第6話「最終決戦・前編」
創世の核を手に入れてから一週間。
学園には、再び平穏な日々が戻っていた。
だが、その平穏は——長くは続かなかった。
「緊急召集だ! 全員、講堂に集まれ!」
ディルク教官の緊迫した声が、学園中に響き渡る。
「何事だ!?」
アレンが自室から飛び出す。
廊下では、多くの生徒たちが慌てて講堂へ向かっている。
「アレン!」
ヒナタが駆け寄ってくる。
「何があったんだ?」
「わからない。でも、ただ事じゃなさそう」
二人は、講堂へ急ぐ。
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講堂には、全校生徒と教師陣が集まっていた。
壇上には、エリナ学園長とディルク教官、そして——
七大国の代表者たちが並んでいる。
「静粛に」
エリナの声が響く。
講堂が、一瞬で静まり返る。
「皆さんに、緊急の報告があります」
エリナが深刻な表情で口を開く。
「昨夜、世界各地で異常なマナの暴走が観測されました」
ざわめきが広がる。
「アルディア、セルフェン、グランディア、エアリア、ルミナス、ノクティア、エルドア——七大国全てで、同時多発的に」
「七大国全てで……!?」
生徒たちが驚愕する。
「各国の魔導士たちが調査した結果、驚くべきことがわかりました」
エリナが一呼吸置く。
「これは、自然現象ではない。誰かが、意図的に世界のマナを操作している」
「誰かが……?」
アレンが呟く。
「そして、その犯人の正体が判明しました」
エリナの隣に立つアルディアの代表が、一枚の報告書を掲げる。
「黒月の牙の残党です」
「黒月の牙!?」
アレンが驚愕する。
クロウもゼロも倒したはずだ。シャドウも、あの後捕らえられたと聞いている。
「まだ、残党がいたのか……」
レンが悔しそうに呟く。
「しかも、その首領は——」
代表が次のページを開く。
そこには、一人の男の肖像が描かれていた。
銀髪、紫の瞳、冷酷な表情。
「ヴォイド」
アレンの背筋に、悪寒が走る。
ヴォイドは、極北の塔でクロウの正体として現れた、元八属性統べる者。
クロウと共に消滅したはずだった。
「まさか……生きていたのか……」
「いいえ、正確には『復活した』のです」
セルフェンの代表が口を開く。
「我が国の調査によれば、ヴォイドは禁忌の術を使い、自らの魂を一時的に封印していたようです」
「禁忌の術……」
「そして、世界のマナが混乱している今、その封印が解けたのでしょう」
「なぜ、今……?」
アレンが呟く。
その時、エリナが重々しく告げた。
「アレン、あなたが創世の核を手に入れたことが、引き金になった可能性があります」
「俺が……?」
「創世の核は、世界のマナの源。その力が解放された瞬間、世界中のマナバランスが一時的に乱れました」
エリナが真剣な表情で続ける。
「そのわずかな隙を突いて、ヴォイドは復活したのです」
アレンの心に、罪悪感が込み上げる。
「俺のせいで……」
「違う、アレン」
突然、ディルクが声を上げる。
「お前のせいじゃない。ヴォイドは、いずれ復活していただろう。たまたま、そのタイミングが今だっただけだ」
「でも……」
「それに」
ディルクがアレンを真っ直ぐ見つめる。
「お前が創世の核を手に入れたからこそ、ヴォイドと対等に戦える。そうだろう?」
「……ああ」
アレンが顔を上げる。
「そうだ。俺が、ヴォイドを倒す」
アレンの目に、決意の光が宿る。
「では、作戦会議を始めます」
エリナが七大国の代表たちを見渡す。
「ヴォイドの居場所は判明しています。世界の果て、『終焉の地』と呼ばれる場所」
巨大な地図が、壁に投影される。
そこには、七大国のさらに北、人跡未踏の極寒の大地が示されていた。
「終焉の地……」
「かつて、古代魔導王国が最終決戦を行ったと言われる場所です」
エリナが説明する。
「そこで、ヴォイドは『世界崩壊の儀式』を準備しているようです」
「世界崩壊の儀式!?」
全員が驚愕する。
「その名の通り、世界そのものを崩壊させる禁忌の術です」
グランディアの代表が説明する。
「もし儀式が完成すれば、七大国全てが滅びます。いえ、この世界そのものが」
重苦しい沈黙が、講堂を包む。
「儀式の完成まで、残り三日」
エリナが告げる。
