第4話:覚醒の兆し
第4話:覚醒の兆し
ダンジョン実習での出来事は、翌日には学園中に広まっていた。
「アレン・アルカディアが魔法を使った?」
「体内マナゼロのくせに?」
「嘘だろ……」
廊下を歩くたびに、視線が突き刺さる。
疑惑。好奇心。嘲笑。期待。
様々な感情が、僕に向けられていた。
「アレンさん、気にしちゃダメですよ」
隣を歩くヒナタが、心配そうに言った。
「……ああ、大丈夫」
でも、本当は気になっていた。
あれは、本当に魔法だったのか?
あの光は、僕が放ったものなのか?
確信が、持てなかった。
「アレン」
突然、後ろから声をかけられた。
振り向くと――
赤髪の少年が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「……レン」
レン・アルディス。
僕の幼馴染にして、Aクラス首席。
「お前、本当に魔法使えるようになったのか?」
レンの琥珀色の瞳が、僕を値踏みするように見つめる。
「……まだ、よく分からない」
「なら、確かめようぜ」
レンは、親指で訓練場の方を指した。
「俺と、戦え」
その言葉に、周囲がざわついた。
「マジで!?」
「Aクラス首席 vs Fクラスの落ちこぼれ?」
「一方的な虐殺じゃん……」
ヒナタが、僕の袖を引いた。
「アレンさん、無理しなくても……」
「……いや」
僕は、レンを真っ直ぐ見た。
「受けて立つ」
レンの口元が、歪んだ。
「ハッ、いい返事だ。じゃあ、放課後な」
彼は、そのまま去って行った。
残された僕は、拳を握りしめた。
(レン……お前に、今の僕を見せてやる)
* * *
放課後――訓練場
放課後の訓練場には、すでに大勢の生徒が集まっていた。
「うわ、すごい人……」
トムが、怯えたように呟いた。
「アレン、本当に大丈夫なのか?」
マルクが、心配そうに僕の肩を叩いた。
「……分からない。でも、やるしかない」
「私たち、応援してますから!」
エマが、涙目で言った。
「アレンさん……無理だけは、しないでください」
リサが、ノートを抱きしめながら心配そうに見つめる。
「負けんなよ」
カイルが、素っ気なく言った。
でも、その目は――真剣だった。
「……ありがとう、みんな」
僕は、リングに向かった。
中央には、すでにレンが立っていた。
腰には、魔導剣『レーヴァン』。
炎が刀身を包んでいる。
「来たか、アレン」
「……ああ」
僕は、リングに上がった。
手には、何も持っていない。
武器も、スクロールも。
「審判は、俺が務める」
ディルク先生が、リングの端に立った。
「ルールは単純。相手を戦闘不能にするか、ギブアップさせたら勝ちだ」
彼は、二人を見た。
「致命傷を与える攻撃は禁止。それ以外は、何でもありだ」
「了解」
レンが、剣を構えた。
僕も、構えた。
素手で。
「……始め!」
ディルクの声が、響いた。
* * *
戦闘開始
瞬間――
レンの姿が、消えた。
「速い!」
気づいた時には、レンが背後にいた。
「遅ぇぞ、アレン!」
魔導剣が、振り下ろされる。
僕は――本能で跳んだ。
横っ飛びに回避。
ドガッ!
剣が、地面に突き刺さる。
火花が散る。
「おっと、避けたか」
レンが、不敵に笑う。
「でも、次はどうかな?」
彼は、詠唱を始めた。
「燃え上がれ――火炎弾!」
三つの炎の球が、僕に向かって飛んでくる。
「くっ……!」
一つ目――転がって回避。
二つ目――横に跳んで回避。
三つ目――
間に合わない!
その瞬間、体が熱くなった。
胸の奥から、何かが溢れてくる。
「来い……!」
右手を突き出した瞬間――
淡い光の障壁が、一瞬だけ現れた。
ドンッ!
火炎弾が、障壁に弾かれる。
「……っ!」
でも、障壁はすぐに消えた。
反動で、僕は地面に膝をついた。
「やっぱり……使えるんじゃねぇか」
レンの声が、どこか嬉しそうだった。
「でも、まだまだ不安定だな」
彼は、再び詠唱を始めた。
「炎よ、我が剣に宿れ――紅蓮剣!」
魔導剣が、さらに激しく燃え上がる。
「いくぜ、アレン!」
レンが、突進してきた。
速い。
圧倒的に速い。
でも――
僕は、訓練してきた。
朝も、夜も、体を鍛えてきた。
(魔法が使えないなら、体で勝負する!)
僕は、レンの動きを見切ろうとした。
右から来る。炎の軌跡が視界を焼く。怖い。でも、逃げない。
僕は――
下に潜り込んだ。
レンの剣が、空を切る。
「おっと!」
僕は、レンの懐に入り込み――
拳を放った!
ドスッ!
