第8話:炎と闇の交錯
第8話:炎と闇の交錯
初戦勝利の歓声が、まだ闘技場に響いていた。
控室に戻ったFクラスは、興奮と喜びに包まれていた。
「やったー!俺たち、全国大会で勝ったぞ!」
トムが飛び跳ねる。
「すごかったね、みんなの連携」
エマが笑顔を見せる。
「まあ、当然の結果だな」
マルクが余裕の表情を浮かべるが、その目は輝いていた。
「でも、これからだよ。次の相手はもっと強いはず」
リサが冷静に言う。
「ああ、油断はできないな」
カイルが頷いた。
アレンとヒナタは、窓の外を見ていた。
闘技場の観客席は、まだ熱気に包まれている。
「私たち、ここまで来たんだね」
ヒナタが静かに言った。
「ああ……でも、まだ終わりじゃない」
アレンが答える。
「これから、もっと厳しい戦いが待ってる」
「うん。でも……」
ヒナタがアレンを見つめた。
「一緒なら、乗り越えられるよね」
「……ああ」
アレンが微笑む。
二人の間に、温かい空気が流れた。
その時——
『アレン』
エルフェリアの声が、緊迫した響きで脳内に響いた。
「エルフェリア?」
『何か……おかしい』
「おかしい?」
『マナの流れが、乱れている』
エルフェリアの声に、警戒が滲む。
『まるで……何か大きな魔法が、発動しようとしているような……』
「!」
アレンの背筋が凍る。
その瞬間——
ゴゴゴゴゴゴ……
闘技場全体が、振動し始めた。
「な、何!?」
トムが驚く。
「地震か!?」
マルクが壁に手をついた。
だが、これは地震ではなかった。
窓の外を見ると——
闘技場全体を覆うように、巨大な紫色の結界が展開されていた。
「結界……!?」
アレンが息を呑む。
「まさか……」
ヒナタも顔色を変えた。
その時、闘技場の中央から、轟音が響いた。
ドゴォォォン!
爆発。
観客席が、パニックに陥る。
「きゃああああ!」
「何が起きてる!?」
悲鳴と怒号が交錯する。
そして——
闘技場のアリーナに、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣から、次々と魔獣が召喚されていく。
「魔獣……!」
リサが叫ぶ。
「どうなってるの!?」
エマが震える。
アレンは、すぐに理解した。
「襲撃だ……黒月の牙が動いた!」
「何だって!?」
トムが驚愕する。
「くそっ、こんな時に……!」
マルクが拳を握る。
「みんな、行くぞ!」
アレンが控室を飛び出した。
「待って、アレン!」
ヒナタたちも後に続く。
廊下は、既に混乱していた。
選手や関係者が、右往左往している。
「落ち着け!慌てるな!」
ディルク教師の声が響く。
「教師陣は、観客の誘導を!選手たちは、魔獣の迎撃に回れ!」
「はい!」
Aクラスのレンが、すぐに動き出した。
「お前ら、俺についてこい!観客を安全な場所に誘導するぞ!」
「了解!」
Aクラスのメンバーが、レンに従う。
「アレン!」
レンがアレンを見た。
「お前は、魔獣を倒せ!お前の力が必要だ!」
「分かった!」
アレンが頷く。
「Fクラス、アリーナに向かうぞ!」
「おう!」
Fクラス全員が、アリーナへと駆け出した。
アリーナは、地獄絵図と化していた。
魔獣が暴れ回り、観客席は大混乱。
選手たちが、必死に魔獣と戦っている。
「《ファイアボール》!」
「《ウォーターランス》!」
「《サンダーボルト》!」
各国の選手たちが、次々と魔法を放つ。
だが、魔獣の数は膨大だった。
「くそっ、キリがない!」
「どんどん湧いてくる!」
選手たちが、苦戦を強いられている。
「みんな、集中攻撃だ!」
アレンが叫ぶ。
「《ファイアボール》連射!」
炎球が次々と魔獣を焼き尽くす。
「《ウィンドカッター》!」
ヒナタの風の刃が、魔獣を切り裂く。
「《アースウォール》!」
マルクが土の壁を展開し、魔獣の進路を塞ぐ。
「《ウォータースパイラル》!」
リサの水の渦が、魔獣を飲み込む。
「《スパークショット》!」
カイルの雷撃が、魔獣を麻痺させる。
「《アイスニードル》!」
エマの氷の針が、魔獣を貫く。
「《ウィンドバースト》!」
トムの風が、魔獣を吹き飛ばす。
Fクラスの連携が、魔獣の群れを次々と撃破していく。
「よし、この調子だ!」
アレンが叫んだ、その時——
「よくやるな、Fクラス」
冷たい声が響いた。
アレンが振り返ると——
闘技場の上空に、黒装束の人影が浮かんでいた。
シャドウだった。
「シャドウ……!」
アレンが歯噛みする。
「お前たちの力、確かに成長している」
シャドウが不敵に笑う。
「だが、今日で終わりだ」
シャドウが手を翳すと、さらに巨大な魔法陣が出現した。
「まさか……!」
ヒナタが息を呑む。
魔法陣から、さらに大量の魔獣が召喚される。
そして——
その中から、一体の巨大な魔獣が現れた。
全長10メートルを超える、黒い鱗に覆われた竜型の魔獣。
「ドラゴン級魔獣……!」
マルクが叫ぶ。
「嘘だろ……!」
トムが顔色を失う。
ドラゴン級魔獣——Sランクダンジョンにしか出現しない、最上位の魔獣。
学生レベルで倒せる相手ではない。
「ハハハ!これで終わりだ!」
シャドウが高笑いする。
ドラゴン級魔獣が、咆哮を上げた。
ゴアアアアアァァァ!
