第4話「決戦前夜」
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祝勝会から一週間が過ぎた。
学園には、再び日常が戻ってきていた。授業、訓練、そして仲間たちとの何気ない会話。
だが、アレンの心の中には、まだ一つの不安があった。
「アレン、どうしたの? また考え事?」
昼休み、中庭のベンチでヒナタが声をかけてくる。
「ああ……実は、エリナ学園長から連絡があってな」
アレンが真剣な表情で答える。
「七大国の情報部から報告が入ったらしい。東方遺跡の奥深く、まだ未調査の区画があって、そこから異常なマナの反応が検知されたって」
「東方遺跡……あの古代魔獣を封印していた場所?」
「ああ。調査隊が派遣されたんだが、全員が謎の力に阻まれて帰還した。誰も、その区画には入れなかったらしい」
アレンが拳を握る。
「学園長は、『これは八属性を統べる者にしか解決できない問題かもしれない』と言っていた」
「つまり……また任務?」
ヒナタが心配そうに尋ねる。
「ああ。でも、今度は強制じゃない。俺が行きたいなら行ってもいいし、断ってもいいって」
アレンが空を見上げる。
「でも、俺は……」
「行くつもりなのね」
ヒナタが静かに言う。
「ああ。もし、あの遺跡に何か危険なものが眠っているなら、放っておけない」
アレンの決意に、ヒナタは微笑んだ。
「わかったわ。なら、私も行く」
「ヒナタ……」
「あなた一人で行かせるわけないでしょ? 私たちは、仲間よ」
その時、後ろから声が響いた。
「俺も行く」
振り返ると、レンが腕を組んで立っていた。
「レン……いつから?」
「さっきから聞いてた。お前だけに、いいところは取らせないぜ」
レンが不敵に笑う。
「それに、東方遺跡か。面白そうじゃないか」
「レン……ありがとう」
「礼はいらん。仲間だろ?」
その言葉に、アレンの胸が熱くなる。
「よし、じゃあAクラス全員で行くか」
「おう!」
レンが拳を突き出す。
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その日の夕方、訓練場にAクラスのメンバー全員が集合した。
「みんな、集まってくれてありがとう」
アレンが全員を見渡す。
「実は、また東方遺跡に行くことになった。今度は、未調査の区画の探索だ」
「東方遺跡!」
トムが目を輝かせる。
「また、あの伝説の場所に行けるのか!」
「でも、危険な任務になるかもしれない。だから、無理に参加する必要はない」
アレンの言葉に、マルクが笑った。
「何言ってんだ、アレン。俺たちはAクラスだぜ? 当然行くに決まってる」
「そうよ。私たちは、チームなんだから」
リサも微笑む。
「俺も行く。火と雷で、何でも燃やしてやるぜ」
カイルが拳を打ち鳴らす。
「私も。氷と水の力、役立てます」
エマも静かに決意を示す。
「みんな……」
アレンの目が潤む。
「ありがとう。じゃあ、全員で行こう」
「おう!」
全員が声を揃える。
「出発は、明後日の朝だ。それまでに、しっかり準備しよう」
アレンの指示に、全員が頷いた。
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その夜、アレンは自室で準備をしていた。
「アレン」
突然、部屋にエルフェリアが実体化した。
「エルフェリア、どうした?」
「少し、話したいことがあって」
エルフェリアが真剣な表情で座る。
「東方遺跡の未調査区画……そこには、何かがある」
「何か?」
「はっきりとはわからない。でも、私たち化身が感じ取れる……強大で、古代の力」
エルフェリアが不安そうに言う。
「もしかしたら、古代魔導王国が最も深く封印した『何か』かもしれない」
「最も深く封印した……」
アレンが考え込む。
「それは、危険なものなのか?」
「わからない。でも、八属性を統べる者でなければ触れられない力……それは確実」
エルフェリアがアレンを見つめる。
「だから、慎重に行動してね」
「わかった。ありがとう、エルフェリア」
アレンがエルフェリアの手を取る。
「でも、お前たちがいれば大丈夫だ」
「ええ。私たちは、いつでもあなたと一緒よ」
エルフェリアが優しく微笑む。
その時、他の七体の化身も次々と実体化した。
「なんだか騒がしいと思ったら、会議か?」
イグニスが豪快に笑う。
「東方遺跡、楽しみね!」
シルフが嬉しそうに飛び跳ねる。
「我らも万全の準備を整えねば」
ノクスが静かに言う。
「氷の力、必要になるかもね」
グラシアが分析する。
「大地の力も忘れるな」
テラが腕を組む。
「水の流れを感じ取れば、道は開ける」
