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第4話:闇夜の黙示録

第4話:闇夜の黙示録

 準決勝の朝は、どんよりとした曇り空だった。

 まるで、これから起こる戦いを予兆するかのように、空は重く沈んでいた。

「アレン、準備はいい?」

 ヒナタが声をかけた。

 彼女の表情には、緊張と決意が入り混じっていた。

「ああ」

 アレンは頷いた。

 この三日間、Fクラス全員で特訓を重ねてきた。

 リアナ姉さんからは、闇魔法への対処法を教わった。

 ディルク先生からは、集団戦術の特訓を受けた。

 そして、マナの化身たちとも、より深い連携を築いてきた。

「トム、マルク、カイル、リサ、エマ」

 アレンはFクラスのメンバー全員を見回した。

「今日の相手は、今までで最強だ」

「分かってるって」

 トムが不敵に笑った。

「ノクティア暗国代表。全員が闇魔法使いなんだろ?」

「ああ」

 アレンは頷いた。

「相手の隊長、ヴァンディアは特に危険だ。影を自在に操る」

「影を……」

 エマが不安そうに呟いた。

「でも、大丈夫」

 アレンは微笑んだ。

「俺たちには、仲間がいる」

「そうだよ!」

 カイルが拳を掲げた。

「みんなで協力すれば、絶対勝てる!」

「行こう」

 ヒナタが先頭に立った。

「私たちの戦いを、始めましょう」

 王都闘技場は、異様な熱気に包まれていた。

 観客席は満員で、各国の代表や貴族たちが固唾を呑んで見守っている。

 全国大会準決勝。

 アルディア王国代表Fクラス対、ノクティア暗国代表Aクラス。

 実況の声が、闘技場に響き渡った。

「さあ、遂に準決勝が始まります! 片や下克上を続けるFクラス! 片や闇の国ノクティアが誇る精鋭部隊!」

 観客たちの歓声が巻き起こる。

 闘技場の中央に、二つのチームが向かい合った。

 Fクラス側は、アレンを中心に、ヒナタ、トム、マルク、カイル、リサ、エマが並んでいる。

 対するノクティア代表は——。

「ようこそ、アレン・アルカディア」

 先頭に立つ青年が、冷たく微笑んだ。

 漆黒の髪に、深紅の瞳。

 全身を黒い戦闘服で包んだその姿は、まるで闇そのものを纏っているようだった。

「ヴァンディア……」

 アレンは警戒しながら名前を呼んだ。

「ああ。私がノクティア暗国代表隊長、ヴァンディア・ノクトだ」

 ヴァンディアは手を広げた。

「君のことは、セレス様から聞いている」

「セレス……」

「そう。我が主にして、ノクティアの至宝」

 ヴァンディアの瞳が、妖しく光った。

「セレス様は、君に大変興味を持っておられる」

「……俺は、ノクティアに行くつもりはない」

 アレンは毅然と告げた。

「残念だ」

 ヴァンディアは肩を竦めた。

「だが、君の意思は関係ない。セレス様が望めば、君は我が国に来ることになる」

「どういう意味だ」

「すぐに分かる」

 ヴァンディアは不敵に笑った。

「さあ、始めよう。君たちに、闇の真の力を見せてあげる」

 審判が手を上げた。

「準決勝、第一試合——開始!」

 その瞬間——。

 闘技場全体が、闇に包まれた。

「……!」

 アレンは目を見開いた。

 視界が、完全に奪われている。

 光が、存在しない。

 まるで、世界そのものが闇に飲み込まれたようだった。

「これは……」

 ヒナタの声が、闇の中で震えていた。

