第6話:新たなる選択
第6話:新たなる選択
全国大会まで、残り三週間。
学園中央ホールに、出場生徒全員が集められていた。
Aクラス7名、Bクラス7名、そしてFクラス7名——合計21名の精鋭たち。
ホールの中央には、巨大な棚が設置されていた。
そこには、E級、D級、C級のスクロールが整然と並んでいる。
「すげぇ……こんなにたくさん」
トムが目を輝かせる。
「これが……スクロール」
ヒナタも緊張した面持ちで見つめていた。
ディルク教師が前に立ち、全員に向けて話し始めた。
「諸君。全国大会出場、おめでとう」
拍手が響く。
「今日は、特別な機会を与える。この中から、一人一つ、スクロールを選ぶことができる」
生徒たちがざわめく。
「ただし」
ディルクの声が厳しくなった。
「一度選んだスクロールは、変更不可。そして、習得に失敗すれば……そのスクロールは、二度と使用できない」
「……!」
緊張が走る。
「学園が保証するのは、挑戦権だけだ。成功も失敗も、全て君たち自身の実力による」
ディルクが全員を見渡した。
「よく考えて選べ。自分に合った属性、自分が得意とする系統を」
「はい!」
生徒たちが力強く答えた。
「では、始めろ」
ディルクの合図で、生徒たちが棚に近づいていく。
棚の前で、Fクラスのメンバーが悩んでいた。
「うーん、どれにしようかな」
トムがスクロールを眺める。
「俺、風が得意だから……風系のスクロールにしよう」
「私は光かな」
ヒナタが光属性のスクロールを手に取る。
「俺は土だな。防御重視でいく」
マルクが土属性のスクロールを選ぶ。
「私は水ね」
リサが水属性を。
「僕は……雷にしようかな」
カイルが雷属性を。
「私、氷がいい!」
エマが氷属性のスクロールを選んだ。
みんなが自分に合ったスクロールを選んでいく中——
アレンだけが、棚の前で立ち止まっていた。
「アレン、選ばないの?」
ヒナタが心配そうに声をかける。
「ああ……ちょっと、考えてる」
アレンは、スクロールを見つめていた。
炎、風、光……どれも魅力的だ。
だが——
(俺は、スクロールで魔法を習得できるのか?)
不安が胸をよぎる。
以前も、スクロールでの習得を試みたが、うまくいかなかった。
古代魔法を使う自分には、何か別の道があるのではないか。
その時——
『アレン』
エルフェリアの声が脳内に響いた。
「エルフェリア……」
『君は、スクロールで魔法を習得する必要はないの』
「え……?」
『君の力は、スクロールとは異なる道にある』
エルフェリアが優しく語りかける。
『君は、マナの化身と直接繋がっている。私、イグニス、シルフと』
「……そうか」
『だから、無理にスクロールで習得しようとしなくていい』
「でも、みんなは……」
『みんなはみんなの道を。君は君の道を歩めばいい』
エルフェリアの声が、温かくアレンを包む。
『焦る必要はないわ。君は、確実に強くなっている』
「……ありがとう、エルフェリア」
アレンは深呼吸をして、棚から離れた。
「アレン?」
ヒナタが不思議そうに見つめる。
「俺、スクロールは選ばない」
「え?」
「俺には、別の道がある気がするんだ」
アレンが微笑む。
「だから、みんなに任せるよ」
「……分かった」
ヒナタが頷いた。
「あなたなら、きっと大丈夫」
「ありがとう」
スクロール選択が終わり、習得の儀式が始まった。
一人ずつ、選んだスクロールを開き、魔法を発動させる。
成功すれば、その魔法を習得できる。
失敗すれば——二度と習得できない。
「では、始めろ」
ディルクの声が響く。
まず、Aクラスのメンバーが挑戦した。
レン・ヴァルトハイムは、雷属性のC級スクロール《サンダーストライク》を選んでいた。
「《サンダーストライク》!」
レンがスクロールを開くと、雷が迸る。
成功だ。
「さすが、レン」
周囲から称賛の声が上がる。
Aクラスの他のメンバーも、次々と成功していく。
やはり、Aクラスは実力が違った。
次に、Bクラスが挑戦する。
ガルスは火属性のD級スクロール《フレイムウェーブ》を選んでいた。
「《フレイムウェーブ》!」
炎の波が広がる。
成功だ。
「やった!」
ガルスが拳を握る。
Bクラスも、ほとんどのメンバーが成功した。
そして——
Fクラスの番が来た。
