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16 マルグリットお姉様は素敵です

 騎士たちに押さえつけられ、フリードリヒ・ヴェルナーは連れ出されていった。

 容疑は毒物の所持、そして帝国商人との不正な接触。


 一昔前、王国は同盟国と共にヴァルハラ帝国との戦争を戦い抜き、勝利を収めている。

 いま帝国の残党は地下に潜むのみだが、帝国商人と関わること自体が大罪とされるのは、その歴史ゆえだった。


 会場のざわめきが静けさへ変わり、誰もがマルグリット・トーヴァルに視線を向ける。


 侯爵令息の元婚約者である彼女は、凛として立ち上がる。

 白いドレスの裾が床を擦り、落ち着いた声が響いた。


「――カタリナ・ドレイク嬢」


 名前を呼ばれたカタリナがきょとんとした顔をする。


「先般の一件に際しましては、我がかつての縁に連なる者の軽率な振る舞いにより、周囲に少なからぬ波紋を及ぼしましたこと、同じ身分を賜る者の一人として、深く遺憾の意を表させていただきます」


 流麗な所作で深く一礼する。

 気高さと威厳を備えた完璧な謝罪だった。


 カタリナはぽかんと口を開けたまま、しばらく動かなかった。


 代わりにレディアが一歩進み出て、落ち着いた声で答える。

「……ドレイク嬢に代わり、感謝申し上げます」


 マルグリットは小さく頷き、それ以上の言葉を残さず静かに席へ戻った。


「……姉御。いや、マルグリットお姉様……、かっこよすぎる!!」


 何を言われたのか正確には理解していなかったが、カタリナの中ではマルグリットへの尊敬が一気に天井を突き抜けた。


「ねえレディア! 今の見た!? めちゃくちゃかっこよかったよね!!」

「……まあ、そうね」レディアはため息をついた。


 婚約破棄騒動はこうして幕を下ろした。


 ――だがその翌日から、フィリップ・ハーゲンが「夢追い装置」なるものを研究所から持ち込み、レディアの見た夢を特定できるかもしれないという新たな試みが始まることになる。

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