「《深淵の帳・アビスカーテン》」

 ヴァンディアの声が、四方八方から聞こえてきた。

「この闇の中では、視覚は無意味だ」

「くそっ!」

 トムが風魔法を放った。

「《ウィンドバースト》!」

 だが、風は闇の中で霧散し、何の効果も上げなかった。

「無駄だと言っただろう」

 ヴァンディアの声が、嘲笑うように響く。

「この闇は、全ての光を飲み込む。君たちの魔法も、例外ではない」

「ヒナタ!」

 アレンが叫んだ。

「光魔法で、闇を払え!」

「分かった!」

 ヒナタは両手を掲げた。

「《ライトシールド》!」

 淡い光が、ヒナタの周囲に広がった。

 だが——。

「……効かない」

 ヒナタは絶望的な表情で呟いた。

 光が、闇に飲み込まれていく。

 まるで、水の中に落ちた火のように、消えていく。

「言っただろう。この闇は、全ての光を飲み込むと」

 ヴァンディアの声が、冷たく響いた。

「さて、では——狩りを始めよう」

 瞬間、闇の中から無数の影が現れた。

「うわああ!」

 マルクの悲鳴が響く。

「マルク!」

 リサが叫んだ。

 だが、闇の中では誰がどこにいるのか分からない。

「くそっ、このままじゃ……」

 アレンは歯噛みした。

『アレン』

 エルフェリアの声が響いた。

『落ち着いて。視覚に頼ってはダメ』

「視覚に頼るな……?」

『そう。闇の中では、別の感覚を使いなさい』

 エルフェリアは告げた。

『マナの流れを感じて。敵の位置を、マナで把握するの』

 アレンは目を閉じた。

 いや、そもそも闇の中では目を開けていても意味がない。

 深呼吸をして、意識を集中させる。

 世界のマナ。

 それが、流れている。

 空気中を、地面を、そして——人の身体を通って。

「……見える」

 アレンは呟いた。

 マナの流れが、視えた。

 仲間たちの位置。

 そして、敵の位置も。

「みんな! 俺の声を頼りに集まれ!」

 アレンが叫ぶと、Fクラスのメンバーが彼の元に集まってきた。

「アレン……」

 ヒナタが安堵の表情を浮かべた。

「よく無事だったな」

 トムも、安心したように笑った。

「ほう」

 ヴァンディアの声が、感心したように響いた。

「マナ感知か。なかなかやるじゃないか」

「お前の位置も、分かってるぞ」

 アレンは闇の中の一点を見つめた。

「そこだ! 《ファイアボール》!」

 炎の球が、闇の中を飛んでいく。

 だが——。

「甘い」

 ヴァンディアの声が、別の場所から聞こえた。

 炎の球は、何もない空間を通り過ぎた。

「影の移動は、瞬時だ。君の攻撃では、捉えられない」

「くっ……」

 アレンは舌打ちした。

「アレン、どうすればいいの?」

 ヒナタが不安そうに尋ねた。

「分からない……でも……」

 アレンは拳を握りしめた。

 このままでは、ジリ貧だ。

 相手の闇魔法は、あまりにも強力すぎる。

『アレン』

 イグニスの声が響いた。

『お前、まだ気づいていないのか』

「何に……?」

『闇があるなら、闇で対抗すればいい』

 イグニスは告げた。

『お前の中には、闇の力が眠っている』

「闇の力……ノクスか」

『そうだ。あいつを呼べ』

 イグニスは言った。

『お前は、まだノクスの力を使っていない。だが、今こそ使う時だ』

「でも……」

 アレンは躊躇した。

 ノクスは、まだ完全には目覚めていない。

 自分は、闇の力を制御できるのか?

