13 前夜祭の影
卒業パーティーが近づくにつれ、学園は華やかな空気に包まれていた。
フリードリヒ・ヴェルナー侯爵令息は、取り巻きの友人たちを引き連れて歩きながら、浮気相手の女性がいかに美しいかを得意げに語っていた。
「彼女の瞳の輝きは、まるで星々の光を集めたようで――」
取り巻きは大げさに感嘆の声を上げる。だがそのやり取りを遠巻きに見ていた女子学生たちは、一様に冷めた視線を向けていた。
「……婚約者がいるのに、なにやってんだか」
「下品ね」
噂はレディアやカタリナの耳にも届いたが、二人にとっては完全に雲の上の人たちの話だった。
「関係ないね」カタリナは肩をすくめ、筋トレと講座の予定を確認している。
レディアも特に気に留めはしなかった。
◇◇◇
――前夜祭の前日。
レディアはまた夢を見た。
暗い空間に、ひとつだけ照らされたテーブル。
その上には、美しい色をした飲み物の入ったグラスが置かれている。
しかし、次の瞬間。
グラスの表面がじわりと腐食し、ひび割れ、溶け落ちていく。
音はない。けれど、胸の奥に冷たいものが広がっていった。
◇◇◇
前夜祭の朝。
フリードリヒは鼻歌を歌いながら、ジャケットの内ポケットに小さな瓶を押し込んだ。
淡い青色の液体が光を受け、妖しく輝く。
彼の口元には、ぞっとするほど下卑た笑みが浮かんでいた。




