第4話「迷宮の核心」
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アクアが去り、迷宮は静けさを取り戻した。
「さて……」
クリストフが告げた。
「我々の任務は、まだ終わっていない」
「そうだな」
レンが頷いた。
「マナ結晶の回収——それが、本来の目的だ」
「でも……」
ヒナタが不安そうに呟いた。
「黒月の牙が、また来るかもしれない」
「だからこそ、急ぐ必要がある」
エアリスが告げた。
「彼らが戻ってくる前に、マナ結晶を回収して——この迷宮から出なければ」
「分かった」
アレンは頷いた。
「先に進もう」
五人は——迷宮の奥へと向かった。
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廊下は、さらに深く続いていた。
壁には、相変わらず古代文字が刻まれている。
「……『水の力、ここに眠る』」
アレンが文字を読んだ。
「『求める者には、試練を』」
「試練……?」
ヒナタが首を傾げた。
「どういう意味だ?」
レンが尋ねた。
「分からない……」
アレンは呟いた。
「だが、何か——この先に待っているのかもしれない」
五人は、警戒しながら進んだ。
やがて——また、広い部屋に出た。
「……!」
全員が、息を呑んだ。
部屋の中央には——巨大な水晶があった。
先ほど見たものよりも、さらに大きい。
青く輝く、美しい水晶。
「あれが……マナ結晶か」
レンが呟いた。
「ええ……」
エアリスが頷いた。
「これほど大きなマナ結晶は、見たことがない」
「近づいても、大丈夫か?」
アレンが尋ねた。
「分からないわ……」
エアリスは不安そうに告げた。
「でも——回収しなければ」
「俺が行く」
アレンは、水晶へと近づいた。
「アレン、気をつけて」
ヒナタが告げた。
「ああ」
アレンは、ゆっくりと水晶へ手を伸ばした。
その瞬間——
**バチィィィィ!**
水晶から、青い光が放たれた。
「……!」
アレンの体が——光に包まれた。
「アレン!」
ヒナタが叫んだ。
だが——
アレンの意識は——別の場所へと飛んでいた。
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目を開けると——そこは、見知らぬ場所だった。
白い空間。
何もない、ただ白いだけの世界。
「……ここは?」
アレンは呟いた。
「ようこそ、アレン・アルカディア」
声が響いた。
振り返ると——
アクアが立っていた。
「アクア……!」
「ここは、マナ結晶の中よ」
アクアは告げた。
「マナ結晶の……中?」
「ええ」
アクアは頷いた。
「あなたが水晶に触れた瞬間——意識がここに引き込まれたの」
「どうして……」
「これが、試練よ」
アクアは告げた。
「水のマナ結晶を手に入れるための——試練」
「試練……」
アレンは、拳を握りしめた。
「何をすればいい?」
「簡単よ」
アクアは微笑んだ。
「あなたの心を——見せて」
「心……?」
「ええ」
アクアは告げた。
「あなたが、何を求めているのか」
「何を恐れているのか」
「何を守りたいのか」
「それを——私に見せて」
アクアは、アレンの目を見つめた。
「そうすれば——水のマナ結晶は、あなたのものよ」
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アレンは、目を閉じた。
(俺が……求めているもの)
心の中で、自問する。
(俺が……恐れているもの)
(俺が……守りたいもの)
様々な光景が、頭の中を駆け巡った。
エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクスとの出会い。
ヒナタとの戦い。
レンとの激闘。
父、ゼノスの言葉。
黒月の牙との戦い。
そして——
化身たちが消えた、あの瞬間。
「……俺が求めているものは」
アレンは、目を開けた。
「力だ」
「力……」
アクアが繰り返した。
「ああ」
アレンは頷いた。
「大切な人たちを守るための——力」
