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4 王都総合学院

 王都総合学院。

 入学にあたっては一定の寄付金こそ必要だが、貴族も平民も分け隔てなく門をくぐることができる比較的開かれた学校である。


 ただし、その講座の内容は家庭教師では到底学べないものばかりだった。


 ――討論技法。

 ――戦術・戦略実践論。

 ――領地経営実践論。

 ――国際言語運用実習。

 ――歴史史料読解。

 ――商会運営と投資基礎。

 ――舞踏と社交礼儀。


 こうした集団講義は実践を伴うため、家庭教師から学ぶのは難しい。成人まで家庭教師だけで過ごし、そのまま大研究所に就職するつもりでいたレディアとしては、本来ならまったく縁のない場所だった。


 入学年齢は十五歳から二十三歳までと幅広く、通学期間も一年から三年の間で自由に選べる。だから学院にはさまざまな年齢と背景を持つ学生が集い、時に社交界の延長のような顔も見せるのだ。


 なお、魔術研究講座は存在しない。それは王立魔術大研究所のみに許された分野であり、学院では手を触れられない領域だった。


 ――首元のスカーフだけが、学生の証。


 男女問わず与えられる薄い藍色の布を結びながら、レディアは小さく息を吐いた。


「めんどくさい……」


 想定外の学園生活。想定外の集団講義。想定外の制服。

 内心でそう並べながら、レディアはすでに気疲れしていた。


 一方で、なぜかレディアの部屋にいるカタリナ・ドレイクはウッキウキで講座一覧を手に踊っていた。


「ねえレディア! 見て見て! 戦術実践論ってかっこよくない!? あと討論技法も出たいし、外国語って何語教えてくれるんだろ、すっごい楽しみ!!」


 細身の美人が子供のように飛び跳ねている光景は、妙な迫力があった。


 レディアは遠い目をして、小さく呟いた。

「……この落差、なんなの」


◇◇◇


 意外なことに、学園生活は楽しかった。


 レディアは国際言語運用実習と歴史資料読解の講座を受講し、他の時間は図書館で過ごすことが多かった。図書館には魔術研究者が一般向けに書いた解説本が揃っており、専門書こそ置かれていなかったが、魔術理論の入門編としては十分面白かった。


 一方カタリナはといえば――


「戦術実践論も! 討論技法も! 領地経営実践も全部出るから!」


 という勢いでこれでもかと講座を詰め込み、空き時間はほぼゼロ。その間レディアはゆっくり本を読みながら彼女を待ち、静かな時間を楽しんだ。


 学園の学生たちは思いのほか気さくで、志の高い者が多かった。おかげで居心地も良く、レディアは思いがけず講座の面白さに引き込まれていった。


 この学園はエドワード王弟殿下の肝煎りで創設されたのだという話を聞く。かつての風習を変え、男女が肩を並べて学ぶ場を作った人物だと知り、レディアは少し驚いた。父が夢のことを殿下に伝えたと聞いていたが、殿下の影響力の大きさを改めて実感する。


◇◇◇


 そんな折、学園のあちこちで妙な噂を耳にするようになった。


 ――見目麗しい侯爵令息様が、婚約者がいるのにもかかわらず浮気をしているらしい。


「これだけ開かれた社会になったというのに、まだ政略結婚なんてあるんだなぁ……」


 レディアがため息をつくと、カタリナが目を輝かせた。


「きもっ! 学生のうちから浮気ってヤバいね! もしレディアの好きな人が浮気してたら、あたしが殴ってあげるからね! シュッシュッ!」


 彼女は楽しそうに空中にパンチを繰り出しながら、浮気男への怒りを表現する。


「……まあ、気持ち悪いっていうのには同意するけど」


 脳筋でおバカだが、性格は真っ直ぐで良い。気楽で楽しいので、レディアは彼女といる時間が少しずつ好きになっていた。


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