序章②
「いや〜王よ!遅れてすまぬの〜《弟子》が面白い情報を教えてくれての〜」
現れたのは、このリフィール国で最凶・・・いや最高の大魔導師であるヴァレンと、弟子であるザザムであった。
ヴァレンが魔法使い風のローブ姿に対し、弟子のザザムは軽兵士風なカッコに外衣を着ている。
そして2人の裏には、少しボコられた後の有る冒険者風の3人が縛られていた。
「コイツらから、勇者ファリスが活躍出来る様に・・・アドムの《妨害と》《動向漏洩》をさせていたって話だが?」
ヴァレンも、こうなる事は薄々は分かっていた。
だからこそ、弟子をアドムに付けようと考えていたのが・・・王と側近に一時は断られた。
「何の話だ?・・・ヴァレン、今は祝勝の場じゃぞ!そんな話は後にせい」
王は目を逸らすように、そう言い放った。
「・・・この祝勝会にしても、みょうにアドム賛成派が少ないようですが?」
ヴァレンが、周りを見渡すと王と同じ様に視線を逸らす大貴族や側近が多かった。
「・・・本来なら、勇者ファリスを《祭り上げる》つもりが、当人から断られた。ってところでしょうかね〜」
チラリと来賓に紛れ込んで、様子を窺っているファリスと御一行様がいた。
「・・・・それに・・・」
「ヴァレン!・・・もうよい、これでは祝勝会が進まぬわ!さっさと、ザザムを並ばせろ!」
しびれを切らした王は、そう言い放つと祝言を続けようとする。
ザザムも言いたい事は有ったが、ここは黙って猪人族の隣に並んだ。
この祝勝会の為に、国内外から来賓が来ているのだ。
無様な姿は見せられないのだ。
それでなくても、不穏な空気は出始めてる。
「・・・何で《魔物》が式典に居るのだ?」
「魔王バグダックを倒したのは、勇者ファリスじゃなかったのかよ?」
「アイツって確か《見捨てられし街》に行かされた3流回復師じゃね〜のか?」
そんな言葉が飛び交い始めていた。
自分が中断したから、騒ぎを広げたのだが・・・王としてはこれ以上の失態は国の威厳低下に繋がると感じている。
ここ20年、人間領に近い魔王バグダックの討伐に王は力を入れていたのも、他国にリフィール国の威厳を見せつけるという面が有ったからだ。
そして、ここ10数年は自国で勇者が生まれなかった為、ようやく大貴族の中から誕生したのがファリスなのだ。
たしかにアドムもこの国の人間では有るが、しょせんは移民の子・・・『初代勇者』の血を引く王家の遠縁であるファリスに、大期待したいのが本音である。
当初はアドムの功績を、ファリスにさせようと交渉や画策をしたが・・・ファリス自身から辞退され、聖騎士団や教会からも反対をくらってしまったのだ。
ここで強行して、ファリスを祭り上げても反感が来るのは間違いなかったのでこの様な事になったのだ。
「・・・他の魔王を倒せる様・・・ファリスに力を付けさせるのだ・・・」
王は側近に、そう小さく命令した。