7 夢の断片
その日を境に、夢が急に増えた。
ある日は暗い地下施設。湿った石壁、並ぶ木箱、鉄格子の奥に何かが沈黙している。
次の日は誰かの背中。広い肩、無言で歩く影。
また別の日は床に刻まれた魔法陣。複雑な線が闇の中で淡く光り、ぞっとするほど不気味に静止している。
さらにある日は男性の耳飾り。金か銀か判別できない暗闇の中で、その小さな装飾だけが妙に印象に残った。
――断片的で、意味が分からない。
だが、地下施設の夢と誰かの痕跡を示す夢。二種類を交互に見ているのではないか――そんな気がした。
まるで何者かが断片を送りつけてくるようで、精神が少しずつ削られていく。
◇◇◇
学院では、相変わらず噂話が飛び交っていた。
「ねえ、またフリードリヒ様の噂よ。婚約者がいるのに、別の子に贈り物してたんだって」
「見目麗しいのは確かだけど、あれじゃあねぇ」
囁き合う声と笑いが広がる。
レディアは本を閉じ、ため息をついた。
「……本当に、みんな噂が好きね」
隣でカタリナがパンを頬張りながら言う。
「浮気する男って、何が楽しいんだろなー。あ、でも殴るときは呼んで。任せて!」
拳を突き上げる彼女の姿に、レディアは思わず笑った。
夢の重さで沈んでいた心が、ほんの少し軽くなるのを感じた。




