最終章:運命の終焉 第1話「四化身の帰還・前編」
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アルディア王立魔導学園、中央聖堂。
連合軍がノクティアへ向けて出発する前日の夜。アレンは、復活したばかりの四体の化身たちと共に、静かな時間を過ごしていた。
「本当に……本当に、戻ってこられたのね」
エルフェリアが自分の手を見つめながら、感慨深げに呟く。光の化身は、世界マナ化していた期間、実体を持つことができなかった。今、こうして実際に触れられる体があることが、まだ信じられないようだ。
「ああ。もう二度と、お前たちを失わない」
アレンが力強く言う。
「へへっ、なんか照れくせぇな。でも、嬉しいぜ」
イグニスが頭を掻きながら笑う。炎の化身は、相変わらず豪快な性格のままだ。
「アレン、ねえねえ! 今度こそ一緒に飛べるわね!」
シルフが嬉しそうに宙を舞う。風の化身は、実体を取り戻したことで、より自由に動けるようになった。
「我が主よ、再びこの身で仕えることができる喜び……言葉にできぬほどだ」
ノクスが静かに、しかし深い感動を込めて言う。闇の化身は、アレンへの忠誠心を改めて示した。
聖堂の一角では、実体を保ったままだったグラシア、テラ、アクア、ヴォルトの四体も集まっている。
「ようやく、八体全員が揃ったわね」
グラシアが微笑む。
「ああ。これで俺たちは完全だ」
テラが腕を組みながら頷く。
「八属性の完全調和……これこそが、真の力」
アクアが静かに分析する。
「これで、どんな敵が来ても怖くねぇぜ!」
ヴォルトが雷を纏いながら豪語する。
アレンは八体全てを見渡した。
光のエルフェリア。炎のイグニス。風のシルフ。闇のノクス。氷のグラシア。土のテラ。水のアクア。雷のヴォルト。
八つの属性、八つの個性、八つの絆。
「みんな、ありがとう。お前たちがいてくれるから、俺は戦える」
アレンの言葉に、八体が温かく応える。
「「「「こちらこそ、アレン」」」」
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その時、聖堂の扉が開き、ヒナタが入ってきた。
「アレン、みんな。お邪魔してもいい?」
「ヒナタ! もちろんだよ」
シルフが嬉しそうに手を振る。
ヒナタは八体の化身を見て、笑顔を浮かべた。
「本当に、全員揃ったのね。こうして見ると、壮観だわ」
「ああ。でも、まだ完全に力を引き出せているわけじゃない」
アレンが真剣な表情で言う。
「八体全てが実体化したことで、新しい力が使えるようになるはずなんだ。でも、まだその感覚が掴めていない」
「新しい力……?」
ヒナタが首を傾げる。
「ああ。古代文字に記されていた。『八属性が完全に揃った時、統べる者は真の力を解放する』と」
アレンが羊皮紙を取り出す。そこには、復活の儀式と共に記されていた、さらなる秘密が書かれていた。
『——八化身完全顕現の刻、統べる者は八つの力を一つに統合できる——』
『——それは、単なる調和を超えた、完全なる融合——』
『——八つが一つとなり、一つが八つとなる——』
『——それこそが、八属性統べる者の奥義——』
「完全なる融合……」
ヒナタが呟く。
「ああ。今まで使っていた《オクタハーモニー》は、八属性を調和させる技だった。でも、この奥義は違う。八属性を完全に一つに融合させる」
「でも、どうやって?」
「それが、まだわからないんだ」
アレンが悔しそうに拳を握る。
その時、エルフェリアが口を開いた。
「アレン、焦らないで。その力は、必要な時に自然と開花するわ」
「エルフェリア……」
「私たち八体と、あなたの絆。それが完璧になった時、自然と道は開けるはず」
エルフェリアの優しい言葉に、他の化身たちも頷く。
「そうだぜ、アレン。俺たちを信じろ」
イグニスが力強く言う。
「無理に力を引き出そうとしなくていいの。大切なのは、私たちとの繋がりよ」
シルフが柔らかく微笑む。
「我らは常に汝と共にある。その事実こそが、最大の力」
ノクスが静かに告げる。
「みんな……」
アレンの心が、温かなもので満たされる。
そうだ。力は、絆から生まれる。
それが、アレンがこれまで学んできたことだ。
「ありがとう。明日からの戦いで、きっとその力を掴んでみせる」
アレンが決意を新たにする。
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翌朝、学園の正門前。
連合軍の先鋒部隊が整列していた。
アルディアからは、ディルク教官率いる魔導騎士団。
セルフェンからは、氷と水の精鋭部隊。
グランディアからは、最強の戦士たち。
エアリアからは、風の魔導士団。
ルミナスからは、光の神官騎士たち。
エルドアからは、複合属性の特殊部隊。
総勢三千の兵力が、この場に集結していた。
そして、その中心に——
「全軍、注目!」
レンが号令をかける。
全兵士の視線が、一点に集まる。
アレン・アルカディア。
八属性を統べる者。
今回の作戦の最高指揮官。
「よく集まってくれた、各国の勇士たちよ」
