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第3話:心の迷宮

第3話:心の迷宮


翌日。

医務室のベッドで、ヒナタとトムは回復に向かっていた。

「痛みは引いたか?」

エリナ教師が二人の容態を確認する。

「はい、もう大丈夫です」

ヒナタが微笑む。

「俺も平気っす。むしろ、もう動きたいくらい」

トムが元気よく答えた。

「無理は禁物よ。今日一日は安静にしていなさい」

「はーい」

二人が素直に頷く。

その時、扉が開いた。

「ヒナタ、トム」

アレンが入ってきた。

「アレン!」

「よう」

「体調はどう?」

「もう全然平気だよ。心配しすぎ」

ヒナタが笑う。

「そっか……良かった」

アレンが安堵の表情を浮かべる。

「アレンこそ、大丈夫か?昨日、結構ヤバかっただろ」

トムが心配そうに聞いた。

「ああ……正直、怖かった」

アレンが素直に答える。

「また、暴走しそうになった。もし、ディルク先生が来てくれなかったら……」

「でも、抑えられたじゃない」

ヒナタが優しく言った。

「それは、アレンが強くなった証拠だよ」

「ヒナタ……」

「俺たち、お前を信じてるからな」

トムも笑顔を見せる。

アレンの胸が温かくなった。

「ありがとう……」

『良い仲間を持ったね、アレン』

エルフェリアの声が脳内に響く。

アレンは心の中で頷いた。

その日の午後。

アレンはシリウス校長に呼び出され、学園の地下へと向かっていた。

「ここが……心の迷宮?」

石造りの階段を降りた先に、古めかしい扉があった。

「そうだ。この先に、心の迷宮が広がっている」

シリウス校長が扉の前で立ち止まる。

「心の迷宮は、魔法使いの精神を試すための特殊なダンジョンだ」

「精神を……」

「ああ。ここでは、君の心が具現化される。恐怖、不安、弱さ……全てが形となって現れる」

シリウス校長の言葉に、アレンの背筋が冷たくなった。

「それと……戦うのか」

「そうだ。自分の心と向き合い、乗り越える。それが、古代魔法をコントロールするための第一歩だ」

「……」

「怖いか?」

シリウス校長が問う。

アレンは深呼吸をして、首を横に振った。

「怖くないと言えば嘘になります。でも……やります」

「良い覚悟だ」

シリウス校長が頷いた。

「だが、無理はするな。危険だと思ったら、すぐに撤退しろ。迷宮の入口には、脱出用の魔法陣がある」

「はい」

「それと……」

シリウス校長が真剣な表情になった。

「迷宮の中で見るものは、全て君の心が生み出した幻影だ。だが、それは同時に、君の真実でもある」

「真実……」

「逃げずに向き合うんだ。そうすれば、必ず道は開ける」

「分かりました」

アレンが頷く。

シリウス校長が扉に手をかざすと、魔法陣が浮かび上がった。

扉がゆっくりと開いていく。

「行ってこい、アレン」

「はい」

アレンは深く息を吸い、扉の向こうへと足を踏み入れた。

扉をくぐった瞬間、世界が変わった。

真っ白な空間。

足元には何もない。まるで、虚無の中に浮かんでいるような感覚。

「ここが……心の迷宮」

アレンが周囲を見回す。

『アレン』

エルフェリアの声が響いた。

「エルフェリア……」

『私はここにいる。君の心の中に』

「ありがとう……心強いよ」

『さあ、進みなさい。君の心が、君を導く』

アレンは前へと歩き出した。

数歩進むと、白い空間が変化し始めた。

景色が形作られていく。

それは——

学園の訓練場だった。

「ここは……」

アレンが見覚えのある場所に戸惑う。

そして、目の前に人影が現れた。

「……レン?」

レン・ヴァルトハイムが立っていた。

だが、その表情は冷たく、嘲笑を浮かべている。

「よう、アレン」

レンが口を開いた。

「お前、本当に弱いな」

「え……」

「古代魔法?笑わせるな。お前はそんな力を持つ資格なんてない」

レンの言葉が、アレンの胸に刺さる。

「お前は、ずっと弱いままだ」

「……」

「仲間を守る?馬鹿言うな。お前のせいで、みんなが危険に晒されてるんだぞ」

「それは……」

「お前が古代魔法なんて使うから、黒月の牙に狙われた。全部、お前のせいだ」

レンが一歩、また一歩と近づいてくる。

「お前がいなければ、みんな平和だった」

「違う……」

「何が違う?事実だろ」

レンの目が、冷たく光った。

「お前は……邪魔なんだよ」

その言葉に、アレンの心が揺らいだ。

(そうだ……俺のせいで……)

