第2話:Cクラスとの激突
第2話:Cクラスとの激突
「試合、開始!!」
審判の声が響いた瞬間——
両チームが、動いた。
「ジェイク、前へ!」
マリアの指示に、副隊長ジェイクが大盾を構えて前進する。
その巨体が、まるで城壁のように立ちはだかる。
「リック、ケン、左右に展開! ニーナ、私の後ろ!」
Cクラスは、一糸乱れぬ動きで陣形を組む。
完璧な防御陣形——『亀甲陣』だ。
「さすがCクラス……」
リサが観客席から呟く。
「完璧な連携。あれを崩すのは、簡単じゃない……」
観客席がざわめく。
「やっぱりFクラスじゃ無理だろ……」
「Cクラスの陣形、完璧じゃん」
「あー、これ5分で終わるわ」
だが——
「トム、マルク、前へ!」
俺の指示に、二人が前進する。
「カイル、右側から! ヒナタ、準備を!」
「おう!」
「わかった!」
Fクラスも、一気に動き出す。
「来たわね」
マリアが冷静に杖を構える。
「でも、遅い。ジェイク!」
「任せろ!」
ジェイクが大盾を地面に叩きつける。
「《岩盤の守護》!」
土属性の魔法が発動する。
ジェイクの周囲に、巨大な岩の壁が隆起した。
「うおっ!」
トムとマルクの前進が、止まる。
「邪魔だ!」
マルクが戦斧を振るう。
ガキィン!
だが、岩壁はびくともしない。
「無駄よ」
マリアが杖を振る。
「《風刃連撃》!」
風の刃が、トムとマルクに襲いかかる。
「くっ!」
トムが盾で防ぐ。
ガキン、ガキン、ガキン!
三発の風刃を防ぎ切るが——
「うぐっ!」
四発目が、トムの肩を掠める。
「トム!」
マルクが叫ぶ。
「大丈夫だ……まだ、戦える……!」
トムが歯を食いしばる。
「やっぱり、Fクラスじゃ無理か……」
観客席から、失望の声。
だが——
「今だ、ヒナタ!」
俺の声に、ヒナタが杖を振る。
「《水の帷》!」
フィールドの中央に、巨大な水の壁が出現する。
「何!?」
マリアが驚く。
視界が、完全に遮られた。
「今のうちに! カイル、行くぞ!」
「おう!」
俺とカイルは、水の壁の裏側を走る。
右側から、大きく回り込む。
「アレン、敵の後衛を狙うぞ!」
「ああ!」
俺たちは、Cクラスの側面に回り込んだ。
「まずい……!」
マリアが気づく。
だが——
「遅い!」
カイルが、魔導グローブを突き出す。
「《火炎弾》!」
火球が、マリアに向かって飛ぶ。
「させない!」
中衛のリックが、剣を振るう。
「《炎の壁》!」
火の壁が、カイルの火球を相殺する。
「ちっ、邪魔が……!」
カイルが舌打ちする。
「でも、これで——」
俺は、短剣を構える。
「敵の注意が、こっちに向いた!」
「トム、マルク、突っ込め!」
俺の声に、二人が動く。
「おう!」
「任せろ!」
トムとマルクが、ジェイクの岩壁に突進する。
「無駄だと言ったろ!」
ジェイクが盾を構える。
だが——
「ヒナタ!」
「うん!」
ヒナタが杖を振る。
「《光の閃光》!」
眩い光が、フィールドを包む。
「うぐっ!」
ジェイクが目を閉じる。
その隙に——
「《大地砕き(アース・ブレイカー)》!」
マルクの戦斧が、岩壁に叩き込まれる。
ガァン!
岩壁に、亀裂が走る。
「よし! もう一発!」
トムが盾で突進する。
「《盾突撃》!」
ドガァン!
岩壁が、崩れ落ちた。
「やった!」
観客席から、歓声が上がる。
「Fクラス、やるじゃん!」
「岩壁を破ったぞ!」
「くっ……!」
マリアが焦る。
「ケン、ニーナ、私を守って!」
「はい!」
中衛の二人が、マリアの前に立つ。
だが——
「させるか!」
俺は、短剣を構える。
『アレン、行くぞ!』
イグニスの声が、響く。
『お前の体に、俺の力を流す。受け止めろ!』
「ああ!」
俺の体に、熱い力が流れ込む。
世界マナが、俺の中を巡る。
「これが……イグニスの力……!」
『火は、闘志そのものだ。恐れるな、燃やせ。迷う心も、弱さも全部燃やせ。』
短剣が、赤く輝き始める。
「なに、あれ……」
観客席がざわめく。
「武器が、光ってる……?」
「魔法じゃない……あれは……」
「行くぞ、イグニス!」
俺は、短剣を振りかざす。
『《炎刃》!』
短剣から、炎の刃が飛ぶ。
いや——違う。
これは、スクロール魔法じゃない。
世界マナを、直接借りた——
古代魔法だ!
