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3話 やってきたSランク!

 翌朝、僕らはギルドにやってきた。


「よし、あれは居ないようね」


 普通、こういうときはコソコソするんじゃないの?

 エミリは堂々と入っていく。

 ギルドの朝は戦争だ!依頼の取り合いだ。しかし、喧嘩にはならない。早い者勝ちだ!冒険者なりのルールがある。

 人が手にした依頼表を横取りしたり、他人に迷惑をかけたら問答無用で周りからボコボコにされる。

 例えそれがSランクだとしても……。

 狭い場所での数の暴力、怖いよね。

 なかなか良い依頼表を手にしたら、横から取られてしまった。


「なんだこの依頼は、エミリさんには合わないぞ」


「あの、返して貰えませんか?」


「君がエミリにしていることは、彼女のためにならない!さっさとパーティーを解散して彼女を解放しろ」


 えーと、この人の名前なんだっけかな?思い出せない。前からエミリにつきまとってた。


「おい、あいつ今人の依頼表横取りしたよな」

「俺も見た!」

「許せねー」

「しかも、俺たちのエミリたん!最強剣士さまのだぞ!」

「やっちまうか!」

「やっちまおう!」


 周りの空気が変わる。


「おい、にいちゃん!」


 彼の後ろからいかつい冒険者が肩を掴む。


「何だい?汚らわしい」


 その台詞を皮切りに、他の冒険者が何とかさんへ一斉に襲いかかった。


「僕がSランクなのに挑む気かい?」


 彼は覇気を飛ばした。

 周りは一瞬怯むが、一斉に襲いかかった。

 数人は殴られるが、群がる屈強な冒険者たちにより、瞬く間にSランクの彼は取り押さえられ、自由を奪われた。

 勿論、剣は抜いたら駄目、使えないよ。

 もし抜いたら、即冒険者の資格を剥奪される。

 剥奪条件はみんな同じだ。ランクは関係ない。

 いくらソロでSランクでも、押さえつけられて、顔面ボコボコにされたら、たまったものではない。

 騒動が収まると、ぼろ雑巾のように彼だけがその場に転がっていた。

 そんな彼を——。

 

 どうでもいいか。


 僕らや、他のみんなも何食わぬ顔で受付を済ませて依頼に出かけた。


「いつもながら、朝のギルドって怖いね」


「朝から忙しいからね、ああいうのが居るから戒めているみたいよ」


「へぇー、僕らも気をつけようね」


「そうね」


 僕とエミリは話しながら街を出た。


 依頼はエミリがやりたがってた、森の奥トレントの枝を集めるやつだ。


「どうしてこの依頼を?」


「行けば分かるわ」


 ——何だろう、嫌な予感しかしない。


 森の奥、僕らは——正確には僕だけが腕を絞られて十体のトレントの攻撃を避ける特訓をしていた。


「ほらー、ぼーっとしてたら攻撃当たるわよ」


「ちょ、まって!これ、うわっ!さけ!るのた、ヒィ!へんなんだよ!」


「喋りながら悲鳴を上げられるほど余裕なのね」


「えうわっ!ちがぬおっ!」


 彼女は鬼だ!僕はいつか天に召されるだろう!


「大丈夫だよ、危ないと思ったら助けるから」


 そう言いながら、エミリの方へいった攻撃は全て切り落とされている。その場から全く動かずに。


「そうそう、言い忘れてたけどね、トレント仲間を呼ぶ習性あるからね」


 ニコリと微笑んだ。

 可愛いけどね!やっていることが極悪なのよね!小悪魔なんて、ひょっとしたら可愛いかもしれないね!



 半日が経過した。


 僕はボロボロだった。

 息は上がってないけど、体がもたない。

 特訓が終わるときにはトレントは二十体に増えていた。

 エミリが終了の合図を出すと、エミリがトレントの群れに飛び込み、瞬く間に討伐した。

 あれだけ攻撃されていたエミリはかすり傷一つない。

 エミリはこんなの普通よって言うんだよ。最近疑問に思うときがあるよ。

 他の人もこんなの普通なのかなって。


 今度聞いてみよう。


 落ち着いた。

 少し休憩しよう。

 腰の後ろに取り付けてある吹き矢を取り出し、あぐらをかきながら目の前の木に向かって矢を吹き出した。


 ズバンッ!


 うん、いい感じだ。落ち着くよ。吹き矢最高!

