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第七章:決着への序章 第1話「東方への旅立ち」



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極北の塔での死闘から三日。アレンたちは無事にアルディア王立魔導学園へと帰還していた。


「お疲れ様、アレン。本当に見事な任務遂行だったわ」


学園長室で、エリナ学園長が温かな笑みを浮かべながら労いの言葉をかけてくれる。


「ありがとうございます。でも、これは俺一人の力じゃありません。ヒナタやレン、そして八体の化身たち全員のおかげです」


アレンの言葉に、彼の隣に立つヒナタが微笑んだ。レンも腕を組みながら頷く。


「謙遜するな、アレン。お前が八属性を統べる者として覚醒したからこそ、クロウを止められたんだ」


「レンの言う通りよ。でも……」


エリナの表情が僅かに曇る。


「クロウが言い残した言葉が気になるわね。『東方で何かが動き始めている』と」


そう、クロウは消滅する直前、アレンに警告を残していた。世界のどこかで、新たな危機が芽生えつつあると。


「学園長、東方で何か情報は?」


アレンの問いに、エリナは机上の報告書に目を落とした。


「ええ。実は昨日、東方調査隊から緊急の連絡が入ったの。東方遺跡で異常なマナの波動が観測されたって」


「東方遺跡……」


それは、古代魔導王国時代の重要な遺跡の一つ。アルカディア家の歴史を記した文献にも、何度か名前が登場する場所だ。


「詳細はまだ不明だけど、調査隊からは『封印が弱まっている可能性がある』との報告が。それに……」


エリナが一瞬、言葉を区切る。


「ノクティアの使節団長、セレスの目撃情報もある。彼女が東方地域で何やら怪しい動きをしているらしいの」


「セレス……」


アレンはその名を記憶していた。紅い瞳を持つ、ノクティアの使節団長。以前、学園を訪れた際にも、どこか不穏な気配を纏っていた。


「そこでアレン、あなたに正式な任務を下したいの」


エリナが真剣な眼差しでアレンを見つめる。


「東方遺跡の調査任務よ。Aクラスの精鋭を率いて、現地の状況を確認してきてほしいの。そして、もしセレスが何か企んでいるなら……それを阻止して」


「わかりました。いつ出発すれば?」


「明日の朝。準備期間は短いけど、事態は急を要するわ」


エリナの言葉に、アレンは即座に頷いた。


-----


「東方遺跡か……楽しみだな」


学園長室を出た後、レンが不敵に笑う。


「楽しみって、レン。これは危険な任務よ?」


ヒナタが呆れたように言うが、レンは肩をすくめた。


「危険だからこそやりがいがある。それに、アレンと一緒なら負ける気がしない」


「相変わらずだな、レン」


アレンが苦笑すると、レンは真面目な表情になった。


「冗談はさておき、東方遺跡は危険な場所だ。古代魔獣が封印されているという噂もある」


「古代魔獣……」


その言葉に、アレンの脳裏にクロウの警告が蘇る。


『東方で何かが動き始めている』


もしかして、それは封印された古代魔獣のことなのか。


「アレン、大丈夫?」


ヒナタが心配そうに声をかけてくる。


「ああ、大丈夫だ。ただ、クロウの言葉が気になってな」


「私も同じよ。でも、あなたは一人じゃない。私たちがいるわ」


ヒナタの言葉に、アレンは笑顔を取り戻した。


「ありがとう、ヒナタ。レンも」


「礼はいらん。それより、他のメンバーにも連絡しないとな」


レンの言葉に、アレンは頷いた。


-----


その日の夕方、Aクラスの訓練場に全員が集まった。


トム、マルク、カイル、リサ、エマの五人が、アレンたちの前に整列している。


「みんな、集まってくれてありがとう」


アレンが全員を見渡しながら口を開く。


「明日、東方遺跡への調査任務に出発する。全員、同行してもらいたい」


「東方遺跡! それってあの伝説の……」


トムが目を輝かせる。風属性使いの彼は、古代遺跡の探索に強い興味を持っているようだ。


「危険な任務になるかもしれない。だから、無理に参加する必要はない」


アレンの言葉に、マルクが力強く答えた。


「何言ってんだ、アレン。俺たちはAクラスだぜ? 危険だからこそ行くんだろ」


「マルクの言う通りです。私たちはチームですから」


リサも微笑みながら言う。


「俺も行く。火と雷で派手に暴れてやるぜ」


カイルが拳を打ち鳴らす。


「私も。氷と水の力、役立てて見せます」


エマも静かに決意を示した。


「みんな……ありがとう」


アレンの胸に、温かなものが込み上げてくる。


「じゃあ決まりだな。明日の朝、学園の正門に集合だ」


レンが全員に指示を出す。


「了解!」


全員が声を揃えて答えた。


