第83話:蒼真の処遇
朱音は必死に彼の名を呼び続ける。
「ねぇ、しっかりして……蒼真!!」
だが蒼真は微動だにしなかった。
朱音はその顔を覗き込み、必死に呼びかける。
「蒼真! お願いだから目を開けてよ!!」
肩を揺さぶっても反応はない。
その静けさが、かえって周囲の不安を募らせた。
セリスはそっと彼の脈に手を当て、静かに告げる。
「命に別状はありません……ただ、氣の流れが荒れすぎて、身体も心も限界を越えてしまったのでしょう」
朱音は涙をこらえきれず、唇を噛みしめる。
「……ほんと、無理ばっかりして……。いい? 目が覚めたら絶対に説教だからね……!」
その時、隼人が場を収めるように口を開いた。
「とりあえず、こいつを王宮に連れて行くぞ。治療が先だ」
軽い声色ではあったが、誰も逆らえぬ力強さが滲んでいた。
しかし、すぐにレンが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「な、何を言ってるんだ! こんな危険な奴、牢屋にぶち込むべきだ!! 勇者を斬り捨てるなんて前代未聞だぞ!」
場の空気が再びざわめく。だが隼人は鼻で笑い肩をすくめて切り捨てた。
「馬鹿言え。牢屋に入れたところで、この力を抑えられると思うか? むしろ暴れられたらどうする」
「だ、だけど……!」
そんな中、セリスが一歩前に進み出る。
「……皆さん、聞いてださい」
静かに放たれた声は、ざわつく場を切り裂くように響いた。
セリスは蒼真を抱く朱音の隣に膝をつき、彼の顔を見つめながら言葉を続けた。
「この人は……王都を救ったのです。
以前、魔族が仕掛けていた爆破計画を事前に止めたのは蒼真でした」
「……なに?」
最初に声を漏らしたのはアメリアだった。驚愕に目を見開く。
レンも呆然とした表情でセリスを振り返った。
「そ、それは本当なのか……!? 俺たちはそんな報告、受けてないぞ!」
セリスは揺るぎない瞳で頷いた。
「報告には上がっていません。彼個人の希望でした……ですが、事実です。もし蒼真がいなければ我々も命はなかったかもしれません」
勇者たちは一様に顔を見合わせ、動揺を隠せなかった。
レグナの腕を奪った冷徹な力の持ち主。しかし同時に、確かに人々を救った存在。
隼人は短く笑い、片眉を上げる。
「へぇ。じゃあ牢屋どころか勲章モンだな」
だがレンだけは納得しなかった。
「いや……やっぱり拘束して牢屋に入れるべきだ! あの力は危険すぎる! 弱っている今ならどうにでもできる!」
アメリアはすぐに首を振り、鋭く言い返した。
「いいえ。彼がいなければ、爆破計画で王都は滅んでいた。救われた事を忘れるつもりですか? 危険だからこそ、正しく導くべきです!」
「導く……?」
レンは目を見開き、憤りを隠さず叫ぶ。
「お前はわかってない! 導けるはずがない! あんな力を抱えた人間は、いずれ制御できなくなる!」
アメリアも一歩も引かない。
「なら力を恐れるだけで切り捨てるのですか!それで救える未来があるんですか!?」
二人のやり取りに紫苑が溜め息をつき、冷ややかに口を開いた。
「……どちらにしても、このまま彼を野放しにするのは危ういわ。監視をつけるという条件つきで王宮に置く……それが落としどころでしょう」
美咲は腕を組み、苦笑しながらも視線を逸らさない。
「レンって勇者は結局ビビってるだけじゃん。……でもさ、あの黒い氣、マジでヤバかったよ。私だって正直怖かった」
勇者たちの意見は完全に割れていた。
牢屋に入れるべきだと声を荒らげる者。
導くべきだと訴える者。
条件つきで監視すべきだと冷静に提案する者。
彼らの視線が最後に集まったのは――黙して立つ隼人だった。
飄々とした笑みを浮かべつつも、その眼差しは鋭く光り、場を支配する気配を漂わせていた。
「……牢に入れる? 導く? どれも正しいようで、どれも的外れだな。」
その言葉に、場の空気が張り詰める。
隼人は視線を巡らせ、あえて軽く笑みを浮かべた。
「俺の考えでは、蒼真が王都を救ったという事実は揺るがない。だから、まずは事情を聞いてから判断しても遅くはないはずだ。どうせ今回の件も原因はレグナの暴走だろうしな」
彼はわずかに声を落とす。
「……ただし、次に目を覚ました時、味方か敵かはまだわからない。だから朱音とセリスに見張りを頼む。二人がそばにいれば、蒼真も目を覚ましたとき安心して会話できるはずだ」
セリスは静かに頷き、落ち着いた声で答える。
「わかりました。蒼真が目を覚ますまで私が見守ります」
一方、朱音は腕を組み、少しむくれたように言い放った。
「言われなくても離れるつもりなんてないわ。蒼真は私が守る。それに聞きたいことも山ほどあるから」
隼人が一区切りついたかと思ったその時、誰かが低く呟いた。
「……で、レグナはどうする?」
視線が一斉にレグナへと向けられる。
「正直、こいつの方がよっぽど厄介だ。暴れられても困る」
「どうせ戦える体でもないんだ、治療って名目で監禁しておくのが妥当だろう」
勇者たちは次第にレグナの処遇を巡って意見をまとめていく。
だがその流れは蒼真の時とは違い、ほとんどの声が徹底拘束に傾いていた。




