第5話「遺跡の深部へ」
翌朝、学園の正門前。
朝日が昇り始める中、Aクラスの全員が集合していた。
「全員揃ったな」
レンが確認する。
アレン、ヒナタ、レン、トム、マルク、カイル、リサ、エマ——八人全員が、冒険の装備を整えている。
「では、行ってきます」
アレンがエリナ学園長に一礼する。
「気をつけてね。そして、必ず帰ってきなさい」
エリナが優しく微笑む。
「はい!」
全員が声を揃える。
そして、一行は転移陣を使い、東方地域の拠点都市エルドリアへと向かった。
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エルドリアに到着すると、前回案内してくれた調査員が待っていた。
「よく来てくれた、アレン」
「お久しぶりです」
「今回の任務は、前回よりもさらに危険だ。覚悟はいいか?」
「はい」
アレンが力強く頷く。
「では、案内しよう」
一行は、再び東方遺跡へ向かった。
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数時間後、東方遺跡に到着。
「懐かしいな、ここ」
トムが遺跡を見上げる。
「前回は、古代魔獣と戦ったな」
マルクが思い出す。
「今回は、その先だ。もっと深く、もっと危険な場所」
レンが真剣な表情で言う。
一行は、遺跡の中へと入っていく。
前回通った廊下を抜け、魔獣を封印した広間へ。
「ここだな」
アレンが広間の奥を見つめる。
そこには、見落としていた小さな扉があった。
「この先か……」
レンが扉に近づく。
扉には、八つの属性の紋章が円環状に刻まれている。
「やはり、八属性の封印だ」
アレンが扉に手を当てる。
瞬間、左目が金色に、右目が銀色に輝く。
体内から八属性のマナが溢れ出し、扉の紋章と共鳴する。
『——認証完了。アルカディアの血を継ぐ者よ、深淵への道を開く——』
古代語の声が響く。
ゴゴゴゴゴ……
扉がゆっくりと開いていく。
その先には、下へと続く螺旋階段があった。
「地下か……」
ヒナタが不安そうに呟く。
「行くぞ。気を引き締めろ」
アレンが先頭に立ち、階段を下り始める。
全員が後に続く。
階段は、果てしなく続いているように見えた。
十分、二十分、三十分……
ひたすら下へ、下へ。
「どこまで続くんだ、この階段……」
カイルが息を切らす。
「もう少しだ。頑張れ」
レンが励ます。
そして、ようやく階段の終わりが見えてきた。
「着いた……」
エマが呟く。
階段の先には、巨大な石造りの門が聳え立っていた。
高さは十メートル以上。幅も五メートルはある。
そして、門の中央には——
八つの属性を示す巨大な紋章が、複雑に絡み合うように刻まれていた。
「これが……最後の封印か」
アレンが門を見上げる。
門からは、強大なマナの波動が感じられる。
「アレン、この門……ただの封印じゃないわ」
グラシアが実体化して、門を分析する。
「これは、試練の門よ。開けるには、八属性全ての力を完璧に制御する必要がある」
「完璧に……」
「ええ。一つでもバランスが崩れれば、門は開かない。それどころか、反動で大きなダメージを受けるわ」
グラシアの警告に、全員が緊張する。
「わかった。じゃあ、慎重にやろう」
アレンが深呼吸する。
「みんな、少し下がっていてくれ」
「アレン、大丈夫?」
ヒナタが心配そうに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ」
アレンが微笑む。
そして、門の前に立つ。
「エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクス、グラシア、テラ、アクア、ヴォルト」
アレンが八体の名前を呼ぶ。
八体の化身が、次々と実体化する。
「力を貸してくれ。完璧な調和で、この門を開くんだ」
「任せて」
エルフェリアが微笑む。
