第7話「最終決戦・中編」
終焉の地、古代遺跡最深部。
アレンたち精鋭百名は、薄暗い廊下を慎重に進んでいた。
「静かすぎる……」
ヒナタが周囲を警戒する。
「罠か?」
レンも剣を抜いたまま、緊張を解かない。
「いや、ヴォイドは堂々と待っている」
アレンが前方を見つめる。
「俺を試しているんだ。どれだけの力を持っているか」
その時、廊下の先から声が響いた。
『ようこそ、アレン・アルカディア』
ヴォイドの声だ。
『よく、ここまで辿り着いた。だが——』
突然、廊下の両側から無数の魔法陣が浮かび上がった。
「まずい!」
アレンが叫ぶ。
魔法陣から、闇の魔獣が次々と出現する。
「《風刃乱舞》!」
トムが風の刃で魔獣を斬る。
「《大地の壁》!」
マルクが土の障壁で仲間を守る。
「《雷炎融合》!」
カイルが炎と雷で魔獣を焼き払う。
「《氷結》!」
エマが氷で魔獣を凍らせる。
「《水流縛》!」
リサが水の鎖で魔獣の動きを封じる。
Aクラスのメンバーたちが、見事な連携で魔獣を倒していく。
「さすがだな」
各国の隊長たちも、それぞれの技で魔獣と戦う。
だが、魔獣は次から次へと湧いてくる。
「キリがない!」
レンが舌打ちする。
「アレン、先に行け! ここは俺たちが食い止める!」
「レン……!」
「早く! お前がヴォイドを倒さなきゃ、意味がないんだ!」
レンの言葉に、アレンは一瞬躊躇したが、やがて頷いた。
「わかった。任せる」
「ヒナタも行け。アレンを頼む」
「わかったわ」
ヒナタがアレンに続く。
「八体も、アレンと一緒に行け」
レンが化身たちに指示を出す。
「でも、レン……」
イグニスが心配そうに言う。
「大丈夫だ。俺たちは、こんなところで負けない」
レンが不敵に笑う。
「それに、お前たちはアレンを守れ。それが、俺たちの役目だ」
「……わかった。頼んだぞ、レン」
アレンが深々と頭を下げる。
「行け!」
アレンとヒナタ、そして八体の化身が、廊下を駆け抜ける。
後ろでは、レンたちが魔獣と激しく戦っている。
「みんな……必ず、無事でいてくれ」
アレンが心の中で祈る。
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廊下を抜けると、巨大な円形の広間に出た。
天井は高く、壁面には古代文字が刻まれている。
そして、広間の中央に——
一人の男が立っていた。
銀髪、紫の瞳、冷酷な表情。
ヴォイド。
「よく来たな、アレン・アルカディア」
ヴォイドが優雅に一礼する。
「お前が、ヴォイドか」
アレンが剣を抜く。
「その通りだ。私は、十年前に封印された八属性統べる者。そして——」
ヴォイドの目が鋭く光る。
「お前を倒し、この世界を崩壊させる者だ」
「世界を崩壊させる……なぜ、そんなことを」
アレンの問いに、ヴォイドは冷たく笑った。
「なぜ? それは簡単だ」
ヴォイドが両手を広げる。
「この世界は、腐っている」
「腐っている……?」
「ああ。七大国は、表面的な平和を装っているだけ。その裏では、互いに争い、欲望に溺れている」
ヴォイドの声が、怒りを帯びる。
「私は、そんな世界を見続けてきた。そして、気づいたのだ」
「何に?」
「この世界は、一度滅ぼさなければならない。そして、新しい世界を創造する。それが、八属性統べる者の真の使命だと」
ヴォイドの言葉に、アレンは首を横に振った。
「お前は間違っている」
「間違っている?」
「ああ。確かに、この世界には問題がある。でも、それは滅ぼす理由にはならない」
アレンが真っ直ぐにヴォイドを見つめる。
「問題があるなら、変えればいい。力じゃなく、絆で」
「絆?」