「恐れているものは?」
「……力を失うこと」
アレンは告げた。
「また、誰かを失うこと」
「そして——守りたいものは?」
「仲間たちだ」
アレンは、真剣な表情で告げた。
「ヒナタ、レン、そして——すべての仲間たち」
「化身たちも?」
アクアが尋ねた。
「ああ」
アレンは頷いた。
「エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクス——彼らも、俺の大切な仲間だ」
「……そう」
アクアは、優しく微笑んだ。
「あなたの心は——とても純粋ね」
「……」
「力を求めるのは、自分のためではない」
アクアは告げた。
「誰かを守るため」
「恐れているのは、力を失うことではない」
「大切な人を失うこと」
「そして——守りたいのは、自分ではない」
「仲間たちだ」
アクアは、アレンの肩に手を置いた。
「あなたは——本当に優しい人ね」
「……俺は、優しくなんかない」
アレンは首を振った。
「俺は——まだ弱い」
「化身たちがいなければ、まともに戦えない」
「四属性を制御するだけで、疲れ果てる」
「こんな俺が——どうして優しいと言えるんだ」
「それでも」
アクアは告げた。
「あなたは、前に進んでいる」
「……」
「化身たちがいなくても」
「辛くても、苦しくても」
「それでも——諦めずに、戦っている」
アクアは微笑んだ。
「それが、あなたの強さよ」
「……」
アレンは、何も言えなかった。
「だから——私は、あなたを認めるわ」
アクアは告げた。
「水のマナ結晶を——あなたに託す」
「……ありがとう」
アレンは、小さく微笑んだ。
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白い空間が——崩れ始めた。
「さあ、戻りなさい」
アクアが告げた。
「あなたの仲間たちが、心配しているわ」
「ああ」
アレンは頷いた。
「アクア——また、会おう」
「ええ」
アクアは微笑んだ。
「必ず、また会いましょう」
光が——アレンを包んだ。
そして——
意識が、現実へと戻っていった。
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「アレン!」
ヒナタの声が聞こえた。
目を開けると——仲間たちが、心配そうにアレンを見つめていた。
「大丈夫か!?」
レンが尋ねた。
「ああ……」
アレンは立ち上がった。
「心配かけた」
「よかった……」
ヒナタは、安堵の息を吐いた。
「で……水晶は?」
エアリスが尋ねた。
アレンが振り返ると——
水晶は——小さくなっていた。
そして、アレンの手の中に——青い結晶が握られていた。
「これが……水のマナ結晶」
アレンは呟いた。
「やったな」
クリストフが告げた。
「これで、任務は完了だ」
「ああ」
アレンは頷いた。
「帰ろう」
五人は——迷宮の出口へと向かった。
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だが——
出口へ向かう途中、再び——異変が起きた。
**ゴゴゴゴゴゴゴ……**
迷宮全体が、激しく揺れ始めた。
「また何だ!?」
レンが叫んだ。
「まさか……」
エアリスが不安そうに呟いた。
そして——
前方に——黒い影が現れた。
「……!」
全員が、後退した。
黒いローブをまとった男——
だが、先ほどの男とは——違う。
より大きく、より強大な気配。
「よく来たな、アレン・アルカディア」
男は、低い声で告げた。
「貴様は……」
アレンが剣を構えた。
「私は——ヴォイド」
男は、仮面の下で笑った。
「黒月の牙——新たなる首領だ」
「新たなる首領……!」
アレンが驚いた。
「ゼロは、貴様に倒された」
ヴォイドは告げた。
「だが——我々は、諦めない」
「我々の目的は——八属性の力を集めること」
「そして——世界を、我々の手に」
ヴォイドは、手を伸ばした。
「その水のマナ結晶——渡してもらおう」
「断る」
アレンは即答した。
「これは——俺たちが手に入れたものだ」
「ふふ……」