アレンが全軍を見渡しながら、力強い声で語り始める。
「これから我々が向かうのは、ノクティアの本拠地。そこには、強大な力を持つセレスが待ち構えている」
兵士たちが緊張の面持ちで聞き入る。
「セレスは、力による世界支配を目論んでいる。彼女の野望を阻止しなければ、七大国全てが危機に陥る」
アレンが一呼吸置く。
「だが、忘れてはならない。セレスもまた、自分なりの正義のために戦っているのだ。彼女は間違った道を選んだが、その想いは決して軽いものではない」
兵士たちの間に、戸惑いの空気が流れる。
「だからこそ、我々は力だけで押し潰すのではなく、彼女の心にも届かなければならない。戦いながらも、対話の道を探る。それが、我々の使命だ」
アレンの言葉に、兵士たちの表情が変わっていく。
これは、ただの討伐作戦ではない。
相手を理解し、救うための戦いなのだ。
「全軍! 我々は正義のために戦う! しかし、復讐のためではない! 未来のために戦うのだ!」
「「「おおおおおお!」」」
三千の兵士たちが、雄叫びを上げる。
その声は、学園中に響き渡った。
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学園の塔の上から、エリナとシリウスが出陣を見守っている。
「見事な演説だったな」
シリウスが感心したように呟く。
「ええ。アレンは本当に成長したわ。もう、私たちが教えることは何もないわね」
エリナが誇らしげに微笑む。
「学園長、本当にこれでいいのか? アレンたちだけに、世界の命運を託して」
「大丈夫よ、シリウス。あの子たちなら、必ず成し遂げる」
エリナの目には、確固たる信頼が宿っていた。
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「さあ、出発だ! ノクティアへ!」
アレンが先頭に立ち、魔法の馬に跨る。
その後ろには、八体の化身たちが続く。
そして、ヒナタ、レン、トム、マルク、カイル、リサ、エマのAクラスメンバーたち。
「行くぞ、みんな!」
レンが剣を掲げる。
「おー!」
Aクラス全員が応える。
連合軍が、ゆっくりと動き出す。
学園の生徒たちが、門の両側に並んで見送っている。
「アレン、頑張って!」
「必ず勝ってきてね!」
「私たちの英雄!」
声援が飛び交う中、アレンは振り返って手を振った。
「必ず、勝って帰ってくる!」
そして、連合軍は学園を後にした。
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ノクティアへの道のりは、三日間の行軍。
初日の夜、野営地。
アレンは焚き火の前で、作戦地図を眺めていた。
「ノクティアの本拠地は、漆黒の城。天然の要塞だな」
レンが地図を指差す。
「ああ。正面突破は難しい。でも……」
アレンが別のルートを指差す。
「この東側の崖。ここから少数精鋭で侵入できれば、城内に突入できる」
「なるほど。じゃあ、本隊は正面から陽動をかけて、俺たちAクラスが東側から侵入するってわけか」
「ああ。セレスとの決戦は、俺が引き受ける」
アレンの決意に満ちた言葉に、ヒナタが心配そうに声をかける。
「アレン、無理しないでね。一人で全てを背負わないで」
「わかってる。でも、セレスと対話できるのは、俺しかいない」
アレンが空を見上げる。
星空が、美しく輝いている。
「セレス……お前の心に、俺の想いは届くだろうか」
アレンの呟きが、夜風に乗って消えていった。
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その頃、ノクティアの本拠地、漆黒の城。
玉座の間で、セレスは部下たちに指示を出していた。
「連合軍が、こちらへ向かっているわ」
「はい、セレス様。三日後には、この城に到達する見込みです」
黒ローブの部下が報告する。
「準備は整っている?」
「はい。城の防衛機構、全て完璧に作動しています。それに……」
部下が一瞬、言葉を躊躇する。
「それに?」
「『あれ』の準備も、完了しております」
「そう……」
セレスが立ち上がり、窓の外を見つめる。
遥か彼方、地平線の向こうに、連合軍の焚き火の光が小さく見える。
「アレン・アルカディア……あなたは来るのね。私のもとへ」
セレスの紅い瞳が、複雑な光を宿す。
「あなたと私、どちらの理念が正しいのか。この戦いで、全てが決まる」
セレスが拳を握りしめる。
「でも、私は負けない。この世界のために、私は勝たなければならない」
彼女の決意が、玉座の間に響いた。
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二日目の夜、野営地。
アレンは、八体の化身たちと共に訓練をしていた。
「《オクタハーモニー》!」
八属性の力が調和し、巨大な光の球体が形成される。
「いい感じだな、アレン」
イグニスが褒める。
「でも、まだ足りない。完全なる融合には、まだ届いていない」
アレンが悔しそうに呟く。
「アレン、焦らないで」
エルフェリアが優しく諭す。
「力は、必要な時に必ず目覚める。私たちを信じて」