「ヒナタ・カミシロ、前へ」
ヒナタが緊張しながら前に出る。
手には、光属性のE級スクロール《ライトシールド》。
「頑張って、ヒナタ!」
アレンが声援を送る。
「うん……!」
ヒナタがスクロールを開く。
「《ライトシールド》!」
光の盾が出現した。
成功だ。
「やった……私、できた……!」
ヒナタが目を輝かせる。
「すごいよ、ヒナタ!」
アレンが駆け寄る。
「ありがとう、アレン!」
ヒナタが嬉しそうに笑った。
次に、トムが挑戦する。
風属性のE級スクロール《ウィンドバースト》。
「よし……いくぞ!《ウィンドバースト》!」
トムがスクロールを開くと——
小さな爆発音が響いた。
「うわっ!」
トムが後ろに飛ばされる。
「トム!」
みんなが駆け寄る。
「だ、大丈夫……ちょっと失敗したけど……」
トムが立ち上がる。
そして、もう一度スクロールを見ると——
風が優しく舞い上がった。
「……成功だ!」
ディルクが宣言する。
「やった!!」
トムが歓声を上げた。
「お前、爆発させといて成功かよ!」
カイルが笑う。
「うるせー!成功は成功だ!」
トムが照れくさそうに笑った。
続いて、マルクが挑戦。
土属性のE級スクロール《アースウォール》。
「《アースウォール》」
マルクが冷静にスクロールを開くと、土の壁が出現した。
成功だ。
「さすが、マルク!」
「まあ、当然だな」
マルクが余裕の表情を見せる。
リサは水属性のE級スクロール《ウォータースパイラル》。
「《ウォータースパイラル》!」
水の渦が現れた。
成功。
「よし、いい感じ!」
リサが満足そうに頷く。
カイルは雷属性のE級スクロール《スパークショット》。
「《スパークショット》!」
小さな雷の弾が飛び出した。
成功。
「やった!」
カイルが嬉しそうに笑う。
エマは氷属性のE級スクロール《アイスニードル》。
「《アイスニードル》!」
氷の針が空中に出現した。
成功。
「私もできた!」
エマが喜ぶ。
Fクラス全員が、スクロールの習得に成功した。
「よくやった、Fクラス」
ディルクが満足そうに頷く。
「これで、お前たちの戦力はさらに上がった」
「はい!」
みんなが笑顔で答えた。
習得の儀式が終わり、生徒たちは解散した。
だが、何人かは失敗していた。
「くそ……俺には、まだ早かったか……」
Bクラスの一人が、悔しそうに拳を握っている。
「次があるさ」
仲間が慰める。
成功と失敗。
それが、スクロール習得の現実だった。
その日の夕方。
Fクラスの教室に、メンバー全員が集まっていた。
「みんな、お疲れ様!」
トムが元気よく言う。
「全員成功したな!」
「うん、すごいよね」
エマが笑顔を見せる。
「これで、全国大会でも戦える」
マルクが自信を見せる。
「でも……」
ヒナタがアレンを見た。
「アレン、本当にスクロール選ばなくて良かったの?」
「ああ、大丈夫」
アレンが頷く。
「俺には、別の道がある」
「別の道……?」
「ああ。エルフェリアが教えてくれた」
アレンが微笑む。
「俺は、マナの化身と繋がってる。だから、スクロールとは違う方法で強くなれる」
「そっか……」
ヒナタが安心したように微笑んだ。
「なら、良かった」
「それに……」
アレンがみんなを見渡す。
「俺一人じゃない。みんながいる」
「当たり前だろ!」
トムが肩を叩く。
「俺たち、Fクラスだ!」
「ああ!」
全員が拳を合わせた。
「全国大会、絶対に勝つぞ!」
「おー!!」
Fクラスの教室に、元気な声が響き渡った。
その夜。
アレンは一人、訓練場にいた。
「《ファイアボール》」
炎球を放つ。
以前よりも、はるかに安定している。
「《ウィンドカッター》」
風の刃が空気を切り裂く。
「よし……」
『良い調子ね、アレン』
エルフェリアの声。
「エルフェリア……今日は、ありがとう」
『どういたしまして』
「俺、スクロールを選ばなくて良かったって、本当に思ってる」
『そう。それで正解よ』
エルフェリアが優しく言う。
『君の力は、スクロールで得るものではない。君自身の中にある』
「……うん」
『そして、イグニス、シルフ、そして私。三体のマナの化身が、君を導く』
「ありがとう、みんな」
アレンが微笑む。
『さあ、これから特訓よ』
「特訓?」
