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才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった  作者: 雷覇


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第67話:暴虐の勇者(勇者side)

王都東側――

灯りの乏しい貧民区の外れは、夜の帳にすっかり飲み込まれていた。

ひび割れた石畳の上を、レグナ、ギル、イリアの三人が無造作に歩いていく。


道端の酒場から響く喧噪を、ギルが手斧の石突きで叩き割るようにして黙らせ、

イリアはすれ違った男の腰から金を抜き取り、そのまま路地裏に蹴り飛ばした。

悲鳴が上がるたび、三人の口元には獣のような笑みが浮かぶ。


「おい、レグナ。さっきの連中、どうやら魔族じゃなかったらしいぞ」

「関係ねぇ。牙を剥いた時点で敵だ」

「まあ、そういうこったな」


そう吐き捨てた瞬間、路地奥の木戸が軋み、背中に刺すような視線が三つ。

影から現れたのは、粗末な革鎧を着た三人組の男たちだった。

腕には奇妙な焼き印。賭博と闇商売を取り仕切る裏組織の印だ。


「……見かけねぇ顔だな。ずいぶん派手に暴れてるじゃねぇか。遊び足りねぇのか?」


低く挑発する声に、イリアが唇を吊り上げた。


「遊び? いいえ、狩りよ」


数呼吸の後、通りは血と悲鳴で満たされた。

生き残ったのは、腰を抜かした一人の男だけだった。


「た、助けてくれ! お、お前ら強すぎだろ!? 刺激が欲しいなら……闘技場に出てみねぇか!?」


涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、男は必死に叫ぶ。


「闘技場?」

ギルが片眉を上げる。


「王都の裏でしか開かれねぇ殺し合いだ。腕に覚えのある奴が集まって……勝てば金と女と名誉が手に入る、負けりゃ死ぬ。それだけだ!」


レグナの目が細く光る。

「……面白ぇ。そこに行きゃ、戦場でもねぇのに殺し放題ってわけか」


イリアは双剣を軽く回し、艶やかに笑った。

「いいじゃない、退屈しのぎにはぴったりね」


ギルもまた肩を揺らして笑う。

「行こうぜレグナ。俺たちに向いてる場所だ」


レグナは返事の代わりに、槍を肩に担ぎ上げた。

夜の王都、そのさらに奥。血の匂いが濃く漂う闇の底へと、三人は足を踏み入れていった。


地下へ続く階段を降りると、空気は一気に変わった。

湿った石壁、松明の煤けた匂い、そして耳に刺さるような歓声と鉄のぶつかる音。

そこは王都の表では決して口に出せない、裏の娯楽《闘技場》だった。


中央の檻付き円形闘技場では、鎖で繋がれた二人の男が斧と棍棒で殺し合い、観客たちは酒瓶を振り回して叫んでいる。

勝者が相手の頭を粉砕した瞬間、場内に赤黒い飛沫が舞い、歓声が爆ぜた。


「……悪くねぇな」

レグナは鼻で笑い、豪快に樽酒をあおった。

喉を焼くような強い酒精が、心地よく頭を痺れさせる。


闘技場の床に響く鉄鎖の音。

観客の怒号と歓声、酒の匂い、女の甘い吐息――そのすべてが、レグナの胸の奥を熱く灼いていく。


(……やっぱこれだよな)


レグナの心臓が、戦場以上の速さで打ち始めた。

頭の中で、何かが壊れる音がした。


「なあ、ギル……この空気、最高じゃねぇか?」


低く掠れた声は、笑いとも唸りともつかない。

ギルはニヤリと笑い、手斧の刃を指でなぞる。


「だろ? この場の誰もが、誰かを殺したがってる」


イリアが唇を舐めながら近づき、耳元で囁く。

「ねぇレグナ。檻の中に飛び込んで、全部めちゃくちゃにしてやろうよ」


その瞬間、レグナの瞳孔がわずかに開いた。

全身の血が沸き立ち、槍を握る手が震える。

恐怖や罪悪感など、とうに跡形もない。ただ、力を振るいたい衝動だけが膨れ上がっていく。


「ああ、行くぞ」


腰を上げたレグナの姿に、周囲の観客がざわめく。

その視線と罵声さえ、彼をさらに興奮させた。

一歩踏み出すたび、胸の奥で暴力の衝動が爆ぜ、笑いがこみ上げてくる。


「戦場でもねぇ場所で……どこまで壊せるか、試してやる」


そしてレグナは、ギルとイリアを従えて、歓声と血飛沫が渦巻く檻の中へと歩み出した。


――その一方で。

王都中心部、《連合会議》の会場――。

重厚な石造りの大広間には、勇者たちが集っていた。

しかし、その一角には妙な空気が漂っていた。


「……あれ? グラディアの勇者は?」

ミレイダ王国の勇者レンが、椅子に座ったままきょろきょろと辺りを見回す。


「レグナ・ブラッドフォードか」

デルオルスの勇者アメリアが腕を組み、鋭い視線を会場の出入口へ向けた。

「姿が見えない。会議中も落ち着きがなかったが……」


「アイツのことだ。どこかで女と酒だろ」

リグゼリアの勇者・瀬名隼人が、つまらなそうに椅子の背にもたれたまま呟く。

「それか、誰かぶん殴ってるか……」


「笑い事じゃないわ」

早乙女朱音が険しい表情で隼人を睨む。

「もし王都の中で暴れでもしたら、会議どころじゃなくなる。あの男、制御できるの?」


アメリアは短く息を吐き、王側の席を振り返った。

「グラディア王国側は何も知らないのですか?」


グラディアの高官は、苦々しい顔をして首を横に振る。

「……正直、我々にも把握できていない。レグナ殿は……自由を尊ぶ性質でしてな」


「自由、ね……」

朱音は唇を引き結び、胸の奥にざわつく不安を覚えた。


その頃、王都の裏では――

酒と女と暴力に酔いしれたレグナが、闘技場の檻をぶち破り、

観客ごと戦場に変えていた。


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