第3話:三人の試練
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一週間後——
アレン、ヒナタ、レンの三人は、再び学院の転移魔法陣の前に立っていた。
「今回も——三人か」
レンが呟いた。
「ああ」
アレンは頷いた。
「東方の遺跡——そこで、土のマナの化身と出会えるかもしれない」
「楽しみだね」
ヒナタが微笑んだ。
「でも——また試練があるんだよね?」
「おそらく」
アレンは告げた。
「グラシアの時も、試練があった」
「今回も——きっと、同じだ」
「なら——覚悟を決めておかないとな」
レンは、剣の柄を握りしめた。
「では——行け」
ディルク・グレイソン教師が、転移魔法陣を起動させた。
光が、三人を包み込む。
「行ってきます」
三人は、頭を下げた。
光が強くなり——
三人の姿は、消えた。
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東方の地——
そこは、広大な草原と、古びた遺跡が点在する場所だった。
「ここが——東方の遺跡か」
レンが呟いた。
「広いな……」
「でも——どこに、土のマナの化身がいるんだろう?」
ヒナタが尋ねた。
「……あそこだ」
アレンは、一つの遺跡を指差した。
それは——他の遺跡よりも、大きく、そして立派だった。
石造りの建物。
入口には、土のマナを象徴する紋章が刻まれていた。
「あそこに——化身がいる」
アレンは告げた。
「どうして分かるんだ?」
レンが尋ねた。
「……感じるんだ」
アレンは呟いた。
「土のマナの気配を」
「そっか……」
ヒナタは頷いた。
「なら——行こう」
三人は、遺跡へと向かった。
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遺跡の入口——
そこには、誰もいなかった。
「……静かだな」
レンが呟いた。
「ああ」
アレンも頷いた。
「でも——油断するな」
三人は、遺跡の中へと入った。
中は——薄暗く、そして静かだった。
壁には、古代の文字が刻まれている。
「これは……」
ヒナタが、文字を見つめた。
「古代魔導文字だ」
アレンは告げた。
「何て書いてあるんだ?」
レンが尋ねた。
「……『試練を乗り越えし者に、力を授ける』」
アレンは、文字を読んだ。
「やはり——試練があるのか」
レンが呟いた。
「ああ」
アレンは頷いた。
「覚悟を決めておけ」
三人は、奥へと進んだ。
やがて——
広い空間に出た。
「……ここは」
アレンが呟いた。
そこは——円形の広間だった。
中央には、三つの石の台座が置かれている。
「あれは……」
ヒナタが、台座を見つめた。
その瞬間——
三つの台座が、光り始めた。
**ゴゴゴゴゴ……**
遺跡全体が、揺れる。
「来るぞ!」
レンが叫んだ。
光が強くなり——
三つの台座から——三つの光の柱が現れた。
光の柱が、三人を包み込む。
「……!」
アレンの視界が、白く染まった。
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気がつくと——
アレンは、一人だった。
周囲は——真っ白な空間。
「……またか」
アレンは呟いた。
グラシアの試練の時と、同じだ。
「ヒナタ! レン!」
アレンは、叫んだ。
だが——返事はない。
「……一人ずつ、試練を受けるのか」
アレンは、歩き出した。
白い空間を、さまよう。
やがて——
前方に、人影が見えた。
「……誰だ?」
アレンが尋ねた。
人影が——振り返った。
それは——
「……姉さん?」
アレンの姉、リアナ・アルカディアだった。
「アレン……」
リアナは、冷たい目でアレンを見つめた。
「お前は——弱い」
「……!」
アレンの胸が、痛んだ。
「体内マナがゼロ——家族の中で、一番弱い」
リアナは告げた。
「お前は——いつも、私たちに守られてきた」
「……違う」
アレンは、首を振った。
「俺は——もう、弱くない」
「俺は——成長した」
「それは——偽りの力だ」
リアナは告げた。
「化身に頼る力——それは、真の力ではない」
「お前は——結局、一人では何もできない」