『恐れるな』

 エルフェリアの声が、優しく響いた。

『ノクスは、あなたの敵ではない。彼女は、あなたの一部』

『そうだ』

 シルフの声も続いた。

『僕たちが、君を支える。だから、恐れないで』

 アレンは深呼吸をした。

 そして、自分の内側に意識を向けた。

「ノクス……」

 アレンは心の中で呼びかけた。

「頼む。力を貸してくれ」

 静寂。

 闇の中で、時間だけが過ぎていく。

 そして——。

「……ようやく、呼んでくれたのね」

 銀色の瞳が、闇の中に浮かび上がった。

「ノクス……!」

「私はずっと待っていたわ、アレン」

 ノクスが、ゆっくりと実体化した。

 漆黒の髪、銀色の瞳、そして闇を纏った黒いドレス。

 彼女は、まるで闇の女王のように美しかった。

「私の力、使ってくれるの?」

「ああ」

 アレンは頷いた。

「お前の力が必要だ」

「なら」

 ノクスは微笑んだ。

「私を、受け入れなさい」

 彼女はアレンに手を伸ばした。

 アレンは、その手を——掴んだ。

 瞬間。

 アレンの身体が、闇の力に包まれた。

「……!」

 ヒナタが驚きの声を上げた。

 闇の中で、アレンの姿が変わっていく。

 左目は金色、右目は銀色。

 身体の周りに、光と闇が共存している。

「これは……」

 ヴァンディアの声が、初めて動揺した。

「闇の力……だと? まさか、お前……」

「ああ」

 アレンは静かに告げた。

 彼の声は、いつもとは違う——より深く、より力強い響きを持っていた。

「俺は、光と闇の両方を持つ者だ」

 アレンは右手を前に突き出した。

「《闇光融合・エクリプスブレード》」

 彼の手の中に、剣が生成された。

 それは、光と闇が螺旋状に絡み合った、美しくも恐ろしい剣だった。

「そんな……そんな魔法、聞いたことがない……」

 ヴァンディアは戸惑いながら呟いた。

「これが、俺の新しい力だ」

 アレンは剣を構えた。

 そして——闇の中を駆けた。

 マナ感知で捉えたヴァンディアの位置に向かって、一直線に。

「くっ!」

 ヴァンディアは影の移動で逃げようとした。

 だが——。

「逃がさない」

 アレンの剣が、影を切り裂いた。

「がああっ!」

 ヴァンディアの悲鳴が響いた。

 影の移動が、中断される。

「そんな……俺の影を、切った……?」

 ヴァンディアは信じられない表情で呟いた。

「闇には、闇で対抗する」

 アレンは静かに告げた。

「お前の闇魔法は強力だ。でも、俺にも闇の力がある」

「馬鹿な……お前は光の魔法使いのはずだ……なぜ闇を……」

「光と闇は、表裏一体だ」

 アレンは《エクリプスブレード》を構え直した。

「光があるなら、闇もある。それが、俺だ」

 彼は再び、ヴァンディアに向かって駆けた。

 闇の中での戦いは、まるで舞踊のようだった。

 アレンの剣が、ヴァンディアの影を切り裂く。

 ヴァンディアは影の魔法で反撃するが、アレンの闇の力がそれを相殺する。

「くそっ……くそっ!」

 ヴァンディアは焦っていた。

 自分の得意とする闇魔法が、通用しない。

 それどころか、相手も闇の力を使いこなしている。

「《影の槍・シャドウランス》!」

 ヴァンディアが無数の影の槍を生成し、アレンに向かって放った。

 だが——。

「《闇の盾・ダークシールド》」

 ノクスの声が響き、アレンの前に闇の盾が出現した。

 影の槍は、盾に当たって霧散する。

「ノクス……ありがとう」

 アレンは心の中で礼を言った。

「どういたしまして」

 ノクスは微笑んだ。

「私は、あなたの一部なのだから」

 アレンは再び、ヴァンディアに迫った。

 そして——剣を振り下ろした。

「終わりだ!」

「くっ……!」

 ヴァンディアは必死に影の盾で防御した。

 だが、《エクリプスブレード》は影の盾を切り裂き——。

 ヴァンディアの胸元に、剣の切っ先が触れた。

「……勝負あり」

 アレンは静かに告げた。

 瞬間、闘技場を覆っていた闇が晴れた。

 光が戻り、観客たちの姿が見えるようになった。

「な、何が起きたんだ……?」

 観客たちが、困惑した表情で呟いている。

