第3話「封印解除」
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古代遺跡の広間。
アレン、セレス、そして暴走する古代魔獣——三者が睨み合う異様な状況。
壁面から現れた古代マナ結晶が、宙に浮かんだまま金色に輝いている。
「アレン、あの結晶を!」
ヒナタが叫ぶ。
だが、アレンとセレスの間には、暴走した古代魔獣が立ちはだかっていた。
「グオオオオオオ!!」
魔獣が三つの頭全てから、黒い炎、氷の息、闇の波動を同時に放つ。
「《オクタハーモニー》!」
アレンが八属性の障壁を展開。
「《深淵の盾》」
セレスも闇の障壁を張る。
ドガァァァン!
二人の障壁が攻撃を防ぐが、その衝撃で広間全体が激しく揺れた。
「くっ……このままでは、遺跡全体が崩壊する!」
テラが警告する。
「アレン、この魔獣はただの暴走じゃない。封印が不完全に解けたせいで、理性を完全に失っている」
アクアが分析する。
「つまり?」
「完全に倒すか、再封印するか。どちらかしかない」
「再封印……できるのか?」
アレンの問いに、心の中でエルフェリアの声が響いた。
『アレン、あの古代マナ結晶を使えば可能かもしれないわ。でも……』
『でも?』
『それには、八属性全ての力を完璧に制御する必要がある。一つでもバランスが崩れれば、封印は失敗する』
「なるほど……」
アレンが古代マナ結晶を見つめる。
その時、セレスが動いた。
「ノクティア部隊、魔獣を引きつけなさい! 私は結晶を回収する!」
「「「了解!」」」
黒ローブの魔導士たちが一斉に魔獣へ向けて闇の魔法を放つ。
「グルルル……!」
魔獣の注意が、ノクティア部隊へ向く。
その隙に、セレスが結晶へ向けて跳躍した。
「させるか!」
レンが剣を構え、セレスの前に立ちはだかる。
「《紅蓮剣》!」
炎と雷を纏った斬撃がセレスへ襲いかかる。
「邪魔ですわ!《暗黒の刃》!」
セレスが闇の剣を生成し、レンの攻撃を受け止める。
キィィィン!
金属音が響き、二人が激しく斬り結ぶ。
「レン!」
ヒナタがシルフィアと共に援護に入ろうとする。
だが——
「グオオオオ!!」
魔獣の尾が、ヒナタへ向けて振り下ろされた。
「《ウォーターシールド》!」
ヒナタが咄嗟に水の障壁を展開するが、魔獣の一撃は強力すぎる。
バキィン!
障壁が砕け、ヒナタが吹き飛ばされる。
「ヒナタ!」
アレンが叫び、咄嗟に駆け寄って彼女を受け止める。
「大丈夫か!?」
「ええ、何とか……でも、あの魔獣、強すぎる……」
ヒナタが荒い息をつく。
「トム、マルク、カイル! ヒナタを援護しろ!」
アレンが指示を出す。
「了解!」
三人がヒナタの元へ駆けつける。
一方、レンとセレスの戦いは激しさを増していた。
「どけ、レン・ヴァルトハイム! 貴様ごときが、私を止められると思うな!」
セレスの闇の魔力が爆発的に膨れ上がる。
「俺は、アルディス家の誇りにかけて! お前を通すわけにはいかない!」
レンの炎と雷が、さらに激しく燃え上がる。
「《紅蓮覚醒・雷炎乱舞》!」
レンの剣が、炎と雷の軌跡を描きながらセレスへ襲いかかる。
「《深淵の檻》!」
セレスが周囲に闇の壁を展開し、レンの攻撃を封じ込めようとする。
だが——
「俺の炎は、そんな闇ごときで封じられない!」
レンの炎が、闇の壁を焼き払った。
「なっ!?」
セレスが驚愕する。
その隙を、レンは見逃さなかった。
「もらった!《紅蓮突き》!」
炎と雷を収束させた渾身の突きが、セレスへ迫る。
「くっ……!」
セレスが咄嗟に回避するが、彼女の肩を剣が掠める。
「がっ……!」
セレスが後退する。
「やったか!?」
レンが構えを解かない。
だが、セレスは口元に不気味な笑みを浮かべた。
「ふふふ……やってくれますわね、レン・ヴァルトハイム」
「まだ戦えるのか……」
「ええ。でも、貴方と戯れている時間はもうありませんの」
セレスが指を鳴らす。
すると——
バシュッ!
