表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マナに選ばれし落ちこぼれ 〜古代魔法を継ぐ者〜 (マナ落ち)  作者: たくわん。
第四章「闇の覚醒」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/50

第2話:氷結の貴公子

第2話:氷結の貴公子


闇の覚醒編

 闘技場全体が、純白の氷に覆われていた。

 観客席、壁、天井……視界に映る全てが氷の世界と化している。

「く、寒い……」

 エマが震えながら呟いた。彼女は水と氷の二属性を持つが、それでもこの冷気は耐え難いものだった。

「これが、SSS級魔法……」

 ヒナタは周囲を見回した。

 闘技場の空気そのものが凍りつき、呼吸するたびに白い息が漏れる。気温は恐らく氷点下を遥かに下回っているはずだ。

「《氷結領域・フロストドメイン》」

 クリストフが静かに告げた。

「この領域内では、全ての水分が私の支配下にある。空気中の水蒸気も、君たちの汗も、呼気に含まれる水分さえも」

 彼は優雅に手を広げた。

「私の魔法に、抵抗する術はない」

「なめんな!」

 トムが叫び、風魔法を放った。

「《ウィンドバースト》!」

 爆発的な風が、クリストフに向かって襲いかかる。

 だが——。

「無駄だ」

 クリストフが指を鳴らした瞬間、トムの風魔法が空中で凍りついた。

 風そのものが、氷の結晶となって砕け散る。

「そんな……風が、凍った?」

 トムは信じられない表情で呟いた。

「言っただろう。この領域内では、全ての水分が私の支配下にあると」

 クリストフは冷たく微笑んだ。

「風に含まれる水蒸気を凍らせれば、風魔法など容易く無力化できる」

「クソッ!」

 カイルが前に飛び出した。

「なら、これはどうだ! 《スパークショット》!」

 雷の槍が、クリストフに向かって放たれる。

 しかし——。

「雷魔法か。悪くない選択だ」

 クリストフは右手を前に突き出した。

「だが、甘い」

 瞬間、クリストフの前に巨大な氷の壁が出現した。

 雷の槍は氷の壁に直撃し——そのまま壁の中を伝導し、地面へと流れていく。

「氷は絶縁体ではない。だが、適切な厚さと純度の氷は、雷を地面へと逃がすことができる」

 クリストフの説明は、まるで授業のようだった。

「くっ……」

 カイルが悔しげに歯噛みする。

「マルク!」

 リサが叫んだ。

「《アースウォール》!」

「任せろ!」

 マルクが地面に手を叩きつけると、土の壁が隆起した。

 だが、氷に覆われた地面からは、通常の半分ほどの高さの壁しか出現しなかった。

「土魔法も、地面が凍っていては本来の力を発揮できない」

 クリストフは淡々と告げた。

「《アイスランス》」

 彼が手を振ると、無数の氷の槍が生成された。

 それらは一斉に、マルクの土壁に向かって飛んでいく。

「うわああ!」

 マルクの土壁は、氷の槍の連撃に耐えきれず崩壊した。

「マルク!」

 リサが水魔法で盾を作り、マルクを庇う。

「《ウォータースパイラル》!」

 水の渦が、氷の槍を弾き飛ばす。

「……ほう」

 クリストフの瞳に、わずかな興味の色が浮かんだ。

「水魔法使いか。だが、それも——」

 彼が指を鳴らすと、リサの水の渦が瞬時に凍りついた。

「この領域内では、水魔法は私に有利にしかならない」

「そんな……」

 リサは絶望的な表情で呟いた。

 Fクラスの攻撃が、ことごとく無力化されていく。

「さて」

 クリストフは冷たい視線を、Fクラスの全員に向けた。

「本気で来てもらおうか」

 彼が両手を広げると、闘技場中に無数の氷柱が出現した。

「《氷柱の雨・アイシクルレイン》」

 無数の氷柱が、Fクラスに向かって降り注ぐ。

「散開しろ!」

 アレンが叫んだ。

 Fクラスのメンバーは、それぞれ別方向に飛び散る。

 氷柱が地面に突き刺さり、激しい音を立てた。

「アレン!」

 ヒナタがアレンの傍に駆け寄った。

「このままじゃ、みんなが……」

「分かってる」

 アレンは唇を噛んだ。

 クリストフの氷魔法は、想像以上に強力だった。SSS級スクロールの力は、伊達ではない。

『アレン』

 エルフェリアの声が響いた。

『まだ動くつもり? 君の身体は——』

「分かってる。でも、このままじゃみんなが……」

『待って』

 イグニスの声が割り込んだ。

『お前の炎で、あの氷を溶かせるか試してみろ。だが、古代魔法は使うな。通常の炎魔法だけだ』

「……分かった」

 アレンは右手を前に突き出した。

「《ファイアボール》!」

 炎の球が、クリストフに向かって飛んでいく。

 しかし——。

「君の炎では、私の氷は溶かせない」

 クリストフが指を鳴らした瞬間、アレンの炎が——凍りついた。

「……!」

 アレンは目を見開いた。

 炎が、凍る?

 そんなことが、可能なのか?