ヴォイドは笑った。
「では——力ずくで奪うまでだ」
ヴォイドが手を上げると——
**ドシャアアアアアア!**
闇の魔法が、放たれた。
「危ない!」
アレンが叫んだ。
「《氷結領域・フリーズドメイン》!」
クリストフが魔法を発動した。
氷の壁が、闇の魔法を防ぐ。
だが——
**バキィィィィ!**
氷の壁が——一瞬で砕け散った。
「……!」
クリストフが、後退した。
「強い……!」
「これが——首領の力か」
レンが呟いた。
「みんな、下がれ!」
アレンが前に出た。
「アレン!」
ヒナタが叫んだ。
「大丈夫だ」
アレンは、四属性の力を引き出した。
光、炎、風、闇——
四つの力が、剣に宿る。
「《四属性統合・テトラハーモニー》!」
アレンが魔法を発動した。
剣が——四色の光を放った。
「行け!」
アレンは、ヴォイドへと斬りかかった。
だが——
「甘い」
ヴォイドは、冷たく告げた。
**バシュウウウウウ!**
闇の壁が、アレンの剣を防いだ。
「……!」
アレンが驚いた。
「その程度の力では——私には届かない」
ヴォイドは笑った。
そして——
**ドガアアアアアン!**
闇の魔法が、アレンを吹き飛ばした。
「アレン!」
ヒナタが駆け寄った。
「くっ……」
アレンは、痛みに耐えながら立ち上がった。
(化身たちがいれば……もっと戦えるのに)
だが——今はいない。
(俺一人で……どうすれば)
その瞬間——
心の中で——声が聞こえた。
『アレン』
「……!」
アレンが驚いた。
『諦めるな』
それは——エルフェリアの声だった。
『お前は、一人じゃない』
イグニスの声。
『僕たちは、いつも君と一緒だよ』
シルフの声。
『信じなさい』
ノクスの声。
「みんな……」
アレンは、涙を浮かべた。
「お前たち……まだ、いるのか」
『ああ』
エルフェリアが告げた。
『私たちは、世界マナに還った』
『だから——いつでも、君のそばにいる』
『見えなくても』
『聞こえなくても』
『私たちは、ずっと君を見守っている』
「……ありがとう」
アレンは、微笑んだ。
「もう一度——戦える」
アレンは、剣を構えた。
四属性の力が——再び宿る。
だが、今度は——より強く、より安定した力。
「これが……化身たちの支えか」
アレンは呟いた。
「《四属性統合・テトラハーモニー》!」
アレンが魔法を発動した。
剣が——眩いばかりの光を放った。
「……!」
ヴォイドが、初めて驚きの声を上げた。
「貴様……今のは」
「俺は——一人じゃない」
アレンは告げた。
「仲間たちが、いる」
「化身たちが、いる」
「だから——俺は、負けない」
アレンは、ヴォイドへと突進した。
「行け!」
**ザシュウウウウウ!**
剣が——闇の壁を貫いた。
「……!」
ヴォイドが、後退した。
「やるな……」
ヴォイドは、仮面の下で笑った。
「だが——今日のところは、退いてやろう」
「待て!」
アレンが叫んだ。
だが——
**バシュウウウウウ!**
闇の煙が、ヴォイドを包んだ。
そして——ヴォイドの姿は、消えた。
「逃げた……」
レンが呟いた。
「ああ……」
アレンは、剣を下ろした。
「でも——これで終わりじゃない」
「そうね……」
ヒナタが頷いた。
「彼らは、また来るわ」
「ああ」
アレンは、拳を握りしめた。
「だから——もっと強くならなければ」
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五人は——無事に、迷宮の出口へとたどり着いた。
海面へと浮上する。
青い空が、広がっていた。
「やっと……外に出られた」
ヒナタが、安堵の息を吐いた。
「ああ……」
アレンも頷いた。
「任務は——完了だな」
レンが告げた。
「ああ」
アレンは、手の中の水のマナ結晶を見つめた。
(アクア……ありがとう)
心の中で、呟いた。
(必ず——また会おう)
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**次回:第5話「絆の帰還」**
迷宮を脱出した五人。
そして——次なる目的地は?