「くっ!」
ケンが槍で防ごうとする。
だが——
ガキィン!
炎の刃は、槍を弾き飛ばした。
「うわっ!」
ケンが、バランスを崩す。
「ケン!」
ニーナが慌てて回復魔法を使おうとする。
だが——
「させない!」
カイルが、火球を放つ。
「《火炎弾》!」
「きゃっ!」
ニーナが避ける。
その隙に——
「今だ!」
俺は、マリアに向かって突進する。
「来させない!」
マリアが杖を振る。
「《碧嵐連撃》!」
風と水の複合魔法——
竜巻状の水刃が、俺に襲いかかる。
「くっ!」
俺は、短剣で防ぐ。
ガキン、ガキン!
だが、水刃は止まらない。
三発、四発——
「アレン!」
ヒナタの声。
「《水の盾》!」
俺の前に、水の盾が現れる。
ザシュ、ザシュ!
水刃が、ヒナタの盾で相殺される。
「ヒナタ……!」
「行って、アレン! 今のうちに!」
ヒナタが叫ぶ。
「ああ!」
俺は、再び突進する。
マリアまで、あと5メートル。
「しつこいわね……!」
マリアが、再び杖を振る。
だが——
「遅い!」
俺は、短剣を振り下ろす。
『《炎刃》!』
炎の刃が、マリアに向かう。
「くっ!」
マリアが、後ろに飛ぶ。
だが——
ザシュ!
炎の刃は、マリアの杖を弾き飛ばした。
「きゃっ!」
マリアが、地面に倒れる。
「マリア!」
ジェイクが叫ぶ。
「今だ、止めを……!」
俺が短剣を構える。
だが——
「させるか!」
ジェイクが、突進してくる。
「うおっ!」
俺は、咄嗟に飛び退く。
ドガァン!
ジェイクの盾が、俺がいた場所を叩く。
「アレン!」
ヒナタが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
俺は、立ち上がる。
だが——
「まずい……」
マリアが、杖を拾い上げる。
距離が、開いてしまった。
「ふう……危なかった」
マリアが、息を整える。
「でも、これで——」
マリアが、杖を振る。
「《風刃連撃》!」
風の刃が、俺に向かって飛ぶ。
「くっ!」
俺は、短剣で防ぐ。
ガキン、ガキン!
だが——
「うぐっ!」
三発目が、俺の腕を掠める。
血が、滲む。
「アレン!」
ヒナタが駆け寄る。
「大丈夫、まだ戦える……!」
俺は、歯を食いしばる。
「アレン、無理しないで!」
ヒナタが、俺の腕に手を当てる。
「《癒しの光》!」
温かい光が、傷を癒す。
「ヒナタ……」
「もう、無茶しないでよ……」
ヒナタの目に、涙が浮かぶ。
「心配かけて、ごめん」
俺は、笑う。
「でも、まだ負けてない。諦めない」
「……うん」
ヒナタが、頷く。
「じゃあ、私も戦う。アレンを、守る」
ヒナタが、杖を構える。
「ヒナタ……?」
「私だって、戦えるんだから」
ヒナタの瞳が、強い光を宿す。
「二人で、一緒に戦おう」
その言葉に、胸が熱くなる。
「ああ!」
俺とヒナタは、並んで立つ。
「さあ、来なさい」
マリアが、杖を構える。
「次は、容赦しないわ」
Cクラスの5人が、再び陣形を組む。
完璧な防御陣形。
だが——
「ヒナタ、行けるか?」
「うん!」
俺たちは、顔を見合わせる。
「トム、マルク、カイル!」
俺が叫ぶ。
「もう一度、突っ込むぞ!」
「おう!」
「任せろ!」
Fクラスの5人が、集結する。
「何度来ても同じよ」
マリアが冷静に言う。
「私たちの陣形は、崩れない」
「そうかな?」
俺は、笑う。
「ヒナタ、頼む」
「うん!」
ヒナタが、杖を高く掲げる。
「みんなの力を、一つに……!」
ヒナタの杖が、輝き始める。
水と光——二つの属性が、混ざり合う。
「これは……」
マリアが驚く。
「複合魔法……? でも、あの子Fクラスなのに……!」
「《光輝の水流》!!」
ヒナタの魔法が、発動する。
輝く水の奔流が、フィールドを駆ける。
「うわっ!」
Cクラスの陣形が、押し流される。
「くっ、陣形が崩れた……!」
マリアが焦る。
「今だ、突っ込め!」
俺が叫ぶ。
ヒナタが「Fクラス、全員で!」
トム、マルク、カイルが突進する。
「させない……!」
ジェイクが盾を構える。
だが——
「俺が相手だ!」
マルクの戦斧が、ジェイクの盾に叩き込まれる。
ガキィン!
