「おお!噂の剣士様だ!」
「Sランクに負けんなよ」
「お前に賭けてるんだからな負けんなよ!」
「楽しませろよ!」
なんか言いたい放題だな。
胃が痛くなってきたよ……
『さぁ、続いての紹介はこの人だ!真の剣士とは彼の為にある言葉か!本物のSランクの剣士、皆様も話には聞いたことがあるはずだ!彼は常にソロで依頼をこなし、ソロで凶悪なモンスターを討伐しまくる孤高の剣士!!ココイル・ストラーカーだぁぁぁぁぁぁ!!!』
僕よりも凄い歓声が鳴り響いた。
「ココイルさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「すてきぃぃぃぃ!!」
「わたしをお嫁にしてぇぇぇぇ!!!」
「あんたなんか嫁にするわけないでしょ!!」
「なんですってぇぇぇぇ!!!!」
「あんなブスたちよりわたしよぉぉぉぉ!!!」
「あんた!おとこでしょ!!!!」
黄色い声援がすごいねぇ……
『さぁ、ココイル様!ご入場を!!!』
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しかし現れない……
『あの、ココイル様?どうされましたか?』
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『このままでは棄権と判断され違約金が発生しますよ?』
え?何?違約金?そんなこと書いて無かったよね!?
遠くから走ってくる音が聞こえる……
反対の入場口から凄い形相のココイルが現れた。
「き……げへっ!ごほっ!きさば!!なぜだ!僕が通りで待っていてやったというのに!なぜ現れなかった!」
なんか無茶苦茶言ってるよ、ココイルさん……
ひょっとして、僕よりアホなんじゃ……
「いい覚悟だ!ふぅー……この場で貴様に引導を渡してくれる!そしてエミリさんを貴様から解放してやる!!覚悟するがいい!!!」
なんでエミリに執着してるんだ。
あなたエミリに嫌われてるのに……
それに、僕関係ないよね?
『ココイルさん、そろそろ決闘を始めたいのですがよろしいですか?』
ココイルはハッとして辺りを見まわし、背筋を伸ばして観客に手を振りだした。
周りから声援が鳴り響いた。
これが、観客を沸かせる為の行為か?そうなのか?
僕も真似して振ってみた。
反応は、まぁまぁだったね。
『それでは……お待たせいたしました!Sランク剣士対Dランク剣士の決闘を始めるぞ!!用意はいいか?……レディ・ゴウ!!』