その咆哮だけで、周囲の魔法使いたちが吹き飛ばされる。
「くっ……!」
アレンが踏みとどまる。
「みんな、下がれ!」
「でも……!」
「いいから!」
アレンが叫ぶ。
Fクラスのメンバーが、後退する。
アレンは、ドラゴン級魔獣と対峙した。
『アレン』
エルフェリアの声。
『この魔獣は、君一人では倒せない』
「分かってる……でも、やるしかない」
『いいえ。君は一人じゃない』
「え……?」
その時、アレンの隣に光が現れた。
光が形を成していく——
エルフェリアが、実体化した。
「エルフェリア……!」
「久しぶりね、外に出るのは」
エルフェリアが微笑む。
そして、アレンの反対側に——
炎が燃え上がり、イグニスが姿を現した。
「待たせたな、アレン」
「イグニス……!」
さらに、風が舞い上がり、シルフが現れた。
「僕も手伝うよ!」
「シルフ……!」
三体のマナの化身が、アレンの周囲に揃った。
「これが……マナの化身……!」
周囲の選手たちが、驚愕の表情を浮かべる。
「お前……三体も契約してたのか……!」
シャドウも、驚きを隠せない。
「さあ、アレン」
エルフェリアが優しく言った。
「私たちの力を、使いなさい」
「ああ!」
アレンが両手を広げる。
右手に炎、左手に風、全身に光。
三つの属性が、アレンの体内で融合していく。
「《炎風融合・フレイムゲイル》!」
炎と風が融合した竜巻が、ドラゴン級魔獣を襲う。
「グオオオォォ!」
魔獣が怯む。
「まだだ!《蒼炎の守護・ファイアウォール》!」
青い炎の壁が、仲間たちを守る。
「そして……」
アレンの体が、金色と赤の光に包まれる。
「《双炎連撃・ツインフレア》!」
新たな古代魔法——
アレンの両手から、二色の炎が放たれた。
右手から金色の炎、左手から赤い炎。
二つの炎が螺旋を描きながら、ドラゴン級魔獣を貫いた。
「グギャアアアァァァ!!」
魔獣が絶叫し——
爆発した。
ドゴォォォン!
巨大な爆発が、アリーナを揺らす。
煙が晴れると——
ドラゴン級魔獣は、跡形もなく消滅していた。
「やった……!」
トムが叫ぶ。
「すげぇ……アレン、お前……!」
マルクが驚愕している。
観客席からも、歓声が上がった。
「すごい……!」
「あれが、古代魔法……!」
だが、アレンの戦いは終わっていなかった。
「くそっ……!」
シャドウが歯噛みする。
「まさか、ドラゴン級魔獣を一撃で……!」
「シャドウ!お前の相手は、俺だ!」
アレンが叫ぶ。
「……フン」
シャドウが闇魔法を構える。
「ならば、本気で行く!《ダークネスブラスト》!」
巨大な闇の波動が、アレンを襲う。
「《蒼炎の守護・ファイアウォール》!」
アレンが防御魔法を展開するが——
闇の波動は、炎の壁を侵食していく。
「くっ……!」
「闇は、全てを飲み込む!」
シャドウが高笑いする。
だが——
「アレンを、守る!」
ヒナタが飛び出した。
「《ライトシールド》!」
光の盾が、闇の波動を弾く。
「ヒナタ!」
「一人で戦わせない!」
ヒナタが微笑む。
そして、その隣に——
シルフィアが実体化した。
「私も、戦うわ」
「シルフィア……!」
「さあ、ヒナタ。私たちの力を見せましょう」
シルフィアが優雅に手を翳す。
「はい!」
ヒナタとシルフィアが、同時に魔法を構える。
風と光が融合していく。
「《神風光翼・セイントゲイル》!」
巨大な光の翼が、ヒナタとシルフィアの背中に出現した。
風と光が渦巻き、神々しい輝きを放つ。
「何……!?」
シャドウが驚愕する。
「いくよ、シルフィア!」
「ええ!」
二人が同時に飛翔した。
超高速で、シャドウに迫る。
「《ウィンドブレード》!」
「《ライトランス》!」
風の刃と光の槍が、シャドウを襲う。
「くっ……《ダークシールド》!」
シャドウが闇の盾で防ぐが——
風と光の融合魔法は、闇を貫いた。
「ガハッ!」
シャドウが吹き飛ばされる。
「やった……!」
ヒナタが叫ぶ。
だが、シャドウは立ち上がった。