「驚いたかね」

 クリストフは冷たく微笑んだ。

「《絶対零度領域・アブソリュートゼロ》——それが私のSSS級魔法だ」

 彼は手を掲げた。

「この魔法は、領域内の温度を絶対零度、すなわち摂氏マイナス273.15度まで下げることができる」

「絶対零度……」

 ヒナタが震えながら呟いた。

「そんなの、聞いたことない……」

「当然だ。この魔法を使えるのは、世界で私だけだ」

 クリストフの声には、誇りと、そして——わずかな悲しみが滲んでいた。

「絶対零度では、全ての分子運動が停止する。炎も、風も、雷も……全てが凍りつく」

「そんな魔法、反則だろ!」

 トムが叫んだ。

「反則?」

 クリストフは首を傾げた。

「これは正式なスクロールで習得した魔法だ。何も反則ではない」

 彼は右手を前に突き出した。

「さあ、もう諦めたまえ。君たちに、私を倒す手段はない」

「……くそっ」

 アレンは拳を握りしめた。

 炎が凍る。

 それは、炎魔法使いにとって最悪の相性だった。

『アレン』

 エルフェリアの声が、優しく響いた。

『無理をしないで。今の君が古代魔法を使えば——』

「分かってる!」

 アレンは心の中で叫んだ。

「分かってるけど……でも……!」

 その時、ヒナタが前に出た。

「アレン、下がって」

「ヒナタ?」

「あなたは今、戦えない。なら、私が戦う」

 ヒナタの瞳には、強い決意が宿っていた。

「でも、お前の魔法は——」

「私には、水魔法がある」

 ヒナタは両手を広げた。

「水は、氷になる。なら——氷を、水に戻せばいい」

「……!」

 アレンは、ヒナタの言葉の意味を理解した。

「ほう」

 クリストフも、興味深そうにヒナタを見た。

「君が、ヒナタ・カミシロか。三属性使いだと聞いている」

「そうよ」

 ヒナタは堂々と告げた。

「私は、光と水と風の三属性を持つ。そして——」

 彼女の傍に、銀髪の少女が実体化した。

 シルフィア。風のマナの化身だ。

『ヒナタ、準備はいい?』

 シルフィアの優しい声が響いた。

「ええ」

 ヒナタは頷いた。

「《水流操作・ウォーターマニピュレーション》」

 ヒナタが両手を広げると、周囲の氷が——溶け始めた。

「……ほう」

 クリストフの瞳に、初めて驚きの色が浮かんだ。

「氷を水に戻すとは。なかなかやるじゃないか」

「まだよ」

 ヒナタは溶けた水を操り、クリストフに向かって放った。

「《水流連撃・ウォーターラッシュ》!」

 無数の水流が、クリストフに襲いかかる。

「だが、甘い」

 クリストフが手を振ると、水流は再び凍りついた。

「君の魔法で氷を溶かしても、私はそれを再び凍らせることができる。これは、いたちごっこだよ」

「……っ」

 ヒナタは歯噛みした。

 確かに、クリストフの言う通りだった。

「シルフィア!」

 ヒナタが叫ぶと、シルフィアが前に出た。

『任せて』

 シルフィアが両手を広げると、強烈な風が吹き荒れた。

「《暴風・ゲイルストーム》!」

 風が、氷の領域を吹き飛ばそうとする。

 だが——。

「無駄だと言っただろう」

 クリストフが指を鳴らすと、風に含まれる水蒸気が凍りつき、風そのものが無力化された。

「くっ……」

 シルフィアが苦しそうな表情を浮かべる。

「ヒナタ、ダメよ。この魔法は、あまりにも強すぎる……」

「諦めないで!」

 ヒナタは叫んだ。

「私たちには、まだ——」

 その時、アレンが前に出た。

「アレン! ダメよ、あなたは今——」

「大丈夫」

 アレンは微笑んだ。

「古代魔法は使わない。でも……」

 彼は右手を前に突き出した。

『イグニス』

 アレンは心の中で呼びかけた。

