第2話「迷宮への降下」
海岸から少し離れた場所に、セルフェン王国の調査拠点があった。
白い石造りの建物。その中には、水底探査のための魔道具が並んでいる。
「これを使って、海底へ潜る」
エアリスが青い球体を取り出した。
「これは?」
ヒナタが尋ねた。
「水中呼吸の魔道具よ。これを飲めば、六時間は水中で呼吸できる」
「便利だな」
レンが感心した。
「それだけじゃないわ」
エアリスは続けた。
「水圧防御の結界も張られる。だから、深海でも問題ない」
「さすが、水の国……」
アレンが呟いた。
「では、準備を整えよう」
クリストフが告げた。
五人は、それぞれ装備を整えた。
アレンは剣を腰に差し、魔道具を飲んだ。
体が——ほのかに青く光る。
「これで、準備完了ね」
エアリスが微笑んだ。
「では——行きましょう」
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海岸に戻り、五人は海へと足を踏み入れた。
冷たい水が、足を包む。
「大丈夫?」
ヒナタがアレンに尋ねた。
「ああ」
アレンは頷いた。
五人は、ゆっくりと海の中へ入っていった。
水面が、頭上を覆う。
だが——呼吸は、問題なくできた。
「すごい……本当に呼吸できる」
ヒナタが驚いた。
「当然だ」
クリストフが冷たく告げた。
「これがなければ、深海調査など不可能だ」
五人は、深く深く——潜っていった。
光が、徐々に薄れていく。
周囲には、色とりどりの魚たちが泳いでいた。
「綺麗……」
ヒナタが呟いた。
「油断するな」
レンが警告した。
「この先に、迷宮がある」
五人は、さらに深く潜った。
やがて——海底に、巨大な建造物が見えてきた。
「……あれが」
アレンが呟いた。
「水底の迷宮よ」
エアリスが告げた。
それは——古代の神殿のような建物だった。
石造りの柱。
崩れかけた壁。
だが、その奥には——暗闇が広がっていた。
「入口は、あそこだ」
クリストフが指差した。
神殿の中央に、大きな入口があった。
「行くぞ」
アレンが告げた。
五人は——迷宮の入口へと向かった。
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入口をくぐると——そこは、石造りの廊下だった。
壁には、古代文字が刻まれている。
「これは……古代魔導王国の文字だ」
クリストフが呟いた。
「やはり、ここは古代の遺跡なのか」
レンが尋ねた。
「間違いない」
クリストフは頷いた。
「だが……何が書いてあるんだ?」
ヒナタが尋ねた。
アレンは壁に近づき——文字を読んだ。
「『水の守護者、ここに眠る』……」
「水の守護者?」
エアリスが首を傾げた。
「マナの化身のことか?」
レンが尋ねた。
「……かもしれない」
アレンは呟いた。
(水のマナの化身……アクア)
心の中で、その名を思い浮かべた。
「先に進もう」
クリストフが告げた。
五人は、廊下を進んでいった。
やがて——広い部屋に出た。
「……!」
全員が、息を呑んだ。
部屋の中央には——巨大な水晶があった。
青く輝く、美しい水晶。
「あれは……マナ結晶?」
ヒナタが呟いた。
「ああ……だが、普通のものとは違う」
エアリスが真剣な表情で告げた。
「あれは——『水のマナ結晶』だ」
「水のマナ結晶……」
アレンは水晶を見つめた。
その瞬間——
**ゴゴゴゴゴゴゴ……**
部屋全体が、揺れ始めた。
「何だ!?」
レンが叫んだ。
水晶が——激しく光り出した。
そして——
**ドシャアアアアアア!**
水晶の前に——巨大な影が現れた。
「……!」
全員が、後退した。
それは——巨大な水の魔獣だった。
体長は十メートル以上。
透明な水でできた体。
だが、その中には——鋭い牙と爪があった。
「水の守護者……!」
エアリスが叫んだ。
「迷宮を守るために配置された魔獣だ!」
魔獣が——咆哮した。
**グオオオオオオオ!**
水が、激しく渦を巻く。
「来るぞ!」
アレンが叫んだ。
魔獣が——襲いかかってきた。
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「《水流障壁・アクアウォール》!」
エアリスが魔法を発動した。
水の壁が、魔獣の攻撃を防ぐ。
「《氷結領域・フリーズドメイン》!」