「それまでに、ヴォイドを止めなければなりません」
「七大国連合軍を再編成します」
アルディアの代表が宣言する。
「そして、終焉の地へ向かう。総力戦です」
「出発は、明日の朝。全ての戦力を集結させます」
エアリアの代表も続ける。
「そして——」
全員の視線が、一人の少年に集まる。
アレン・アルカディア。
八属性を統べる者。
創世の核を手に入れた、世界最強の魔導士。
「アレン・アルカディア」
エリナが荘厳な声で呼びかける。
「あなたを、連合軍の総大将に任命します」
「総大将……!?」
アレンが驚く。
「あなたこそが、ヴォイドと対等に戦える唯一の存在。そして、世界を救える唯一の希望です」
エリナの言葉に、講堂中の視線がアレンに集まる。
「受けてくれますか?」
静寂の中、アレンは深呼吸をした。
そして、力強く答える。
「はい。受けます」
「「「おおおおお!」」」
講堂中から、歓声が上がる。
「では、決定です」
エリナが宣言する。
「明日の朝、出発。目標は、ヴォイドの撃破と、世界崩壊の儀式の阻止」
「「「了解!」」」
全員が声を揃える。
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会議が終わり、アレンは一人、学園の中庭に出ていた。
夜空には、満天の星が輝いている。
「重い責任を背負ったな」
後ろから、レンが声をかける。
「レン……」
「でも、お前なら大丈夫だ。俺たちが支える」
「ありがとう」
アレンが微笑む。
「それに」
レンが空を見上げる。
「お前は一人じゃない。Aクラス全員が、お前の味方だ」
「ああ、わかってる」
二人は、しばらく沈黙の中で星を眺めていた。
「なあ、アレン」
「ん?」
「もし、俺たちが負けたら——」
「負けない」
アレンが即座に言う。
「絶対に、負けない。この世界を、みんなを守る」
アレンの目に、強い決意が宿る。
「そうか」
レンが満足そうに笑う。
「なら、安心だ」
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その夜、アレンは八体の化身たちと共に、最後の訓練をしていた。
「《オクタパーフェクトフュージョン》!」
八属性が完全に融合し、純粋なる力の奔流となる。
「いい感じだな、アレン」
イグニスが褒める。
「でも、まだ足りない」
アレンが悔しそうに呟く。
「ヴォイドは、元八属性統べる者。俺と同じ力を持っている」
「でも、あなたには創世の核がある」
エルフェリアが言う。
「それが、決定的な差になるわ」
「創世の核……」
アレンが自分の胸に手を当てる。
核の力が、体内で静かに脈動している。
「でも、まだ完全に制御できていない。もっと力を引き出せるはずなんだ」
「焦らないで、アレン」
グラシアが優しく言う。
「力は、必要な時に必ず目覚める」
「そうよ。私たちを信じて」
シルフが明るく言う。
「我らは常に汝と共にある」
ノクスが静かに誓う。
「大地のように、揺るがない」
テラが力強く言う。
「水のように、いつでも側にいる」
アクアが優しく言う。
「最強のチームだからな!」
ヴォルトが雷を纏いながら叫ぶ。
「みんな……ありがとう」
アレンが八体を見渡す。
「お前たちがいれば、何も怖くない」
八体の化身が、アレンを囲んで手を繋ぐ。
温かな光が、訓練場を満たす。
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翌朝、学園の正門前。
連合軍が、集結していた。
総勢一万の兵力。
七大国全ての精鋭が、この場に集まっている。
その先頭に立つのは——
アレン・アルカディア。
十五歳の少年にして、連合軍総大将。
「全軍、注目!」
アレンの声が響く。
一万の兵士たちが、一斉にアレンを見つめる。
「今から、我々は終焉の地へ向かう」
アレンが力強く語る。
「そこには、世界を滅ぼそうとする敵がいる。ヴォイド——元八属性統べる者にして、最強の魔導士」
兵士たちに、緊張が走る。
「戦いは、厳しいものになるだろう。命を落とす者も、出るかもしれない」
アレンが一呼吸置く。
「だが、忘れるな。我々が戦うのは、この世界を守るためだ」
「家族を守るため」
「友人を守るため」
