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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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(閑話):蒼真と朱音 ― 幼馴染の原点

蒼真は幼い頃に両親を亡くし、親戚に引き取られる形で道場の近くに住むようになった。 周囲の子供たちは「親なし」と彼を蔑み、時には集団でからかい、竹刀で叩く真似をして笑っていた。


蒼真は耐えることしかできず拳を握りしめては悔しさを噛み殺していた。 そんな場面に割って入ったのが朱音だった。 まだ小柄な身体でありながら、男の子たちを睨みつけ腰に差した木刀を抜こうとした。


「アンタたち、それでも男なの? 恥ずかしくないの?」


その言葉に子供たちは怯んで逃げ出し、取り残された蒼真は涙を見せまいと顔を背けた。 朱音は土のついた蒼真の手をとり、にかっと笑う。

蒼真の手を引いて立たせると、わざと胸を張って言う。


「アンタは弱虫なんだから、あたしがついててあげる!」


蒼真は悔しそうに顔をそむけ、手を振り払った。

「……守って欲しくなんてない。僕は弱虫じゃない!」


強がる声は震えていたが、その奥に確かな意志が宿っていた。

朱音は一瞬きょとんとしたが、すぐににやりと笑みを浮かべる。


「じゃあ証明してみせなさいよ。弱虫じゃないって」


腰に手を当て、まるで先生のように言い放つ。


「うちの道場に来なさい。そこで強くなればいいの。そうしたら、もう誰にも馬鹿にされないわ」


蒼真はその言葉に驚いて彼女を見返す。

朱音の瞳はまっすぐで、からかい半分の言葉とは裏腹に、どこか温かかった。


「……僕が強くなる?」

拳を握り直した蒼真は静かに、しかし確かにそう答えた。

朱音は満足げに頷き、再び彼の手を引いた。


「決まりね。今日からアンタは、あたしの一番の稽古仲間よ!」


夕陽に映る二人の影は、小さな体ながらも並んで長く伸びていた。

そして翌日、蒼真は朱音に連れられ、蒼月道場へと通い始めることになる。

だが、竹刀を握った蒼真は、すぐに思い知らされることになる。


相手は同い年の女の子。それなのに朱音の竹刀は鋭く、打ち込まれるたびに腕が痺れた。打ち合うたび、蒼真は尻もちをつき、何度も砂にまみれた。


「ほら、やっぱり弱虫じゃない!」

朱音は勝ち誇ったように笑う。

蒼真は唇を噛み、地面を握りしめる。

「……絶対に負けない。いつかお前を倒す」


その言葉に朱音は、にやりと笑った。

「いいじゃない。あたしが強くなるより早く、追いついてごらんなさい!」


こうして二人は毎日のように竹刀を交えた。

最初は一方的に打ちのめされてばかりの蒼真。

だが、何度倒れても立ち上がる姿に、朱音は内心くすぐったいものを覚えていた。

やがて道場の仲間たちも、二人を「いつも競い合う幼馴染」として認め始める。


稽古を始めてから幾月。

蒼真は何度倒されても立ち上がり、朱音に挑み続けた。

腕には青あざが絶えず、膝も擦りむけてばかり。

それでも彼の眼差しは、日に日に強さを帯びていった。


その日も、道場の片隅で二人は竹刀を構えていた。

陽が差し込み、長い影が畳の上に伸びる。


「今日もあたしが勝つわよ!」

朱音は自信満々に踏み込む。

鋭い打ち込みが蒼真の肩を狙う――が。


「まだだっ!」

蒼真は横へ流れるように身を捻り、朱音の竹刀を弾いた。

その瞬間、反射のように突き出した竹刀が、朱音の胸元にぴたりと止まる。


一瞬の沈黙。

朱音の目が大きく見開かれ、竹刀が畳に落ちた。


「……うそ。やられた……?」

悔しそうに呟いた朱音の頬を、初めての敗北の紅潮が染めた。


蒼真は荒い息をつきながらも、拳を握りしめて叫ぶ。

「言っただろ……! いつか勝つって!」


朱音は悔しさに唇を噛んだが、やがてふっと笑う。

「ふふ……やるじゃない。やっと、あたしのライバルらしくなったわね」


その言葉に、蒼真も笑った。

二人の間に流れる空気は、守る側と守られる側ではなく――互いに認め合う者同士のものへと変わっていた。


朱音は初めて蒼真に一本を取られた夜、眠れずに布団の中で拳を握りしめていた。

「……ありえない。あたしが負けるなんて」

悔しさで胸が熱くなり、何度も天井を睨んでは竹刀を振る自分の姿を思い浮かべた。


翌日から、朱音は母・琴音に頼み込み、これまで以上に厳しい稽古を受けることになる。泣き言ひとつ言わず、汗にまみれて竹刀を振り続ける彼女の姿は、まさに勝気そのものだった。


一方の蒼真も、負けず嫌いの炎に突き動かされていた。

「次は偶然なんかじゃなく、本物の力で勝つ」

その決意を胸に、朝も夜も道場裏で素振りを繰り返した。


やがて二人の稽古は、見る者を圧倒するほど激しくなっていく。

打ち込めば受け流され、踏み込めば返し技が飛ぶ。

竹刀と竹刀が交わるたびに、乾いた音が道場に響き渡った。


「くっ……!」

「まだまだ!」


どちらが勝つかわからない、拮抗した勝負。

周囲の門下生たちは思わず息を呑み、二人を「幼馴染」ではなく「互角の剣士」として見始めていた。


ある日の稽古終わり、夕陽の中で肩を並べた二人。

朱音は額の汗を拭いながら、横目で蒼真を見た。

「アンタがいたから、あたしも強くなれる。……これからも絶対、負けないから」


蒼真は竹刀を肩に担ぎ、真っ直ぐに彼女を見返した。

「望むところだ。朱音に勝つまで、僕は絶対に止まらない」


夕焼けの中で交わされたその言葉は、幼い二人を結ぶ誓いとなった。

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