「くそ……まさか、ここまでとは……」
シャドウが血を吐く。
「だが、まだだ……まだ終わらん……!」
シャドウが最後の魔法を構えようとした、その時——
「もう十分だ」
冷たい声が響いた。
闘技場の上空に、セレスが現れた。
「セレス……!」
アレンが睨む。
「撤退だ、シャドウ」
「ですが……!」
「いい。今日の目的は、情報収集だ」
セレスが不敵に笑う。
「古代魔法の力、マナの化身の力……十分に確認できた」
「……ッ」
「次は逃がさん。その時こそ、全てを奪う」
セレスが手を翳すと、闇の渦が出現した。
「待て!」
アレンが飛び出すが——
セレスとシャドウは、闇に飲まれて消えた。
「くそっ……逃げられた……!」
アレンが拳を握る。
だが、同時に——
結界が解除された。
紫色の結界が消え、観客席に光が戻る。
「結界が……消えた」
ヒナタが呟く。
「終わった……のか?」
トムが周囲を見渡す。
魔獣たちも、全て消滅していた。
「……ああ、終わった」
アレンが深く息を吐いた。
襲撃から一時間後。
闘技場は、応急処置が施されていた。
幸い、死者は出なかった。
負傷者も、治癒魔法で治療されている。
「被害は、最小限に抑えられた」
ディルク教師が報告する。
「選手たちの活躍のおかげだ」
校長が頷く。
「特に、アルディア王国のFクラスとAクラスは、素晴らしい働きをした」
「ありがとうございます」
アレンとレンが、並んで頭を下げる。
「全国大会は、一時中断する」
校長が宣言した。
「再開は、三日後だ」
「はい」
選手たちが頷いた。
控室に戻ったFクラスは、疲労困憊していた。
「はぁ……マジで死ぬかと思った」
トムがベンチに倒れ込む。
「ドラゴン級魔獣とか、反則でしょ」
カイルも疲れ切っている。
「でも、勝った……」
エマが小さく笑う。
「ああ、勝ったな」
マルクも微笑む。
「みんな、お疲れ様」
リサが水を配る。
「ありがとう」
全員が水を飲む。
アレンとヒナタは、窓の外を見ていた。
夕日が、王都を赤く染めている。
「大変だったね……」
ヒナタが静かに言った。
「ああ……でも、みんな無事でよかった」
「うん……」
二人は、しばらく黙っていた。
そして——
「ヒナタ」
「何?」
「今日、ありがとう。助けてくれて」
「当たり前だよ。私たち、仲間でしょ」
ヒナタが微笑む。
「それに……」
ヒナタが少し顔を赤らめた。
「アレンが危ない時、放っておけないもん」
「ヒナタ……」
アレンも顔を赤くする。
「俺も……ヒナタが危ない時は、絶対に守るから」
「……うん」
二人が見つめ合う。
その時——
「お前ら、いい雰囲気だなぁ」
トムがニヤニヤしながら割り込んできた。
「違うって!」
「そうだよ!」
二人が同時に否定する。
Fクラスの面々が、笑い声を上げた。
その夜。
アレンは一人、宿舎の屋上にいた。
星空が、美しく輝いている。
『アレン』
エルフェリアの声。
「エルフェリア……今日は、ありがとう」
『どういたしまして。でも、君の力よ』
「いや、みんなのおかげだ」
アレンが微笑む。
『そうね。君は、良い仲間に恵まれている』
「ああ……」
『でも、アレン』
エルフェリアの声が、真剣になった。
『これは、始まりに過ぎない』
「……分かってる」
アレンが拳を握る。
『黒月の牙は、必ず再び襲ってくる』
「ああ。セレスも、諦めないだろう」
『そして……』
エルフェリアが一呼吸置いた。
『他のマナの化身も、狙われている』
「他のマナの化身……」
『土、雷、氷、闇……まだ、多くのマナの化身が存在する』
「……」
『君は、彼らを守らなければならない』
「俺が……?」
『そう。君は、光の継承者。全てのマナと繋がれる存在』
エルフェリアが優しく言った。
『君の使命は、まだ始まったばかりよ』
「……分かった」
アレンが夜空を見上げる。
「俺は、戦う。大切なものを守るために」
『その覚悟があれば、大丈夫』
エルフェリアの声が、温かくアレンを包んだ。