「……ああ、ありがとう」
アレンが微笑む。
その時、グラシアが真剣な表情で口を開いた。
「アレン、一つ聞いていい?」
「何だ?」
「セレスと戦う時、あなたはどうするつもり?」
グラシアの問いに、アレンは一瞬沈黙した。
「……倒す。でも、殺さない」
「殺さない?」
「ああ。セレスは、間違った道を選んだ。でも、彼女自身は悪人じゃない。だから、彼女を止めて、正しい道へ導く」
アレンの言葉に、八体の化身たちが頷く。
「それが、お前らしいな」
テラが満足そうに笑う。
「でも、簡単じゃないわよ。セレスは本気で戦ってくる」
アクアが警告する。
「わかってる。だからこそ、俺も本気で戦う。全力で彼女とぶつかって、その上で対話する」
アレンの目に、強い決意が宿る。
「よし、じゃあ俺たちも全力でサポートするぜ!」
ヴォルトが雷を纏いながら豪語する。
「うん! 一緒に頑張ろう!」
シルフが明るく応える。
「我らは常に汝と共にある」
ノクスが静かに誓う。
「みんな、本当にありがとう」
アレンが八体を見渡す。
この絆こそが、自分の最大の武器だ。
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そして、三日目の朝。
連合軍は、ついにノクティアの領域に入った。
「見えたぞ。あれが、漆黒の城だ」
レンが前方を指差す。
地平線の彼方に、巨大な黒い城が聳え立っている。
不気味なオーラを纏い、まるで世界を拒絶するかのような威圧感を放っている。
「すごい……あんな城、見たことない」
トムが息を呑む。
「あそこに、セレスがいるのね」
ヒナタが緊張の面持ちで呟く。
「全軍、停止!」
アレンが号令をかける。
連合軍が、城から一キロ手前の位置で停止する。
「作戦開始だ。本隊は正面から攻撃を仕掛ける。その間に、俺たちAクラスは東側から侵入する」
アレンが最終確認をする。
「ディルク教官、本隊の指揮を頼みます」
「任せろ。お前は、セレスを頼む」
ディルクが力強く頷く。
「では、行くぞ。みんな、準備はいいか?」
「ああ!」
Aクラス全員が声を揃える。
「八体も、準備はいいな?」
「「「「もちろん!」」」」
化身たちが応える。
「よし……それでは——」
アレンが剣を掲げる。
「最終決戦、開始!」
その声が、戦場に響き渡った。
ドドドドドド……!
本隊が、城の正面へ向けて突撃を開始する。
一方、アレンたちAクラスは、密かに東側へ回り込んでいく。
漆黒の城の中で、セレスがその動きを感知していた。
「来たわね、アレン」
彼女が玉座から立ち上がる。
「さあ、最後の戦いを始めましょう。あなたと私、どちらが正しいのか……この戦いで証明するのです」
セレスが玉座の間を出て、城の最上階へと向かう。
そこで、彼女はアレンを待つ。
運命の対決の場所で。
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城の東側、崖の中腹。
アレンたちは、ロープを使って静かに登っていく。
「静かに、音を立てるな」
レンが先頭で指示を出す。
「了解」
全員が慎重に登る。
やがて、城壁の窓が見えてきた。
「あそこから侵入するぞ」
アレンが指示を出す。
一人ずつ、窓から城内へ入っていく。
「よし、全員入ったな」
レンが確認する。
城内は、不気味なほど静かだった。
「妙だな……罠か?」
マルクが警戒する。
「いや、セレスは堂々と待っているんだ。罠を仕掛ける必要がないと思っているんだろう」
アレンが分析する。
「油断は禁物だけどな」
カイルが周囲を警戒する。
「最上階へ向かうぞ。セレスは、きっとそこにいる」
アレンが先頭に立ち、階段を上っていく。
一階、二階、三階……
徐々に、上へ上へと登っていく。
そして——
最上階の扉の前に、辿り着いた。
「この先に……」
アレンが扉を見つめる。
「行くぞ、みんな」
アレンが扉に手をかける。
そして、ゆっくりと扉を開いた。
扉の向こうには——
広大な謁見の間。
そして、その中央に立つ一人の女性。
紅い瞳。
黒い長髪。
冷たく、そして美しい微笑み。
「ようこそ、アレン・アルカディア」
セレスが、優雅に一礼する。
「よく来てくれましたわね。お待ちしておりました」
「セレス……」
アレンが剣を抜く。
「さあ、始めましょう。運命の決戦を」
セレスが両手を広げる。
すると、謁見の間全体が闇に包まれた。
「これは……!」
ヒナタが驚く。
「私の結界よ。ここでは、私の力は数倍に増幅される」
セレスが不敵に笑う。
「さあ、アレン。あなたの力、全て見せてもらいますわ」
セレスの全身から、強大な闇の魔力が溢れ出す。
アレンも、八属性の力を解放する。
「《オクタハーモニー》!」
八色の光が、アレンの全身を包む。
そして——
二人の力が、激突した。
最終決戦が、今、始まる——!
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**次回、第2話「四化身の帰還・後編」**
**セレスとの激突! 八属性の真の力が、今目覚める——!**




