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第5話:四属性の器

第5話:四属性の器



 決勝戦の朝は、快晴だった。

 雲一つない青空が、王都の上に広がっている。

 まるで、これから起こる全てを見届けようとするかのように。

「アレン、準備はいい?」

 ヒナタが声をかけた。

 彼女の表情は、緊張よりも——決意に満ちていた。

「ああ」

 アレンは頷いた。

 昨夜、父から聞いた全ての真実。

 古代魔導王国の崩壊。

 アルカディア家の使命。

 そして、自分が選ばなければならない運命。

 全てを受け止めた上で、アレンは今日という日を迎えていた。

「みんな」

 アレンはFクラスのメンバー全員を見回した。

「今日の戦いが、最後だ」

「ああ」

 トムが頷いた。

「グランディア帝国代表。剣と魔法の両方を使いこなす、最強のチームだ」

「でも、俺たちだって負けてない」

 カイルが拳を掲げた。

「ここまで勝ち上がってきたんだ。絶対に勝てる!」

「そうよ」

 リサが微笑んだ。

「私たち、Fクラスから始まって……ここまで来たんだもの」

「みんな、ありがとう」

 アレンは心から感謝した。

「お前たちがいなければ、俺は一人じゃここまで来れなかった」

「何言ってんだよ」

 マルクが笑った。

「俺たちこそ、お前がいなきゃここまで来れなかった」

「そうそう!」

 エマが元気よく叫んだ。

「アレンがいたから、私たち強くなれたんだよ!」

「でも——」

 ヒナタが真剣な表情で告げた。

「今日は、いつもと違う」

 彼女は周囲を見回した。

「警備が、異常に厚い」

 確かに、宿屋の周りには王国騎士団が配置されていた。

 昨夜、父ゼノスが手配したのだろう。

「ゼロが動くかもしれないからな」

 アレンは静かに告げた。

「だから、みんな気をつけてくれ」

「分かってる」

 ヒナタは頷いた。

「行きましょう。私たちの、最後の戦いに」

 王都闘技場は、これまでで最大の熱気に包まれていた。

 全国大会決勝戦。

 観客席には、七大国の代表者たちが勢揃いしている。

 アルディア王国の国王。

 セルフェン王国の女王。

 グランディア帝国の皇帝。

 そして——ノクティア暗国の使節団長、セレス。

 実況の声が、闘技場全体に響き渡った。

「さあ、遂に決勝戦です! 下克上を続けてきたアルディア王国代表Fクラス! 対するは、軍事大国グランディア帝国が誇る最強のAクラス!」

 観客たちの歓声が、天を突く。

 闘技場の中央に、二つのチームが向かい合った。

 Fクラス側は、アレンを中心に、六人が並んでいる。

 対するグランディア代表は——。

「ようやく会えたな、アレン・アルカディア」

 先頭に立つ青年が、不敵に笑った。

 赤い髪に、鋭い金色の瞳。

 背中には巨大な剣を背負い、全身から圧倒的な闘気を放っている。

「ゼノ・グランディア」

 アレンは相手の名を呼んだ。

 グランディア帝国代表隊長。

 剣と魔法、両方を極めた天才戦士。

「俺の名を知っているか」

 ゼノは嬉しそうに笑った。

「光栄だな。俺も、お前のことは聞いている」

 彼は背中から剣を抜いた。

 それは、炎を纏った巨大な大剣だった。

「古代魔法使い。四属性の継承者。そして——」

 ゼノの瞳が、鋭く光った。

「世界の運命を背負う者」

「……!」

 アレンは息を呑んだ。

「何で、お前がそれを……」

「俺の国にも、古い伝承がある」

 ゼノは剣を構えた。

「四属性の継承者が現れる時、世界は転換点を迎える、とな」

「……」

「だから、俺はお前と戦いたかった」

 ゼノは不敵に笑った。

「世界の運命を背負う男が、どれほど強いのか——この目で確かめたい」