腹部に、拳が入る。
「ぐっ……!」
レンが、一瞬怯んだ。
「やった……!」
でも、次の瞬間――
レンの拳が、僕の顔面を捉えた。
「甘いんだよ!」
ガツン!
視界が、揺れた。
体が、吹き飛ぶ。
リングの端まで、転がる。
「アレンさん!」
ヒナタの叫び。
「くそ……!」
僕は、立ち上がった。
口の中に、血の味。
でも――
僕は、笑っていた。
「……楽しいな、レン」
「は?」
「こんなに本気で戦うの……久しぶりだ」
レンの目が、見開かれた。
そして――
彼も、笑った。
「……そうだな。昔みたいだ」
二人は、同時に駆けた。
拳と剣が、激突する。
ガキィン!
火花が散る。
「うおおおお!」
「ああああああ!」
何度も、何度も、ぶつかり合う。
レンの剣を、僕は紙一重で避ける。
僕の拳を、レンは剣で受ける。
攻防が、続く。
だが――
徐々に、僕の体力が削られていく。
息が、上がる。
足が、重くなる。
(まずい……このままじゃ……)
「終わりだ、アレン!」
レンが、最大火力の魔法を放った。
「焼き尽くせ――紅蓮爆炎!」
巨大な炎の柱が、僕を飲み込もうとする。
「くそっ……!」
僕は、また手を突き出した。
「世界のマナ……頼む……!」
光の障壁が、現れる。
でも、炎の威力が強すぎる。
障壁が、ひび割れていく。
「ああああああ!」
必死に、マナを集中させる。
エルフェリアの声が、聞こえた。
『アレン、まだ早いわ。無理しないで!』
「でも……!」
『今は、負けてもいい。大切なのは――諦めないこと』
その言葉を聞いた瞬間――
障壁が、砕けた。
ドォォォン!
炎が、僕を包み込む。
「アレン!」
ヒナタの叫び。
* �* *
敗北
炎が晴れた時。
僕は、リングに倒れていた。
全身に、火傷。
体が、動かない。
「……勝負あり。勝者、レン・アルディス」
ディルクの声が、遠くに聞こえた。
「アレンさん!」
ヒナタが、駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!? 今、回復魔法を……!」
温かい光が、体を包む。
痛みが、和らいでいく。
「……ありがとう、ヒナタ」
「無理、しすぎです……」
彼女の目に、涙が浮かんでいた。
「アレン」
レンが、手を差し伸べた。
僕は、その手を取った。
「……強かったよ、レン」
「お前も、な」
レンは、複雑な表情をしていた。
「正直、驚いた。お前、本当に強くなってる」
「……でも、負けた」
「今はな」
レンは、僕の肩を叩いた。
「でも、お前――昔の目に戻ってきてる」
「……え?」
「諦めた目じゃなくて、戦う目だ」
彼は、背を向けた。
「次は、もっと強くなってこいよ。そうしたら――また、戦ってやる」
その言葉に、僕は頷いた。
「……ああ。必ず」
レンは、手を振りながら去って行った。
観客席からは、様々な声が聞こえた。
「やっぱり、Aクラスは別格だな」
「でも、アレン、よく頑張ったじゃん」
「あいつ、本当に魔法使えるようになってる……」
僕は、空を見上げた。
夕日が、綺麗だった。
(負けた……)
悔しさが、込み上げてくる。
でも――
不思議と、絶望はしなかった。
なぜなら――
確かに感じたから。
世界のマナの、温かさを。
まだ不安定で、制御できない。
でも、確実に――
僕は、成長している。
「アレン!」
Fクラスのみんなが、駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
「すごかったぞ、アレン!」
「Aクラス首席相手に、あそこまで戦うなんて……!」
みんなの顔が、明るい。
「……ごめん、負けちゃった」
「何言ってんだ!」
マルクが、僕の肩を掴んだ。
「お前、めちゃくちゃかっこよかったぞ!」
「そうです……! 私たち、感動しました……!」
エマが、泣きながら言った。
「アレンさんが諦めないから……私たちも、頑張れるんです」
リサが、眼鏡を外して目を拭いた。
「僕も……アレンの姿を見て、勇気が出ました」
トムが、震える声で言った。
「お前が頑張ってんのに、俺たちが諦めるわけにいかねぇだろ」
カイルが、腕を組んで言った。
「……みんな」
胸が、熱くなった。
ヒナタが、僕の手を握った。
「アレンさん。私たち、誓いましょう」
「……誓い?」
「はい」
ヒナタは、みんなを見渡した。
「私たちFクラスは――いつか、必ずAクラスに勝つ」
その言葉に、全員が頷いた。
「そうだ!」
「絶対に勝つ!」
「Aクラスなんて、ぶっ倒してやる!」
みんなの目が、輝いていた。
「アレンさん、一緒に誓ってください」
ヒナタが、僕を見つめた。