レンの背後から、黒い触手のようなものが伸びてきた。
「なっ!?」
レンが咄嗟に回避しようとするが、触手は彼の剣を掴み、弾き飛ばす。
「くそっ!」
「これは、私が仕込んでおいた闇の罠。この広間全体に、私の魔法陣を張り巡らせていたのですわ」
セレスが優雅に微笑む。
そして、広間の床に無数の闇の紋様が浮かび上がった。
「まずい! これは……」
アクアが叫ぶ。
「《深淵の牢獄》発動!」
セレスが叫ぶと、広間全体が闇に包まれた。
アレン、レン、ヒナタ、そして他の仲間たち全員が、黒い檻に閉じ込められる。
「くそっ、これは……!」
レンが檻を攻撃するが、闇はびくともしない。
「この檻は、私の魔力を源としています。外からは破れませんわ」
セレスが勝ち誇ったように笑う。
「貴様……!」
アレンが檻の中から叫ぶ。
「さて、邪魔者は排除できました。では、結晶をいただきますわ」
セレスが古代マナ結晶へ手を伸ばす。
「させない!」
アレンが八属性のマナを集中させ、檻を内側から破壊しようとする。
「《オクタハーモニー》! 全ての力を一つに!」
八色の光が檻を内側から照らす。
「無駄ですわ。この檻は——」
だが、セレスの言葉が途切れる。
ビキビキビキ……
檻にひびが入り始めた。
「馬鹿な……八属性の力で、内側から破壊しようというの!?」
「俺の仲間を閉じ込めて、好き勝手やらせるか!」
アレンの全身から、さらに強大なマナが溢れ出す。
そして——
バァァァン!
檻が完全に砕け散った。
「やった!」
トムたちが歓声を上げる。
「セレス、お前の目的は何だ! なぜ、そこまで力を求める!」
アレンがセレスに問いかける。
セレスは一瞬、表情を曇らせた。
「……私の目的?」
彼女が呟く。
「それは……真の秩序を取り戻すこと」
「真の秩序……?」
「この世界は、歪んでいる。七大国は互いに牽制し合い、真の平和は訪れない。古代魔導王国のように、一つの強大な力による統一こそが、真の平和をもたらすのです」
セレスの紅い瞳が、狂気を帯びて輝く。
「そのために、私は力を集める。古代の力、魔獣の力、そして……八属性の力を」
「お前は間違っている!」
アレンが叫ぶ。
「力による支配は、真の平和じゃない。それは、恐怖による抑圧だ!」
「甘いですわ、アレン・アルカディア。理想論では、この世界は変わりません」
セレスが冷たく微笑む。
「では、実力で示しましょう。どちらの理念が正しいのか」
セレスが両手を天に掲げる。
「《深淵召喚・闇の化身》!」
広間全体の闇が集まり、巨大な人型の影が形成される。
それは、セレス自身の闇の化身。
「これが……私の真の力」
闇の化身が、アレンたちへ向けて巨大な拳を振り下ろす。
「みんな、散れ!」
アレンの指示で、全員が四方へ飛散する。
ドゴォォン!