「ゼノ……」

 アレンも、身構えた。

 この男は、強い。

 今までで最強の相手だ。

「さあ、始めようぜ」

 ゼノが剣を掲げた。

「俺たちの、最高の戦いを」

 審判が手を上げた。

「全国大会決勝戦——開始!」

 その瞬間——。

 ゼノが、一瞬で間合いを詰めた。

「速い!」

 アレンは反射的に後ろに跳んだ。

 ゼノの大剣が、地面を抉る。

「《炎剣・フレイムブレード》!」

 ゼノの剣から、巨大な炎の斬撃が放たれた。

「くっ!」

 アレンは咄嗟に魔法で応戦した。

「《ファイアウォール》!」

 炎の壁が、斬撃を防ぐ。

 だが——。

「甘い!」

 ゼノは壁を突き破り、アレンに迫った。

「《紅蓮刃》!」

 アレンも剣を生成し、ゼノの大剣と激突させた。

 火花が散る。

 二人の力は、拮抗していた。

「いいぞ!」

 ゼノが嬉しそうに笑った。

「これだよ、これ! こういう戦いがしたかった!」

 彼は力任せに剣を振り下ろす。

 アレンは跳び退き、魔法で反撃した。

「《フレイムゲイル》!」

 炎と風が融合した攻撃が、ゼノに襲いかかる。

「《剣技・旋風斬り》!」

 ゼノは剣を回転させ、魔法を弾き飛ばした。

「くっ……剣でも魔法でも、同じくらい強いのか……」

 アレンは舌打ちした。

 その時、ヒナタたちが動いた。

「アレン、一人で戦わせないわ!」

 ヒナタが光魔法を放つ。

「《ライトシールド》!」

 光の盾が、ゼノを包囲した。

「おっと」

 ゼノは剣で盾を切り裂いた。

「悪いが、お前たちの相手は——こっちだ」

 グランディア代表の他のメンバーが、Fクラスに襲いかかった。

「くっ!」

 トムが風魔法で応戦する。

「《ウィンドバースト》!」

 マルクは土の壁で防御。

 カイルとリサとエマも、それぞれの魔法で戦う。

 闘技場全体が、激しい戦闘に包まれた。

「さあ、続きだ」

 ゼノが再び、アレンに迫った。

 剣と剣が、何度も激突する。

 魔法と魔法が、ぶつかり合う。

 まさに、最高峰の戦いだった。

「お前、強いな」

 ゼノが息を切らしながら言った。

「でも、まだ本気じゃないだろ」

「……」

 アレンは何も答えなかった。

 確かに、まだ全力ではない。

 四属性の力を、使っていない。

「見せてくれよ」

 ゼノが真剣な表情で告げた。

「お前の本当の力を」

「……分かった」

 アレンは深呼吸をした。

 そして——。

『エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクス』

 四体のマナの化身に呼びかけた。

『力を貸してくれ』

『もちろんよ』

 エルフェリアの声。

『当然だ』

 イグニスの声。

『任せて!』

 シルフの声。

『ええ』

 ノクスの声。

 四体の化身が、一斉に実体化した。

 光のエルフェリア。

 炎のイグニス。

 風のシルフ。

 闇のノクス。

 四体が、アレンの周りに並んだ。

 その瞬間——。

 アレンの左目が金色に、右目が銀色に変わった。

 身体の周りに、光と闇、炎と風が渦巻く。

「これが……」

 ゼノは息を呑んだ。

「四属性の力……」

「ああ」

 アレンは静かに告げた。

「これが、俺の全力だ」

 彼は両手を広げた。

「《四属性融合・クアドラフォース》」

 光、闇、炎、風——四つの属性が、一つに融合した。

 それは、まるで小さな星のように輝く、巨大なエネルギーの塊だった。

「すげえ……」

 観客席から、驚嘆の声が漏れる。

「これが、古代魔法……」

 ゼノは剣を構え直した。

「なら、俺も全力で行く」

 彼は大剣に、全てのマナを注ぎ込んだ。

「《究極奥義・皇帝剣》!」