クリストフも魔法を放った。
魔獣の体が——凍り始めた。
「今だ!」
レンが剣を構えた。
「《雷迅・サンダーブリッツ》!」
雷が、魔獣を貫いた。
**ギャアアアアア!**
魔獣が悲鳴を上げた。
だが——すぐに、氷が溶け始めた。
「効いていない……!」
ヒナタが叫んだ。
「水の魔獣だから、氷も雷も——すぐに回復する!」
エアリスが告げた。
「なら——」
アレンが剣を構えた。
「俺が行く」
アレンは、マナを集中させた。
(エルフェリア……イグニス……)
心の中で、化身たちの名を呼ぶ。
だが——返事はない。
(……そうだった)
アレンは唇を噛んだ。
(もう、いないんだ)
それでも——
(俺は、やる)
アレンは、四属性の力を引き出した。
光、炎、風、闇——
四つの力が、剣に宿る。
「《四属性統合・テトラハーモニー》!」
アレンが魔法を発動した。
剣が——四色の光を放った。
「行け!」
アレンは、魔獣へと斬りかかった。
**ザシュウウウウウ!**
四属性の剣が——魔獣の体を貫いた。
「……!」
魔獣の体が——崩れ始めた。
水が、バラバラになっていく。
「やった……!」
ヒナタが叫んだ。
だが——
「まだだ!」
クリストフが叫んだ。
魔獣の体が——再び集まり始めた。
「何!?」
アレンが驚いた。
「水の魔獣は、何度でも再生する!」
エアリスが告げた。
「完全に倒すには——核を破壊しなければ!」
「核……?」
アレンが尋ねた。
「体の中心にある、青い光だ!」
エアリスが指差した。
魔獣の体の中——確かに、小さな青い光が見えた。
「あれを破壊すれば……」
「ああ」
アレンは頷いた。
「分かった」
アレンは、再びマナを集中させた。
(もう一度……)
剣に、四属性の力を込める。
だが——体が、悲鳴を上げた。
(くっ……)
化身たちがいない今、四属性を制御するのは——想像以上に困難だった。
マナが暴れる。
体が、軋む。
「アレン!」
ヒナタが叫んだ。
「大丈夫だ!」
アレンは、歯を食いしばった。
(俺は……まだやれる!)
アレンは、魔獣へと突進した。
魔獣が、巨大な水の拳を振り下ろす。
「《風光連迅・ウィンドライト》!」
ヒナタが魔法を発動した。
風と光が、魔獣の攻撃を逸らす。
「今よ、アレン!」
「ああ!」
アレンは、魔獣の体内へと飛び込んだ。
水が、体を包む。
だが——
(見えた!)
青い光——核が、目の前にあった。
「《四属性統合・テトラハーモニー》!」
アレンは、全力で剣を振り下ろした。
**ドガアアアアアン!**
剣が——核を貫いた。
「……!」
魔獣の体が——一瞬、静止した。
そして——
**バシャアアアアアア!**
魔獣の体が——完全に崩れ去った。
水が、床に落ちる。
「やった……」
アレンは、膝をついた。
「アレン!」
ヒナタが駆け寄った。
「大丈夫か?」
レンも心配そうに尋ねた。
「ああ……大丈夫だ」
アレンは、息を整えた。
(まだ……化身たちがいないことに、慣れていない)
四属性を制御するだけで、こんなにも疲れるとは。
「よくやったな」
クリストフが冷たく告げた。
「だが——これで終わりではない」
「……分かってる」
アレンは立ち上がった。
「先に進もう」
五人は——水晶の前を通り過ぎ、奥へと進んでいった。
廊下は、さらに深く続いていた。
(この先に……何が待っているんだろう)
アレンは、心の中で呟いた。
(水のマナの化身……アクア)
その名が——頭から離れなかった。
やがて——廊下の先に、光が見えてきた。
「あれは……」
ヒナタが呟いた。
五人は——その光へと向かった。
そして——
巨大な空間に出た。
「……!」
全員が、息を呑んだ。
そこは——美しい水の世界だった。
天井からは、光が差し込んでいる。
床には、透明な水が満ちている。
そして、中央には——
一人の少女が立っていた。
青い髪。
エメラルドの瞳。
透き通るような肌。
「……誰?」
ヒナタが呟いた。
少女は——微笑んだ。
「よく来たわね」
優しく、母性的な声。
「私は——アクア」
少女は告げた。
「水のマナの化身よ」
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**次回:第3話「水底の守護者」**
アクアとの出会い。
そして——新たな脅威が迫る。