『頼む。お前の力を貸してくれ』

『……お前、本当に馬鹿だな』

 イグニスの声には、呆れと、そして温かさが滲んでいた。

『分かった。だが、無理はするなよ』

 イグニスが実体化し、アレンの傍に立った。

「《炎の奔流・フレイムトレント》」

 アレンとイグニスが同時に魔法を放つと、巨大な炎の奔流がクリストフに向かって襲いかかった。

「……ほう」

 クリストフは初めて、真剣な表情を浮かべた。

「マナの化身との共鳴魔法か。それならば——」

 彼は両手を広げた。

「《絶対零度の壁・ゼロバリア》」

 クリストフの前に、透明な氷の壁が出現した。

 アレンの炎は、その壁に激突し——。

 凍りついた。

「……っ!」

 アレンは膝をついた。

 世界のマナを通した反動が、身体を蝕む。

「アレン!」

 ヒナタが彼を支えた。

「もう、やめて……あなたの身体は、もう限界なのよ」

「でも……」

「いい加減、諦めたまえ」

 クリストフは冷たく告げた。

「君たちに、私を倒す手段はない」

 その時、観客席から一人の女性が立ち上がった。

 銀髪の美しい女性——リアナ・アルカディアだった。

「クリストフ!」

 リアナの声が、闘技場に響いた。

「それ以上はやめなさい!」

「……リアナさん」

 クリストフの表情が、わずかに揺れた。

「あなたはまだ、その魔法のリスクを理解していないでしょう」

「リスク?」

 アレンは顔を上げた。

「《絶対零度領域》は、確かに最強の氷魔法よ」

 リアナは真剣な表情で告げた。

「でも、その魔法には致命的な欠陥がある」

「欠陥……」

 ヒナタが呟いた。

「そうよ。絶対零度は、この世界に存在してはならない温度なの」

 リアナは続けた。

「その温度を作り出すには、術者自身の生命力を燃やす必要がある」

「……!」

 アレンは息を呑んだ。

「クリストフ、あなたは今、自分の命を削ってその魔法を維持しているのよ」

「……知っています」

 クリストフは静かに告げた。

「だから何だと言うのですか、リアナさん」

「クリストフ……」

「僕には、もう失うものなど何もない」

 クリストフの声は、氷のように冷たかった。

「姉さんが死んだあの日から、僕は……」

 彼の言葉が、途切れた。

「エリシア……」

 リアナは悲しげに呟いた。

「あの子は、あなたにそんなことを望んではいないわ」

「分かっています」

 クリストフは目を閉じた。

「でも、僕には……これしか、できないんです」

 その時、アレンが立ち上がった。

「クリストフ」

「……何だ」

「俺も、大切な人を失った経験はない」

 アレンは真っ直ぐにクリストフを見つめた。

「だから、あんたの痛みを完全に理解することはできない」

「ならば——」

「でも」

 アレンは拳を握りしめた。

「でも、分かることが一つだけある」

「……何だ」

「あんたは、本当は戦いたくないんだろ」

 アレンの言葉に、クリストフの瞳が揺れた。

「命を削ってまで戦う理由なんて、あんたにはない」

「黙れ」

 クリストフの声が、わずかに震えた。

「お前に、何が分かる……」

「分からない」

 アレンは認めた。

「分からないけど……でも、俺は戦う」

「……何?」

「あんたが命を削っているなら、俺も同じだ」

 アレンは右手を前に突き出した。

「俺だって、この身体が壊れるかもしれない。でも——」

 彼の瞳に、強い光が宿った。

「仲間のために戦うことを、俺は諦めない」

「……馬鹿だな、お前は」

 クリストフは、初めて——本当に、初めて——笑った。

 それは、氷のように冷たい笑みではなく、どこか温かさを含んだ、人間らしい笑みだった。

「いいだろう。ならば——」