 ゼノの剣が、眩い光を放った。

 それは、グランディア帝国歴代皇帝が受け継いできた、最強の剣技。

「行くぞ、アレン!」

「ああ!」

 二人は同時に、技を放った。

 《クアドラフォース》と《皇帝剣》が——。

 激突した。

 闘技場全体が、激しく揺れた。

 光が、闇が、炎が、風が——全てが混ざり合い、世界が真っ白に染まる。

 轟音。

 爆発。

 そして——。

 静寂。

 煙が晴れると——。

 そこには、倒れた二人の姿があった。

 アレンと、ゼノ。

 二人とも、膝をついていた。

「……引き分け、か」

 ゼノが苦しそうに笑った。

「いや」

 アレンも笑った。

「まだ、立てる」

 彼は、必死に立ち上がった。

 足が震えている。

 身体が、悲鳴を上げている。

 でも——。

「俺には、まだ……仲間がいる」

 アレンは振り返った。

 ヒナタたちが、グランディア代表と互角に戦っている。

 トムが、風魔法で相手を翻弄している。

 マルクが、土の壁で味方を守っている。

 カイル、リサ、エマも、必死に戦っている。

 そして、ヒナタが——。

「《神風光翼・セイントゲイル》!」

 最後の一人を倒した。

「……やったわ」

 ヒナタは疲労困憊しながら、微笑んだ。

「アレン、私たち……」

「ああ」

 アレンも微笑んだ。

「勝ったんだ」

 審判が、震える声で告げた。

「勝者——アルディア王国代表、Fクラス!」

 瞬間、闘技場全体が歓声に包まれた。

 観客たちが立ち上がり、拍手を送る。

「やった……やったぞ!」

 トムが叫んだ。

「俺たち、優勝したんだ!」

「信じられない……」

 マルクが涙を流しながら呟いた。

「Fクラスが、全国大会で優勝……」

「やったね!」

 エマが飛び跳ねた。

 ヒナタは、アレンの元に駆け寄った。

「アレン……」

 彼女の瞳には、涙が溢れていた。

「私たち、やったのよ……」

「ああ」

 アレンは優しく微笑んだ。

「みんなのおかげだ」

 その時——。

 闘技場全体が、突然暗くなった。

「……!」

 アレンは顔を上げた。

 空が、紫色に染まっている。

「これは……」

 観客たちが、不安そうに周囲を見回す。

「結界……だと?」

 ディルク教師が叫んだ。

「誰だ! 誰がこんなことを!」

 その時、闘技場の中央に——。

 黒いローブの男が、突然現れた。

「久しぶりだな、アレン・アルカディア」

 男は仮面を外した。

 そこには、蒼白い顔と、虚ろな瞳があった。

「ゼロ……!」

 アレンは叫んだ。

「ようやく、お前を手に入れる時が来た」

 ゼロは愉悦に満ちた表情で告げた。

「5000年……5000年も待った」

 彼は手を広げた。

「四属性の継承者よ、お前の力を——私によこせ」

 ゼロの周りに、黒月の牙のメンバーたちが次々と現れた。

 シャドウも、他の幹部たちも。

「くっ……」

 アレンは立ち上がろうとしたが、身体が動かない。

 さっきの戦闘で、マナを使い果たしていた。

「アレン!」

 ヒナタが駆け寄ろうとした。

 だが——。

「動くな」

 ゼロが指を鳴らすと、ヒナタの身体が見えない力で拘束された。

「ヒナタ!」

「みんなも、同じだ」

 ゼロが手を振ると、Fクラス全員、そして観客たち全員が動けなくなった。

「何て力だ……」

 ディルク教師も、身動きが取れない。

「これが、5000年の時を生きた者の力だ」

 ゼロは不敵に笑った。

「さあ、アレン・アルカディア。お前の中の『光と闇の調停者』の力を——」

 彼はアレンに手を伸ばした。

「私に、渡してもらおう」

 その時——。

「させるか!」

 一人の男が、ゼロに斬りかかった。

 ゼノス・アルカディアだった。

「ゼノス卿か」