「愛する人を守るため」
「そして、未来を守るためだ!」
アレンの声が、力強く響く。
「俺は誓う。必ず、ヴォイドを倒す。そして、この世界を救ってみせる!」
「「「おおおおおおお!」」」
一万の兵士たちが、雄叫びを上げる。
その声は、天を貫くほどだった。
「では、出発!」
アレンが先頭に立ち、魔法の馬に跨る。
その後ろには、八体の化身たちが続く。
そして、ヒナタ、レン、トム、マルク、カイル、リサ、エマのAクラスメンバーたち。
「行くぞ!」
レンが剣を掲げる。
「終焉の地へ!」
連合軍が、ゆっくりと動き出す。
学園の生徒たちが、門の両側に並んで見送っている。
「アレン先輩、頑張ってください!」
「必ず勝ってきてね!」
「世界を救って!」
声援が飛び交う中、アレンは振り返って手を振った。
「必ず、勝って帰ってくる!」
そして、連合軍は学園を後にした。
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終焉の地への道のりは、五日間の行軍。
北へ、北へ。
気温は徐々に下がり、雪が降り始める。
「寒いな……」
トムが震える。
「これが、極寒の大地か」
マルクも寒さに耐える。
「まだ序の口だぞ。これから、もっと寒くなる」
レンが警告する。
だが、アレンたちは進み続ける。
一日目の夜、野営地。
「アレン、少し休め」
ヒナタが温かいスープを差し出す。
「ありがとう」
アレンが受け取る。
「明日からも、長い道のりだ」
「ああ。でも、必ず辿り着く」
アレンが決意を新たにする。
二日目、三日目と進むにつれ、気温はさらに下がる。
雪が激しくなり、吹雪が視界を遮る。
「前が見えない!」
カイルが叫ぶ。
「このままじゃ、遭難するぞ!」
リサも不安そうに言う。
「大丈夫だ」
アレンが前に出る。
「《オクタハーモニー・風属性》」
風を操り、吹雪を押しのける。
「さすがだな、アレン」
レンが感心する。
「これで、進めるぞ!」
連合軍は、アレンの力で道を切り開きながら進んでいく。
四日目、五日目。
ついに、終焉の地が見えてきた。
「あれが……」
アレンが前方を見つめる。
地平線の彼方に、巨大な黒い城が聳え立っている。
いや、城ではない。
それは、古代の遺跡。
かつて、古代魔導王国が最終決戦を行った場所。
「終焉の地だ」
レンが呟く。
「あそこに、ヴォイドがいる」
アレンの目が、鋭く光る。
「全軍、停止!」
アレンが号令をかける。
連合軍が、遺跡から一キロ手前の位置で停止する。
「ここから先は、精鋭部隊だけで行く」
アレンが決断する。
「Aクラス、そして各国の隊長クラス。総勢百名で、遺跡に突入する」
「了解」
選ばれた百名の精鋭が、前に出る。
「残りの部隊は、ここで待機。もし、俺たちが失敗したら——」
「失敗なんてさせないぞ」
レンが遮る。
「俺たちは、必ず勝つ。そうだろ?」
「……ああ、その通りだ」
アレンが笑顔を見せる。
「じゃあ、行くぞ」
精鋭百名が、遺跡へ向けて進み始める。
その先頭に、アレンが立つ。
八体の化身が、彼を囲む。
「さあ、ヴォイド」
アレンが呟く。
「お前との決着をつける時が来た」
遺跡の入口が、不気味に口を開けている。
まるで、彼らを待っていたかのように。
「行くぞ、みんな」
アレンが一歩を踏み出す。
「最後の戦いだ」
精鋭百名が、遺跡の中へと入っていく。
闇が、彼らを飲み込む。
そして——
遺跡の最深部で、一人の男が微笑んでいた。
銀髪、紫の瞳、冷酷な表情。
ヴォイド。
「ようやく来たか、アレン・アルカディア」
彼の声が、闇に響く。
「久しぶりだな。いや、初めましてと言うべきか」
ヴォイドが立ち上がる。
「さあ、始めよう。八属性統べる者同士の、最終決戦を」
彼の全身から、凄まじい魔力が溢れ出す。
それは、アレンと同等か、それ以上の力。
「面白くなってきた」
ヴォイドが不敵に笑う。
「さあ、来い。全力で戦え」
「そして——」
ヴォイドの目が、妖しく光る。
「絶望しろ」
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**次回、第7話「最終決戦・中編」**
**ヴォイドとの激突! 八属性同士の究極の戦いが、今始まる——!**