-----


その夜、アレンは自室で出発の準備をしていた。


「アレン」


突然、部屋に氷の粒子が集まり、グラシアが姿を現した。氷の化身は、少し心配そうな表情を浮かべている。


「グラシア、どうした?」


「東方遺跡……そこは危険な場所よ。古代の封印が施されている」


「やっぱり、何か封印されているのか?」


アレンの問いに、グラシアは頷いた。


「ええ。古代魔獣……それも、かなり強力な存在が。もし封印が解けかけているなら……」


グラシアの言葉は続かなかったが、その意味は明白だった。


「大丈夫だ。俺には八体の化身がいる。それに、仲間もいる」


アレンが自信に満ちた笑みを浮かべると、グラシアも微笑んだ。


「そうね。あなたは一人じゃない。私たちも全力でサポートするわ」


「ありがとう、グラシア」


その時、部屋の別の場所にテラ、アクア、ヴォルトが次々と実体化した。


「アレン、俺たちも準備万端だぜ」


ヴォルトが雷を纏いながら言う。


「東方遺跡には、古代のマナ結晶があるかもしれません」


アクアが静かに分析を口にする。


「大地の力も、必要になるかもな」


テラが腕を組みながら呟く。


そして、アレンの心の中に、世界マナ化している四体の化身の声が響いた。


『アレン、私たちもいつでも力を貸すわ』エルフェリアの優しい声。


『任せとけ。燃やし尽くしてやるぜ』イグニスの熱い声。


『風に乗って、どこまでも』シルフの軽やかな声。


『闇は我が友。恐れることはない』ノクスの静かな声。


「みんな……本当にありがとう」


アレンは八体全ての化身に感謝の気持ちを伝えた。


八つの属性。八つの絆。


それがアレンの力の源だ。


-----


翌朝、学園の正門前。


朝日が昇り始める中、Aクラスの全員が集合していた。アレン、ヒナタ、レン、そしてトム、マルク、カイル、リサ、エマの八人。


「全員揃ったな」


レンが確認すると、エリナ学園長とディルク教官が姿を現した。


「アレン、これを」


エリナが小さな水晶を手渡してくる。


「これは?」


「通信用の魔導水晶よ。緊急時には、これで学園と連絡を取って」


「わかりました」


アレンが水晶を受け取ると、ディルク教官が重々しく口を開いた。


「東方遺跡は、古代魔導王国時代の重要拠点だった。だが同時に、危険な場所でもある。油断するなよ」


「はい、気をつけます」


「それと……」


ディルクが一瞬、言葉を躊躇う。


「セレスという女には特に警戒しろ。あの紅い瞳の奥には、何か恐ろしいものが潜んでいる」


「わかりました」


アレンが頷くと、エリナが優しく微笑んだ。


「とにかく、無事に帰って来て。それが一番大事よ」


「必ず」


アレンが力強く答えた。


-----


「では、行ってくる」


アレンが先頭に立ち、仲間たちと共に東方へ向けて歩き出す。


学園を出発してから数時間。一行は転移陣を使い、東方地域の拠点都市『エルドリア』へと到着した。


「うわぁ……すごい街だな」


トムが目を輝かせる。


エルドリアは、東方最大の交易都市。様々な国の商人や冒険者が集まる、活気に満ちた場所だ。色とりどりの建物が立ち並び、異国の香辛料の香りが漂っている。


「まずは、現地の調査隊と合流だな」


レンが地図を確認しながら言う。


一行が街の中心部へ向かうと、待ち合わせ場所に一人の男が立っていた。


「君たちが、学園から派遣された?」


三十代ほどの男性が、安堵の表情で近づいてくる。褐色の肌に、東方特有の民族衣装を纏っている。


「はい。Aクラスのアレン・アルカディアです」


「アルカディア……まさか、あの古代魔導王国の末裔?」


男は驚いた表情を浮かべた。


「そうです。それで、遺跡の状況は?」


アレンの問いに、男は真剣な表情になった。


「実は、昨夜また異常なマナの波動が観測された。封印の弱体化は確実だ。それに……」


「それに?」


「黒いローブを着た集団が、遺跡の周辺をうろついているのが目撃されている。そのリーダー格らしき女は、紅い瞳をしていたと」


「紅い瞳……!」


アレンの表情が険しくなる。


セレスだ。やはり、彼女が東方遺跡で何かを企んでいる。


「案内しましょう。遺跡は街から東に半日の距離です」


男の言葉に、アレンたちは頷いた。


-----


エルドリアを出発し、東へ向かう道中。


周囲の景色は次第に荒涼としたものへと変わっていく。緑豊かな平原から、赤茶けた岩と砂の大地へ。


「なんか、不気味な場所だな」


カイルが周囲を警戒しながら呟く。


「古代の力が眠る場所だからな。マナの流れも不安定だ」


レンが魔力を探知しながら答える。


その時、アレンの左目が金色に、右目が銀色に光った。


(この感じ……)