 ゼロは剣で、ゼノスの攻撃を受け止めた。

「邪魔をするな」

「父さん!」

 アレンが叫んだ。

「アレン、逃げろ!」

 ゼノスが叫び返した。

「お前は、ここで死んではならない!」

「でも……」

「行け!」

 ゼノスは渾身の力で、ゼロを押し返した。

 その隙に、結界にわずかな綻びが生まれた。

「アレン、今よ!」

 観客席から、リアナの声が聞こえた。

 彼女が氷魔法で、結界に穴を開けていた。

「姉さん……」

「早く!」

 リアナが叫んだ。

 アレンは、立ち上がった。

 足が震える。

 身体が、限界を超えている。

 でも——。

「みんな、ごめん」

 アレンは仲間たちを見た。

「でも、俺は……逃げられない」

 彼は、ゼロに向き直った。

「お前が欲しいのは、俺の力だろう」

「……ほう」

 ゼロは興味深そうに見た。

「逃げないのか」

「ああ」

 アレンは拳を握りしめた。

「俺が逃げたら、みんなを巻き込む」

「賢明な判断だ」

 ゼロは微笑んだ。

「では、大人しく力を渡してもらおう」

 彼はアレンに近づいた。

 その時——。

『アレン』

 四体のマナの化身の声が、同時に響いた。

『私たちを、信じて』

「エルフェリア……イグニス……シルフ……ノクス……」

『私たちは、あなたの一部』

 エルフェリアが告げた。

『だから、私たちと一つになりなさい』

「一つに……?」

『そう』

 ノクスも告げた。

『四属性を完全に統合するの。そうすれば——』

「そうすれば……?」

『あなたは、真の継承者になれる』

 イグニスが告げた。

『光と闇、炎と風を統べる者に』

「でも、それって……」

『危険よ』

 シルフが正直に告げた。

『失敗したら、君の身体は崩壊する』

「……」

 アレンは迷った。

 だが——。

「やるしかない」

 彼は決断した。

「みんなを守るためなら」

『……分かったわ』

 エルフェリアが優しく微笑んだ。

『では、始めましょう』

 四体のマナの化身が、アレンの中に溶け込んでいく。

 光が、闇が、炎が、風が——全てがアレンと一つになる。

 その瞬間——。

 アレンの身体が、眩い光に包まれた。

 左目は金色、右目は銀色。

 髪が、わずかに白く染まる。

 身体の周りに、四つの属性が完璧に調和して渦巻いている。

「これは……」

 ゼロは驚愕の表情を浮かべた。

「まさか……完全統合を……」

「ああ」

 アレンは静かに告げた。

 彼の声は、いつもとは違う——より深く、より強く、そして——どこか神々しい響きを持っていた。

「俺は、四属性を統べる者。光と闇の調停者」

 アレンは手を広げた。

「ゼロ、お前の野望は——ここで終わりだ」

「馬鹿な……」

 ゼロは後ずさった。

「お前は、まだ未熟なはずだ……なぜ、こんな力を……」

「仲間がいるからだ」

 アレンは微笑んだ。

「俺には、守りたい仲間がいる。だから、強くなれる」

 彼は右手を前に突き出した。

「《四属性統合・テトラハーモニー》」

 光、闇、炎、風——全てが完璧に融合した、究極の魔法。

 それは、まるで宇宙そのもののように美しく、そして圧倒的だった。

「やめろ! それを放てば、お前の身体が——」

 ゼロが叫んだ。

 だが、アレンは躊躇しなかった。

「みんなを守るためなら——この身体くらい、安いものだ」

 アレンは、魔法を放った。

 《テトラハーモニー》が、ゼロに向かって飛んでいく。

 ゼロは全力で防御魔法を展開したが——。

 無駄だった。

 究極の魔法は、全ての防御を貫き、ゼロを包み込んだ。

「ぐああああああ!」

 ゼロの悲鳴が、闘技場に響き渡った。

 そして——。

 光が、爆発した。

 闘技場全体が、真っ白に染まる。