「《オクタパーフェクトハーモニー》」
アレンが奥義を発動する。
八属性の力が、完璧に調和し始める。
光、炎、風、闇、氷、土、水、雷——八つの力が、一つの流れとなってアレンの体内を巡る。
そして、その力を門へと注ぎ込む。
門の紋章が、一つずつ光り始める。
光の紋章——金色に輝く。
炎の紋章——紅く燃える。
風の紋章——翠に煌めく。
闇の紋章——漆黒に脈動する。
氷の紋章——銀色に凍える。
土の紋章——茶色に重厚に。
水の紋章——青く流れる。
雷の紋章——黄金に閃く。
八つの紋章が、完璧に調和する。
『——試練、認可——』
『——八属性統べる者よ、深淵の間へと進むがよい——』
ゴゴゴゴゴゴ……
巨大な門が、ゆっくりと開いていく。
「やった……!」
トムが歓声を上げる。
門の向こうには、広大な空間が広がっていた。
「これは……」
アレンが息を呑む。
それは、巨大な地下神殿だった。
天井は遥か高く、まるで地上のような開放感がある。だが、光源は魔導灯だけ。青白い光が、神殿全体を照らしている。
神殿の中央には、巨大な祭壇があった。
そして、その祭壇の上には——
一つの光り輝く結晶が浮かんでいる。
「あれは……」
ヒナタが呟く。
「古代マナ結晶……でも、前回手に入れたものより遥かに大きい」
アレンが結晶を見つめる。
結晶は、直径一メートルほど。八色の光を放ちながら、ゆっくりと回転している。
「あれが、古代魔導王国が最も深く封印した『何か』なのか?」
レンが警戒しながら尋ねる。
その時、祭壇の周囲に八つの石碑があることに気づいた。
「あの石碑に、何か書いてある」
リサが指差す。
アレンが最も近い石碑に近づく。
そこには、古代文字が刻まれていた。
『——八属性統べる者へ——』
『——汝がここに辿り着いたならば、それは運命——』
『——この結晶は、古代魔導王国最大の遺産——』
『——その名は『創世の核』——』
「創世の核……?」
アレンが呟く。
次の石碑に移動する。
『——創世の核は、全ての属性マナの源——』
『——これを制する者は、世界のマナを自在に操れる——』
『——故に、我ら古代王国は、これを最深部に封印せり——』
「世界のマナを自在に……そんな力が……」
アレンが驚愕する。
さらに次の石碑。
『——しかし、時は流れ、世界は乱れる——』
『——いつの日か、真に世界を救う者が現れん——』
『——その者こそが、この力を使うべし——』
アレンが全ての石碑を読み終えると、祭壇の上に浮かぶ創世の核が一層強く輝いた。
『——八属性統べる者よ——』
突然、結晶から声が響く。
『——汝は、この力を求めるか——』
「これは……結晶が喋っている!?」
マルクが驚く。
『——答えよ。汝は、何のために力を求める——』
結晶の問いかけに、アレンは一瞬沈黙した。
そして、真っ直ぐに結晶を見つめて答える。
「俺は、力そのものは求めていない」
『——ならば、何を求める——』
「俺が求めるのは、仲間を守る力。そして、世界を平和にする力だ」
アレンが力強く答える。
「力は、目的じゃない。手段だ。大切なのは、その力を何のために使うか」
『——……なるほど——』
結晶が、まるで満足したかのように輝きを増す。
『——汝の答え、受け入れた——』
『——では、最後の試練を与えよう——』
「最後の試練……?」
その瞬間、神殿全体が激しく揺れ始めた。
「な、何だ!?」
レンが叫ぶ。
祭壇の周囲に、八つの魔法陣が浮かび上がる。
そして、それぞれの魔法陣から——
光の戦士。
炎の戦士。
風の戦士。
闇の戦士。
氷の戦士。
土の戦士。
水の戦士。
雷の戦士。
八体の属性の化身が、実体化した。
だが、アレンの化身たちとは違う。これらは、創世の核が生み出した試練の化身だ。
『——八属性の化身と戦え——』
『——そして、真の絆を証明せよ——』
『——勝利すれば、創世の核は汝のもの——』