『そう。全国大会まで、三週間。その間に、君はさらに成長する』
「分かった!」
アレンが拳を握る。
『まず、防御魔法《蒼炎の守護・ファイアウォール》の精度を上げる』
「ああ」
『そして、風魔法との融合も試す』
「風魔法と……炎魔法の融合?」
『そう。君は今、炎と風を操れる。それを組み合わせれば、さらに強力な魔法になる』
「……すごい」
『さあ、やってみなさい』
アレンは深呼吸をして、魔法を構えた。
「《ファイアボール》と《ウィンドカッター》を同時に……」
右手に炎、左手に風。
「いくぞ……!」
二つの魔法を同時に放つ。
炎と風が交錯し——
爆発した。
「うわっ!」
アレンが後ろに飛ばされる。
『大丈夫?』
「ああ……でも、難しいな」
『当然よ。二属性の同時発動は、高度な技術が必要』
「……もう一回」
アレンが立ち上がる。
『その意気よ』
アレンは何度も何度も、挑戦し続けた。
失敗を繰り返しながらも、少しずつ感覚を掴んでいく。
そして——
「いける……!《炎風融合・フレイムゲイル》!」
炎と風が見事に融合し、巨大な炎の竜巻が出現した。
「やった……!」
『素晴らしいわ、アレン!』
エルフェリアが喜ぶ。
『新しい魔法を習得したわね』
「これが……俺の道」
アレンが微笑む。
『そうよ。君は、君だけの道を歩んでいる』
夜空に、星が輝いていた。
アレンは、新たな力と共に、前へと進む。
翌日。
学園の会議室で、教師陣が集まっていた。
「全国大会まで、あと三週間」
校長が全員を見渡す。
「準備は順調か?」
「はい。生徒たちは、スクロールの習得も終わり、訓練に励んでいます」
シリウス教師が報告する。
「良い。だが……」
校長の表情が険しくなった。
「ノクティア暗国使節団の動きはどうだ」
「相変わらず、学園内を徘徊しています」
ディルクが答える。
「セレスは、アレン君に接触を試みているようです」
「警戒を怠るな」
「はい」
「そして、全国大会の警備体制も万全にしろ」
校長が指示を出す。
「黒月の牙が動く可能性が高い」
「了解しました」
教師陣が頷いた。
「全国大会は、ただの大会ではない」
校長が静かに言った。
「戦場になるかもしれない」
会議室に、重い空気が流れた。
同じ頃。
学園の外、森の中。
セレスとシャドウが密会していた。
「準備は整っているか」
セレスが問う。
「はい。全国大会の会場、王都の闘技場の下見も済ませました」
「良い」
セレスが不敵に笑う。
「全国大会で、古代魔法の継承者を確保する」
「そして、マナの化身も」
「そうだ。炎、光、風……三体のマナの化身を手に入れる」
理想などいらない。必要なのは力だけ。……神の力を、この手に。」
セレスの目が妖しく光る。
「さらに、他のマナの化身の情報も集める」
「了解しました」
シャドウが頭を下げた。
「全ては、我々の手に」
セレスの笑みが、深くなった。
森に、不吉な風が吹き抜けた。
その夜。
アレンは自室で、ベッドに横になっていた。
『アレン』
エルフェリアの声。
「エルフェリア……」
『今日、よく頑張ったわね』
「うん……でも、まだまだだよ」
『焦らないで。君は確実に成長している』
「ありがとう」
『全国大会……楽しみね』
「ああ。でも、ちょっと不安だ」
『大丈夫よ。君には、仲間がいる』
「……そうだね」
アレンが微笑む。
『おやすみ、アレン』
「おやすみ、エルフェリア」
アレンは目を閉じた。
窓の外に、満月が輝いている。
全国大会まで——
あと三週間。
新たな戦いが、幕を開けようとしていた。
次回予告
全国大会、ついに開幕!
王都の巨大闘技場に、全国の強豪が集結。
七大国から、各2クラスが出場!
セルフェン王国・エアリス(水魔法天才)
グランディア帝国・ゼノ(剣と魔法)
エアリア公国・ルフィン(風魔法)
ルミナス聖国・セラフィナ(光魔法)
ノクティア暗国・ヴァンディア(闇魔法)
エルドア自由連邦・カイラン(複合属性)
「これが……全国レベル」
圧倒的な実力差に、Fクラスは——
だが、諦めない。
「俺たちには、俺たちの戦い方がある!」
そして、開会式の夜——
暗雲が、忍び寄る。
「いよいよだ……」
セレスの不敵な笑み。
嵐の前夜——
第三章「闇の追跡者編」第7話「嵐の前夜」、次回更新!