「私たちFクラスは――絶対に、這い上がる」
僕は、涙が溢れそうになった。
「……ああ」
僕は、みんなの手を取った。
「誓おう。僕たちFクラスは――必ず、Aクラスを倒す」
全員の手が、重なった。
「おおおおお!」
焦げた風の匂いが、まだ残っていた、夕日の中で、僕たちは誓った。
これが――
Fクラスの、本当の始まりだった。
* * *
その夜――家にて
家に帰ると、母が驚いた顔で迎えてくれた。
「アレン!? その怪我……!」
「大丈夫、もう治ってる」
「本当に大丈夫なの……?」
母は、心配そうに僕を見つめた。
「うん。ちゃんと、回復魔法をかけてもらったから」
「……そう」
母は、僕を優しく抱きしめた。
「無理、しないでね」
「……うん」
夕食を食べ、風呂に入り、部屋に戻った。
ベッドに横になると、エルフェリアの声が聞こえた。
『アレン、お疲れ様』
「……エルフェリア」
『今日は、よく頑張ったわ』
「でも……負けた」
『それでいいのよ』
エルフェリアの声が、優しい。
『あなたは、まだ目覚めたばかり。完全に古代魔法を使いこなすには、時間がかかるわ』
「……そうか」
『でも、今日――あなたは確かに、世界のマナと繋がった』
「……ああ」
『あの光の障壁。あれは、世界があなたを守ろうとした証』
「世界が……僕を……?」
『そう。世界は、あなたを選んだ。だから、守ろうとしてくれる』
その言葉が、胸に染みた。
『これから、もっともっと強くなるわ。焦らないで。一歩ずつ』
「……分かった」
『それと――』
エルフェリアが、少し楽しそうに言った。
『あなたには、素敵な仲間がいるわね』
「……でも、一番最初に僕の声を聞いたのは、君だよ」
『ふふ、それは光栄ね』
『大切にしてあげて。彼らも、あなたを大切に思ってるから』
「……うん」
『おやすみなさい、アレン』
声が、消えた。
僕は、天井を見つめた。
今日、負けた。
でも、得たものも多かった。
仲間との絆。
世界のマナとの繋がり。
そして――
諦めない心。
(レン……次は、負けないぞ)
拳を、握りしめた。
* * *
翌日――Fクラスの教室
「おはよう、アレン!」
マルクが、元気よく声をかけてきた。
「体、大丈夫か?」
「ああ、もう平気だ」
「よかった……」
トムが、ほっとした顔をした。
「アレンさん、昨日はかっこよかったです!」
エマが、目を輝かせた。
「私、感動して一晩中泣いちゃいました……」
「泣きすぎだろ……」
カイルが、呆れた顔をした。
「でも……俺も、少し見直した」
「……ありがとう」
「おはようございます、アレンさん」
ヒナタが、笑顔で入ってきた。
「今日も、一緒に頑張りましょうね!」
「ああ」
その時、ディルクが教室に入ってきた。
「おはよう。全員揃ってるな」
彼は、教壇に立った。
「昨日のアレンの戦い、見てた奴もいるだろう」
全員が、頷いた。
「あれが、お前たちの目標だ」
ディルクの目が、真剣だった。
「アレンは、体内マナゼロ。それでも、Aクラス首席と戦った」
「負けはしたが――あきらめなかった」
彼は、黒板に書いた。
『諦めない者が、最後に勝つ』
「これが、俺の信念だ」
ディルクは、全員を見渡した。
「お前たちは、落ちこぼれだ。それは事実だ」
「でも――諦めなければ、必ず道は開ける」
彼は、拳を握った。
「お前たちの目標は、Aクラスを倒すこと。そうだな?」
「はい!」
全員が、声を揃えた。
「なら、地獄の特訓を始める」
ディルクが、不敵に笑った。
「覚悟しろ。これから、死ぬほど鍛えてやる」
その言葉に、クラス全員が――
笑顔で、頷いた。
「お願いします!」
こうして――
落ちこぼれたちの反撃が、静かに始まった。
目標は、ただ一つ。
Aクラスを倒すこと。
そして――
自分たちの可能性を、証明すること。
僕たちの戦いは、まだ始まったばかりだった。
第5話「地獄の特訓」へ続く
次回予告:
ディルクの特訓が、始まった。
朝5時からの体力訓練。
放課後のマナ制御練習。
深夜までの座学。
「死ぬ……マジで死ぬ……」
「ディルク先生、鬼……」
Fクラスの生徒たちは、限界に挑む。
そして――
アレンは、古代魔法の真の力に、一歩近づく。
第5話「地獄の特訓」、次回更新!
作者コメント:
第4話、いかがでしたでしょうか?
レンとの戦い、書いていて熱くなりました!
負けはしましたが、アレンは確実に成長しています。
そして、Fクラスの絆が深まりました。
「妥当Aクラス」の誓い――これが、物語の大きな軸になります。
次回は、特訓編!
お楽しみに!
感想・コメントお待ちしております!
いかがでしょうか?第4話では以下を描写しました:




