18 突撃
監察院の密偵たちが発見したのは、王都の地下深くに隠された礼拝堂だった。
瓦礫に埋もれた古い地下水路を抜け、そのさらに奥――古文書にも記録がないほどの古い施設。
松明の灯りがゆらめく中、黒いローブの集団が祭壇の前にひざまずき、低い声で呪文を唱えていた。
彼らが祈りを捧げる魔法陣には、淡く血のような赤い光が刻まれている。
監察院の諜報員たちは気配を殺し、礼拝堂の外周をすでに制圧していた。潜伏していた見張りたちは一人ずつ静かに倒され、出口は完全に封鎖されている。
◇◇◇
部隊がいよいよ突入するというその時、レディアたちは少し離れた拠点で監察院および治安局からの即時連絡を受け取っていた。
もしもの時のためにフィリップも魔術解析装置を持ち込み、カタリナと共に待機している。
ヨハンに肩を抱かれながら、レディアは両手を握りしめてただただ祈っていた。
◇◇◇
「――治安局、突入開始!」
ハインリヒ局長の怒声が地下に轟いた。
その合図と同時に、王立治安局の重装備部隊が一斉に飛び込む。盾を構え、剣を抜き、怒涛の勢いで礼拝堂へ突進する。
石畳を揺らす金属の足音。黒ローブの集団が振り返るより早く、兵士たちは鎖と拘束具を次々に叩きつけた。
「全員動くな! 王国法違反の現行犯だ!」
抵抗の気配を見せた者は、監察院の狙撃手が即座に無力化する。祭壇は崩れ、赤い光は掻き消えた。
オスカーは祭壇の前に立ち、声を張り上げた。
「施設は完全に制圧! 被害者を救出する! 必ず守る!」
怯えた目の子どもたちと若い女性たちが、奥の部屋から保護されていく。
やがて礼拝堂の奥から、老騎士エーリヒが悠然と歩み出て罪状を読み上げた。
「帝国残党の疑い、および王国法における禁術の行使……これ以上の猶予はない。全員を拘束せよ!」
鎖が鳴り、黒ローブたちが地面に押さえつけられていく。王都を脅かしていた闇組織は、こうして完全に壊滅した。
◇◇◇
「拠点……制圧しました!」
連絡官が拳を上げる。
一拍の静寂ののち、待機部隊から歓声が湧いた。
「お前は私の誇りだ」
レディアだけに聞こえるような、静かで確かな声でヨハンが言う。緊張の糸が切れ、レディアは彼に抱きついて大泣きしてしまった。
その横でカタリナがフィリップと手を取り合い、いつも通りの調子で変な踊りを踊っている。
――だが、そんなことももうどうでもよかった。