「……」
アレンは、拳を握りしめた。
(これは——試練)
(俺の心の奥底にある、恐怖を見せているんだ)
「でも——」
アレンは、顔を上げた。
「それでも、俺は——前に進む」
「たとえ、化身に頼っていても」
「たとえ、弱いと言われても」
「俺は——俺の力で、前に進む」
「一人じゃない——仲間がいる」
「化身たちも——仲間だ」
「だから——俺は、弱くない」
「……」
リアナは、黙った。
やがて——
リアナの姿が、消えていった。
白い世界が——崩れていく。
だが——
次の瞬間、新たな景色が現れた。
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そこは——
戦場だった。
炎が燃え上がり、煙が立ち込める。
「……ここは」
アレンが呟いた。
前方に——黒いローブを纏った人物が立っていた。
仮面をつけている。
「ヴォイド……」
アレンは、剣を抜いた。
「久しぶりだな、アレン・アルカディア」
ヴォイドが、告げた。
「お前は——ここで死ぬ」
ヴォイドが、手を掲げた。
「《闇炎爆裂・ダークフレイムバースト》!」
巨大な闇の炎球が、アレンに向かって飛んできた。
「くっ……」
アレンは、剣を構えた。
「《五属性統合・ペンタハーモニー》!」
五つの力を——剣に集める。
剣が、五色の光を放った。
「《虹刃解放・レインボーブレイク》!」
アレンが、剣を振り下ろした。
虹色の斬撃が——闇の炎球に直撃した。
**ドオオオオンッ!**
巨大な爆発が起きた。
煙が、広がる。
「……」
アレンは、煙の中を見つめた。
煙が晴れると——
ヴォイドは、無傷で立っていた。
「無駄だ」
ヴォイドは告げた。
「お前の力では——私には勝てない」
ヴォイドが、再び手を掲げた。
「《闇炎……》」
その瞬間——
アレンは、気づいた。
(これは——幻影だ)
(本物のヴォイドじゃない)
(俺の心が作り出した——恐怖の象徴だ)
「……そうか」
アレンは、剣を下ろした。
「お前は——本物じゃない」
「……何?」
ヴォイドが、動きを止めた。
「お前は——俺の心が作り出した、恐怖だ」
アレンは告げた。
「でも——俺は、もう恐れない」
「たとえ、ヴォイドが強くても」
「たとえ、勝てないかもしれなくても」
「俺は——戦う」
「仲間と共に——必ず、勝つ」
「……」
ヴォイドは、黙った。
やがて——
ヴォイドの姿が、消えていった。
戦場も——消えた。
白い世界に——戻った。
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そして——
最後の景色が現れた。
そこは——
アルカディアの屋敷だった。
「……家?」
アレンが呟いた。
屋敷の前に——父、ゼノス・アルカディアが立っていた。
「アレン」
ゼノスは、厳しい目でアレンを見つめた。
「お前は——家を捨てた」
「……」
アレンは、黙った。
「お前は——アルカディアの名を捨て」
「学院で——自分の道を歩んでいる」
ゼノスは告げた。
「それは——家族への裏切りだ」
「……違う」
アレンは、首を振った。
「俺は——家族を捨てたわけじゃない」
「ただ——自分の道を見つけただけだ」
「自分の道……」
ゼノスは呟いた。
「そうだ」
アレンは頷いた。
「俺は——八属性を集める」
「そして——世界を救う」
「それが——俺の道だ」
「……」
ゼノスは、黙った。
やがて——
ゼノスの表情が、少し柔らかくなった。
「そうか……」
ゼノスは呟いた。
「なら——行け」
「お前の道を——進め」
「……父さん」
アレンの目が、潤んだ。
「ありがとう」
ゼノスは、微笑んだ。
「頑張れ、アレン」
ゼノスの姿が——消えていった。
白い世界も——消えた。
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気がつくと——
アレンは、元の広間にいた。
「……」
アレンは、息を吐いた。
「アレン!」
ヒナタが、駆け寄ってきた。
「大丈夫!?」
「……ああ」
アレンは頷いた。
「大丈夫だ」
「よかった……」
ヒナタは、安堵の表情を浮かべた。
「お前も——試練を受けたのか?」