アクアが静かに言う。
「何が来ても、俺たちがいれば大丈夫だ!」
ヴォルトが雷を纏いながら豪語する。
「みんな……」
アレンが八体を見渡す。
「ありがとう。お前たちがいてくれるから、俺は何も恐れない」
「当然よ」
エルフェリアが微笑む。
「私たちは、永遠の絆で結ばれているんだから」
八体の化身が、アレンの周りを囲む。
温かな光が、部屋を満たす。
「さあ、休みなさい。明日も準備があるでしょう?」
エルフェリアが優しく言う。
「ああ、そうだな」
アレンがベッドに横たわる。
八体の化身が、順番にアレンに語りかける。
「おやすみ、アレン」
「また明日な」
「良い夢を」
「我らは常に汝と共に」
「ゆっくり休んで」
「力を蓄えろ」
「明日も頑張ろうね」
「じゃあな!」
八体が光の粒子となって消えていく。
アレンは、温かな気持ちでまどろんでいった。
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翌日、アレンは学園長室に呼ばれた。
「お呼びですか、学園長」
「ええ、アレン。東方遺跡の任務について、詳細を説明するわ」
エリナが地図を広げる。
「未調査区画は、以前あなたが魔獣を封印した場所から、さらに地下深くにある」
エリナが地図の一点を指す。
「調査隊の報告によれば、そこには巨大な扉があって、八つの属性の紋章が刻まれているらしい」
「八つの属性……」
「ええ。おそらく、八属性を統べる者でなければ開けられない扉よ」
エリナが真剣な表情になる。
「その先に何があるのか、誰にもわからない。でも、一つだけ確かなことがある」
「それは?」
「古代魔導王国が、最も重要な『何か』をそこに封印したということ」
エリナの言葉に、アレンは背筋に緊張を感じた。
「わかりました。必ず、その謎を解明してきます」
「無理はしないでね。危険だと判断したら、すぐに撤退しなさい」
「はい」
アレンが頷く。
「それと、アレン」
エリナが立ち上がり、窓の外を見つめる。
「あなたは、もう立派な魔導士よ。いいえ、それ以上。八属性を統べる者として、世界を救った英雄」
「学園長……」
「でも、忘れないでね。あなたは、まだ十五歳の少年でもある。全てを一人で背負う必要はないのよ」
エリナが優しく微笑む。
「仲間を信じて、頼りなさい」
「……はい、ありがとうございます」
アレンが深々と頭を下げた。
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学園長室を出ると、廊下でヒナタが待っていた。
「アレン、話は終わった?」
「ああ」
「じゃあ、一緒に訓練場に行きましょう。みんなが待ってるわ」
二人が訓練場に向かうと、Aクラスのメンバー全員が集まっていた。
「よし、揃ったな」
レンが全員を見渡す。
「明日は出発だ。今日は、最後の訓練をしよう」
「了解!」
全員が声を揃える。
訓練が始まる。
トムの風魔法。
マルクの土魔法。
カイルの火と雷の魔法。
リサの水魔法。
エマの氷と水の魔法。
そして、ヒナタの三属性魔法。
レンの炎と雷の剣術。
それぞれが、自分の技を磨いていく。
「《風刃乱舞・改》!」
トムが新しい技を披露する。
「おお、すごいな!」
マルクが感嘆する。
「俺も負けてられない。《大地の槍》!」
マルクが土の槍を生成する。
「じゃあ、俺も。《雷炎融合・紅き雷》!」
カイルが炎と雷を融合させる。
全員が、それぞれの成長を見せ合う。
「みんな、本当に強くなったな」
アレンが感慨深げに言う。
「お前もな」
レンが肩を叩く。
「俺たちは、共に成長してきた。そして、これからも成長し続ける」
「ああ、その通りだ」
アレンが笑顔を見せる。
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訓練が終わり、夕日が沈み始めた頃。
アレンは一人、学園の展望台に立っていた。
「きれいな夕日ね」
後ろから、姉のリアナが声をかけてくる。
「姉さん……」
「明日、出発するんでしょ? また危険な任務に」
リアナが隣に立つ。
「ああ。でも、大丈夫だ。俺には仲間がいる」
「そうね。あなたは、もう一人じゃない」
リアナが優しく微笑む。
「でも、姉としては心配よ。弟が危険な目に遭うのは」
「心配かけて、ごめん」
「謝らないで。あなたは、自分のやるべきことをしているだけ」
リアナがアレンの頭を撫でる。
「ただ、約束して。必ず、無事に帰ってくるって」
「約束する。必ず帰ってくる」
アレンが力強く頷く。
「それと……」
リアナが一瞬、言葉を躊躇する。