「ぐっ!」
ジェイクが、よろめく。
「トム、行け!」
「ああ!」
トムが、マリアに向かって突進する。
「くっ!」
マリアが魔法を使おうとする。
だが——
「させるか!」
カイルの火球が、マリアの足元に着弾する。
ドガァン!
爆風で、マリアがバランスを崩す。
「今だ、アレン!」
ヒナタが叫ぶ。
「ああ!」
俺は、全速力で走る。
マリアまで、あと3メートル。
「くっ……!」
マリアが、杖を振る。
だが——
「遅い!」
俺の短剣が、マリアの首元に触れる。
「……降参よ」
マリアが、小さく呟いた。
「勝負あり! Cクラス隊長、戦闘不能!」
審判の声が、響く。
「勝者、Fクラス!!」
その瞬間——
アリーナが、静まり返った。
数秒の沈黙の後——
「うおおおおおお!!」
轟音のような歓声が、爆発した。
「Fクラスが勝った!」
「嘘だろ!?」
「落ちこぼれが、Cクラスに勝ったぞ!」
観客席が、狂喜する。
「やった……やったぞ……!」
トムが、膝をつく。
「勝った……俺たち、勝ったんだ……!」
マルクが、涙を流す。
「信じられねえ……」
カイルも、呆然としている。
そして——
「アレン……」
ヒナタが、俺を見る。
その目には、涙が溢れている。
「勝ったね……私たち、勝ったんだよ……!」
「ああ」
俺は、ヒナタを抱きしめた。
「みんなで、勝ったんだ」
フィールドの反対側では——
「……負けた、か」
マリアが、小さく呟く。
「すまない、マリア……」
ジェイクが頭を下げる。
「いいの。私たちが、油断した」
マリアが立ち上がる。
そして、俺たちに向かって歩いてくる。
「……あなたたち、本当に強くなったのね」
マリアが、手を差し出す。
「いい試合だった」
「ああ」
俺は、その手を握った。
「ありがとう」
「次は、負けないわ」
マリアが、微笑む。
「お互いに」
俺も、笑った。
控室に戻ると——
ディルク先生が、腕を組んで立っていた。
「……よくやった」
その一言に、全員が泣き崩れた。
「先生……!」
「俺たち、勝ったんです……!」
「Fクラスが、Cクラスに勝ったんです……!」
ディルク先生が、笑う。
「ああ、見てたぞ。お前たち、本当に強くなった」
そして——
「でも、これで終わりじゃない」
ディルク先生の目が、鋭くなる。
「次の相手は、もっと強い。気を抜くな」
「はい!」
全員が、声を揃えた。
その夜——
俺は、一人で地下の封印層にいた。
「エルフェリア」
俺が呼びかけると——
『よく頑張ったね、アレン』
エルフェリアの声が、響く。
『君の成長を、私は嬉しく思う』
「ありがとう」
俺は、微笑む。
「でも、まだまだだ。もっと強くならないと」
『そうだね。でも——』
エルフェリアの声が、優しくなる。
『君には、仲間がいる。特に、あの子——ヒナタ』
「ヒナタ……」
『彼女は、君の光だよ。大切にしなさい』
「ああ」
俺は、頷いた。
『次の試合も、頑張って』
「ああ、必ず勝つ」
俺は、拳を握った。
炎はまだ小さい。だが、確かに灯った。——次なる戦いへ。
翌朝——
トーナメント表を見ると——
次の対戦相手が、発表されていた。
Fクラス vs Bクラス
「Bクラスか……」
リサが呟く。
「隊長のガルス・アイアンは、D級スクロール持ち。Cクラスより、遥かに強い……」
「大丈夫」
ヒナタが、明るく笑う。
「私たち、もう負けないよ」
その笑顔に、全員が頷いた。
「ああ、勝つぞ!」
俺たちFクラスの、戦いは続く――!
次回予告:
第二回戦、Fクラス vs Bクラス!
相手隊長ガルス・アイアンは、D級スクロール持ちの猛者。
副隊長アリス・シャドウは、闇属性の暗殺者。
「Fクラス? 聞いたことねえな」
圧倒的な力の差——
だが、アレンは諦めない。
イグニスの力を、さらに引き出す。
ヒナタの新魔法が、覚醒する!
「私たち、まだまだ強くなれる!」
Bクラスを打ち倒せ!
Aクラスへの道は、まだ遠い――!
第二章「予選大会編」第3話「Bクラスの強者」、次回更新!




