6 放課後の研究所
学院生活に慣れてきた頃、レディアとカタリナには新しい日課ができた。
数日に一度、放課後になると王立魔術大研究所に通い、フィリップ・ハーゲンの研究に協力するのである。
「はい、カタリナ嬢、今日はこっちの装置に手を置いてくださいね。魔力の流れ方を計測しますから」
「おーっけー!」
カタリナは言われるままに椅子に座り、手のひらを金属と水晶が組み合わさった奇妙な装置に置いた。次いで魔力が微かに反応し、淡い光が水晶の奥に揺れる。
「ふむ……なるほど、数値は安定していますね。魔力回路も良好だ」フィリップは淡々と記録を取りながら、ぼさぼさの黒髪をかきあげた。
採血や魔力計測はほんの数分で終わる。
その間レディアはというと――
「フィリップ様、この本を読んでもいいんですか?」
「ええ、いいですよ。難しければ私に聞いてください」
それが許された瞬間から、フィリップの本棚はレディアの宝物庫と化した。古い魔術理論の解説、過去の魔術師の逸話、国内外の神話と伝承……。専門書こそ難解すぎて手が出せなかったが、それでも飽きることはない。
カタリナは椅子に頬杖をつき、にやりと笑う。
「フィリップってさ、研究ばっかやってんのに、なんか嫌な感じしないんだよな」
「……あなたの評価基準、たまに分からないわ」レディアは本を閉じ、苦笑した。
だがその感想には頷ける。散らかった机に埋もれているのに、フィリップは気安さを纏っていた。魔術や血統の話ばかりしても押し付けがなく、空気が柔らかい。だからこの放課後は、レディアにとってもカタリナにとっても、心地よい時間になっていた。




