プロローグ 世界の声
プロローグ 世界の声
マナに選ばれし落ちこぼれ 〜古代魔法を継ぐ者〜
僕には、マナがない。
それは、この世界では“死刑宣告”と同じ意味を持っていた。
全ての世界で、魔法が使えない――それは、生きる資格がないのと同じだった。
アルディア王国。七つの国が存在するこの世界で、最も魔法技術が発展した国。その王都フレイムハルトに、僕は生まれた。
名前は、アレン・アルカディア。
アルカディア家。王国最強と謳われる魔導一族の末っ子として。
父は、王国の宮廷魔導士としていつも王の傍らにいた。魔力を操る姿は、まるで詩のように美しかった。
兄は、冒険者ギルドのSランク。
その名は、王都の子どもたちですら知っているほど有名だ。
姉は学園で教師を務め、教え子たちに尊敬されている。
妹と弟は、まだ幼いのに高位魔法を自在に使う。
家族の中で、ただ一人――
魔法を使えない僕だけが、取り残されていた。
僕は――体内マナ、ゼロ。
魔法適性検査で、測定器が何も反応しなかった時の、周囲の沈黙を今でも覚えている。
家族の落胆。
使用人の同情。
友人たちの距離。
僕は、アルカディア家の恥さらしだった。
それでも、僕は諦めなかった。
いや、諦められなかった。
魔法が使えないなら、体を鍛えた。
マナがないなら、理論を学んだ。
才能がないなら、努力で補おうとした。
朝日が昇る前から訓練し、夜が更けるまで魔導書を読んだ。
でも、現実は残酷だった。
どれだけ頑張っても、魔法は使えない。
どれだけ知識を積んでも、実践できない。
周囲は、僕を哀れんだ。
「可哀想に。努力の方向を間違えている」
「無駄なことをしている。諦めればいいのに」
――そして最後に、父の一言が胸に刺さった。
「アルカディアの名が泣いている」
そんな言葉を、何度聞いただろう。
それでも、僕は王立魔導学園に入学した。
家族は反対した。特に父は、強く反対した。
「お前に、魔法学園は無理だ。別の道を探せ」
でも、母だけが――母だけが、僕を信じてくれた。
「あなたなら、きっと大丈夫。お母さんは信じてるわ」
その言葉に背中を押されて、僕は入学試験を受けた。
結果は――Fクラス。
落ちこぼれの烙印。
それでも、僕はここにいる。
なぜなら――
* * *
それは、入学の一週間前のことだった。
深夜、僕は夢を見た。
いや、夢ではなかった。
『こちらへ……こちらへ……』
透き通るような、少女の声。
体が勝手に動いた。まるで、何かに引き寄せられるように。
気づけば、家の地下――誰も立ち入ってはならないとされる、封印の扉の前に立っていた。
扉には、古代文字が刻まれている。僕には読めない文字。
でも、手が勝手に動いて、扉に触れた。
瞬間――
扉が、光とともに開いた。
中は、広大な空間だった。
壁一面に、魔法陣が描かれている。いや、刻まれている。この世界の魔法陣とは、明らかに違う形。
そして、中央の――光の中に、
少女が立っていた。
白銀の髪。淡く光る瞳。透き通るような肌。
彼女は、微笑んだ。
「やっと、来てくれたのね」
僕は、言葉が出なかった。
「私はエルフェリア。世界のマナの守護者」
世界のマナ……?
「あなたを、ずっと待っていたの。アレン・アルカディア」
「僕を……?」
ようやく、声が出た。
「なぜ……?」
「あなたは、選ばれたから」
エルフェリアは、僕の手を取った。
柔らかいのに、どこか実体のない感触。
「あなたには、体内マナがない。周りは、それを欠陥だと言うでしょう」
「……そうだ」
「でも、違うの」
彼女の瞳が、優しく輝いた。
「あなたに体内マナがないのは――世界のマナと、直接繋がれるから」
僕の心臓が、大きく跳ねた。
「人間は皆、体内マナという”器”に閉じ込められている。だから、世界に満ちる無限のマナを、直接借りることはできない」
「でも、あなたは違う。あなたの体は、世界への扉なの」
世界への、扉……?
「かつて、この世界には一人の偉大な魔導師がいた。人々は彼を『古代の教祖』と呼んだ」
「教祖……」
授業で習った。神話の中の存在。伝説の魔法使い。
「教祖は、あなたと同じだった。体内マナを持たず、世界のマナと対話した」
「それが――古代魔法」
古代魔法。
失われた魔法。
今は、誰も使えない魔法。
「あなたは、その継承者。世界が選んだ、新たなる継承者」
僕は、自分の手を見つめた。
何もない手。
魔法が使えない手。
「でも……僕には、何もできない……」
「まだ、目覚めていないだけ」
エルフェリアは、僕の胸に手を当てた。
温かい光が、体に広がる。
「これから、少しずつ目覚めていくわ。危機の時、世界があなたに力を貸す」
「本当に……?」
「信じて。そして――諦めないで」
彼女の姿が、薄れていく。
「待って! もっと教えて!」
「また会えるわ。あなたが世界と繋がる時――私はいつも、そばにいる」
光が消えた。
僕は、封印層で一人、立ち尽くしていた。
胸の奥で、何かが熱く燃えていた。
希望。
初めて感じる、本当の希望。
* * *
翌朝、目が覚めた時、僕は自分の部屋にいた。
昨夜のことは、夢だったのだろうか。
でも、胸の奥の温かさは、まだ残っていた。
(古代魔法……)
鏡を見る。
そこには、いつもと変わらない、平凡な少年の顔。
銀色の髪。灰青色の瞳。
何も特別じゃない。
でも――
何かが、変わった気がした。
その日から、僕の人生は動き始めた。
王立魔導学園、Fクラス。
周囲から見下され、嘲笑され、哀れまれる日々。
でも、僕は諦めない。
なぜなら――
世界が、僕を選んでくれたから。
これは、体内マナゼロの落ちこぼれが、世界のマナに選ばれた物語。
古代魔法を継ぐ者として、新たな伝説を刻む物語。
僕の、本当の戦いが――今、始まる。
第一章「落ちこぼれの烙印」へ続く
注釈:
•マナ:生命の根源となるエネルギー。人々はこれを体内に蓄積し、魔法を使う
•古代魔法:約2000年前に封印された、世界のマナを直接借りる魔法
•アルカディア家:王国最強の魔導一族。しかし、その末子アレンには体内マナがない
•エルフェリア:世界のマナの守護者。古代魔法の継承者を探していた
作者コメント:
はじめまして。この物語は、才能がないと言われ続けた少年が、実は世界に選ばれた特別な存在だったという、逆転劇の成長譚です。
努力、友情、覚醒、そして禁忌の力――
王道展開と、予想を裏切る展開を織り交ぜながら、アレンの成長を描いていきます。
どうぞ、最後までお付き合いください。
次回:第一章「落ちこぼれの烙印」
更新予定:近日中