 数秒後、光が晴れると——。

 そこには、倒れたゼロの姿があった。

 黒いローブは破れ、仮面も砕け散っている。

「……くそ」

 ゼロは苦しそうに呟いた。

「5000年……5000年も待ったのに……」

 彼の身体が、ゆっくりと崩れていく。

 まるで、砂のように。

「お前は……強かった」

 ゼロは最後に、アレンを見た。

「だが……これで終わりではない」

「……何?」

「私の意志は……誰かが……継ぐ……」

 ゼロの言葉を最後に、彼の身体は完全に崩壊した。

 黒月の牙のメンバーたちも、主を失い、闇に消えていった。

 結界が、解けた。

 光が、戻ってきた。

 そして——。

「アレン!」

 ヒナタの叫び声が響いた。

 アレンは、力尽きて倒れた。

「アレン! アレン!」

 ヒナタが駆け寄り、彼を抱き起こした。

「しっかりして!」

「……ヒナタ」

 アレンは微かに微笑んだ。

「みんな……無事か?」

「馬鹿! そんなこと聞いてる場合じゃないでしょ!」

 ヒナタは涙を流しながら叫んだ。

「あなた、身体が……」

 アレンの身体は、透明になり始めていた。

 四属性統合の代償。

 身体が、世界マナに還ろうとしている。

「アレン!」

 ゼノスとリアナが駆け寄ってきた。

「息子よ……」

 ゼノスは息子の手を握った。

「お前は……よくやった」

「父さん……」

「弟……」

 リアナも涙を流していた。

「行かないで……」

「姉さん……ごめん……」

 アレンは微笑んだ。

 その時——。

『待ちなさい』

 エルフェリアの声が響いた。

 四体のマナの化身が、再び実体化した。

「エルフェリア……」

『アレン、あなたはまだ死ねない』

 エルフェリアは真剣な表情で告げた。

『私たちが、あなたを繋ぎ止める』

「でも……」

『私たちは、マナの化身。世界マナそのものよ』

 ノクスも告げた。

『だから、あなたが世界マナに還ろうとするのを、止められる』

「でも、そんなことをしたら、お前たちは……」

『大丈夫よ』

 シルフが笑った。

『僕たちは消えない。また会えるから』

『そうだ』

 イグニスも頷いた。

『お前とは、また必ず会える』

 四体のマナの化身が、アレンの身体に手を当てた。

 すると、透明になっていたアレンの身体が——元に戻り始めた。

「……!」

 ヒナタが驚きの声を上げた。

「戻ってる……アレンの身体が……」

『これで、大丈夫』

 エルフェリアは微笑んだ。

『アレン、あなたはもう少し、この世界で生きなさい』

「エルフェリア……みんな……」

 アレンは涙を流した。

「ありがとう……」

『どういたしまして』

 四体のマナの化身は、優しく微笑んだ。

 そして——光の粒子となって、消えていった。

「……行っちゃった」

 アレンは呟いた。

 だが、心の中で——四体の声が、まだ聞こえる。

『また会おう、アレン』

『お前なら、大丈夫だ』

『頑張ってね』

『さようなら』

 アレンは微笑んだ。

「ああ……また会おう」

 それから、三日後。

 アレン・アルカディアは、病院のベッドで目を覚ました。

「……ここは」

「やっと起きた」

 傍には、ヒナタが座っていた。

「ヒナタ……」

「もう、心配したんだから」

 ヒナタは涙を拭いた。

「三日も眠ってたのよ」

「そうか……」

 アレンは身体を起こした。

 不思議と、身体は軽かった。

「あの後、どうなった?」

「ゼロは消滅した」

 ヒナタは説明した。

「黒月の牙も、壊滅したみたい」

「そうか……」

「それと」

 ヒナタは微笑んだ。

「私たち、全国大会優勝よ」

「……そうだったな」

 アレンも微笑んだ。

「やったな」

「ええ」

