第3話「水底の守護者」
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「水のマナの化身……」
アレンは、アクアを見つめた。
青い髪が、水面に映る光を受けて揺れている。
エメラルドの瞳は、深い海のように——優しく、そして神秘的だった。
「あなたが……アレン・アルカディア?」
アクアは、微笑みながら尋ねた。
「……ああ」
アレンは頷いた。
「どうして、俺の名を?」
「知っているわ」
アクアは告げた。
「エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクス——四体の化身と契約した少年」
「……!」
アレンの表情が、強張った。
「でも……今は、彼らの姿が見えないわね」
アクアは、少し寂しそうに告げた。
「どうしたの?」
「……彼らは」
アレンは、拳を握りしめた。
「俺を救うために——消えた」
「……そう」
アクアは、優しく微笑んだ。
「あなたを守ったのね」
「ああ……」
アレンは、うつむいた。
「私には、彼らの気持ちが分かるわ」
アクアは告げた。
「マナの化身は——契約者を、何よりも大切に思うもの」
「……」
アレンは、何も言えなかった。
「でも、安心して」
アクアは続けた。
「彼らは、消えたわけではないわ」
「……え?」
アレンが顔を上げた。
「マナの化身は、世界マナそのもの」
アクアは告げた。
「だから——世界マナが存在する限り、私たちは消えない」
「じゃあ……」
「ええ」
アクアは頷いた。
「彼らは、今は世界マナに還っているだけ」
「世界マナに……」
アレンは、心の中で反芻した。
「いずれ、また会えるわ」
アクアは優しく告げた。
「だから——待っていなさい」
「……ありがとう」
アレンは、小さく微笑んだ。
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「あの……」
ヒナタが、恐る恐る尋ねた。
「アクアさん……ですよね?」
「ええ」
アクアは、ヒナタを見つめた。
「あなたは……ヒナタ・カミシロね」
「はい」
ヒナタは頷いた。
「シルフィアと契約している少女」
アクアは微笑んだ。
「シルフィア……私の妹のような存在よ」
「妹……?」
ヒナタが首を傾げた。
「ええ」
アクアは告げた。
「マナの化身には、属性ごとに繋がりがあるの」
「繋がり……」
「水と風は、特に近い関係」
アクアは続けた。
「だから、シルフィアは私の妹のようなもの」
「そうなんですか……」
ヒナタは、驚いた表情で呟いた。
「シルフィアは、元気にしてる?」
アクアが尋ねた。
「はい!」
ヒナタは笑顔で頷いた。
「いつも、私を助けてくれています」
「そう……よかった」
アクアは、安心したように微笑んだ。
そして——
「シルフィア、出てきなさい」
アクアが、優しく呼びかけた。
すると——
ヒナタの背後に、光の粒子が集まった。
「……!」
光の粒子が——少女の姿を形作った。
透明な羽を持つ、風の精霊。
「アクア様……!」
シルフィアが、嬉しそうに叫んだ。
「久しぶりね、シルフィア」
アクアは、シルフィアを優しく抱きしめた。
「お久しぶりです!」
シルフィアは、涙を浮かべた。
「こんなところで会えるなんて……」
「ええ、私も驚いたわ」
アクアは微笑んだ。
「でも——嬉しい」
「私も、です!」
シルフィアは、アクアの手を握った。
ヒナタは、その光景を見て——微笑んだ。
「シルフィア……よかったね」
「ヒナタ……ありがとう」
シルフィアは、ヒナタを振り返った。
「あなたのおかげで、アクア様に会えたわ」
「私は、何もしてないよ」
ヒナタは笑った。
「いいえ、あなたがいなければ——私は、ここに来られなかった」
シルフィアは告げた。
「ありがとう、ヒナタ」
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「さて」
アクアは、真剣な表情に戻った。
「あなたたちが、ここに来た理由は分かっているわ」
「……」
アレンたちは、アクアを見つめた。
「この迷宮の調査——そして、マナ結晶の回収」
アクアは告げた。
「でも……それだけではないでしょう?」
「……どういう意味だ?」
レンが尋ねた。
「最近、この迷宮に——異変が起きているの」
アクアは続けた。
「何者かが、この迷宮を狙っている」
「何者か……?」
アレンが尋ねた。
「ええ」
アクアは頷いた。
「闇の気配を感じるわ」
「闇……」
アレンは、心の中で呟いた。
(まさか……黒月の牙?)