ヴォイドが嘲笑する。
「甘いな、アレン。絆など、所詮は幻想だ」
「違う」
アレンが強く言う。
「絆は、この世界で最も強い力だ。俺は、それを信じている」
「ならば、証明してみせろ」
ヴォイドが構える。
「お前の絆とやらで、私を倒してみせろ」
ヴォイドの全身から、凄まじい魔力が溢れ出す。
八属性の力——光、炎、風、闇、氷、土、水、雷。
それが、完璧に調和している。
「これが……八属性統べる者の力……」
ヒナタが息を呑む。
「私も昔は、お前のように絆を信じていた」
ヴォイドが遠くを見つめる。
「だが、裏切られた。信じていた仲間に、愛していた人に、全てに」
ヴォイドの目に、一瞬悲しみが浮かぶ。
「だから、私は決めたのだ。もう誰も信じない。力だけを信じると」
「ヴォイド……」
「さあ、始めよう」
ヴォイドが指を鳴らす。
すると、彼の背後に八体の化身が現れた。
だが、アレンの化身たちとは違う。
それらは、闇に染まり、禍々しいオーラを纏っている。
「これが、私の化身たちだ。闇に染まり、絶対的な力を手に入れた化身たち」
ヴォイドが不敵に笑う。
「お前の化身と、どちらが強いか——試してみよう」
「させない!」
アレンが叫ぶ。
「みんな、頼む!」
アレンの周りに、八体の化身が実体化する。
エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクス、グラシア、テラ、アクア、ヴォルト。
八体が、闇の化身たちと対峙する。
「行くわよ!」
エルフェリアが光を放つ。
「俺に任せろ!」
イグニスが炎を纏う。
八体対八体。
化身たちの戦いが始まった。
一方、アレンとヴォイドは——
「《オクタハーモニー》!」
アレンが八属性の力を解放する。
「《アビスハーモニー》!」
ヴォイドも八属性の力を解放する。
だが、その力は闇に染まっている。
二つの力が激突し、広間全体が激しく揺れる。
「ぐっ……!」
「くっ……!」
互角だ。
完全に、互角。
「やるな、アレン」
ヴォイドが認める。
「だが、まだ本気ではない」
ヴォイドの力が、さらに増大する。
「《アビスアルティメット》!」
闇に染まった八属性の力が、巨大な闇の竜となってアレンへ襲いかかる。
「《オクタアルティメット》!」
アレンも対抗する。
八属性の力が融合し、光の竜となってヴォイドの攻撃と激突する。
ドォォォォォン!
凄まじい爆発。
広間の床が砕け、壁が崩れる。
「はぁ……はぁ……」
アレンが荒い息をつく。
ヴォイドも、少し疲労の色を見せている。
「なかなかやるな。だが——」
ヴォイドが不敵に笑う。
「私には、まだ切り札がある」
「切り札……?」
その時、ヴォイドの胸が黒く輝き始めた。
「これは……まさか……!」
エルフェリアが驚愕する。
「『深淵の核』……創世の核の対となる、禁忌の力!」
「深淵の核……?」
アレンが驚く。
「そうだ」
ヴォイドが胸から黒い結晶を取り出す。
それは、創世の核と同じ形だが、色は漆黒。
禍々しいオーラを放っている。
「私は、十年前にこれを手に入れた。そして、その力に溺れた」
ヴォイドが結晶を見つめる。
「仲間は、そんな私を恐れ、封印した。だが——」
ヴォイドの目が狂気を帯びる。
「今、私は復活した。そして、この力で世界を滅ぼす」
「させない!」
アレンが叫ぶ。
「俺には、創世の核がある!」
アレンも胸から金色に輝く結晶を取り出す。
「創世の核対深淵の核……面白い」
ヴォイドが笑う。
「では、どちらが強いか、試してみよう」
二人が同時に、核の力を解放する。
金色の光と、漆黒の闇。
二つの力が激突し——
ドゴォォォォォォン!