世界マナが乱れている。それも、かなり強力な何かの影響で。


「アレン、どうしたの?」


ヒナタが心配そうに声をかける。


「いや、ただ……世界マナの流れがおかしい。まるで、何かが目覚めようとしているような」


アレンの言葉に、全員の表情が引き締まった。


そして、さらに進んだ時。


「待て」


レンが突然、一行を制止する。


「どうした?」


「誰かいる。前方、約二百メートル」


レンの鋭い感知能力が、何かを捉えたようだ。


アレンも世界マナを通じて探知する。


確かに、前方に人の気配。しかも、その中心には強大な魔力が——


「出てこい。隠れているのはわかっている」


レンが前方に向かって叫ぶ。


すると、砂塵の向こうから、黒いローブを纏った集団が姿を現した。


そして、その中央に立つ一人の女性。


紅い瞳。


長い黒髪。


冷たく、そして妖艶な微笑み。


「お久しぶりですね、アレン・アルカディア」


セレスだった。


「セレス……やはり、お前か」


アレンが身構える。


「私がここにいることに驚きましたか? それとも、予想していた?」


セレスが優雅に髪をかき上げる。


「お前の目的は何だ。東方遺跡で何を企んでいる」


アレンの問いに、セレスは笑みを深めた。


「目的? それは……古代の力を取り戻すこと。そして、この世界に真の秩序をもたらすこと」


「真の秩序……?」


「ええ。古代魔導王国が滅びて以来、この世界は混沌としています。七大国は表面的な平和を保っているだけ。真の統一、真の力による支配が必要なのです」


セレスの言葉に、アレンは背筋に悪寒を感じた。


「お前……何を言っている」


「わからないのですか? あなたこそ、古代魔導王国の末裔。八属性を統べる者。本来なら、あなたがこの世界を統べるべきなのに」


「俺は世界を支配するつもりはない!」


アレンが叫ぶと、セレスは哀れむような目で見た。


「残念ですわ。でも、構いません。私が代わりに成し遂げます。東方遺跡に眠る力を使って」


「させるか!」


レンが剣を抜き、セレスに突進しようとする。


だが——


「動かないで」


セレスが指を鳴らすと、レンの足元に闇の魔法陣が展開した。


「くっ……これは」


レンの動きが止まる。


「私の目的は、今あなたたちと戦うことではありません。ただ、警告しに来ただけ」


セレスが冷たく微笑む。


「東方遺跡は、もうすぐ目覚めます。そして、古代の力が解き放たれる。あなたたちがそれを止めようとするなら……」


セレスの紅い瞳が、妖しく光る。


「私の敵となります」


そう言うと、セレスと黒ローブの集団は闇に包まれ、消えていった。


「ちっ、逃げられたか」


レンが舌打ちする。


「大丈夫?」


ヒナタがレンに駆け寄る。


「ああ、問題ない。ただ、今のは……」


「警告、か」


アレンが呟く。


セレスは何かを企んでいる。そして、それは東方遺跡で起ころうとしている。


「急ぐぞ。遺跡に着く前に、封印が解けるかもしれない」


アレンの言葉に、全員が頷いた。


-----


そして、日が傾き始めた頃。


「見えたぞ。あれが東方遺跡だ」


案内の男が前方を指差す。


地平線の彼方に、巨大な石造りの遺跡が姿を現した。


古代魔導王国時代の建築様式。崩れかけた塔や、苔むした石壁。だが、その全体から放たれるマナの波動は、今なお強大だ。


そして、遺跡の中心部からは、禍々しい黒い霧のようなものが立ち上っている。


「すごい……これが古代遺跡」


エマが息を呑む。


「気をつけろ。ここからが本番だ」


レンが全員に警告を発する。


アレンは遺跡を見つめながら、静かに呟いた。


「クロウ、あなたが警告した『東方の異変』……それがここにあるんだな」


風が吹き抜け、遺跡から不吉なマナの波動が漂ってくる。


そして、その波動の奥底に、アレンは感じ取った。


強大な、そして禍々しい気配を。


封印が、解けかけている。


「行くぞ、みんな。何があるかわからない。常に警戒を怠るな」


アレンの言葉に、全員が頷く。


八人の仲間と、八体の化身と共に。


アレンは、古代遺跡の謎へと踏み出した。


遺跡の入口に立つと、古代文字が刻まれた巨大な扉が現れた。


そして、その扉の中央には——


八つの属性を示す紋章が、不気味に輝いていた。


-----


**次回、第2話「古代遺跡の謎」**


**封印の向こうに待つものは——**

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