『アレン!』

エルフェリアの声が響いた。

『それは幻影よ!君の恐怖が生み出した偽物!』

「でも……」

『本物のレンは、君を認めている。君を仲間だと言ってくれた』

「……そうだ」

アレンが顔を上げた。

「お前は、レンじゃない」

幻影のレンが歪んだ笑みを浮かべる。

「気づいたか。だが、俺が言ったことは、お前の心の声だ」

「……」

「お前は本当は思ってるんだろ。俺のせいで、みんなが危険になったって」

幻影のレンが嘲笑する。

アレンは拳を握った。

「ああ……確かに、そう思ってた」

「だろう?」

「でも……それは間違いだった」

アレンが真っ直ぐに幻影を見つめる。

「ヒナタが言ってくれた。みんなは、自分の意志で戦ってるって」

「……」

「俺が一人で背負う必要はない。一緒に戦えばいい」

アレンの声が、強さを帯びていく。

「俺は弱い。でも、仲間がいる。だから、強くなれる」

幻影のレンが揺らいだ。

「お前は……」

「消えろ」

アレンが手を翳す。

「《ファイアボール》」

炎球が幻影を貫いた。

幻影のレンが崩れ去る。

「やった……」

だが、アレンの試練は終わっていなかった。

景色が再び変わる。

今度は、アルカディア家の屋敷だった。

「ここは……実家?」

アレンが目を細める。

そして、目の前に現れたのは——

父、母、兄、姉。

家族全員だった。

「……」

アレンの動きが止まる。

「アレン」

父が口を開いた。

「お前は、我が家の恥だ」

「……!」

「古代魔法だと?そんなもので調子に乗って」

母も冷たい視線を向ける。

「Fクラスなんかに入って、恥ずかしい」

「お前のせいで、アルカディア家の名が汚れた」

兄が腕を組んで言った。

「もう、家に帰ってこなくていいわ」

姉が冷たく言い放つ。

「お前は……失敗作だ」

家族全員の言葉が、アレンの心を切り裂いた。

「やめろ……」

アレンが頭を抱える。

「お前には価値がない」

「消えてしまえ」

「いらない子だ」

「やめてくれ……!」

アレンが叫んだ。

『アレン!』

エルフェリアの声。

『それも幻影よ!君の家族は、君を愛している!』

「でも……」

『思い出して!君の兄と姉は、君を応援してくれた!』

「……そうだ」

アレンの記憶が蘇る。

学園に入学する前、兄と姉が言ってくれた言葉。

「アレン、頑張れよ」

「私たち、応援してるから」

「家族は……俺を見捨てない」

アレンが顔を上げた。

「お前たちは、俺の家族じゃない」

幻影の家族が歪む。

「俺の家族は、俺を信じてくれている」

「……ッ」

「消えろ!《ファイアランス》!」

炎の槍が幻影を貫く。

家族の幻影が消え去った。

「はぁ……はぁ……」

アレンが息を整える。

『よくやったわ、アレン』

エルフェリアが優しく語りかける。

『君は、自分の恐怖と向き合った』

「まだ……終わりじゃないんだろ」

『ええ。最後の試練が残っている』

「最後……」

再び、景色が変わる。

今度は、真っ暗な空間だった。

何も見えない。

ただ、闇だけが広がっている。

「ここは……」

アレンが警戒する。

その時、闇の中から人影が現れた。

それは——

アレン自身だった。

「……俺?」

もう一人のアレンが立っている。

だが、その表情は暗く、絶望に満ちていた。

「お前は、俺だ」

もう一人のアレンが口を開いた。

「俺の中の、弱さだ」

「弱さ……」

「お前は怖いんだろ。また、仲間を傷つけることが」

「……」

「お前は怖いんだろ。自分の力を、コントロールできないことが」

もう一人のアレンが一歩近づく。

「お前は怖いんだろ。本当の自分が、無力だってことが」

「……ああ、怖いよ」

アレンが素直に答えた。

「俺は、怖い。仲間を守れないことが」

「だろう?」

「でも……」

アレンが拳を握る。

「だからこそ、俺は強くなりたい」

「……」

「怖いから、逃げるんじゃない。怖いからこそ、立ち向かう」

アレンの目に、強い光が宿った。

「俺は弱い。でも、それでいい」

「何……?」

「弱さを認めることが、強さの始まりだって、エルフェリアが教えてくれた」

『そうよ、アレン』

エルフェリアの声が響く。

『君の弱さは、君の優しさでもある』

「そして、その優しさが、仲間を守る力になる」

アレンが真っ直ぐに、もう一人の自分を見つめた。

「お前は、俺の一部だ。だから、否定しない」

「……」

「でも、お前に支配されることもない」

アレンの体が光り始めた。

「俺は、俺だ」

もう一人のアレンが、ゆっくりと微笑んだ。

「……そうか。お前は、俺を受け入れたんだな」

「ああ」

「なら、もう大丈夫だ」

もう一人のアレンが光に包まれていく。

「お前は、もっと強くなれる」

そして、アレンの中に溶け込んでいった。

白い空間に、再び戻っていた。

だが、今度は何かが違う。

アレンの体から、穏やかな光が放たれている。

『おめでとう、アレン』

エルフェリアの声が、喜びに満ちていた。