「戦えって……この八体と!?」
カイルが驚愕する。
八体の試練の化身は、それぞれが強大な力を放っている。
「くそっ、どうする、アレン!?」
レンが剣を抜く。
アレンは、冷静に状況を分析する。
(八体の化身と戦う……でも、これは力の試練じゃない)
(真の絆を証明しろ、と言った)
(ならば——)
「みんな、剣を収めろ」
アレンが静かに命じる。
「え!? アレン、正気か!?」
レンが驚く。
「信じてくれ。これは、戦う試練じゃない」
アレンが八体の化身を呼ぶ。
「エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクス、グラシア、テラ、アクア、ヴォルト」
八体が、アレンの周りに集まる。
「これから、お前たちの力を借りる。でも、戦うんじゃない」
アレンが試練の化身たちを見つめる。
「対話するんだ」
アレンが一歩前に出る。
「俺は、アレン・アルカディア。八属性を統べる者だ」
試練の化身たちが、アレンを見つめる。
「お前たちは、力の化身だ。でも、力だけじゃない。お前たちにも、心がある」
アレンが手を差し出す。
「だから、お願いだ。俺と、俺の化身たちと、共に歩んでくれ」
『——……——』
試練の化身たちが、沈黙する。
そして、アレンの化身たちも、それぞれ対応する試練の化身へ近づいていく。
エルフェリアが、光の戦士へ。
イグニスが、炎の戦士へ。
シルフが、風の戦士へ。
ノクスが、闇の戦士へ。
グラシアが、氷の戦士へ。
テラが、土の戦士へ。
アクアが、水の戦士へ。
ヴォルトが、雷の戦士へ。
「私たちは、同じ属性を持つ者同士。敵である必要はないわ」
エルフェリアが優しく語りかける。
「そうだぜ。一緒に、もっと強くなろうぜ」
イグニスが豪快に笑う。
「仲良くしましょう!」
シルフが明るく言う。
「我らは一つ」
ノクスが静かに言う。
「共に歩みましょう」
グラシアが微笑む。
「力を合わせれば、何でもできる」
テラが力強く言う。
「一緒に流れましょう」
アクアが優しく言う。
「最強のチームだ!」
ヴォルトが叫ぶ。
八体の化身たちの言葉に、試練の化身たちが反応する。
光の戦士が、エルフェリアの手を取る。
炎の戦士が、イグニスと拳を合わせる。
風の戦士が、シルフと手を繋ぐ。
闇の戦士が、ノクスと頷き合う。
氷の戦士が、グラシアと微笑み合う。
土の戦士が、テラと肩を組む。
水の戦士が、アクアと寄り添う。
雷の戦士が、ヴォルトと雷を交わす。
そして——
八体の試練の化身が、光の粒子となって消えていく。
いや、消えたのではない。
アレンの化身たちと、融合したのだ。
『——試練、完遂——』
創世の核の声が響く。
『——汝は、力ではなく絆で勝利した——』
『——真の八属性統べる者よ——』
『——この力、汝に授けん——』
創世の核が、ゆっくりとアレンの元へ降りてくる。
アレンが両手を差し出すと、核がその手の中に収まった。
瞬間、凄まじいマナがアレンの体内に流れ込む。
「うわっ……!」
アレンの全身が、八色の光に包まれる。
そして、八体の化身たちも輝き始める。
「これは……」
エルフェリアが驚く。
「力が……溢れてくる……」
イグニスが感嘆する。
八体の化身たちが、試練の化身と融合したことで、さらに強大な力を得たのだ。
そして、アレンも——
『——創世の核の力を受け入れし者よ——』
『——汝は今、真に世界を救う力を得た——』
『——その力を、正しく使うことを祈る——』
創世の核が、アレンの体内に完全に取り込まれる。
光が収まると、アレンは膝をついていた。
「アレン!」
ヒナタが駆け寄る。
「大丈夫……ただ、凄まじい力だった……」
アレンが立ち上がる。
その目には、以前よりも遥かに強い輝きが宿っていた。
「これが……創世の核の力……」
アレンが自分の手を見つめる。
世界中のマナが、手に取るように感じられる。
