第2話「四化身の帰還・後編」
漆黒の城、最上階の謁見の間。
アレンとセレスの力が激突し、凄まじい衝撃波が部屋中に広がった。
「ぐっ……!」
「くっ……!」
二人とも、一歩も引かない。
八属性の光と、深淵の闇が拮抗している。
「すごい……互角だわ」
ヒナタが息を呑む。
「いや、まだセレスは本気じゃない」
レンが鋭く分析する。
その言葉通り、セレスは余裕の表情を崩していなかった。
「なかなかやりますわね、アレン。でも、これはまだ前座ですわよ」
セレスが指を鳴らすと、謁見の間の床から無数の闇の触手が伸びてきた。
「みんな、散れ!」
アレンが叫ぶ。
Aクラスのメンバーたちが、素早く四方へ飛散する。
「《風刃乱舞》!」
トムが風の刃で触手を切り裂く。
「《大地の盾》!」
マルクが土の障壁を展開して仲間を守る。
「《雷撃》!」
カイルが雷で触手を焼き払う。
「《水流縛》!」
リサが水の鎖で触手の動きを封じる。
「《氷結》!」
エマが氷で触手を凍らせる。
「みんな、ナイス!」
トムが叫ぶ。
だが、セレスは動じない。
「やりますわね。でも、私の相手はあなたたちではありません」
セレスの視線が、アレンだけに向けられている。
「《深淵の槍》!」
セレスが闇の槍を無数に生成し、アレンへ向けて放つ。
「《オクタハーモニー・防御展開》!」
アレンが八属性の障壁を展開する。
闇の槍が障壁に激突し、激しい火花を散らす。
「くっ……この威力……!」
アレンの障壁にひびが入る。
「まだまだ!《深淵の波動》!」
セレスがさらに強力な闇の波動を放つ。
バキィィィン!
アレンの障壁が砕け散る。
「アレン!」
ヒナタが叫ぶ。
だが、その瞬間——
「《光の癒し》!」
エルフェリアがアレンの前に立ち、光の障壁を展開した。
「エルフェリア!」
「大丈夫、アレン。私たちがいるわ」
エルフェリアが微笑む。
そして、他の七体の化身も次々と姿を現した。
「俺の炎で燃やし尽くしてやるぜ!」
イグニスが炎を纏う。
「風よ、アレンを守って!」
シルフが風を巻き起こす。
「闇は我が領域。貴様の闇など、我が主には届かせぬ」
ノクスが闇を操る。
「氷の結界を展開するわ」
グラシアが氷の壁を作る。
「大地の力で支える」
テラが地面を固める。
「水の流れで守る」
アクアが水の盾を作る。
「雷で迎撃だ!」
ヴォルトが雷を放つ。
八体の化身が、アレンを中心に円陣を組む。
「みんな……」
アレンの胸に、温かなものが込み上げる。
「あら、八体全てが実体化しているのね。素晴らしい……」
セレスが感心したように呟く。
「でも、それでも私には勝てませんわ。なぜなら——」
セレスの全身から、さらに強大な闇の魔力が溢れ出す。
「私は、この十年間、ただ一つの目的のために力を蓄えてきたのですから!」
セレスの背後に、巨大な闇の化身が現れた。
それは、以前遺跡で見たものよりも遥かに巨大で、強大だった。
「これが……私の真の力。《深淵の具現化・完全版》!」
闇の化身が、謁見の間全体を覆うほどの大きさに膨れ上がる。
「なんて……大きさだ……」
マルクが唖然とする。
「これじゃ、勝てるわけない……」
リサが恐怖に震える。
「諦めるな!」
レンが叫ぶ。
「俺たちには、アレンがいる! 八属性を統べる者が!」
レンの言葉に、全員が我に返る。
「そうだ……俺たちには、アレンがいる」
カイルが拳を握りしめる。
「アレン、私たちも手伝うわ!」
ヒナタが叫ぶ。
「みんな……」
アレンが仲間たちを見渡す。
そして、八体の化身たちを見つめる。
「ああ、ありがとう。でも——」
アレンが一歩前に出る。
「これは、俺とセレスの戦いだ。俺が、決着をつける」
アレンの目に、強い決意が宿る。
「みんなは、俺を信じていてくれ」
「アレン……」
ヒナタが心配そうに見つめる。
「大丈夫だ。俺には、この子たちがいる」
アレンが八体の化身を見渡す。
「そして、お前たち全員の想いがある。それが、俺の力だ」
アレンが剣を構える。
「セレス、お前の覚悟は理解した。お前は、本気で世界を変えようとしている」
「ええ、その通りですわ」
「でも、お前のやり方は間違っている。力による支配は、真の平和をもたらさない」
アレンが真っ直ぐにセレスを見つめる。
「だから、俺はお前を止める。全力で、お前とぶつかる」
「ふふ……いい目をしていますわね、アレン」
セレスが微笑む。
「では、お互い全力で戦いましょう。そして、どちらの理念が正しいのか、この戦いで証明するのです」
セレスが闇の化身を操る。
「行きなさい!《深淵の巨人》!」
闇の化身が、巨大な拳を振り下ろす。
「《オクタアルティメット》!」
アレンが八属性の力を解放する。
光と炎と風と闇と氷と土と水と雷——八つの力が融合し、巨大な光の剣となる。
そして——
ガキィィィィン!
