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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第89話:失望の眼差し

雷鳴と共に、レグナの突撃が大地を揺るがす。

雷獄槍グランディオスの穂先から奔る雷光は、一本の奔流となって夜を裂き目に映るものすべてを焼き尽くさんばかりの勢いを帯びていた。

その一撃は、ただの突きではない。暴力への渇望、閉じ込められた鬱屈、全てをぶちまけるかのような狂気すら孕んだ咆哮そのものだった。


「うおおおおおッ!!」


常人であれば姿すら捉えられぬ速度で放たれた雷槍の一撃。それが、ただ真正面に立つ巨漢へと迫った。


だが。


「…………」


グラウゼルは動かない。

一歩も退かず、ただ腕を組んだまま、その巨体を揺るがせることもなく立ち尽くしていた。


雷光が彼を呑み込んだ瞬間、天地が軋む轟音が響き渡る。

白光と黒い瘴気が激突し、衝撃波が四方八方に弾け飛ぶ。

街道の石畳は粉砕され、周囲の木々はへし折れ、空気そのものが悲鳴を上げる。


槍を渾身の力で突き出すレグナ。

それを真正面から受け止めるグラウゼル。


彼は顔色ひとつ変えなかった。

全身を覆う黒い瘴気が鎧のように収束し、雷光を吸い込み、呑み込み、打ち消していく。稲妻が皮膚を裂くことも、肉を焦がすこともない。

ただ轟音と閃光だけが無意味に散り、彼の巨体は一歩たりとも揺らがなかった。


「なっ……!?」


レグナの瞳が驚愕に見開かれる。

全力を込めた一撃が、空しく消え失せていた。


グラウゼルはわずかに唇を歪め、低く呟いた。

「……これが、貴様の力か」


その声音は嘲りでも侮りでもなく、ただ冷然たる評価。

しかしその静けさこそが、何よりも深い絶望を突きつけていた。


グラウゼルはわずかに唇を歪めた。


「……これが今の勇者の力か」


その声音には嘲笑も侮蔑もなかった。

むしろ何かを待ち望んでいた者が、最後に肩透かしを食らったような重い落胆が滲んでいた。一瞬でも期待したからこそ、その静かな言葉は冷たく鋭く聞く者の心を抉った。


「……つまらん」


彼の口から次にこぼれた言葉は、怒号でもなく罵倒でもなく、ただ淡々とした失望。

勇者と呼ばれ、誰もが恐れるはずのレグナの全力の一撃。

だが、それは巨漢の魔族にとっては、退屈なひと振りに過ぎなかった。

期待を裏切られた獣が狩りの獲物に興味を失うように、グラウゼルの瞳からは闘志の光がすっと消えていく。


「この程度か。期待外れもいいところだな」


静かに、しかし確実に戦場を覆う空気が変わった。

それは挑戦を受けた者の緊張感ではなく、ただ強者が暇潰しの相手すら失ったときに生まれる空虚さだった。


レグナは思わず奥歯を噛み締めた。

その落胆の眼差しこそ、怒号や嘲りよりもはるかに屈辱的だったのだ。


レグナのこめかみがピクリと痙攣し、血管が浮かび上がる。

全力を込めた一撃を腕を組んだまま受け止められ、さらに退屈そうに吐き捨てられる。その事実が、彼の誇りを、勇者としての矜持を深々と抉った。


「……なめやがって……」

雷獄槍を握る指先が震え、迸る雷が暴発するように四方へ飛び散る。

歯ぎしりと共に、獰猛な笑みが無理やり口元に貼りついた。

「この俺を……勇者レグナ・ブラッドフォードを……つまらねぇだとッ!?」


雷鳴が轟き彼の全身を稲妻が走る。

まるで己の怒りを媒介に、空そのものが叫んでいるかのようだった。

だが、その轟音すらグラウゼルには届かない。


巨漢の魔族は相変わらず腕を組み、微動だにしなかった。

その眼差しはもはや敵を見るものですらなく、ただ退屈を持て余した獣が、檻の中の小動物を眺めるかのような冷ややかさだった。


「吠えるだけは勇ましい……しかし、中身は空虚か」

低い声が、地を這うように響く。

「勇者とは名ばかりの、虚ろな器にすぎぬな」


レグナの呼吸が荒くなる。

屈辱が胸を焼き、心臓を鷲掴みにされるような感覚に喉が震える。

恐怖を怒りに変えようと、己を無理やり奮い立たせる。


「だったら……見せてやるよォ!」

獰猛な笑みと共に、雷獄槍を掲げる。

「俺がどれだけ本物かってことをなッ!!」


大地を割るほどの轟音と共に、雷鳴が天へと奔る。

レグナの全身が青白い閃光に包まれ、次なる一撃が形を成していく。


しかし、その様を見つめるグラウゼルの瞳には、やはり冷たい落胆の色しか浮かんでいなかった。


「……もうよい」


低く響いたその言葉と共に、グラウゼルの巨体がついに動いた。

組んでいた両腕を解き、振り抜かれた拳は雷光を纏ったレグナの突撃を正面から迎え撃つ。


瞬間――轟音。


グラウゼルの拳はそのままレグナの胸へとめり込んでいた。


「ぐっ――ぶはァッ!!」


鈍い衝撃が骨を砕き、肉を裂き血の塊を吐き出させる。

その一撃はまるで山そのものが落ちてきたかのような重みだった。

レグナの体が弾丸のように吹き飛び、石畳を砕きながら十数メートル先まで叩きつけられる。


地面に叩きつけられた瞬間、大地が爆ぜ土煙が舞い上がる。

レグナの体は岩にめり込み、口から血を噴きながら痙攣した。


「がっ……は、ぁ……ッ!」


腕は折れ、胸骨はひしゃげ呼吸すらままならない。

グラウゼルは拳を下ろし、再び腕を組む。

その眼差しは戦いに昂ぶるものではなく、ただ冷淡なまでの無感情。


「勇者と呼ばれる者が、この程度か」


その一言が、肉体の痛み以上にレグナの心を深く抉った。

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