 エミリがこっちを見ながら言う。


「マルク、前から思ってたけどさ、吹き矢の速度、おかしくない?」


「そう?普通でしょ?」


「ちょっと貸して」


 僕から吹き矢を受け取ると、前の木からエミリ五人分くらい距離をとり、矢を吹き出した。


 フッ。

 

 コンッ。


 一瞬の間があってから木に矢が刺さった。


「はい、同じ場所からやってみて」


「わかったよ」


 今度は僕が同じ場所から矢を吹き出した。


 バギッ!


 木に穴が開いた。いつものことだね。


「どう?」


 エミリは一息ついて。


「異常」


「えぇぇ」


「何で吹いた瞬間、木に穴が開いているかな~」


 エミリの話では、その速度では自分も対処出来ないかもしれないし、その威力も当たったらただでは済まないかもって言われた——。


 普通だよね?


 依頼を終えた僕たちは街に戻ってきた。


 流石に数日前のズボン履き忘れ事件はないよ。


 普通っていいな~。


 ——普通を壊す奴が前にいた。


「きはま!けはわよふもやっへふれはな!」


 顔が風船のように膨らんでる人がこちらに向かってきた。


「えと、どちら様でしたっけ?」


「ぼふをわふれはといふのは!」


「なにを言ってるのか分からないのですが」


 僕がそう言う。


「この人、何語喋ってるの?」


 エミリも首をコテンと傾けて話に入ってきた。


「おお!まいへんせぇる!ひみはふみぶはいひとは!」


「さっぱりわからないわ」


 風船さんはプルプル震えだした。


「マルク行こう。依頼達成報告しなくちゃ」


「そうだね。それじゃあ——えと、風船さんさようなら」


 僕たちはギルドに向かった。


 取り残された彼は更に震えだした!


「ママ~、変な人がいる~」

「みちゃいけません!」


 うがぁぁぁぁ!と叫ぶSランクだった。



 —— ギルド受付 ——


「お姉さん、依頼達成報告です」


 マルクが報告する。


「流石マルクさんです!依頼の数よりも多く討伐されていますね!」


 依頼のトレントの核を数えながら歓喜の声を上げている。


 ドガンッ!


 ギルドの扉が乱暴に開けられた。

 僕とエミリ、受付嬢が何事かと扉のほうを見ると、先ほどの風船さんが顔を真っ赤にして立っていた。

 彼は先程買ってきたであろうポーションを顔にかけると、みるみる腫れが引いていく。


 マルクは彼を見て——。


 ……あっ!知ってる顔!


 でも、名前が思い出せない。


「エミリ、彼の名前何だっけ」


 エミリは嫌そうに言う。


「ココイルよ、ココイル・ストーカー」


「うわっ!滅茶苦茶ヤバい名前じゃん!」


 あまりにもやばすぎる名前のせいで完全に忘れてたよ。

 僕も関わりたくなかったら記憶から消えていたんだな。

 彼がこちらに向かってくる。

 ギルド内の空気が一変した。


「許さんぞ貴様!今朝もだが、先程もエミリさんの前で恥をかかせやがって!」


 え?この人、何言ってるの?


「僕のプライドにかけて貴様に決闘を申し込む!」


「え?嫌ですよ」


「貴様は万死に値する!Sランク剣士であるココイル・ストーカーが成敗してくれる」


 ギルド内は静まり返った。


 何だか面倒なことになってきたよ。決闘だなんて、僕本当に弱いよ?

 僕の顔がひきつっていく。

 僕の顔をみた周りが、《みろ、あの顔!怒りを我慢してるんだ!》とか、《ぶち殺したいの我慢してるんだよ!》などと勝手なことを言い出した。


 受付嬢は、無情にも決闘申請用紙を僕らに出してくる。

 僕は用紙を受け取り、見たくはないが内容を確認した――。


“ 決闘は三日後に行われます。


 双方の意地とプライドを懸け、悔いのない決闘を行いましょう。


 当事者は観客を楽しませるよう努めましょう。


 ドラマティックな展開に期待する。


 確認したらサインをしてね。


 逃げるなよ……。



 決闘推進委員会より ”



 ナニコレ……。


 何?


 推進委員会?


 え?


 そんなのあるの?


 聞いたことないよ!?


 文章やばいよね!?


 しかも、コピーだよこれ!


「受付のお姉さん……これ、本物?」


「はい。公式書類です」


「え?……楽しませるって……」


「観客は常に娯楽を求めるものです!」


「逃げるなって……」


「逃げないでくださいね!ギルドの大切なしゅうny……コホン、マルクさんの勇姿を楽しみにしています」


「……何か言い直していませんでしたか?」


「気のせいです」


 にこりと微笑む受付嬢——。


 こんなのにサインしたくねぇぇぇ!


 エミリ助けて!


 そんな彼女は、我関せずで報酬の確認をし始めていた。


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