闇の拳と光の剣が激突した。
謁見の間全体が、激しく揺れる。
「ぐぐぐ……!」
「くくく……!」
二人とも、全力で押し合う。
「もっと! もっと力を!」
セレスが叫ぶ。
闇の化身が、さらに力を増す。
「くっ……このままじゃ……!」
アレンが押され始める。
その時——
「アレン!」
エルフェリアが叫ぶ。
「私たちの力を、全て使って!」
「そうだぜ! 遠慮すんな!」
イグニスが続ける。
「私たちは、あなたの力よ!」
シルフが叫ぶ。
「我らを信じよ!」
ノクスが力強く言う。
「氷の力を!」
グラシア。
「土の力を!」
テラ。
「水の力を!」
アクア。
「雷の力を!」
ヴォルト。
八体の化身が、同時に叫ぶ。
「「「「全て、あなたに捧げる!」」」」
その瞬間、八体の化身の体が光り始めた。
そして——
八体が、光の粒子となってアレンの体内に流れ込んでいく。
「これは……!」
アレンの全身が、八色の光に包まれる。
光、炎、風、闇、氷、土、水、雷——八つの力が、アレンの中で完全に融合していく。
『——八化身融合——』
古代語の声が、アレンの心に響く。
『——これこそが、八属性統べる者の真の姿——』
『——八つが一つとなり、一つが八つとなる——』
『——完全なる融合——』
アレンの体が、変化していく。
左目が金色に、右目が銀色に輝く。
髪が八色に輝き始める。
全身から、圧倒的な魔力が溢れ出す。
「これが……真の力……!」
アレンが新たな力を感じ取る。
八体の化身が、自分の中にいる。
でも、消えたわけじゃない。
一つになったのだ。
完全に、完璧に。
「《オクタパーフェクトフュージョン》!」
アレンが新たな奥義を発動する。
八属性が完全に融合した、純粋なる力の奔流。
それは、もはや光でも闇でもない。
全ての属性を超越した、新たな力。
「なんて……力……!」
セレスが驚愕する。
アレンの力が、闇の化身を押し返していく。
「これが……八属性統べる者の真の力!」
アレンが叫ぶ。
《オクタパーフェクトフュージョン》の奔流が、闇の化身を飲み込んでいく。
「くっ……まさか……!」
セレスが信じられないという表情を浮かべる。
そして——
ドォォォォォォン!
凄まじい爆発と共に、闇の化身が消滅した。
「はぁ……はぁ……」
アレンが荒い息をつく。
セレスも、膝をついている。
「まさか……私の最強の力が……破られるなんて……」
セレスが信じられないという表情で呟く。
アレンは、ゆっくりとセレスへ近づいていく。
「セレス、もう終わりだ。これ以上戦っても、お前は勝てない」
「……ええ、認めますわ。あなたは、強い」
セレスが静かに言う。
「でも……それでも、私は引けません」
セレスが立ち上がる。
「私の理念は、間違っていない。力による統一こそが、真の平和をもたらすのです」
「セレス……」
「だから——」
セレスが最後の力を振り絞る。
「最後の最後まで、戦いますわ!《深淵の自爆》!」
「なっ!?」
セレスの体が、闇の魔力で膨れ上がる。
自爆魔法——自らの命と引き換えに、周囲全てを破壊する禁忌の術。
「セレス、やめろ! そんなことをしたら、お前も死ぬぞ!」
アレンが叫ぶ。
「構いませんわ。私の理念が叶わないなら、この命に意味はありません」
セレスが悲しげに微笑む。
「さようなら、アレン・アルカディア。あなたは強かった……」
闇の魔力が、臨界点に達しようとする。
「させるか!」
アレンが咄嗟に駆け寄り、セレスを抱きしめた。
「なっ……何を……!」
「お前を、死なせない!」
アレンの体から、八属性の光が溢れ出す。
「《オクタパーフェクトヒール》!」
八属性の癒しの力が、セレスの体を包み込む。
闇の魔力が、徐々に浄化されていく。
「やめて……私を……救おうとしないで……」
セレスが涙を浮かべる。
「なぜ……私は、あなたの敵なのに……」
「お前は、敵じゃない」
アレンが真っ直ぐにセレスを見つめる。
「お前は、ただ間違った道を選んだだけだ。でも、まだやり直せる」
「やり直す……?」
「ああ。お前の想い、世界を良くしたいという想いは、決して間違っていない。ただ、やり方が間違っていただけだ」
アレンの言葉に、セレスの目から涙が溢れる。
「私は……私は……ただ、みんなを幸せにしたかっただけなのに……」
セレスが初めて、本心を吐露する。
「十年前の内乱で、私は全てを失った。家族も、友人も、故郷も……」
「セレス……」
「だから、二度とあんな悲劇が起きないように、強い力で世界を統一しようと思った。でも……それは、間違っていたの?」
セレスが、まるで子供のように問いかける。
「間違っていたのは、やり方だけだ」
アレンが優しく答える。