 クリストフは両手を広げた。

「全力で来い。僕も、全力で応える」

 その瞬間、闘技場の温度が更に下がった。

 観客席が悲鳴に包まれる。

「《絶対零度領域》——全開放」

 クリストフの身体から、白い霧が立ち昇った。

 それは、彼の生命力が燃えている証だった。

「アレン!」

 ヒナタが叫んだ。

「分かってる!」

 アレンは叫び返した。

「みんな、力を貸してくれ!」

 トム、マルク、カイル、リサ、エマ——Fクラスの全員が、アレンの周りに集まった。

「当たり前だろ!」

 トムが笑った。

「俺たちは、仲間だからな!」

「アレン」

 ヒナタがアレンの手を握った。

「一緒に戦いましょう」

「ああ」

 アレンは頷いた。

『エルフェリア、イグニス、シルフ』

 アレンは三体のマナの化身に呼びかけた。

『頼む。俺に、もう一度だけ力を貸してくれ』

『……仕方ないわね』

 エルフェリアが実体化した。

『でも、これが最後よ。これ以上は、本当に身体が壊れる』

『分かってる』

 イグニスも実体化した。

『お前は本当に、無茶をするな』

『ごめん』

 シルフも実体化した。

『でも、それが君の良いところだよね』

 三体のマナの化身が、アレンの周りに並んだ。

「これで……」

 アレンは深呼吸をした。

「《三属性融合・トライフォース》!」

 光と炎と風が、一つに融合した。

 それは、まるで小さな太陽のように輝く、巨大なエネルギーの球だった。

「……見事だ」

 クリストフは静かに告げた。

「ならば、僕も——」

 彼は両手を頭上に掲げた。

「《絶対零度の槍・ゼロランス》」

 クリストフの手の中に、透明な氷の槍が生成された。

 それは、この世のものとは思えないほど美しく、そして——恐ろしく冷たかった。

「行くぞ、クリストフ!」

「来い、アレン・アルカディア!」

 二人は同時に、魔法を放った。

 光と炎と風が融合した太陽と、絶対零度の氷の槍が——。

 激突した。

 闘技場全体が、激しく揺れた。

 光と氷がぶつかり合い、世界が白く染まる。

 そして——。

 爆発。

 轟音と共に、闘技場に巨大な煙が立ち込めた。

 観客たちが、息を呑んで見守る。

 煙が晴れると——。

 そこには、倒れた二人の姿があった。

 アレンと、クリストフ。

 二人とも、膝をついていた。

「……引き分け、か」

 クリストフが苦しそうに笑った。

「ああ……」

 アレンも笑った。

「でも、いい戦いだった」

「……ああ」

 クリストフは静かに頷いた。

「君は、強い。そして——」

 彼は目を閉じた。

「優しいな」

 その言葉を最後に、クリストフは倒れた。

 アレンも、意識を失った。

「試合終了!」

 審判の声が響いた。

「両チームの隊長が倒れたため、この試合は——」

 審判は、しばらく考え込んだ後、告げた。

「アルディア王国Fクラスの勝利とする! 理由は、Fクラスにはまだ立っているメンバーがいるため!」

 歓声が、闘技場を包み込んだ。

「やった……やったわ!」

 ヒナタが涙を流しながら叫んだ。

「アレン、私たち……勝ったのよ!」

 だが、アレンにはその声は届かなかった。

 彼は、深い闇の中に沈んでいた。

 その闇の奥で——。

 銀色の瞳が、静かに彼を見つめていた。


【次回予告】

 勝利の代償は、あまりにも大きかった。

 意識を失ったアレンの精神世界で、新たな存在が目覚める。

 ノクティア暗国の使者、セレスが再び現れる。

 そして、準決勝の相手が発表される——。

 第3話「闇の誘い」、お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