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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第98話:卑屈な勇者(レンside)

あの男――蒼真。

見るだけで胸の奥がざわつく。王都を救った? 功績だ? 笑わせる。

俺には分かる。あいつは危険だ。魔族と通じていたなんて堂々と口にするなんて正気じゃない。なのに皆は妙に信じようとする。


「くそっ、気に入らねぇ」


元の世界でのレン。

俺は元の世界じゃ、ただの中二病だ。

教室の隅でノートに呪文を書き殴り、ネットに意味不明な投稿をしていた。友達なんて一人もいなかったし、両親にも煙たがられて気がつけば引きこもり。

現実の俺は、誰にも必要とされない存在だった。


だが召喚された瞬間、全てが変わった。

俺は勇者になった。力を与えられ称えられ持ち上げられた。

初めて手にした特別な地位。誰も俺を笑わない。皆が俺を恐れ、認め、必要とする。

……この世界でなら俺は本物なんだ。


だからこそ、蒼真の存在が癇に障る。

奴は何だ? ただのモブの剣士のくせに俺たち勇者と同じ席に座り、重臣たちに認められている。


「ふざけるな……勇者である俺より、あいつを信用するなんて許せない。」


心の奥底で分かっている。

あいつは強い。俺なんかよりも、よほど人を惹きつける何かを持っている。

それが怖い。俺が勇者という肩書きで得た居場所を、簡単に奪ってしまう気がして。


……だったら、どうする?

答えは一つだ。

あいつがどれだけ持ち上げられようが、俺が引きずり下ろす。

蒼真なんかに負けるもんか。この世界では俺こそが勇者なんだ。俺だけが必要とされる存在なんだ。


この世界の勇者は、最大で 3人の従者を選ぶことができる。

勇者は神器の加護を従者に分け与え、その力を強化できる。従者は「勇者の仲間」として通常を超える力を発揮し、勇者を補佐する存在となる。


だが当然、その代償もある。

勇者本人の加護は分割され、弱体化する。

それは勇者の力を削る行為であり、強さに執着する者ほど忌避する行為でもあった。


レンは――従者を一人も持たなかった。

理由は単純だ。自分の力が削られることに耐えられなかった


せっかく手に入れた勇者という特別な力を、誰かに分け与えるなど想像すらできなかった。仲間? 絆? そんなものは要らない。

この力は自分だけのものだ。そう思わずにはいられなかった。


あの傍若無人で暴力を好むレグナですら従者を持っていた。

レグナの従者は、彼に忠誠を誓い、加護を分け与えられてなお畏怖して従っていた。レグナは自分の力が弱まることを恐れなかった。むしろ自分の強さを証明する舞台装置として従者を利用していたのだ。


その姿を見たレンは、胸の奥で理解した。

自分には、そういう度量も胆力もない。

だが、認めることはできなかった。だからこそ強がり、従者を持たぬことを誇りと言い張り続けた。


他の勇者が仲間を従えチームを築いていく中、レンはただ一人で立っていた。

傍目には孤高に見えるかもしれない。だが実際は、

「奪われるのが怖い」「裏切られるのが怖い」――ただそれだけだった。


この世界で初めて得た居場所を守るために、彼は誰一人近づけなかった。

それが、彼が勇者でありながら最も脆い部分であり、同時に蒼真を強く憎む理由でもあった。蒼真は仲間に囲まれ、疑いを向けられてもなお支えられる。

その姿が、孤立したレンの心を逆撫でするのだった。


レンの胸には苛立ちと同時に、冷たい計算が芽生えていた。

蒼真は会議の場で「魔族の師を持っていた」と口にした。

それだけで十分すぎる疑念がある。


(そうだ……やつ自身が墓穴を掘ったんだ。俺がやるべきは、その火を大きくすることだけ)


人々の不安を煽ればいい。重臣たちの耳に「蒼真は魔族と通じている」という噂を囁き続ける。声を上げ続ければいい。勇者である自分が告げるのだ、信じる者は必ず現れる。


レンにとって肝心なのは真実ではなく、刻まれる印象だった。

人々に「蒼真は魔族の協力者だ」と思わせれば、それだけで十分。

証拠など中途半端でいい。むしろ不完全な方が、人々の疑念を長く引きずらせ、蒼真を孤立させやすいのだ。


(勇者は俺だ。……蒼真、お前は魔族の手先として潰れていくんだ)


勇者レグナの死を巡って王都の兵たちは慌ただしく動き出していた。

鑑識の場に呼ばれたレンも一応は足を運んだが彼の心は冷えきっていた。


(くだらない……犯人を探す? そんなこと、俺にはどうでもいい)


レグナの死が魔族の仕業かどうかなど、レンにとっては興味がなかった。

むしろ、この混乱こそ好機だとすら思っていた。

だからこそ、レンは調査の場でわざと曖昧な言葉を残し積極的な協力を拒んだ。

軽く放たれた一言は、鑑識官や兵士の心に小さな棘のように刺さる。


――真実ではなく印象。

それがレンの狙いだった。


裏ではさらに、蒼真を陥れるための準備が進んでいた。

「魔族の協力者として動いていた」という偽の証言を作り、必要ならば帳簿や密書を偽造する。


人々が蒼真に抱く「信頼」を、「不安」と「疑念」にすり替えるのだ。


(勇者である俺を超える存在など許さない。……蒼真、お前はこの混乱の中で沈めてやる)


レンの胸に巣食う黒い炎はレグナの死をも利用し、蒼真を追い落とすために燃え上がっていた。

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