5 夢、再び
――また、夢を見た。
白亜の離宮。夕陽に照らされた白い塔の影の中で、カタリナ・ドレイクが何者かに押さえ込まれ、縄で縛られている。
泣き声はない。だが、影のような男たちが手際よく口を塞ぎ、馬車に放り込む。
遠ざかっていく。
そのまま彼女は闇に呑まれた。
――レディアは汗だくで飛び起きた。
胸が早鐘のように打ち、呼吸が荒い。夢の続きが瞼の裏にこびりついて離れない。
けれど、ふと窓の外を見下ろすと。
「ファイトー! いっぱーつ!」
カタリナがいた。庭で腕立て伏せをしながら、朝日がやっと顔を覗かせた時間、元気いっぱいに叫んでいる。
……朝早すぎるだろ。
レディアは心の中でぼそりと突っ込み、けれど同時にほっとしていた。元気そうな姿に安堵が広がる。
あの夢の場所は白亜の離宮。今の光景と違いすぎる。だが、あれは未来の断片なのでは――そんな直感が消えない。
陽が昇り切ってもカタリナは「えい! やー!」と気合いを入れながらスクワットを続けていた。
……元気すぎる。
レディアは結局カタリナの事は放っておいて、ヨハンの執務室を訪れた。
「――というわけで、また夢を見ました。今度はカタリナが誘拐されていました。もし本当なら、彼女を王都に連れてきたのは正解だったのかもしれません」
ヨハンは腕を組み、重々しくうなずいた。
「夢が現実と結びついているなら、彼女を守る手を増やしたのは確かに良い判断だったのだろうな。……引き続き、気をつけるべきだ」
窓の外ではまだカタリナが「ファイトー!」と叫んでいる。
朝の静けさを突き破るその声が、やけに遠く聞こえた。