 その時、病室のドアが開いた。

 入ってきたのは、Fクラスのメンバー全員だった。

「アレン!」

 トムが駆け寄ってきた。

「やっと起きたか!」

「心配したぞ」

 マルクも安堵の表情を浮かべた。

「もう無茶しないでよね」

 リサが呆れたように言った。

「そうだよ!」

 エマが頬を膨らませた。

「でも、お前のおかげで勝てたんだ」

 カイルが拳を掲げた。

「ありがとな、アレン」

「……ありがとう、みんな」

 アレンは心から感謝した。

 その時、病室に父ゼノスと姉リアナ、そして母も入ってきた。

「アレン!」

  母が真っ先に駆け寄り、息子を抱きしめた。

「もう、心配したのよ……三日も目を覚まさないなんて……」

「ごめん、母さん」

 アレンは母の背中に手を回した。

「心配かけて」

「馬鹿ね……無事でいてくれれば、それでいいのよ」

 母は涙を流しながら、優しく微笑んだ。

「アレン」

 父ゼノスが近づいてきた。

「お前は、よくやった。世界を救ったんだ」

「父さん……」

「だが、まだ終わりではない」

 ゼノスは真剣な表情で告げた。

「ゼロの最後の言葉を覚えているか?」

「……『私の意志は、誰かが継ぐ』」

 アレンは頷いた。

「ああ。黒月の牙は壊滅したが、ゼロの思想に共鳴する者は、まだいるかもしれない」

 ゼノスは窓の外を見た。

「だから、油断するな」

「分かってる」

 アレンは拳を握りしめた。

「でも、次は一人じゃない」

 彼は仲間たちを見回した。

「俺には、仲間がいる」

「そうね」

 リアナが優しく微笑んだ。

「あなたには、素晴らしい仲間がいる」

 その時、病室のドアが再びノックされた。

「失礼します」

 入ってきたのは、校長のシリウスと、ディルク教師だった。

「校長先生、ディルク先生」

 アレンは驚いた。

「アレン君」

 シリウス校長は優しく微笑んだ。

「君たちの活躍、本当に素晴らしかった」

「ありがとうございます」

「それで」

 ディルク教師が前に出た。

「お前たちに、報告がある」

「報告?」

「ああ」

 ディルクは少し照れくさそうに告げた。

「お前たちFクラスは、来学期からAクラスに昇格する」

「……!」

 Fクラスのメンバー全員が、驚きの声を上げた。

「マジかよ!」

 トムが叫んだ。

「俺たち、Aクラスに!?」

「当然だろう」

 ディルクは不敵に笑った。

「全国大会優勝チームが、Fクラスのままなわけがない」

「でも……」

 ヒナタが不安そうに尋ねた。

「私たち、一緒のクラスでいられるんですか?」

「もちろんだ」

 シリウス校長が頷いた。

「君たちは、一つのチームとして機能している。離す理由はない」

「良かった……」

 ヒナタは安堵の表情を浮かべた。

「それと」

 ディルクは続けた。

「レンから、お前に伝言だ」

「レン……?」

「『次は負けない。覚悟しておけ』だそうだ」

 ディルクは苦笑した。

「あいつも、悔しかったんだろうな」

「……そうか」

 アレンは微笑んだ。

「レンらしいな」

「それと、もう一つ」

 シリウス校長が真剣な表情で告げた。

「ノクティア暗国から、使節団が撤退した」

「セレス……」

 アレンは、あの紅い瞳の女性を思い出した。

「彼女は去り際に、こう言い残していった」

 シリウス校長は告げた。

「『アレン・アルカディア、いずれまた会いましょう。その時は、もっと面白いことになっているわ』と」

「……」

 アレンは窓の外を見た。

 青空が、広がっている。

「まだ、終わりじゃないんだな」

「ああ」

 ゼノスが頷いた。

「お前の旅は、まだ始まったばかりだ」

「でも」

 母が優しく息子の頭を撫でた。

「今は、ゆっくり休みなさい。あなたは十分頑張ったんだから」