夜風が、優しく吹き抜ける。
アレンは、新たな決意と共に——
これから訪れる、さらなる戦いへの覚悟を決めた。
同じ頃。
ノクティア暗国の秘密拠点。
暗い部屋の中で、セレスとシャドウが跪いていた。
その前には——
玉座に座る、一人の人物。
顔は闇に隠れ、見えない。
「報告しろ」
低く、威圧的な声。
「はっ。古代魔法の継承者、アレン・アルカディアの力を確認しました」
セレスが答える。
「彼は、三体のマナの化身と契約しています。炎のイグニス、光のエルフェリア、風のシルフ」
「三体……」
玉座の人物が呟く。
「そして、ヒナタ・カミシロも、風のマナの化身・シルフィアと契約しています」
「ほう……」
「さらに、彼らは新たな古代魔法を習得しています」
セレスが続ける。
「《双炎連撃・ツインフレア》、《神風光翼・セイントゲイル》」
「……興味深い」
玉座の人物が、闇の中で笑った。
「だが、まだ不十分だ」
「はっ」
「他のマナの化身を探せ。土、雷、氷、闇……全てを集めろ」
「御意」
「そして……」
玉座の人物が立ち上がった。
闇の中から、わずかに姿が見える。
黒いローブに身を包み、顔には仮面をつけている。
「古代魔法の秘密も、解き明かせ」
「はい」
「全ては、我らが手に」
玉座の人物——黒月の牙の首領が、高らかに宣言した。
「世界を、我らの手に」
部屋に、不吉な笑い声が響き渡った。
遠く離れたアルカディア家の屋敷。
書斎で、父・ゼノスは一枚の報告書を読んでいた。
『全国大会、黒月の牙襲撃。
アレン・アルカディア、三体のマナの化身と共闘。
新古代魔法《双炎連撃・ツインフレア》習得』
「……やはり、目覚めたか」
ゼノスが呟く。
「アレン……お前は、もう後戻りできない」
彼は、引き出しから古い羊皮紙を取り出した。
そこには、古代文字でこう記されている。
『光の継承者、三体のマナの化身と契約せし時、
封印は完全に解かれる。
その時、世界の運命は大きく動く。
継承者は、世界を救うか、滅ぼすか——
全ては、継承者の選択に委ねられる』
「封印が……解かれた」
ゼノスの表情が、深く沈む。
「だが、お前なら……お前なら、きっと正しい道を選ぶはずだ」
彼は羊皮紙を丁寧に仕舞い、立ち上がった。
「息子よ……強く生きろ。そして、世界を守れ」
ゼノスは窓の外を見つめた。
遠く、王都の方角を。
「父は、いつでもお前を信じている」
静かな夜。
だが、世界は——
大きく動き始めていた。
第三章「闇の追跡者編」 完
次章予告
第四章「選ばれし者たち編」
全国大会、再開——
だが、襲撃の影響は大きい。
各国の選手たち、アレンを見る目が変わる。
「あいつが、古代魔法の継承者……」
警戒、羨望、そして——敵意。
新たなライバルたち。
セルフェン王国・エアリス「あなたと、戦いたい」
グランディア帝国・ゼノ「俺を超えてみせろ」
ルミナス聖国・セラフィナ「光の力……私も持っている」
黒月の牙の陰謀。
ノクティア暗国の野望。
アルカディア家の秘密。
全てが、明らかになる——
―― 第四章へ、続く ――
作者コメント
第三章「闇の追跡者編」、お読みいただきありがとうございました!
黒月の牙との本格的な戦い、新たなマナの化身シルフィア&シルフの登場、そしてアレンとヒナタの新古代魔法覚醒——盛りだくさんの章でした。
特に最終話の全国大会襲撃シーンは気合を入れて書きました。ドラゴン級魔獣戦、三体のマナの化身との共闘、《双炎連撃・ツインフレア》と《神風光翼・セイントゲイル》の発動——楽しんでいただけたら嬉しいです。
第四章では、新たなマナの化身が登場予定、アルカディア家の封印の秘密も徐々に明らかになります。黒月の牙の首領、ノクティア暗国の陰謀、そして各国代表との熱いバトル——さらにスケールアップしてお届けします!
それでは第四章でまたお会いしましょう!
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