拳が床を砕き、巨大なクレーターができる。
「くそっ、強すぎる!」
カイルが叫ぶ。
「アレン、どうする!?」
レンが尋ねる。
アレンは冷静に状況を分析する。
セレスの闇の化身。
暴走する古代魔獣。
そして、古代マナ結晶。
(このままでは、結晶を奪われる。それだけは避けなければ……)
「レン、みんな! 魔獣をできるだけ引きつけてくれ!」
「お前は!?」
「俺は、セレスの相手をする。そして、結晶を手に入れる!」
アレンの決意に、レンは頷いた。
「わかった。任せろ!」
「みんな、魔獣を引きつけるぞ!」
レン、ヒナタ、トム、マルク、カイル、リサ、エマ——七人が魔獣へ向かっていく。
「《風刃乱舞》!」
トムが風の刃を放つ。
「《大地の壁》!」
マルクが土の障壁を展開する。
「《水流縛》!」
リサが水の鎖で魔獣の動きを封じようとする。
「グオオオオ!!」
魔獣が暴れるが、七人の連携攻撃に翻弄される。
一方、アレンはセレスと対峙していた。
「さあ、アレン・アルカディア。貴方の力、見せていただきますわ」
セレスの闇の化身が、アレンへ襲いかかる。
「《オクタアルティメット》!」
アレンが八属性の力を解放する。
光と炎と風と闇と氷と土と水と雷——八つの力が融合し、巨大な光の剣となる。
そして——
ガキィィィン!
闇の化身の拳と、光の剣が激突した。
「ぐっ……!」
「くっ……!」
二人とも、一歩も引かない。
「認めますわ、アレン。貴方は強い。でも……」
セレスの目が、さらに鋭くなる。
「私は、この世界のために戦っている! 貴方のような甘い理想論者には、負けられない!」
闇の化身の魔力が、さらに膨れ上がる。
「俺だって、譲れない! この世界を、力で支配させるわけにはいかない!」
アレンの八属性の力が、さらに輝きを増す。
そして、心の中で四体の化身が叫ぶ。
『アレン、私たちの力も使って!』エルフェリア。
『燃やし尽くせ!』イグニス。
『風よ、彼に力を!』シルフ。
『闇を制するのは、汝のみ』ノクス。
「ああ! みんなの力を、一つに!」
アレンの全身が、八色の光に包まれる。
「《オクタパーフェクトリベレーション》!」
八属性の力が完全に解放され、巨大な光の奔流となってセレスへ襲いかかった。
「《深淵の終焉》!」
セレスも、全ての闇の力を解放する。
光と闇が激突し——
ドォォォォォォン!!
広間全体を揺るがす、凄まじい爆発。
煙が晴れると、アレンもセレスも、膝をついていた。
「くっ……まだ……」
セレスが立ち上がろうとする。
だが——
「グオオオオオオオ!!」
突然、古代魔獣が咆哮した。
魔獣は、レンたちの攻撃にも関わらず、完全に暴走している。
そして、その視線は——
古代マナ結晶へ向けられていた。
「まずい! あの魔獣、結晶を狙っている!」
アクアが叫ぶ。
魔獣が三つの頭全てから、最大級の攻撃を結晶へ向けて放つ。
「させるか!」
アレンが咄嗟に跳躍し、結晶の前に立ちはだかる。
「《オクタハーモニー》! 全力展開!」
八属性の障壁が、魔獣の攻撃を受け止める。
だが、その威力は凄まじく、アレンの障壁にひびが入る。
「くっ……このままじゃ……!」
その時、意外な声が響いた。
「《深淵の盾》」
セレスが、アレンの隣に立ち、闇の障壁を展開した。
「セレス……!?」
「勘違いしないでください。私は、あの魔獣に結晶を破壊されるわけにはいかないだけです」
セレスが、疲労の色を隠せない表情で言う。
二人の障壁が重なり、魔獣の攻撃を完全に防ぎきった。
「はぁ……はぁ……」
アレンが荒い息をつく。
「もう、お互い限界のようですわね」
セレスも同様に疲弊している。
そして、魔獣もまた、レンたちの攻撃で傷ついていた。
「このままでは、全員が共倒れになる……」
アレンが呟く。