 闇に覆われている間、彼らには何も見えなかった。

 だが、結果は明白だった。

 闘技場の中央で、アレンの剣がヴァンディアの胸元に突きつけられている。

「勝者——アルディア王国代表Fクラス!」

 審判の声が、闘技場に響き渡った。

 歓声が、爆発的に巻き起こる。

「アレン……」

 ヒナタが駆け寄ってきた。

「あなた、今の……」

「ああ」

 アレンは微笑んだ。

 彼の左目は金色、右目は銀色のまま。

「俺の新しい力だ」

「光と闇……両方を?」

「そうだ」

 アレンは頷いた。

 その時、観客席の一角から、ゆっくりと拍手が響いた。

 アレンが顔を上げると——。

 そこには、紅い瞳の美しい女性が立っていた。

 セレス。

「素晴らしいわ、アレン・アルカディア」

 セレスは妖艶に微笑んだ。

「あなたは、期待以上ね」

「セレス……」

 アレンは警戒しながら彼女を見つめた。

「安心して。今日は、ただ見に来ただけよ」

 セレスは優雅に手を広げた。

「でも、覚えておいて。あなたの中の闇の力——それは、まだ完全ではない」

「……どういう意味だ」

「いずれ分かるわ」

 セレスは謎めいた笑みを浮かべた。

「次は、決勝戦ね。グランディア帝国代表との戦い」

 彼女は踵を返した。

「その後で、また会いましょう。アレン・アルカディア」

 セレスは、闇に消えるように去っていった。

「……何だったんだ、今の」

 トムが呆然と呟いた。

「分からない」

 アレンは首を横に振った。

「でも、まだ何か企んでいる……」

 その時、ディルク教師が闘技場に駆け寄ってきた。

「アレン! みんな、無事か!」

「はい、先生」

 アレンは頷いた。

「みんな、無事です」

「良かった……」

 ディルクは安堵の表情を浮かべた。

「それにしても、お前……闇の力を……」

「ああ」

 アレンは自分の手を見つめた。

「まだ、完全には制御できてない。でも……」

 彼は拳を握りしめた。

「この力で、みんなを守れる」

「……そうか」

 ディルクは複雑な表情を浮かべた。

「だが、無理はするなよ。光と闇、両方を使うのは……危険だ」

「分かってます」

 アレンは頷いた。

 その時、観客席から一人の男が降りてきた。

 銀色の髪に、鋭い眼光。

 アルカディア家の当主——ゼノス・アルカディアだった。

「父さん……!」

 アレンは驚きの声を上げた。

「アレン」

 ゼノスは息子の傍に歩み寄った。

「お前の戦い、見ていたぞ」

「父さん……いつから……」

「今朝、王都に着いた」

 ゼノスは真剣な表情で告げた。

「アレン、お前は……遂に四つ目の力を目覚めさせたな」

「四つ目……」

「光、炎、風、そして闇」

 ゼノスは息子の肩に手を置いた。

「お前は、四属性の継承者となった」

「四属性の継承者……」

 アレンはその言葉の意味を、まだ完全には理解できなかった。

「今夜、話がある」

 ゼノスは静かに告げた。

「アルカディア家の秘密を、全て話そう」

「秘密……」

「ああ」

 ゼノスは遠い目をした。

「5000年前の、古代魔導王国の真実を」

 その夜。

 王都の一角にある、高級宿屋の一室。

 アレンは父ゼノスと、向かい合って座っていた。

 部屋には、リアナ姉さんも同席している。

「アレン」

 ゼノスは重々しく口を開いた。

「お前は、アルカディア家が古代魔導王国の末裔であることを知っているな」

「ああ……ゼロが、そう言っていた」

「ゼロ……」

 ゼノスの表情が、険しくなった。

「やはり、あの男が動き出したか」

「父さん、ゼロって誰なんだ?」

「彼は……5000年前の、古代魔導王国の王子だった」

 ゼノスは静かに告げた。

「……!」

 アレンは息を呑んだ。

「5000年前の……まさか、そんなに長く……」

「彼は、特殊な魔法で自分の寿命を延ばしている」

 ゼノスは続けた。

「その代償に、彼の身体は既に死んでいる。生きている屍、と言ってもいい」

「そんな……」

「5000年前、古代魔導王国は滅んだ」

 ゼノスは遠い目をした。

「だが、その原因は外敵ではなく……内部崩壊だった」

「内部崩壊……?」