「彼らは、マナ結晶を狙っているわ」
アクアは告げた。
「そして——私も」
「……!」
全員が、息を呑んだ。
「あなたを……狙っている?」
ヒナタが尋ねた。
「ええ」
アクアは頷いた。
「マナの化身を捕らえれば——莫大な力を得られるから」
「そんな……」
ヒナタは、悲しそうに呟いた。
「だから——あなたたちに、お願いがあるの」
アクアは、真剣な表情で告げた。
「私を……守って」
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その瞬間——
**ゴゴゴゴゴゴゴ……**
迷宮全体が、激しく揺れ始めた。
「何だ!?」
レンが叫んだ。
「来たわ……」
アクアは、悲しそうに呟いた。
「彼らが」
**ドガアアアアアン!**
天井が——崩れ落ちた。
「危ない!」
アレンが叫んだ。
「《水流障壁・アクアウォール》!」
エアリスが魔法を発動した。
水の壁が、崩れた天井を防ぐ。
「ありがとう、エアリス」
アクアが告げた。
そして——
崩れた天井の向こうから——影が現れた。
黒いローブをまとった、複数の人影。
「……黒月の牙!」
アレンが叫んだ。
「よく来たな、アレン・アルカディア」
黒いローブの男が、冷たく告げた。
「我々は——水のマナの化身を頂きに来た」
「させるか!」
アレンは、剣を構えた。
「ふふ……抵抗するか」
男は、仮面の下で笑った。
「だが——無駄だ」
男が手を上げると——
**ドシャアアアアアア!**
迷宮の壁が——次々と崩れ始めた。
そして——
巨大な魔獣たちが、現れた。
「……!」
全員が、後退した。
水の魔獣、氷の魔獣、そして——闇の魔獣。
少なくとも、十体以上。
「これは……」
クリストフが、冷や汗を流した。
「まずいぞ……」
レンも、緊張した表情で呟いた。
「みんな……」
アレンは、仲間たちを見渡した。
「ここで——全力で戦うぞ」
「ああ!」
全員が、頷いた。
「アクア、あなたは下がっていて」
アレンが告げた。
「でも……」
「大丈夫だ」
アレンは微笑んだ。
「俺たちが——守る」
「……分かったわ」
アクアは、後方へと下がった。
「ヒナタ、レン、エアリス、クリストフ」
アレンは、仲間たちを見つめた。
「行くぞ」
「ええ!」
五人は——魔獣たちへと向かった。
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戦闘が、始まった。
「《雷迅・サンダーブリッツ》!」
レンの雷が、闇の魔獣を貫いた。
「《氷結領域・フリーズドメイン》!」
クリストフの氷が、水の魔獣を凍らせた。
「《水流連撃・アクアブラスト》!」
エアリスの水が、氷の魔獣を砕いた。
「《神風光翼・セイントゲイル》!」
ヒナタの風と光が、闇の魔獣を消し飛ばした。
「《四属性統合・テトラハーモニー》!」
アレンの剣が、複数の魔獣を一気に薙ぎ払った。
五人の連携は——完璧だった。
だが——
「まだまだ、いるぞ!」
レンが叫んだ。
魔獣は——次々と現れ続けた。
「くっ……」
アレンは、歯を食いしばった。
(化身たちがいれば……もっと楽に戦えるのに)
四属性を制御するだけで、マナが激しく消耗していく。
「アレン、無理しないで!」
ヒナタが叫んだ。
「大丈夫だ!」
アレンは、再び剣を振るった。
だが——
その瞬間、巨大な闇の魔獣が——アレンへと襲いかかった。
「……!」
避ける暇がない。
「アレン!」
ヒナタが叫んだ。
だが——
**ドガアアアアアン!**
水の壁が、魔獣を防いだ。
「……!」
アレンが振り返ると——
アクアが、手を伸ばしていた。