『君は、自分の心と向き合い、乗り越えた』

「エルフェリア……」

『そして今、君の心は安定している』

「これが……」

アレンは自分の手を見つめた。

マナの流れが、はっきりと感じられる。

体内のマナが、穏やかに循環している。

「俺の……マナ」

『そうよ。君は今、自分の力を完全に理解している』

「……ありがとう、エルフェリア」

『いいえ。これは、君自身の力よ』

その時、空間に新たな光が生まれた。

光が形を成していく。

それは——炎だった。

だが、これまでの赤い炎とは違う。

青く、美しい炎。

「これは……」

『新しい古代魔法よ、アレン』

エルフェリアが告げた。

『《蒼炎の守護・ファイアウォール》』

「蒼炎の守護……」

『それは、仲間を守るための炎。攻撃ではなく、防御の力』

炎がアレンの周囲を包む。

温かく、優しい炎。

『君の優しさが生み出した、新たな力よ』

「仲間を……守る炎」

アレンが両手を広げる。

蒼い炎が、美しく舞い上がった。

『さあ、アレン。君はもう、自分の力を恐れる必要はない』

「ああ……」

アレンが微笑む。

『君は、君の弱さも、優しさも、全てを受け入れた』

「俺は……強くなった」

『そうよ。君は、本当の強さを手に入れた』

エルフェリアの声が、温かくアレンを包んだ。

そして、イグニスの声も響いた。

『よくやった、アレン』

「イグニス……」

『お前は、自分を乗り越えた。それこそが、真の強さだ』

「ありがとう……」

アレンは深く息を吸い、そして吐いた。

胸の中に、確かな自信が芽生えていた。

白い空間が消え、アレンは迷宮の入口に戻っていた。

扉が開き、シリウス教師が待っていた。

「アレン……!」

「ただいま戻りました」

アレンが微笑む。

シリウス校長は、アレンの変化に気づいた。

「お前……」

「はい。俺、自分と向き合えました」

「そうか……」

シリウス校長が安堵の表情を浮かべる。

「よく頑張ったな」

「ありがとうございます」

「さあ、戻ろう。みんなが心配してる」

「はい」

二人は学園の地上へと戻っていった。

その夜。

Fクラスの教室に、メンバー全員が集まっていた。

「アレン!」

ヒナタが駆け寄ってきた。

「大丈夫だった?」

「ああ、むしろ……すっきりしたよ」

アレンが笑顔を見せる。

「本当に?何かあったんだろ?」

トムが興味津々で聞く。

「ああ。俺、自分の弱さと向き合った」

「弱さ……」

「でも、それでいいんだって分かった」

アレンが仲間たちを見渡す。

「俺は弱い。でも、みんながいる。だから、強くなれる」

「アレン……」

ヒナタが目を潤ませる。

「そして……新しい魔法も手に入れた」

「マジで!?」

カイルが目を輝かせる。

「ああ。《蒼炎の守護・ファイアウォール》。防御の古代魔法だ」

「すげぇ……」

「これで、みんなを守れる」

アレンが力強く言った。

「俺は、もう怖くない」

「アレン……かっこいい」

エマが感動している。

「よし、じゃあ訓練しようぜ!その新しい魔法、見せてくれよ!」

マルクが立ち上がった。

「ああ、いいぞ」

Fクラス全員が、訓練場へと向かった。

夜の訓練場で、アレンは蒼い炎を放った。

「《蒼炎の守護・ファイアウォール》!」

美しい青い炎が、仲間たちを包み込む。

「すげぇ……」

「綺麗……」

みんなが感嘆の声を上げる。

炎は温かく、優しかった。

「これが、俺の新しい力だ」

アレンが微笑む。

ヒナタが近づいてきた。

「アレン……ありがとう」

「え?」

「私たちのために、こんな力を手に入れてくれて」

「いや、俺こそ……みんなのおかげだよ」

二人が見つめ合う。

「アレン」

「ヒナタ」

「これからも、一緒に頑張ろうね」

「ああ……もちろん」

アレンが頷いた。

夜空に、星が輝いている。

アレンは、新たな力と共に、前へと進む覚悟を決めた。

同じ頃。

学園の外、森の中。

黒装束の人影が、学園を見つめていた。

「古代魔法の継承者……さらに力をつけたか」

シャドウが呟く。

「だが、次は逃がさん」

彼の手に、黒い結晶が握られていた。

「計画は、着々と進んでいる」

シャドウが不敵に笑う。

「全国大会で、決着をつける」

そして、闇に溶けるように消えた。

静かな夜。

だが、その静けさの裏で、確実に陰謀は進んでいた。

次回予告

平和な日々は続かない——

学園に訪れた「友好使節団」。

その正体は、ノクティア暗国の偵察部隊。

使節団長・ヴァンパイア貴族「セレス」が現れる。

「古代魔法……興味深い」

そして、アレンが目撃してしまう——

セレスと黒月の牙の密会。

「全国大会で、動く」

迫る陰謀。

だが、その時——

ヒナタの体に、異変が起きる。

「何……この、力……?」

未知なるマナが、ヒナタを呼んでいる。

新たな出会いが、待っている——

第三章「闇の追跡者編」第4話「風の導き」、次回更新!

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