「そうだ。古代魔導王国の王、ゼロの父は……世界のマナを全て支配しようとした」

 ゼノスは重々しく告げた。

「そして、禁忌の魔法を使った。《世界マナ掌握・ワールドドミネーション》」

「世界マナを……掌握?」

「ああ」

 ゼノスは頷いた。

「世界中のマナを一人で支配する。それは、神にも等しい力だ」

「でも、それって……」

「当然、失敗した」

 ゼノスは静かに告げた。

「世界マナは、一人の人間が制御できるものではない。王は暴走し、古代魔導王国は崩壊した」

「……」

「その時、王を止めたのが——我らアルカディア家の祖先だ」

 ゼノスは真剣な眼差しでアレンを見た。

「祖先は、四属性の継承者だった。光と闇、炎と氷、風と土、雷と水——全ての属性を統べる者」

「四属性……いや、八属性……?」

「正確には、四対の属性だ」

 リアナが補足した。

「光と闇、炎と氷、風と土、雷と水。それぞれが対をなしている」

「対……」

「そうだ」

 ゼノスは頷いた。

「そして、祖先は四対の属性を使い、暴走した王を封印した」

「封印……」

「その封印が、今、解かれつつある」

 ゼノスは深刻な表情で告げた。

「アレン、お前が四属性を目覚めさせたことで、封印の力が弱まっている」

「……俺が、封印を弱めた?」

「そうだ」

 ゼノスは頷いた。

「四属性の継承者が現れると、封印は解かれる。それが、祖先が残した予言だ」

「じゃあ、俺は……」

 アレンは絶望的な表情で呟いた。

「俺は、世界を滅ぼすのか……?」

「いいや」

 ゼノスは力強く否定した。

「予言には、続きがある」

 彼は古びた羊皮紙を取り出した。

 そこには、古代文字でこう記されていた。

 ——四属性の継承者、世界を救うか、滅ぼすか。

 ——その運命は、継承者自身の選択に委ねられる。

「選択……」

 アレンは呟いた。

「そうだ」

 ゼノスは息子の肩に手を置いた。

「お前は、選べる。世界を救うことも、滅ぼすこともできる」

「でも、どうやって……」

「それは、これから決まる」

 ゼノスは真剣な眼差しでアレンを見つめた。

「決勝戦の後、全てが決まる」

「決勝戦……」

「ああ」

 ゼノスは頷いた。

「グランディア帝国代表との戦い。そこで、ゼロが動く」

「ゼロが……」

「彼の目的は、お前の中の『光と闇の調停者』の力だ」

 ゼノスは告げた。

「その力があれば、彼は再び世界マナを支配できる」

「光と闇の調停者……」

 アレンは自分の手を見つめた。

「アレン」

 リアナが優しく弟の手を握った。

「怖がらないで。あなたには、私たちがいる」

「姉さん……」

「それに、お前には仲間がいる」

 ゼノスも微笑んだ。

「Fクラスの仲間たち、マナの化身たち……みんなが、お前を支えてくれる」

「……ああ」

 アレンは頷いた。

「俺は、一人じゃない」

「そうだ」

 ゼノスは息子の肩を叩いた。

「だから、恐れるな。お前の選択を、信じろ」

 アレンは深呼吸をした。

 決勝戦。

 グランディア帝国代表との戦い。

 そして、ゼロとの対決。

 全てが、そこで決まる。

「父さん」

 アレンは真剣な眼差しで父を見た。

「俺は、世界を救う」

「……ああ」

 ゼノスは微笑んだ。

「お前なら、できる」

 同じ頃。

 王都の地下、誰も知らない場所で——。

 黒いローブの男が、仮面を外した。

 ゼロだ。

「遂に、四属性の継承者が現れたか」

 ゼロは愉悦に満ちた表情で呟いた。

「5000年……5000年も待った」

 彼の周りには、黒月の牙の幹部たちが跪いている。

「明日の決勝戦で、全てを手に入れる」

 ゼロは不敵に笑った。

「アレン・アルカディア……お前の中の力、私が奪い取る」

 彼は手を広げた。

「そして、世界は再び我が手に」

 ゼロの笑い声が、地下に響き渡った。


【次回予告】

 遂に決勝戦の日が来た。

 グランディア帝国代表との激闘。

 そして、ゼロが遂に動き出す。

 アレンの選択が、世界の運命を

 ——。


「第5話:四属性の器」お楽しみに。

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