「アクア……!」
「私も、戦うわ」
アクアは、真剣な表情で告げた。
「私の力を——貸してあげる」
「でも……」
「大丈夫」
アクアは微笑んだ。
「私は、マナの化身」
アクアの体が——青く光り始めた。
「この迷宮は、私の領域」
アクアは、両手を広げた。
「《水底支配・アビスドミニオン》!」
その瞬間——
迷宮全体の水が——激しく渦を巻き始めた。
「……!」
魔獣たちが、水の渦に飲み込まれていく。
「すごい……」
ヒナタが呟いた。
「これが……マナの化身の力……」
レンも、驚愕の表情で見つめた。
水の渦は——すべての魔獣を飲み込み、押し流した。
やがて——渦が収まった。
魔獣たちは——消えていた。
「やった……」
エアリスが、安堵の息を吐いた。
だが——
「まだだ!」
クリストフが叫んだ。
黒いローブの男が——まだそこにいた。
「なるほど……」
男は、仮面の下で笑った。
「マナの化身の力か」
「貴様……」
アレンが剣を構えた。
「だが——我々は、諦めない」
男は告げた。
「必ず、マナの化身を——手に入れる」
男が手を上げると——
**バシュウウウウウ!**
闇の煙が、男を包んだ。
そして——男の姿は、消えた。
「逃げた……」
レンが呟いた。
「ええ……」
アクアは、真剣な表情で告げた。
「彼らは——まだ諦めていないわ」
「……」
アレンは、拳を握りしめた。
(黒月の牙……まだ、終わっていないのか)
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戦いが終わり、五人は息を整えた。
「みんな、怪我はない?」
ヒナタが尋ねた。
「ああ、大丈夫だ」
アレンは頷いた。
「アクア、ありがとう」
「どういたしまして」
アクアは微笑んだ。
「あなたたちのおかげで、私も助かったわ」
「でも……これから、どうするんだ?」
レンが尋ねた。
「黒月の牙は、また来るだろう」
「ええ……」
アクアは頷いた。
「だから——私は、この迷宮を離れるわ」
「……!」
全員が、驚いた。
「ここにいては、彼らに狙われ続ける」
アクアは告げた。
「だから——安全な場所へ移動するわ」
「安全な場所……」
アレンが呟いた。
「ええ」
アクアは、アレンを見つめた。
「そして——いずれ、あなたと契約するわ」
「……え?」
アレンが驚いた。
「あなたは——光と闇の調停者」
アクアは告げた。
「いずれ、八属性を統べる者」
「八属性……」
アレンは、心の中で反芻した。
「だから——私も、あなたの力になりたいの」
アクアは微笑んだ。
「でも……今は、まだ早い」
「……どうして?」
「あなたは、まだ四属性を完全に制御できていないわ」
アクアは告げた。
「化身たちがいない今——まず、四属性を自分の力にしなさい」
「……」
アレンは、何も言えなかった。
「それができたら——また会いましょう」
アクアは、優しく告げた。
「その時、私と契約して」
「……分かった」
アレンは頷いた。
「必ず——強くなる」
「ええ、信じているわ」
アクアは微笑んだ。
そして——アクアの体が、光の粒子となって消えていった。
「さようなら、アレン」
優しい声が、響いた。
「また、会いましょう」
光が消え——アクアの姿は、なくなった。
「……行っちゃった」
ヒナタが呟いた。
「ああ……」
アレンは、空を見上げた。
(アクア……必ず、また会おう)
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**次回:第4話「迷宮の核心」**
迷宮の最深部へ。
そこで待ち受けるものとは——?