「……うん」

 アレンは微笑んだ。

 その夜。

 アレンは一人、病室のベッドで目を閉じた。

 心の中で、四体のマナの化身に呼びかける。

『エルフェリア、イグニス、シルフ、ノクス』

 静寂。

 だが、その静寂の中で——微かに、声が聞こえた。

『アレン……』

 エルフェリアの声。

『お前は……強くなった……』

 イグニスの声。

『また……会おうね……』

 シルフの声。

『その時まで……元気で……』

 ノクスの声。

「ああ」

 アレンは微笑んだ。

「また会おう。必ず」

 彼は深い眠りに落ちた。

 その夢の中で——。

 四体のマナの化身が、優しく微笑んでいた。

 翌朝。

 アレンは病院を退院した。

 仲間たちが、皆で迎えに来てくれた。

「さあ、帰ろう」

 ヒナタが手を差し出した。

「学園に」

「ああ」

 アレンはその手を取った。

「帰ろう。俺たちの場所に」

 Fクラス——いや、これからはAクラスのメンバーたちは、肩を並べて歩き出した。

 青空の下、彼らの笑い声が響く。

 アレン・アルカディアの旅は、まだ始まったばかりだった。

 四属性を統べる者として。

 光と闇の調停者として。

 そして——仲間たちと共に歩む、一人の少年として。

 新たな物語が、今、幕を開ける。

 遠く、ノクティア暗国。

 城の最上階で、セレスは窓の外を見つめていた。

「アレン・アルカディア……」

 彼女は紅い瞳を細めた。

「あなたは、まだ全てを知らない」

 傍らに、ヴァンディアが控えている。

「セレス様、次の手は?」

「焦る必要はないわ」

 セレスは優雅に微笑んだ。

「彼はまだ、四属性しか目覚めていない」

「四属性……まだ、あるのですか?」

「ええ」

 セレスは頷いた。

「光と闇、炎と氷、風と土、雷と水——八属性全てが揃った時」

 彼女の瞳が、妖しく光った。

「真の継承者が、誕生する」

「では……」

「そう」

 セレスは不敵に笑った。

「私たちは、彼が残りの四属性を目覚めさせるのを——待つのよ」

 同じ頃。

 世界の辺境、誰も知らない場所で——。

 一人の少女が、目を覚ました。

 氷のように冷たい、青い瞳。

 白銀の髪。

「……時が来たのね」

 少女は呟いた。

「光と闇の調停者が、現れた」

 彼女は立ち上がった。

「なら、私も——動かなければ」

 氷のマナの化身、グラシア。

 彼女の目覚めが、新たな物語の始まりを告げていた。

【第四章「闇の覚醒編」 完】

【次章予告】

 全国大会を制したアレンたちは、Aクラスへと昇格する。

 だが、新たな脅威が迫っていた。

 残る四属性——氷、土、雷、水。

 アレン・アルカディアの旅は、七大国全てを巡る壮大な冒険へと発展していく。

 彼は、八属性全てを統べる者となれるのか?

 それとも、その力に飲み込まれてしまうのか?

 第五章「マナの迷宮」、近日公開!

【作者コメント】

第四章「闇の覚醒編」、お読みいただきありがとうございました!

アレンが四属性を目覚めさせ、ゼロとの戦いに勝利するまでを描きました。Fクラスから始まった彼らの旅が、全国大会優勝という形で一つの区切りを迎えました。

しかし、物語はまだ始まったばかり。残る四属性(氷・土・雷・水)の化身たち、セレスの真の目的、そして新たな敵の登場……アレンたちを待ち受ける試練は、これからが本番です。

次章では、七大国を巡る壮大な冒険が始まります。新しい仲間、新しい敵、そして新しい力。アレンの成長と、仲間たちとの絆の深まりを、ぜひ楽しみにしていてください!

それでは、次章でまたお会いしましょう!

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