「父さんも、心配してるわよ。口には出さないけど」
「父さんが?」
「ええ。昨日、私に『アレンは大丈夫か』って聞いてきたの。珍しく、弱気な顔をしていたわ」
リアナの言葉に、アレンの胸が熱くなる。
「父さん……」
「あの人なりに、あなたを心配しているのよ。だから、必ず帰ってきなさい」
「ああ、必ず」
二人は、しばらく夕日を眺めていた。
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その夜、学園の食堂で壮行会が開かれた。
Aクラスのメンバーだけでなく、他のクラスの生徒たちも集まっている。
「アレン、頑張ってね!」
「必ず成功させてきてよ!」
「私たちの英雄!」
生徒たちが次々と声をかけてくる。
「ありがとう、みんな」
アレンが笑顔で応える。
「さあ、乾杯しよう!」
レンがグラスを掲げる。
「Aクラスの成功と、無事の帰還を祈って!」
「「「乾杯!」」」
全員がグラスを合わせる。
食堂には、笑い声と楽しい会話が響く。
だが、アレンの心の中には、一抹の不安もあった。
(東方遺跡の扉の先には、何があるんだろう……)
その時、ヒナタが隣に座った。
「アレン、不安?」
「少しな」
「大丈夫よ。私たちがいるから」
ヒナタが優しく微笑む。
「それに、八体の化身もいる。何があっても、乗り越えられるわ」
「ありがとう、ヒナタ」
アレンも笑顔を見せる。
「お前がいてくれて、本当に良かった」
「私も、あなたと出会えて良かった」
二人は、グラスを合わせる。
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壮行会も終盤に差し掛かった頃、ディルク教官とシリウス教官が姿を現した。
「アレン、少しいいか」
「はい、教官」
アレンが二人の元へ向かう。
「明日の任務、気をつけろよ」
ディルクが真剣な表情で言う。
「東方遺跡の深部……そこには、古代の秘密が眠っている。何があるかわからない」
「はい、気をつけます」
「それと」
シリウスが口を開く。
「もし、どうにもならない状況になったら、迷わず撤退しろ。お前の命が、何より大切だ」
「教官……」
「お前は、八属性を統べる者。世界にとって、かけがえのない存在だ。無茶はするな」
シリウスの言葉に、アレンは深く頷いた。
「わかりました。無茶はしません」
「よし、信じてるぞ」
ディルクが肩を叩く。
「必ず、無事に帰ってこい」
「はい!」
アレンが力強く返事をする。
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壮行会が終わり、アレンは自室に戻った。
ベッドに横たわると、八体の化身が次々と実体化する。
「アレン、明日はいよいよね」
エルフェリアが優しく言う。
「ああ。緊張するな」
「大丈夫よ。私たちがいるから」
シルフが明るく言う。
「何があっても、俺たちが守る」
イグニスが力強く言う。
「我らは常に汝と共にある」
ノクスが静かに誓う。
「氷の力で、どんな困難も乗り越えるわ」
グラシアが微笑む。
「大地の力で、支える」
テラが頷く。
「水の流れのように、いつでも側にいる」
アクアが静かに言う。
「俺たちは、最強のチームだ!」
ヴォルトが雷を纏いながら叫ぶ。
「みんな……ありがとう」
アレンが八体を見渡す。
「お前たちがいてくれるから、俺は何も恐れない」
「それでいいのよ」
エルフェリアが優しく微笑む。
「さあ、今日はゆっくり休みなさい。明日に備えて」
「ああ」
アレンが目を閉じる。
八体の化身が、静かにアレンを見守る。
そして、一人ずつ、光の粒子となって消えていく。
最後に残ったエルフェリアが、アレンの額に優しくキスをする。
「おやすみ、アレン。良い夢を」
エルフェリアも消えていく。
部屋には、静寂が戻る。
アレンは、深い眠りについた。
明日、新たな冒険が始まる。
東方遺跡の深部で、何が待っているのか。
それは、まだ誰にもわからない。
だが、一つだけ確かなことがある。
アレンには、信頼できる仲間がいる。
そして、八体の化身という、最強の絆がある。
どんな困難も、きっと乗り越えられる——
星空の下、学園は静かに眠る。
明日の冒険を夢見て。
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**次回、第5話「ノクティア攻防戦」**
**いや違う——次回、第5話「遺跡の深部へ」**
**封印された古代の秘密が、今明かされる——!**
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