その時、古代マナ結晶が突然、強く輝き始めた。
『——八属性を統べる者よ——』
『——そして、闇を統べる者よ——』
『——汝らの力を合わせれば、魔獣を再び封印できよう——』
古代語の声が、広間に響く。
「これは……」
アレンとセレスが、同時に結晶を見つめる。
『——さすれば、汝らに授けん。古代の知識と、失われし力を取り戻す術を——』
「……アレン・アルカディア」
セレスが、初めて真剣な表情でアレンを見た。
「一時休戦しましょう。この魔獣を封印するために」
「お前……」
「私は、力を求めています。でも、無秩序な破壊は望んでいません。あの魔獣が暴走し続ければ、この地域全体が滅びる」
セレスの言葉に、アレンは一瞬逡巡した。
だが——
「……わかった。一時休戦だ」
アレンが手を差し出す。
セレスは、その手を取った。
「では、行きましょう。八属性と闇の力で、あの獣を封じ込めるのです」
二人が同時に、魔獣へ向き直る。
「レン、みんな! 下がってくれ!」
アレンが叫ぶ。
「アレン!?」
「大丈夫だ。任せてくれ!」
レンたちが後退すると、アレンとセレスが前に出た。
「準備はいいですか?」
「ああ」
二人が同時に、魔力を解放する。
「《オクタハーモニー》!」
「《深淵の支配》!」
八属性の光と、闇の力が交わり、巨大な封印陣が形成される。
「グオオオオ!?」
魔獣が抵抗するが、二人の力は強大だった。
「今だ! 古代マナ結晶!」
アレンが叫ぶと、結晶が光を放ち、封印陣の中心へと飛んでいく。
そして——
『——封印術式、起動——』
結晶から放たれた光が、魔獣を包み込む。
「グ……グオ……」
魔獣の動きが止まり、その体が石化していく。
「やった……!」
トムが歓声を上げる。
完全に石化した魔獣は、やがて地面に沈み込み、再び封印された。
「はぁ……はぁ……」
アレンとセレスが、同時に膝をつく。
そして、古代マナ結晶がゆっくりと地面に降りてきた。
『——試練、完遂——』
『——八属性を統べる者よ、この結晶を受け取りたまえ——』
『——そして、失われし絆を取り戻すがよい——』
結晶が、アレンの手の中に収まる。
温かく、そして力強い光を放つ結晶。
これが、四化身を復活させる鍵。
「アレン……」
エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクスの声が、心の中で響く。
「待ってろ、みんな。必ず、お前たちを取り戻す」
アレンが結晶を握りしめる。
一方、セレスは静かに立ち上がった。
「……約束は果たしました。では、私はこれで」
「待て、セレス」
アレンが呼び止める。
「お前の目的は、まだ果たされていないはずだ」
「ええ。でも、今日のところは撤退します。次は、私の本拠地で待っていますわ」
セレスが不敵に微笑む。
「本拠地……?」
「ノクティアの深部。そこで、私は最後の準備を整えます。そして……世界を変えるための、最終決戦を」
セレスが闇に包まれ、姿を消す。
「待て!」
レンが追おうとするが、既にセレスの姿はどこにもなかった。
「……行ったか」
アレンが呟く。
「アレン、大丈夫?」
ヒナタが駆け寄る。
「ああ、何とかな」
アレンが笑顔を見せる。
「それより、これを手に入れた」
アレンが古代マナ結晶を見せる。
「これが……四化身を復活させる鍵!」
ヒナタが目を輝かせる。
「ああ。さあ、学園に帰ろう。そして……」
アレンが空を見上げる。
「最後の戦いに備えるんだ」
全員が頷いた。
古代遺跡での戦いは終わった。
だが、真の戦いは、これから始まる。
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**次回、第4話「鍵の入手」**
**帰還、そして最終決戦へ——!**