広間全体が、激しく崩壊し始める。
「きゃあ!」
ヒナタが地面に倒れる。
「ヒナタ!」
アレンが駆け寄ろうとするが——
「油断するな」
ヴォイドの攻撃が、アレンを襲う。
「くっ!」
アレンが咄嗟に防御するが、吹き飛ばされる。
「アレン!」
八体の化身が叫ぶ。
だが、彼女たちも闇の化身たちと激しく戦っている。
助けに行けない。
「これが、現実だ」
ヴォイドが冷たく言う。
「絆など、戦いの前では無力だ」
ヴォイドがアレンへ近づく。
「さあ、終わりにしよう」
ヴォイドが深淵の核の力を集中させる。
「《深淵の終焉》!」
巨大な闇の波動が、アレンへ襲いかかる。
「しまった……!」
アレンが防御を試みるが——
その時。
「《トリニティハーモニー》!」
ヒナタが立ち上がり、光と水と風の力でアレンを守った。
「ヒナタ!」
「大丈夫……これくらい……」
だが、ヒナタは膝をついている。
ヴォイドの攻撃は、あまりに強大だった。
「ヒナタ……!」
アレンの心に、怒りが込み上げる。
「許さない……絶対に、許さない!」
アレンの体が、金色に輝き始める。
創世の核が、彼の怒りに反応している。
「これは……」
ヴォイドが警戒する。
「俺の大切な仲間を傷つけて……!」
アレンの全身から、凄まじい魔力が溢れ出す。
「絶対に……許さない!」
「《創世の覚醒》!」
アレンが新たな力を解放する。
創世の核の力が、完全に覚醒する。
金色の光が、広間全体を包む。
「なんて……力……!」
ヴォイドが驚愕する。
アレンの力が、明らかに次元が違う。
「これが……創世の核の真の力……!」
アレンが空中に浮かぶ。
八体の化身たちが、彼の周りに集まる。
「アレン……」
エルフェリアが感動する。
「ついに、完全に覚醒したのね」
「ああ」
アレンが化身たちを見渡す。
「みんなの力を、全て借りる」
「当然よ!」
全員が声を揃える。
「《オクタパーフェクトフュージョン・創世》!」
八体の化身が、アレンと完全に融合する。
そして、創世の核の力が加わる。
アレンの姿が、変化していく。
髪が金色に輝き、瞳が虹色になる。
全身から、神々しいオーラが放たれる。
「これが……真の八属性統べる者の姿……」
ヴォイドが呟く。
だが、彼も負けていない。
「ならば、私も本気を出そう」
ヴォイドも深淵の核の力を完全に解放する。
「《深淵の覚醒》!」
闇の化身たちが、ヴォイドと融合する。
ヴォイドの姿も変化する。
髪が銀色に輝き、瞳が紫色に染まる。
全身から、禍々しいオーラが放たれる。
「さあ、アレン」
ヴォイドが構える。
「真の力と真の力、どちらが勝つか——決着をつけよう」
「ああ」
アレンも構える。
二人の力が、極限まで高まる。
創世の核と深淵の核。
光と闇。
希望と絶望。
二つの力が——
「「《究極奥義》!」」
同時に解放された。
「「《エターナルジャッジメント》!」」
金色の光と漆黒の闇が激突し——
世界が、白く染まった。
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「アレン!」
「ヒナタ!」
遠くから、声が聞こえる。
アレンは、ゆっくりと目を開けた。
「ここは……」
彼は、広間の隅に倒れていた。
「アレン! 無事か!?」
レンが駆け寄ってくる。
「レン……魔獣は?」
「全部倒した。それより、お前……」
レンが心配そうに見つめる。
「ヴォイドは……?」
アレンが広間の中央を見る。
そこには、ヴォイドが膝をついていた。
「くっ……まさか……負けるとは……」
ヴォイドが信じられないという表情を浮かべる。
「お前の……絆の力に……」
ヴォイドが倒れる。
だが、完全には消えていない。
「まだ……終わっていない……」
ヴォイドが苦しそうに呟く。
「儀式は……もう始まっている……」
「なに!?」
アレンが驚く。
「儀式の完成まで……あと一時間……」
ヴォイドが笑う。
「阻止できるか……な……?」
そう言うと、ヴォイドは気を失った。
「くそっ! 儀式を止めないと!」
アレンが立ち上がろうとするが——
「無理よ、アレン」
エルフェリアが心配そうに言う。
「あなたは、もう限界。創世の核の力を使いすぎた」
「でも……このままじゃ……」
アレンが悔しそうに拳を握る。
その時、ヒナタが手を差し出した。
「大丈夫。私たちがいるわ」
「ヒナタ……」
「あなた一人じゃない。みんなで、儀式を止めましょう」
ヒナタの言葉に、レンたちも頷く。
「そうだ。俺たちがいる」
「一緒に戦おう」
「諦めないで」
仲間たちの言葉に、アレンは微笑んだ。
「……ありがとう、みんな」
アレンが立ち上がる。
「よし、行くぞ」
全員が頷く。
「儀式の場所へ!」
一行は、広間の奥へと進んでいく。
そこには、さらに大きな扉があった。
扉の向こうで、世界崩壊の儀式が行われている。
「時間がない!」
アレンが扉を開ける。
そして——
彼らが見たものは。
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**次回、第8話「最終決戦・後編」**
**世界崩壊の儀式を止めろ! 最後の戦いが、今始まる——!**