「お前の想いは、純粋だった。でも、力だけでは人は幸せになれない。大切なのは、絆だ」
アレンがセレスの手を取る。
「俺たちと一緒に、世界を変えよう。力じゃなく、絆で」
「私に……そんな資格が……?」
「ある。お前は、まだやり直せる」
アレンの言葉に、セレスは静かに泣き崩れた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
セレスが何度も謝る。
「いいんだ。もう、全部終わった」
アレンがセレスの頭を優しく撫でる。
謁見の間に、静寂が訪れる。
戦いは、終わった。
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その時、ヒナタたちが駆け寄ってきた。
「アレン!」
「大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫だ」
アレンが笑顔を見せる。
「セレスも、もう戦わない」
アレンの言葉に、セレスは小さく頷いた。
「本当に……もう、いいの?」
ヒナタがセレスに優しく問いかける。
「……はい。私は、間違っていました」
セレスが静かに答える。
「これから、私は罪を償います。そして、正しい道を探します」
「そうか……良かった」
レンが安堵の表情を浮かべる。
その時、アレンの体から八色の光が溢れ出した。
そして、八体の化身が再び実体化する。
「アレン、よくやったわ」
エルフェリアが微笑む。
「やったな、アレン!」
イグニスが豪快に笑う。
「素敵だったわよ!」
シルフが嬉しそうに飛び跳ねる。
「見事であった」
ノクスが頭を下げる。
「完璧だったわ」
グラシアが褒める。
「流石だな」
テラが満足そうに頷く。
「良い戦いだった」
アクアが静かに言う。
「最高だったぜ!」
ヴォルトが雷を纏いながら叫ぶ。
「みんな……ありがとう」
アレンが八体を見渡す。
「お前たちがいてくれたから、勝てた」
「いいえ、これはあなたの力よ」
エルフェリアが優しく言う。
「私たちは、ただあなたと一つになっただけ。その力を引き出したのは、あなた自身」
「そうだぜ。俺たちは、お前を信じてただけだ」
イグニスが続ける。
「ありがとう、みんな。本当に……本当にありがとう」
アレンの目から、涙が溢れる。
嬉しさと、安堵と、そして感謝の涙。
「さあ、帰ろう。学園に」
アレンが全員を見渡す。
「戦いは、終わった。これから、新しい時代が始まるんだ」
「「「ああ!」」」
全員が声を揃えて応える。
そして、一行は漆黒の城を後にした。
外では、連合軍が歓声を上げている。
セレスの軍は、既に降伏していた。
「アレン! やったのか!?」
ディルク教官が駆け寄ってくる。
「はい。セレスは、もう戦いません」
アレンがセレスを紹介する。
「そうか……良かった」
ディルクが安堵の表情を浮かべる。
「では、凱旋だ! 学園へ帰還するぞ!」
「「「おおおおお!」」」
連合軍が、勝利の雄叫びを上げる。
その声は、ノクティア全土に響き渡った。
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その夜、野営地。
アレンは一人、焚き火の前に座っていた。
「終わったんだな……本当に」
アレンが呟く。
「ああ、終わったわ」
エルフェリアが隣に座る。
「これで、世界は平和になる?」
「わからない。でも、少なくとも大きな危機は去った」
エルフェリアが空を見上げる。
「そして、あなたは成長した。八属性を統べる者として、完全に覚醒した」
「ああ。でも、これはみんなのおかげだ」
アレンが八体の化身を見渡す。
全員が、焚き火の周りに集まっている。
「これから、どうするの?」
シルフが尋ねる。
「まずは、学園に戻る。そして……」
アレンが一呼吸置く。
「平和な世界を、みんなで作っていくんだ」
アレンの言葉に、八体が頷く。
「ああ、それがいい」
イグニスが笑う。
「私たちも、協力するわ」
グラシアが微笑む。
「当然だ」
テラが力強く言う。
「ずっと、一緒よ」
アクアが優しく言う。
「これからも、よろしくな」
ヴォルトが拳を突き出す。
「我らは永遠に汝と共にある」
ノクスが誓う。
「うん、これからもよろしくね!」
シルフが明るく言う。
「みんな……本当にありがとう」
アレンが全員を抱きしめる。
八体の化身。
八つの絆。
それが、アレンの宝物だ。
星空の下、八人と一人の絆が、静かに輝いていた。
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**次回、第3話「ノクティア前夜」**
**平和への道、そして新たな決意——**