「すごい……アレン、あなたから放たれる力……」
ヒナタが息を呑む。
「これで、もう誰にも負けないな」
レンが満足そうに笑う。
「いや、まだだ」
アレンが真剣な表情で言う。
「この力は、まだ完全に制御できていない。使いこなすには、もっと修練が必要だ」
「そうか……でも、凄い力を手に入れたな」
レンが感心する。
「ああ。でも、これは俺一人の力じゃない」
アレンが八体の化身を見渡す。
「みんなのおかげだ」
「当然よ」
エルフェリアが微笑む。
「私たちは、永遠の絆で結ばれているんだから」
八体の化身が、アレンの周りを囲む。
そして、全員で手を繋ぐ。
温かな光が、神殿を満たす。
「さあ、帰ろう。学園に」
アレンが全員を見渡す。
「そして、この力を正しく使う方法を、みんなで考えよう」
「「「おう!」」」
全員が声を揃える。
一行は、神殿を後にした。
長い階段を上り、遺跡を抜け、地上へ。
夕日が、美しく空を染めている。
「終わったな」
レンが空を見上げる。
「ああ、終わった。そして、始まったんだ」
アレンも空を見上げる。
「新しい時代が」
一行は、エルドリアへ戻り、転移陣で学園へと帰還した。
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学園の正門前。
エリナ学園長が、笑顔で迎える。
「お帰りなさい、アレン。無事で良かったわ」
「ただいま戻りました」
アレンが一礼する。
「任務は……成功したのね?」
「はい。そして、これを手に入れました」
アレンが創世の核について説明する。
エリナの表情が、驚愕に変わる。
「創世の核……まさか、あの伝説の……」
「はい。古代魔導王国が最も深く封印した、最大の遺産です」
「そんな力を……あなたは本当に、選ばれた者なのね」
エリナが感慨深げに言う。
「さあ、中に入りなさい。詳しい報告は、後で聞かせてもらうわ」
「はい」
一行が学園内に入っていく。
生徒たちが、歓声で迎える。
「お帰りなさい!」
「成功したんですね!」
「さすがです、アレン先輩!」
声援が飛び交う中、アレンは笑顔で手を振った。
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その夜、アレンは自室で創世の核の力を感じ取っていた。
「すごい力だ……これがあれば、どんな敵でも倒せる」
だが、その時——
「アレン」
エルフェリアが実体化する。
「力に溺れないで」
「え?」
「創世の核は、確かに強大な力よ。でも、それは諸刃の剣」
エルフェリアが真剣な表情で言う。
「力に頼りすぎれば、大切なものを見失う。セレスのように」
「……そうだな」
アレンが我に返る。
「ありがとう、エルフェリア。お前がいてくれて良かった」
「いいえ。私たちは、いつでもあなたを正しい道へ導くわ」
エルフェリアが微笑む。
その時、他の七体の化身も実体化した。
「そうだぜ。俺たちがいる限り、お前は道を踏み外さない」
イグニスが豪快に笑う。
「一緒に、正しい道を歩みましょう」
シルフが明るく言う。
「我らは常に汝を見守る」
ノクスが静かに誓う。
「どんな時も、側にいるわ」
グラシアが優しく言う。
「支え続ける」
テラが力強く言う。
「流れのように、寄り添う」
アクアが静かに言う。
「俺たちは最強のチームだ!」
ヴォルトが雷を纏いながら叫ぶ。
「みんな……ありがとう」
アレンが八体を抱きしめる。
「お前たちがいてくれるから、俺は大丈夫だ」
八体の化身が、温かく応える。
星空の下、九つの絆が静かに輝いていた。
そして、遠い未来へ向けて——
新しい物語が、始まろうとしている。
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**次回、第6話「最終決戦・前編」**
**創世の核の力、その真価が問われる時——!**