アレンが尋ねた。
「うん……」
ヒナタは、少し暗い表情で頷いた。
「私も——心の奥底と、向き合った」
「何を見た?」
アレンが尋ねた。
「……私の、過去」
ヒナタは呟いた。
「私が——まだ弱かった頃の、自分」
「そっか……」
アレンは、ヒナタの手を握った。
「でも——乗り越えたんだな」
「……うん」
ヒナタは、小さく微笑んだ。
「アレンが、いつも励ましてくれたから」
「だから——私も、頑張れた」
「……そうか」
アレンも微笑んだ。
「俺も……」
レンが、立ち上がった。
「厳しい試練だったが——乗り越えた」
「何を見たんだ?」
アレンが尋ねた。
「……俺の、弱さだ」
レンは告げた。
「俺は——いつも、強がっていた」
「でも——本当は、弱かった」
「お前に——負けたくなかった」
「だから——必死に、強くなろうとした」
「……レン」
アレンが呟いた。
「でも——今は分かる」
レンは微笑んだ。
「お前は——ライバルであり、仲間だ」
「お前と共に——強くなればいい」
「一人で——強くなる必要はない」
「……ああ」
アレンは頷いた。
「俺たちは——仲間だ」
「一緒に——強くなろう」
「ああ」
レンは、アレンの手を握った。
三人は——互いに頷き合った。
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その瞬間——
広間の中央に——光が現れた。
光が、人の形を作っていく。
やがて——
一人の少年が、現れた。
茶色の髪。
大地のような、深い緑の瞳。
茶色のローブ。
「……誰?」
ヒナタが呟いた。
少年は——微笑んだ。
「よくやった」
穏やかで、温かい声。
「君たちは——試練を乗り越えた」
「……あなたは」
アレンが尋ねた。
「僕は——テラ」
少年は告げた。
「土のマナの化身だよ」
「……!」
アレンの目が、大きく見開かれた。
(テラ……!)
ついに——
土のマナの化身と、出会った。
「君たちは——よく頑張った」
テラは告げた。
「三人とも——心の試練を乗り越えた」
「それは——簡単なことじゃない」
「だから——僕は、君たちを認める」
「……本当か!?」
アレンが叫んだ。
「うん」
テラは頷いた。
「でも——まだ、試練は終わりじゃないよ」
「……まだ、あるのか?」
レンが尋ねた。
「うん」
テラは微笑んだ。
「最後の試練は——僕との戦い」
「君たちの力を——見せてほしい」
「……分かった」
アレンは、剣を抜いた。
「受けて立つ」
「ふふ……」
テラは、楽しそうに笑った。
「じゃあ——始めようか」
テラが、手を掲げた。
「《大地の鼓動・アースビート》!」
地面が——揺れ始めた。
**ゴゴゴゴゴ……**
広間全体が、震える。
「来るぞ!」
レンが叫んだ。
地面から——無数の岩の槍が現れた。
「《ライトシールド》!」
ヒナタが、光の盾を展開した。
**ガキンッ! ガキンッ!**
岩の槍が、盾に突き刺さる。
「くっ……」
ヒナタが、押されていく。
「ヒナタ!」
アレンが駆け出した。
「《フレイムゲイル》!」
炎の刃が、岩の槍を砕いていく。
だが——
すぐに、新たな岩の槍が現れた。
「きりがない……」
アレンが呟いた。
「そうだよ」
テラは告げた。
「この場所では——土のマナは無尽蔵」
「君たちが疲れるまで——攻撃し続けられるんだ」
「なら——」
レンが、前に出た。
「直接、倒すしかない!」
「《サンダーストライク》!」
雷が、テラに向かって飛んだ。
「……甘いよ」
テラは、軽く手を振った。
「《大地の壁・アースウォール》」
巨大な岩の壁が、テラの前に現れた。
**バリバリッ!**
雷が、壁に直撃した。
だが——壁は、びくともしなかった。
「……無理だ」
レンが、唇を噛んだ。
「諦めるな」
アレンは告げた。
「三人で——力を合わせれば、勝てる」
「……そうだな」
レンは頷いた。
「やってやる」
「私も!」
ヒナタも頷いた。
「行くぞ!」
アレンが、剣を構えた。
「《五属性統合・ペンタハーモニー》!」
五つの力を——剣に集める。
光、炎、風、闇、氷——
五つの力が、一つになった。
剣が——虹色の光を放った。
「《虹刃解放・レインボーブレイク》!」
アレンが、剣を振り下ろした。
虹色の斬撃が——岩の壁を切り裂いた。
**ドオオオンッ!**
壁が、砕け散った。
「やった!」
レンが叫んだ。
「まだだ!」
アレンが告げた。
「《サンダーフレア》!」
レンが、炎と雷を融合させた魔法を放った。
「《トリニティブレス》!」
ヒナタが、光、水、風の魔法を放った。
三つの魔法が、テラに向かって飛んだ。
「……!」
テラの目が、大きく見開かれた。
「《大地の守護・アースガード》!」
テラが、両手を掲げた。
巨大な岩の鎧が、テラの体を覆った。
三つの魔法が——鎧に直撃した。
**ドオオオオンッ!**
爆発が起きた。
煙が、広がる。
「……」
アレンは、煙の中を見つめた。
煙が晴れると——
テラは、無傷で立っていた。
「……すごいね」
テラは微笑んだ。
「君たちの力——本当にすごい」
「でも——まだ足りないよ」
テラが、再び手を掲げた。
「《大地の巨人・アースタイタン》!」
地面から——巨大な岩の巨人が現れた。
身長は、十メートル以上。
全身が、岩で覆われている。
「……また、巨人か」
レンが呟いた。
「グラシアの時と、同じだな」
「ああ」
アレンは頷いた。
「なら——対処法も、同じだ」
「核を——破壊する」
「核……?」
ヒナタが首を傾げた。
「岩の巨人にも——マナの核がある」
アレンは告げた。
「それを破壊すれば——巨人は消える」
「でも——どこに核があるんだ?」
レンが尋ねた。
「……胸だ」
アレンは、巨人の胸を見つめた。
そこには——緑色に輝く結晶が埋め込まれていた。
「あれが、核か」
レンが呟いた。
「ああ」
アレンは頷いた。
「俺が——あそこを狙う」
「二人は——時間を稼いでくれ」
「分かった」
レンは頷いた。
「任せろ」
「私も、頑張る」
ヒナタも頷いた。
「行くぞ!」
レンとヒナタが、巨人に向かって駆け出した。
「《サンダーブリッツ》!」
「《セイントゲイル》!」
二人の魔法が、巨人に直撃する。
巨人の動きが、一瞬止まった。
「今だ!」
アレンが、駆け出した。
剣を構える。
五属性の力を——集中させる。
光、炎、風、闇、氷——
全てを、剣に込める。
「《五属性統合・ペンタハーモニー》!」
剣が——虹色の光を放った。
アレンが、巨人の胸に向かって跳んだ。
「《虹刃貫通・レインボーピアス》!」
剣が——巨人の胸の核に突き刺さった。
**パリィィンッ!**
核が——砕けた。
「……!」
巨人の動きが、止まった。
やがて——
巨人の体が、崩れ始めた。
岩が、粉々に砕ける。
巨人が——消えた。
「やった……」
アレンは、着地した。
「すごい……」
ヒナタが、驚いた表情で呟いた。
「やるじゃないか」
レンも、微笑んだ。
「……素晴らしいよ」
テラは、拍手をした。
「君たち——本当に強いね」
「でも——」
テラは、微笑んだ。
「もう一つだけ——試してもいいかな?」
「……まだ、あるのか?」
アレンが尋ねた。
「うん」
テラは頷いた。
「最後の試練——それは」
「三人の絆を——試すものなんだ」
「絆……?」
ヒナタが呟いた。
「うん」
テラは告げた。
「君たちは——仲間だ」
「でも——本当に、信じ合えているかな?」
「……どういうことだ?」
レンが尋ねた。
「これから——君たちは、別々の空間に送られる」
テラは告げた。
「そこで——仲間を信じられるか」
「それが——最後の試練なんだ」
「……」
アレンは、黙った。
「覚悟はいい?」
テラが尋ねた。
「……ああ」
アレンは頷いた。
「俺たちは——仲間を信じる」
「そう」
テラは、微笑んだ。
「なら——始めよう」
テラが、手を掲げた。
「《大地の分断・アースディバイド》!」
地面が——割れ始めた。
三人が——別々の方向に、引き離されていく。
「アレン!」
ヒナタが叫んだ。
「ヒナタ! レン!」
アレンも叫んだ。
だが——
もう、声は届かなかった。
アレンは——一人、暗い空間に取り残された。
-----
**次回予告**
土のマナの化身・テラが課した、最後の試練。
三人は——別々の空間で、仲間を信じられるのか?
絆が試される時——アレンは、何を選ぶのか。
**第4話「絆の証明」、近日公開!**




